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桜の友人達

「そろそろ夕食の時間だな」


「そうだね。私達がその場所まで案内するよ。ついてきて」



 おしゃべりの時間は夕食の時間になった為、一旦お開きとなった。



「空先輩達はお父さんと何を話していたんですか?」


「このコミュニティー内の話だ」



 具体的にはこのコミュニティーの人間関係を聞いていた。

 そこまでたいした話も無く、唯一わかったことは明日から食料調達の班分けがあり、何人かの班に分かれて行動をするというものだった。



「桜達は何を話してたんだ?」


「あたし達はデパートにいた時の話をしました」


「デパートのこと?」



 それはさっき話しただろ? 今更話すことなんてないはずだ。



「具体的にはあたし達がデパートを離れていた時の話です」


「離れた時?」


「後はゴブリンキングと戦っている時の話ですね」



 離れた時と言えば、俺達がゴブリンキングから逃げてる時の話しか。

 それにゴブリンキングと戦っている時の話って。ちょっと待て。



「まて、桜。あの時のこと全部話したのか?」


「‥‥‥‥‥早く行きましょう」


「桜」



 あのはぐらかしかた。絶対俺の話をしたな?

 逃げる桜を追いながら、校舎を出た。



「夕食はあっちのテントで支給されるんだ」



 春斗さんが指を指した場所はダイナテント。そこを目指して俺達は歩く。



「それにしても変ですね」


「何がだ?」


「周りの視線が少なくなってる気がします」


「気がするじゃなくて、少なくなってることは間違いないな」



 さっきまでよりも、俺達に向けられる視線が幾分か和らいでいる。



「これも春斗さん達のおかげだろうな」


「お父さん達の!?」


「そうだ」



 春斗さん達が側にいてくれるから、視線が少なくなったのだろう。

 それだけこの人達の影響力がこのコミュニティでは強い。



「今日はいのししのシチューとコッペパンみたいだな」


「シチュー!」


「そういえば、桜はシチューが好きだったな」


「はい! 大好きです」



 桜の家に行った時、よく良子さんがシチューを作ってくれたことを思い出す。

 それに俺の家でも桜はホワイトシチューを作ってくれたんだよな。

 あれはおいしかった。



「確か春斗さんも好きなんだっけ?」


「そうですよ。お父さんもお母さんも皆大好きです!」



 配給の列に並び、お盆にシチューとパンを載せてもらった。

 シチューからは湯気が上がっており、見るからにおいしそうだ。



「おいしそうですね」


「あいかわらず桜は食い意地が張ってるんだな」


「先輩程じゃないですよ」



 お盆にシチューの器とパンを載せ、俺と桜はテーブルに座った。



「暖かいごはんが食べられるのはいいですね」


「だな」



 デパートの中にいた時は、保存食が主なもので暖かいものを食べることは無かった。

 今の状況で暖かい食べ物を食べられるのは中々の贅沢のように思える。



「木内?」


「えっ?」


「やっぱり木内だ!」



 声がした方向を見ると、そこにいたのは複数の制服を来た男女がいた。

 よく見ると、全員見たことがある顔だ。確かこいつ等、俺達の中学の後輩達達じゃないか?



「杉田君?」


「やっぱり木内だ! おい皆、木内がいるぞ!!」



 杉田と呼ばれた少年の言葉を皮切りに、先程迄テーブルを囲んでいた中学生数人がこっちのテーブルに集まってくる。

 女子も混ざっていることから、全員が桜の友人達だということがわかった。



「桜ちゃん、生きてたんだね」


「五月ちゃん!」


「心配したんだよ」


「里美ちゃんに、由姫ちゃんも!」



 桜の周りには男女の人だかりが出来ていた。さすが学校の人気者だ。俺とは違う。



「いつ戻ってきたんだよ?」


「よかった、生きてて」


「どうやってここまで来たんだよ!? あのモンスターの群れの中を」


「そんなに一辺に質問されても答えられませんよ」



 やつぎばやの質問に、さすがの桜もたじたじになっているように見えた。

 それでも桜は楽しそうだ。ニコニコと笑って、友人との再会を楽しんでいるように見えた。



「お待たせ、ってあれ!? 君達は?」


「柴山先輩」


「杉田君。それにそっちはバスケ部の宮園君だよね?」


「お久しぶりです」


「柴山先輩も来てたんですね」



 長髪で茶髪の軽薄そうな男が宮園、もう1人の短髪イケメンの細マッチョがサッカー部の杉田っていうのか。

 俺は面識がないから、2人のことを初めて見た。



「日向は知ってるの?」


「うん、杉田君とはサッカー部で一緒だったからね」


「だから知ってるのか」



 そういえば日向は中学時代もサッカー部だったな。

 だから後輩の名前も知ってるのか。



「木内。せっかくだから俺達の所で一緒に食べようぜ」


「えっ!?」


「いいじゃん。せっかくだから、一緒に食べようよ」



 ギャル風メイクの少女、里美と杉田が桜の側に来て一緒に食べるように促している。

 それに対して桜は困った表情で俺のことを見ていた。



「空先輩」


「別にいいんじゃないか?」


「本当にいいんですか?」


「せっかくの機会なんだから、俺の心配はしなくていい」



 せっかくの機会だから、友人達と親交を深めた方がいい。

 しかも周りにいる人達全員が桜の友達なんだから、いつまでも俺達と一緒にいるより有意義に過ごせるだろう。



「じゃあ行ってきます」


「ウチ等がいる場所はあっちだから。早く行こう」


「お皿は僕が持つよ」


「ありがとう、杉田君」



 杉田が食器を持ち、桜は杉田達がいた別のテーブルへと一緒に行ってしまう。



「空、本当にいいの?」


「いいんだよ」


「お待たせ‥‥‥ってあれ? 桜ちゃんは?」


「桜は同じ中学の友達と食べてるよ」



 事の発端を悠里に説明した。その間に桜の両親も俺達の近くの席に座る。



「何で桜ちゃん1人で行かせたの?」


「だって桜の友達であって、俺の友達じゃない」



 杉田にしても俺は知らなかった。それに彼は桜に話しかけていたのであって、俺に話しかけていたわけではない。



「空。貴方ちょっとデリカシーがなさすぎじゃない?」


「何で?」


「もう少し桜ちゃんの気持ちを考えた方がいいと思うのだけど」



 せっかく友達と親交を深められる絶交の機会だから、俺達の所にいるよりいいだろう。

 いつの間に悠里が怪訝な表情で俺のことを見ていた。



「そういえば杉田君は去年桜ちゃんと同じクラスだったよね?」


「去年じゃなく今年もだ。クラスでもよく話してるの見てたし、仲がよかったんじゃないか?」



 昔桜からよく杉田の話も聞いていた。クラスでもよく話すし、仲のいい友達とは本人談である。



「何だ。空も杉田君のこと知ってるんだね」


「名前だけだ。本人が誰だかわからない」



 それも全部桜から聞いた話だ。杉田のことを詳しく知ってるわけじゃない。



「そういえば、中学3年生になってから2人で楽しそうに話していたような」


「良子。空君を煽るのはやめなさい」


「悪い悪い。空君、安心して。桜は大丈夫だから。そう簡単に心変わりする子じゃないよ」


「別に俺はどっちでもいい」


「あれ? 意外。空も可愛い所があるのね」



 ニマニマと笑う悠里のことを見ないようにして、黙々とシチューを口に運ぶ。

 この後夕食が食べ終わるまで、周りから桜のことで散々いじられるのだった。

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