ゴブリンの兄妹
「予想以上に敵が出てきませんね」
「そうだな」
デパートを出てから歩き続けること15分、殆ど敵がでてこない。
以前来た時はゴブリンの遭遇率は尋常じゃなかった。まるで棒を投げたらゴブリンに当たるんじゃないかと言うほど、ゴブリンがいた。
それが今は全くといっていい程出てこない。あの遭遇率はなんだったんだってぐらいモンスターと遭遇しなかったのだ。
「本当にこの辺はゴブリンの縄張りだったみたいですね」
桜のいう通り、その可能性は高い。そのゴブリン達はこの前親玉を俺達が倒した。
だからこんなに敵が少ないんだろう。残ったゴブリンは今頃ちりぢりになっているに違いない。
「もしかすると、別の敵がこの辺りを縄張りにしようとしてくる可能性もあるな」
「えっ?」
「本気にするなよ。あくまで可能性の話だ」
ない話ではない。この辺に有力モンスターがいなくなったんだ。他のモンスター軍団が侵攻してくる可能性もある。
だから気を抜けない。いつどこでどんなモンスターに遭遇しても対応できるように、準備を怠ってはいけない。
「空、ちょっとこっちに来て」
「どうしたんだよ?」
「これ見て?」
「何だよ?」
一体なんだよ。急に走っていったかと思えば、公園なんかに入って。
日向に連れて行かれた先は、デパート近くにあるある公園。そこの茂みの中。
その茂みの中から出てきたのは小さい緑のモンスター。ゴブリンの子供だった。
「ゴブリンの子供、それも2体か」
雄と思われるモンスターが後ろの震えているゴブリンをかばうように前に立っている。
後ろの雌と思われるモンスターはうずくまり、震えて動けないでいる。
「こいつ等は兄妹なんだろうな」
きっとこの兄妹は逃げ遅れたのだろう。だからこんな茂みの中に隠れていたんだ。
それを俺達に発見されて、せめて妹だけは守ろうと兄が立っているように見えた。
「威嚇してるようだけど、俺達を恐れてることが丸見えだ」
前にいる兄の足が震えていて、虚勢を張っているように見える。
武器もなく、とても戦える状態には見えない。
「どうしよう?」
「どうしようもこうしようも‥‥‥倒すしかないだろ?」
ここで変な情をかけると、いずれ俺達人間に対してこの兄妹は復讐しようとするだろう。
せっかく親玉を倒したんだ。ここでゴブリン族を根絶やしにした方がいい。
「でも、可哀想じゃない」
「変な情をかけてると、命取りになる。日向がやらないなら‥‥‥」
俺がやる。ハンドガンを取り出し、銃口をゴブリンの方に向ける。
一瞬肩がびくっと震えたが、兄の方も逃げようとはしなかった。
「悪いな。でもこれは、生きるか死ぬかの戦いなんだ」
例え子供でも容赦は出来ない。これは人間とモンスターの生存競争でもあるんだから。
ゆっくりとハンドガンのトリガーに力をこめた。
「先輩達、そんなに急いで一体どうした‥‥‥って、何やってるんですか」
「痛っ」
頭に強い衝撃が襲い、そのまま前かがみになってしまう。
おかげでハンドガンは地面に落ち、俺は前のめりにつんのめってしまう。
「誰だ。俺の頭をはたいたのは?」
どうやら棒状のもので後頭部を殴られたみたいだ。
いまだに後頭部が痛くてヒリヒリする。
「あたしです」
「やっぱり桜か」
棒状のもので俺の頭をはたく奴なんて、1人しかいない。
紫の槍を持った桜が俺の後ろで仁王立ちをしていた。
「空先輩、今その子達に何をしようとしてたんですか?」
「何って、こいつ等はモンスターだぞ。倒さないと、後でどんな仕返しがくるかわからない」
「それでもダメです。だってこの子達は戦う意思がないじゃないですか」
「私も桜ちゃんのいう通りだと思う。相手には戦おうという意思もないし、別に逃がしてもいいんじゃない?」
「悠里まで」
難色を示していた日向だけならいいが、桜と悠里まで反対までされたらさすがにまずい。
日向だけなら上手く言いくるめられる自信はあるが、桜と悠里を相手にするとなると歯が立たない
不本意だが、ここは桜達の言う通りにするしかないな。
「わかった、わかったよ。このゴブリンの兄妹達は見逃す。それでいいな?」
「はい。ありがとうございます」
桜はそのまま震えるゴブリン兄妹の前に行く。
そのままかがみこんで、ゴブリン達と同じ目線になった。
「そういうことなので、お前達は早く逃げなさい。この怖いお兄ちゃんの機嫌が変わらないうちに」
ゴブリン兄妹は顔を見合わせた。
そして先程迄うなっていたゴブリン兄妹は静かになり、桜に一礼した後、2匹揃ってどこかにいってしまう。
ゴブリン兄妹の姿が見えなくなるまで、桜は手を振り続けるのだった。
「桜、これでいいんだろ?」
「はい、ありがとうございます」
立ち上がった桜は俺達の所へと戻ってくる。
何か1つ文句でも言ってやろうと思ったが、桜の顔を見たら言う気がなくなった。
だってそうだろ? うれしそうに笑っている姿を見せられたら、俺だって何も言えない。
「相変わらず、空は桜ちゃんには頭が上がらないね」
「言い換えれば、尻に敷かれてるってことね」
「お前等言いたい放題いいやがって」
日向と悠里は俺の方を見てクスクス笑ってる。
あの2人今に覚えておけよ。絶対次は俺が2人のことをいじってやる。
「あっ、先輩が照れてます」
「照れてるんじゃない。怒ってるんだよ」
敵は殲滅できないし、桜には頭を叩かれるし俺としては踏んだり蹴ったりだ。
だが、何故か悪い気がしない。
俺の事を見て笑う3人を見ながら、そんな事を思うのだった。
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