前野 由姫
夕食前、昇降口で待っていると桜が降りてきた。
朝食の時に約束してしまった手前、1人で夕食を取りに行くことも出来ずこうして桜を待つはめになった。
「おまたせしました」
「俺も今来たところだ」
「それじゃあ行きましょう」
桜の隣に並び、夕食を配っている所へと歩き出す。
不思議なことに桜は妙に上機嫌である。
「空先輩は今日の食料調達、どうでしたか?」
「最低限の結果は出したが、前途多難だな」
ダイアウルフの肉を少量手に入れたが、あれ以降何も手に入ってない。
八橋と前野さんの問題も解決の兆しが見えず、どうしていいかわからない状態である。
「でも、できることを少しずつやっていけば成果はきっと出ます」
「だな」
とりあえず今は目の前のことを地道にやっていこう。
「それでは先輩、また後で」
「あぁ」
夕食をもらい終え、俺は桜と一旦別れる。
桜は桜でクラスの友人達のいるテーブルへと行ってしまう。
「さてと、俺も行くか」
桜達とは別のテーブルに座る前野さんの前に座る。
案の定彼女は俺のことを見ると、眉をひそめ怪訝な表情を浮かべていた。
「また先輩か」
「またで悪かったな」
「しつこい男は嫌われるぞ」
「お生憎様。俺は元から嫌われものだ」
別に間違ったことは言っていない。中学時代の俺は厄介者として扱われていた。
日向や春斗さん等一部の人を除いては、俺がいることを好ましく思っている人はいなかっただろう。
「それもそうか」
「あっさり納得するんだな」
「元は先輩が言いだしたことだろう」
たしかに。それを言われると返す言葉がない。
前野さんの突き刺すような視線が痛い。
「ところで、そんなに私に構っていていいのか?」
「何がいいたい?」
「私にばかり構っていると、桜が嫉妬するぞ」
「大丈夫だろ? あいつのことだから、俺が誰と話していようが気にする性格じゃない」
その証拠に今も桜のクラスメイトと楽しく食事をしている。
何を思ったのか、俺と視線が合うとウインクまでするし、心配するだけ無駄だろう。
「信頼されているのだな」
「そうだ」
「私は不思議で堪らなかった。あの明るくて可愛くて優しい桜が、狂犬と恐れられている先輩と一緒にいるのが」
端から見ればそう見えるだろう。元々話しかけて来たのは桜だったし、あの時は俺だけでなく日向も一緒にいた。
桜が俺のどこを気に入ったかは俺もわからない。ただ、日向と桜と過ごした2年間は全く退屈はしなかった。
「それは俺が荒れていた時の話だろ?」
「私の中ではずっと荒れていた覚えしかない」
そう思うのも無理は無い。中学に入っても喧嘩を売ってくる奴はいた。
昔よりは断然少なくなったとはいえ、学校ではそのイメージが先行していたのだろう。
荒れていると思われていてもしょうがないことだ。
「悪いけど、俺は自分の信念の元、喧嘩する奴とは喧嘩していただけだから。決して弱いものいじめをしていたわけじゃない」
「私が荒れていると言ってるのは、喧嘩云々の話ではない」
「何だって?」
喧嘩以外のこと? それって一体どういうことだ?
「先輩は覚えていないのか? 入学式のことを」
「入学式?」
「バズーカクラッカー事件」
「あぁ、そんなこともあったな」
あれはいまだに覚えている。忘れるわけが無い。
「私が入学式の時、当時の生徒会長が挨拶をしている最中、壇上でバズーカクラッカーを鳴らした事件だ」
「そんなこともあったな」
2年時にいた会長がオブラートに包めば、とてもエキセントリックな人だった。
悪く言うと頭のネジがぶっ飛んでいる人と言ってもいいが、とにかく破天荒な人だったのは良く覚えている。
「あれは会長の指示で鳴らせと言われたから鳴らしたんだ。俺の意思じゃない」
当時日向も生徒会長にお願いされてどうしても断れなかったといっていた。
直接会長を説得しようとしたが、聞き入れてもらえず決行した。
「それに元々あれは会長が先生達の許可を取ってるって話だった」
だから決行したんだ。
実際は全く許可が取れておらず、3人仲良く教師に怒られていたんだよな。
3人揃って職員室に呼び出されてこっ酷く絞られていたっけ。
「それでも先輩達が実行したのには変わりない」
「たしかにな」
「それに入学式に限らず、他の馬鹿げたことでも先輩達は問題を起こしていただろう」
問題を起こしたというか、意図せず加担させられたといった方が正しいだろう。
先生達にかなりの迷惑をかけたが、すごく楽しかった。
「だから別に、先輩が怖いと思ったことは1度もない」
「そりゃどうも」
となると前野さんが俺のことを敬遠する理由は他にありそうだな。
それが何かはわからない。だけどこうなったら、ゆっくり探っていくしかないか。
「先輩」
「何だよ?」
「先輩は、もし桜が‥‥‥」
「桜がどうした?」
「いや、なんでもない。とにかく、先輩は私と一緒にいない方がいい」
「何でだよ?」
「何でもだ。私の忠告を聞いた方が身のためだからな」
「だから何が‥‥‥」
「私は言ったからな。ちゃんと忠告はしたぞ」
そういい残すと前野さんは食べた食器を片付けて去って行ってしまう。
残された俺は呆然と前野さんが去っていった方を見つめているだけだった。
「一体何なんだよ」
「何なんでしょうね?」
「って、桜!?」
いつの間にか俺の後ろには桜がいて、何も言わず隣の席に座る。
「一体いつからいたんだ?」
「丁度由姫ちゃんが食器を持って立ち去った辺りからです」
「クラスの人達と食事を取ってたんじゃないのかよ」
「もうご飯は食べ終わったので、大丈夫です」
それならいいのか? でも、まだ食べている人達もいるし、クラスの人達との付き合いがあるんじゃないか?
だけど、それを言うのも野暮な話か。桜が来たくて俺の隣にいるのだから、余計なことを言わない方がいい。
「それにしても由姫ちゃん.、どうしたんでしょうか?」
「さぁな。俺達が考えてもわからないだろう」
あの様子だと俺だけじゃなくて、ここのコミュニティーに所属する人達に対して不信感を持っているように見えた。
どういった理由でそうなったかは定かではない。。だけどいつか、落ち着いたら話してくれるだろう。
「それより、先輩。この後大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」
「そしたらいつもの屋上の所でお話しましょう。とってもお得な情報を教えてあげます」
「お得な情報?」
なんだよ、それ? どこかのバーゲンの話を勘違いしてるんじゃないか?
「何だよ、それ?」
「聞けばわかりますから。早く行きましょう」
早く行きましょう‥‥‥ってそんなに引っ張るな。俺はまだ夕飯の半分も食べてないんだぞ。
「桜、せめて夕飯を食べてからにさせてくれ」
「もう、しょうがないですね。ちょっとだけですよ」
「ありがとう」
「早く食べてくださいね」
隣で桜が俺のことをせかしながら、残りの夕飯を食べていく。
桜がうるさいせいで、その日の夕ご飯がどんな味をしていたのか、わからなかった。
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