人物像
「はぁ、今日も疲れた」
先程迄木内夫妻に話し合いという名の尋問を受け、やっと解放されたのがこの時間。
気だるい足取りでいつものように屋上に行くと、そこに桜がいた。
「空先輩。早くこっちに来てください」
自分の隣の床をバシバシと叩き、俺を呼ぶ桜。
ニヤニヤと笑う桜を見て嫌な予感がしたが、大人しく隣の席に座った。
「空先輩、さっきはお楽しみでしたね」
「別に楽しんでない」
「またまたご冗談を。さっき皆さんにいじられていた空先輩、輝いていましたよ!」
どうやら木内夫妻と俺のやり取りを桜は見ていたらしい。
よりにもよって1番見られたくない奴に見られてしまった。俺の失敗だ。
「それより髪が濡れてるけど、シャワーを浴びてきたのか?」
「はい。うちの学校にプールがあると思うんですけど、そこの設備を使いました」
「だけど、うちのプールは水しか出ないはずだろ?」
「話によると改良したらしいですよ。機械いじりが得意な人達が集まって実現したらしいです」
ここの中学の人達はかなりハイスペックだったんだな。
スキルを使用した恩恵もあるとは思うが、それにしても簡易シャワーを作る程の行動力まであるとはさすがだ。
「うちの学校の生徒の行動力が半端ないな」
「空先輩も後で行ってみたらどうですか?」
「そうだな」
疲れた体に温かいお湯を使えるのもありがたい。俺も後で行ってみるか。
「ところで、どうしてそんなことを聞いてきたんですか?」
「何でもいいだろう」
面と向かって、いつもよりやけに扇情的だったなんて、本人を前にして言えるはずがないだろ。
さっきまで木内夫妻や日向達と桜の話をしていたからか、変に意識してしまっている自分がいた。
「えぇ~~気になります。空先輩、お願いですから教えてください」
「絶対嫌だ!!」
桜に教えたってろくなことにならない。絶対変な雰囲気になるに決まってる。
「そういえば、今日の食料調達はどうだった?」
「絶好調ですね。今日は山の方に行きましたけど、そこでお肉30kgと野草を色々と取ってきました」
「そうか」
桜の方は順調そうだな。あれだけチーム同士の仲がよかったのだから、当然と言えば当然か。
「空先輩の方はどうでしたか?」
「‥‥‥‥俺達は何も取れなかった」
「あっ、すいません」
まずい、桜が気まずそうな顔をしている。
まさか食料を調達できず帰ってくるグループなんてないと思っていたのだろう。
「気にするな。うちのグループは協調性皆無だからな」
「そうなんですか?」
「あぁ、特に八橋と前野さんが本当に困った人達で‥‥‥」
「えっ。由姫ちゃんが?」
前野さんの名前を出すと、驚いた顔をする桜。
まるでそれは、その話は本当なの? と言った風に。
「丁度いい。春斗さん達と話していた時、桜が前野さんと友達って聞いたけど、あの子ってどんな子なんだ?」
「由姫ちゃんはすごくいい子ですよ。普段はもの静かですが、明るくて真面目な子です」
明るくて真面目か。冷たい表情をした今の前野さんからは想像できないな。
「よく一緒に遊んでいたって聞くけど、それは本当?」
「はい。五月ちゃんと一緒に来て遊んでいました。由姫ちゃんはよく食べるのが好きな子なので、器いっぱいにご飯を入れていたりするんですよ」
それは以外だ。あの細い体からは想像がつかない。
今度器を注目してみよう。
「それに知ってますか? あの子って剣道部に入っているので、剣の腕はすごいはずですよ」
「それは俺も知ってる」
剣道部にいたことは知っている。だからある程度剣を持たせても大丈夫だろうと思っていた。
「じゃあ由姫ちゃんが、去年の全国大会で上位の成績を残していたのは知っていますか?」
「知らないけど。それって本当!?」
「本当です。去年の2学期の始業式の日に表彰されていましたよ。先輩聞いてませんでしたね?」
そう言われるとそうかもしれない。あの時は別のことで忙しく、始業式の事等全く覚えていない。
「それにあの子のおじいちゃん達が剣術道場を営んでいるので、人の何倍も剣の腕に長けているんですよ」
「なるほどな」
だからあの時1人で行動すると言った時、やけに強気だったのか。
剣道でも全国上位に位置していたなら、妙に自信があったのも理解できる。
「はい。だから今日の食料調達の成果がないって聞いた時、驚きました」
桜の話を聞いていて、前野さんの人物像がつかめた気がする。
後はなんであの子が俺のことを毛嫌いしているかだな。
「ありがとう、桜。なんとなくあの子のことがわかってきた気がする」
「いえいえ、お役に立てて光栄です。でも‥‥‥」
「でも?」
「きっと由姫ちゃん、先輩のことを悪い人だとは思ってないと思いますけど?」
「嘘だ!? だって今日見た時は、俺に敵意むき出しだったぞ」
彼女は親の敵を見るような目で俺のことを見ていたんだぞ。
そんなことあるはずがない。
「う~~ん。由姫ちゃんはそういう子じゃなかったと思うんですけど‥‥‥」
「これは探る必要がありそうだな」
「探る?」
「そうだ」
どうしてあんなに性格が変わってしまったのか、その原因を探る必要がある。
「そんなこと出来るんですか?」
「出来るとかじゃない。やるんだよ」
出来なければ、うちのグループの食料調達の成果が出ないだけだ。
そうなってしまえば、リーダーの春斗さんはもちろんのこと俺達の立場も危うくなる。
最悪このコミュニティーから追放される事だって考えられる。
「見てろよ、前野さん。俺がそんな性格になった理由を絶対に見つけてやるからな」
そうとなればやることはたくさんある。
まずは前野さんと会話をすることから始めないといけない。
「ふっふっふっ」
「今の空先輩、非常に気持ち悪いです」
桜の言っていることを無視して、俺は脳内で計画を考える。
どうしたら前野さんがこちらを振り向いてくれるか、そんな事ばかり考えてしまうのだった。
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