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梓達の過去

 桜を良子さん達のところまで送り、自分の部屋に戻ろうとする最中、珍しい人を見かけた。



「黒川梓」



 腰まで伸びる黒髪と凜としたたたずまい。この中学の現生徒会長であり、八橋の幼馴染。

 まるで俺がここに来ることを知っていたかのように、その場所に立っていた。



「あっ!? 山村先輩!」



 黒川さんも俺に気づいたようで、こちらに向かってきた。



「こんな所で何をしてるんだ?」


「私は俊之の所に行こうと思って」


「俊之?」


「八橋俊之ですよ。先輩も知ってるでしょ? 同じ班なんですから」



 そういえば春斗さんが自己紹介の時にそう話していたっけ。

 完璧に忘れてた。



「山村先輩こそ、こんな遅い時間にどうしたんですか?」


「桜を良子さん達の所に送っていった所だ」


「ふふっ、さすが桜ちゃん。2人はラブラブみたいね」



 ラブラブって程じゃない。ただ、お互いの近況を話していただけだ。

 俺と桜はそんな関係じゃない。まだパーティーも組めてないしな。



「そういえば、八橋とは幼馴染なんだっけ?」


「そうですよ。私と俊之は幼稚園からの仲なんです」



 幼稚園ってことは9年以上の付き合いになるわけか。結構長いな。



「古い付き合いになるってことか」


「そうですよ。昔の俊之は泣き虫で私の後をくっついてくるだけだったのに、人は変わるものですね」


「本当だな」



 今では自分勝手に行動するし、本当に手がつけられない。

 出来れば黒川さんみたいに、もう少し協調性を身につけてほしい。



「1つ聞きたい事がある」


「何ですか?」


「言いたくなければいいんだけど、何で黒川さんは不登校のあいつを学校に連れてきたんだ?」



 話だと中学1年生の時からあいつは学校に来ていなかったらしい。

 そんな八橋が学校に来ようとした原因が、黒川さんにあると聞いた。

 黒川さんが家から連れ出したから、八橋がまた学校に来るようになったんだ。その理由が知りたい。



「いくら幼馴染だからって、引きこもっている奴を外に出すことは並大抵の覚悟がないと出来ないはずだ」


「本当に山村先輩は言いたくない事を聞いてくるんですね」


「悪い。気分を害したのなら忘れてくれ」


「いえ、しょうがないですから、山村先輩には特別に教えてあげます」



 そういうと黒川さんは胸に両手を当てて、目をつむって話し始めた。



「私、こう見えても小学生の時は人気があったんです」


「だろうな」


「驚かないんですか!?」


「今の姿を見て、驚く人の方が稀だと思うぞ」



 眼鏡を取ってイメチェンした彼女はまさに絶世の美女。

 美人というくくりでいえば、悠里や前野さんと双璧をなすだろう。



「だからです。俊之がいじめられたのは」


「何で黒川さんが関係あるんだ?」


「人気がある私と仲が良かったから、俊之はいじめられたんです」



 

 なるほどな。人気のある女の子と距離が近かったから、周りからはうっとうしく思われていたのか。

 黒川さんの独白は続く。まるで、何かを懺悔しているようだった。



「俊之は小学校の時は比較的大人しい生徒でした。いつもクラスの端の方で本を読んでいるような、そんな子でした」


「見た目からしてそうだろうな」


「だからでしょう。私と俊之の関係を快く思っていない人達がいて、その人達が俊之に嫌がらせを始めたんです」



 黒川さんの言葉に黙って耳を傾ける。



「最初は教科書を隠すような、子供のいたずらだけでした」


「‥‥‥‥」


「それが上履きに画鋲を入れられたり、自分の机に落書きされるようになり、仕舞いには暴力を振るわれていたみたいです」


 『みたいです』ということは、彼女も八橋のいじめを後から知ったってことか。

 ふと彼女の胸を見ると、小刻みに震えている。きっと話すのが怖いのだろう。

 だけど、それでも言葉を紡ごうと彼女は必死に話す。



「俊之も最初は気丈に振舞っていたんです。『こんなことは大丈夫だ』『たいしたこと無い。梓は気にするな』って」



 きっと八橋は黒川さんにだけは、絶対自分の弱みを見せたくなかったのだろう。

 もしかしたら彼はいじめられていた理由を知っていたのかもしれない。それも承知で、黒川さんにだけは強がっていたんだ。



「でも‥‥‥だめだったのか」


「はい。最後まで私にはそんな姿は見せませんでしたが、徐々に俊之の様子がおかしくなっていきました」


「‥‥‥」


「一緒にいる時はいつも笑顔だった彼から一切笑顔がなくなり、服の下には見たこと無いような青あざがありました」



 あえて顔を狙わないで体を痛めつける。そうすることで、いじめをしているようには見せないようにしたわけか。



「やり方が陰湿すぎる。俺の嫌いなやり方だ」



 確かに俺もよく奇策を使ってはいるが、好きな子に振り向いてもらう為にこんな方法を取らない。

 八橋をいじめていた奴の底意地の悪さを見た気がした。



「痣も1つだけじゃないんです。たくさん‥‥‥体中の至る所にたくさんありました」


「その傷を見てなんとも思わなかったのか?」


「なんとも思わないわけないです!! 俊之に問いただしましたよ!! 『その痣はどうしたの!?』って」


「そしたらあいつは何て言ってたんだ?」


「『転んだだけ』とか『ぶつかっただけ』としか言いませんでした!! そんなはず‥‥‥ないのに」


「そうだよな」


「結局私がそのことを知った頃には全て手遅れでした。俊之は小学6年生になる頃には学校に来なくなり、それ以来殆ど会っていません」



 涙声になりながらも懸命に話してくれる黒川さん。

 彼女は彼女なりに苦しんでいる様子が手に取るようにわかった。



「もしかして昔眼鏡をかけて地味な格好をしていたのも、それが原因?」


「そうです。私がもっと地味でもっと静かな子なら、俊之はこんなことにならなかったのだと()()()()()()


「『()()()()()()』ってことは、それが違うと思ったってことだな?」


「はい。私に必要だったのは、俊之を1人に‥‥‥‥‥孤独にしてはいけなかったってことだと思うんです。私1人でも彼のことを理解して、彼の側にいてあげれば、少しは状況が変わったのかなと思います」



 そこまで思い至った彼女は凄いな。何が彼女を変えたのかはわからない。

 だが、少しでも前に進もうとするそんな前向きな気持ちが感じられた。

 目に溜まった涙を袖で拭いながら、黒川さんは続ける。



「それからは早かったです。自分を変えたくて眼鏡をはずして、髪も整えました。その後彼の家に無理矢理押し入って、学校に来るように説得しました」


「行動力あるな」


「はい。善は急げっていいますから」



 いい笑顔だな。先程までの涙が嘘のようだ。

 八橋のことはわからないが、俺は今黒川梓と言う人がどういった人なのかがわかった気がする。



「説得するのに時間はかかりましたが、俊之も学校に来てくれるようになってよかったです」


「黒川さんは強いんだな」


「私なんか強くありません!! 山村先輩達の方が凄いと思います!!」


「俺?」


「だって、周りからどんな評価をされても自分を曲げなかったから」


「それは過大評価だ」


「過大評価じゃありません!! 狂犬って恐れられていて、怖がって誰も近づかなかったのに真っ直ぐ生きるその生き方は、凄く‥‥‥凄くまぶしかったです!!」



 買いかぶりだ。俺はそんな奴じゃない。色々物事をドライに考えている冷徹な野郎だ。

 それに狂犬って呼ばれていたが、そんな物々しいあだ名とっくに捨てた。

 どこかの誰かは俺のことをチワワと勘違いしてるしな。



「もし黒川さんがそう思ってくれるなら、日向と桜のおかげだな」


「日向先輩と桜ちゃんですか?」


「そうだ。あの2人がいるから、今の俺があるんだ」



 もし中学時代にこの2人に出会ってなかったら、どうなっていただろう。

 少なくともきっと今のように馬鹿馬鹿しくて楽しい日常は送れていなかったな。



「山村先輩も大変だったんですね」


「黒川さん程じゃないよ」


「私なんてたいしたこと無いですよ」


「別に謙遜する必要はない。俺は日向と桜の2人がいたから何とかなっただけだ。それに対して黒川さんは1人で立ち直ったんだ。俺より立派だよ」



 そこまでいうとキョトンとした顔をする黒川さん。

 そして「プッ」と噴き出し笑い出す。



「何がおかしい!?」


「今の山村先輩、狂犬って言うよりはチワワみたいで‥‥‥つい‥‥‥」


「チワワで悪かったな」



 そのセリフ。桜も同じことを言ってたな。

 何で俺と関わる人達は、みんな俺のことをチワワと呼ぶのだろう。

 俺はどこかの愛玩動物じゃないぞ。



「日向先輩や桜ちゃんが山村先輩と一緒にいる理由がわかった気がします」


「それはどうも」


「よければ私も敬意を込めて、空先輩って呼んでいいですか?」


「好きに呼べ」



 今更なんて呼ばれたって構わない。

 俺の事を見る黒川さんはニコニコと笑っていた。



「あっ、いけない!? これから俊之の所に行かないと」


「もう行くのか?」


「はい。それじゃあ空先輩、また明日会いましょう! おやすみなさい」


「おやすみ」


「あっ!?」


「何だよ?」


「ちなみにですが、私のこともこれからは梓って呼んでくださいね」


「はぁ!? 何でそう呼ばないといけない!?」


「私だって下の名前で呼んでいるんですから、先輩だってそのように呼んでください」


「無茶苦茶な理論だな」


「お互い様ですよ。では、よろしくお願いしますね、()()()



 わざと強調するように俺の名前を呼ぶ梓。そんな梓は先程まで俺が歩いていた方向に向かって走り出す。

 駆け足で走っていく彼女の姿は生き生きとしていた。



「強いんだな」



 先程の梓の姿を思い出す。転んでは立ち上がり、前を向く姿は見ていてまぶしかった。



「俺も頑張らないとな」



 正直問題は山積みだが、こんなことでくじけてはいけない。

 俺だってやれば出来る。絶対にあの2人の心を開かせて見せる。



「よし! 俺も頑張ろう」



 誰もいない廊下を俺は歩いていく。

 梓の姿を見て、俺も明日からまた頑張ろうと思うのだった。

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