聞きたいこと
春斗さんの車に乗っている間も、前野さんは何も話してくれなかった。
時折俺が話しかけるのだが、『うん』とか『あぁ』とか生返事ばかり。
「(全く相手にされなかった)」
このままじゃ朝食の時と同じ結末を辿ることになる。
なんとかしないとな。桜にあんなことを言った手前、結果を出さないといけない。
「着いたよ」
春斗さんにつれてきてもらった場所は、昨日と同じ近くの山。
お馴染みとなった駐車場に車を止め、山の登山道へと向かうのだった。
「よし! 登山道に移動しようか」
「悪いが、俺は1人で行動させてもらう」
「私もだ」
八橋と前野さんはハイキングコースとは違う別の道へ行こうとする。
その背中を俺は眺めることしか出来ない。
「やっぱり無理なのか」
「しょうがないよ。僕達は僕達で頑張ろう」
「そうですね」
気落ちしていても仕方がない。今日こそは何かしら成果を持って帰らないと。
さすがに2日連続で成果なしはまずいからな。気合を入れていかないと。
「先輩」
「何だよ?」
振り向くと先程まで別の登山道に入ろうとしていた前野さんが俺の後ろにいた。
むすっとした顔で俺の顔を見る前野さんは不機嫌そのもの。朝のことを根に持っているように感じた。
「先輩に1つ聞きたいことがあるんだ」
「俺でよければ何でも答えるけど。質問って何?」
前野さんから質問なんて珍しい。
朝食の時も車内にいる時も無視されていたのに。
「何で先輩はこんなに私のことを気にかける?」
「気にかけるって言われてもな」
同じグループの仲間同士、コミュニケーションを取ろうとしただけなんだけど。
俺前野さんのことよく知らないし。
「八橋もそうだけど、前野さんのことも俺は仲間だと思ってる」
「仲間といっても、即席のチームだろ? どうせすぐ変更になるんだから、そんなに拘ることはないと思う」
「それはこのグループ内のことだけを指してるんじゃない」
「どういうことだ?」
「俺達はこれから生活をしていく上でも仲間だってことだ」
別にこのグループに拘った話じゃない。俺達は生活していく中でも仲間なんだ。
「私と先輩は出会って3日だ。それでも仲間って言えるのか?」
「言える」
「断言できるのだな」
当たり前だ。日向に桜に悠里。それにデパートの人達、色々な人に助けられてきた。
出会って数日。向こうがどう思っているかわからない。だが、一緒に戦った仲間だった。
「グループとか色々しがらみはある。でも、今の俺達は一蓮托生の仲間なんだ」
確かに今は即席のチームかもしれない。
だけど俺は即席チームでも、ちゃんとしたチームになることを知っている。
日向や悠里や桜と一緒に行動してきたので、確信を持って断言できる。
「前野さん、俺達は命をお互い預ける仲間なんだよ。いくら即席のグループだったとしてもそれは変わらない」
現にここに来るまで、色々な人と会い、そこでは死ぬような出来事も経験した。
その中で俺はチームの重要性を知った。1人じゃできない事でも、仲間と力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられるって。
「今の言葉、柴山先輩が言いそうな言葉だな」
「あぁ、あいつからの受け売りだからな」
「そうだろうと思った」
「別にいいだろ!! 多少言葉を借りるぐらい」
多少どころか丸々借りてる気がしないでもないけど。
でも俺が言うのと日向が言うのでは全然説得力が違うな。
「どうしてだろう。柴山先輩なら素直に関心できるんだが、山村先輩に言われると全く説得力がない」
「悪かったな。説得力がなくて」
日向のように普段からのいい行いをしていなからな。
だから説得力が無いように思われるんだ。
「とにかくだ。この山の中にどんなモンスターがわからない以上、個々に動くのは危険だと思う」
「だから一緒行動しろと?」
「そうだ」
今はダイアウルフしか出てきてないが、今後どんなモンスターが出てくるかわからない。
用心する為にも複数で行動したほうがいいと思う。
「複数で行動した方が逃げるモンスターを倒す確立が上がるからって理由もあるんだろう?」
「それはもちろん」
「山村先輩は自分の思惑を隠さないんだな」
「当たり前だろ? 今更隠してどうする?」
ここまで言いたいことを言っているんだ。自分の思惑も全部話しておいた方がいい。
下手に隠すと余計に不審に思われてしまう。心を開いていない前野さん相手に、それだけは避けたかった。
「まぁいい。話したいことはそれだけだ」
「待った。この流れだと、一緒に行動するんじゃないの?」
「先輩は何を言っている? 私は先輩に聞きたいことがあるって言っただけだ。一緒に行動するなんて一言も言っていない」
そういい残し前野さんは鼻を鳴らして、八橋とは別の登山道へと歩き出す。
まるで今までの俺と話していたことなんてなかったかのように。
「あれ? もしかして俺、説得に失敗した?」
そう思うのも無理は無いだろう。現に前野さんは俺達を置いてどこかへ行ってしまった。
「そんなことないと思うよ」
「春斗さん!?」
「ちゃんと君の思いは彼女に届いてるさ」
「そうだといいんですけど」
立ち去る時の前野さんは淡々としていた。
とても俺の言葉が響いているようには見えない。
「まぁ、そのうちわかるよ」
「そういうもんですかね」
「さて、僕達も行こうか。今日こそはちゃんと肉を持って帰らないとな」
歩き出す春斗さんの後ろについていく。
八橋と前野さんから遅れをとったが、俺達も登山道に入るのだった。
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