黒川梓
「山村先輩」
夕食後、校舎内に1人で戻ると後ろから声をかけられた。
「誰だよ?」
「私のことわかりませんか?」
そう言われてもわからないものはわからない。
腰まで届くサラサラな黒髪に凜としたたずまい。そして女神のような美しい美貌。
そんな美少女の知り合いなんて、俺にはいない
「本当に誰?」
どこかで見たことがあるような気がするが、こんな絶世の美少女と面識はない
桜と同じ中学の制服を着ていることから、この学校の生徒だって事だけはわかる。
「山村先輩、私のこと忘れたんですか?」
「ごめん、俺は君と関わったことがないから」
「何を言ってるんですか? 私は昔先輩とめっちゃ関わってましたよ」
関わってた? こんな美少女と? そんなの嘘に決まってる。
こんな美少女、1度あったら忘れないぞ。
「こんな可愛い知り合いなんて、俺にはいなかったぞ」
「可愛いなんて、先輩に褒められて私はうれしいです」
「別に褒めたつもりはないんだけど」
ありのままの事実をそのまま伝えただけなんだけど、この子はそんな事を思ってないらしい。
でもこんなにきれいな子っていたっけ? 本当に覚えが無いんだけど。
「ちなみに私と先輩が出会ったのは去年です。よくうちのクラスに来て、桜ちゃんのこと呼びだしてましたよね?」
「桜のことを呼び出す‥‥‥あぁ~~もしかして?」
思い出した。桜に用事があった時、桜のことを呼び出してくれた女の子だ。
確か俺が卒業した後の生徒会会長。
「黒川梓さんか」
「やっと思い出してくれましたか」
俺の中学の元副会長であり現生徒会長、黒川梓だ。
「雰囲気変わりすぎじゃない?」
「そんなことないですよ」
「だって昔は眼鏡をかけて、髪形もみつあみじゃなかったっけ?」
「ちょっとイメチェンしてみたんです」
イメチェンにしては、雰囲気が変わりすぎじゃないか?
全く気づかなかったぞ。
「垢抜けたな。全然わからなかったよ」
「私だって中学3年生になったんですから、おしゃれぐらいしますよ」
びっくりしたな。あの女の子がこんなきれいになるなんて。人はみかけによらないな。
「それにしても、よく俺のこと覚えていたな」
「山村先輩は私達の学年でも有名ですよ。桜ちゃんとよく一緒にいるので」
「有名ね」
願わくばいい噂が流れていることを祈る。どんな噂が流れているか怖くて、俺は聞かなかった。
「それで、俺に何のようだ?」
「別に何もないですよ」
「えっ?」
何もない? じゃあ何で俺に声をかけたんだよ。
「何で俺に声をかけたの?」
「山村先輩に、私の存在を知って欲しかったからです」
「はい?」
「それだけです。また明日。会いましょう」
それだけ言い残して、黒川さんは俺の元から去っていく。
一体何がしたかったんだろう。
彼女が去っていった方向をずっと見つめていた。
「空先輩」
「桜?」
俺の後ろから登場した桜。頬を膨らませ、不満げな顔で俺の事を見ている。
その桜に対して、俺は冷や汗が止まらない。
後ろめたいことなんて何もないのに、まるで浮気現場を見られたかのような感覚だった。
「今梓ちゃんと何を話してたんですか?」
「別に何も話してないけど」
黒川さんには自己紹介しかしてないし、何がしたかったのか全くわからない。
桜は目を細め、じーーっと俺の事を見ていた。
「本当ですか?」
「当たり前だろ? 俺は黒川さんに話しかけられた時、名前もわからなかったんだぞ」
あんなきれいになっていると思わないし。そもそも殆ど面識がなかったんだ。
桜は顎に手を当てて、ぶつぶつと何かを唱えていた。
「梓ちゃんに限って、先輩のことを‥‥‥」
「桜?」
「なんでもないです。さっき梓ちゃんと楽しそうに話してたんですから、次はあたしに付き合ってもらいますよ」
「別に構わないけど」
桜はよく無茶なお願いをするから、それさえなければ俺はいくらでも協力しよう。
「それじゃあ、あたしの話し相手になってください」
「話し相手? 桜とはいつも色々話してるだろう?」
いまさら腹を割って話すことがあるのかよ?
「せっかくですから、今日あったこととかざっくばらんに色々と話しましょう」
俺の右腕を取ると桜はそのまま俺をどこかへ連れて行こうとする。
「桜、俺をどこへ連れて行く気だ?」
「それは秘密の場所です」
「秘密の場所?」
「大丈夫です。誰にも知られていない、私達だけの秘密の場所ですから」
その言葉を聞いて余計に心配になってきた。
秘密の場所? それってどこのことだよ。
「ついてきてくればわかりますよ」
「わかった。ついてくから、だからそんなに引っ張るな」
桜に腕を引っ張られながら俺は階段を登っていく。
一体どこへ連れてかれるのか。そんな心配をしながら、俺は桜についていくのだった。
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