空の怒り
桜達と一緒に部屋に戻ってきて2時間。いまだに日向は会議から戻ってこない。
怪我人の手当ても終わり、俺達はもといた部屋に戻ってきていた。
「遅いですね、日向先輩」
「そうだな」
もしかすると会議場で、揉め事が起こっている可能性もあるな。
さすがにあれだけの数のゴブリンが襲ってきたんだから、あそこの部屋にいた連中も皆焦っているのだろう。
「だけどさすがに長くないですか? 会議している人達って、たった数人だけですよね?」
「しょうがないわよ。それだけ今日のゴブリン達の襲撃が危険だったってことでしょ? 会議が長引くのも無理ないわね」
ため息交じりに話す悠里の表情にも疲れが見える。
ずっとあの部屋にいた怪我人のことばかり見ていたから、疲弊しているのだろう。
あれだけの数の怪我人を見ていたんだから、ため息の1つでもつきたくなるだろう。
「ただいま」
「おかえり、日向」
「うん、ちょっと疲れた」
いまの日向はちょっとというようには見えないぐらい、疲れているように見える。
よっぽど今回の会議が堪えていたのだろう。
「それで何の話してたんだよ?」
「ゴブリン達の襲撃を止める方法についてだよ」
「何か有効な対策は見つかったか?」
「全然。現状ゴブリン達の襲撃を未然に防ぐ手がないから、バリケードを強化しようって話になった」
「だよな。それしか対策は打てないよな」
俺達もゴブリンの住処に近づいたが、あそこはモンスターが多すぎる。
もしこのことを話したらあの部屋にいるおっさん達のことだ。きっと住処を殲滅しろって言ってくるだろう。
そんな事になるのが目に見えてるから、俺は口をつぐんだ。
「それでこれから避難民の人達を集めて、バリケードを強化するみたい」
「それがいいな」
その話を聞いて俺はほっとした。もしゴブリンの討伐しに行くとか言ってたら、俺は千葉達を殴りに行かないといけなかったから。
「あとね、これもさっきの会議で決まったことなんだけど、これから1人屋上に見張りを置くことになったんだ」
「見張り?」
「うん。モンスターが襲ってきた時、すぐ気づけるようにって」
そう言った日向の手からトランシーバーが出てきた。
見たところ普通のトランシーバー。いや、そんなことはどうでもいい。聞きたいのはもっと別のことだ。
「ちょっと待て、お前がトランシーバーを持ってるってことは‥‥‥」
「うん、僕達が見張りをすることになった」
何事も無いように日向は言っているけど、おかしいだろ。何で前線で体を張って戦った俺達が見張りをしないといけないんだ?
日向なんて、100体以上のゴブリン相手に体を張ってたんだぞ。この中では誰よりも疲れてるはずだ。
怪我だって癒えてないはずなのに、あの連中は何を考えているんだよ。
「あいつ等‥‥‥日向に見張りをしろって言ったのかよ」
「違うよ。見張りは交代制で、今日の夜は僕がやることになったんだ」
「そんなの断ればいいだろ!!」
デパートを守るために必死に戦って疲れている男に見張りをさせるだと? 冗談じゃない。
ここをまとめている奴等は何を考えてるんだよ? 何もしてないんだから、見張りなんてお前達がやればいいだろ。
「落ち着いて、空。千葉さん達もすごい忙しそうだったからしょうがないよ」
「忙しい?」
あの部屋でくつろいでばかりいるあいつ等が忙しい? そんなわけ無いだろう。
さすがに俺もあのおっさん達に腹を立てていた。
「わかった。俺があいつ等に一言言ってくる」
「空、僕のことは大丈夫だから。そんなに怒らないでよ」
「別にお前に対して怒ってる訳じゃない!!」
俺が怒ってるのは千葉達に対してだ。これが怒らずにいられるかよ。俺達を何だと思ってやがる。
俺達はお前等の都合のいい駒じゃないんだぞ。
「空先輩! 落ちついて下さい!!」
「そうよ! 冷静になって!! ここで怒ったって、会議で決まってしまった以上状況は変わらないわ!!」
「離せよ!! お前等!!」
桜と悠里が俺の両手を掴んで抑える。
2人は冷静になれって言ってるけど、こんなの冷静になれるわけが無い。
「お前達はいいのかよ!! あんな奴等の言いなりなんかになって!!」
今のままじゃ俺達はあいつ等の奴隷だぞ。ただいいように使われているだけだ。
それなら今まで通り4人で旅をしていた方がまだましだ。
「でも、お母さんを置いていけないよ」
「そうだよ、空。それにここの人達をこのままにして、この場所を離れられないよ」
どうやら日向もここにいる人達に情が湧いてしまったらしい。
だから俺はここに来たくなかった。各自それぞれ自立した生活を送っているならまだいい。
だけどここでは俺達に全てを頼っている。戦闘だけでなく、怪我人の手当てすら、自分達でしようとしない。
そんな与えるだけの環境なら、俺はいたくない。少なくともここで生活する意味がないからな。
「本当にこのままでいいのかよ? 俺達はここにいる奴等にいいように使われてるんだぞ」
「だから大丈夫。僕がなんとか‥‥‥」
「それがなんとかなってないから俺が言ってるんだろ!! いい加減目を覚ませ!!」
なんでこれだけ言ってるのにわからない。そこでふと悠里の母親に目が向いた。
彼女は自分を責めるように俯き何も話さない。たぶん自分の無力さを痛感しているのだろう。
そうだな。普通に変われって言われて、人なんてそうそう変われるものじゃない。俺もさすがに少し言いすぎたみたいだ。
「悪い、ちょっと熱くなった」
「僕こそ、ごめん」
「お前達の言い分はわかった。日向、そのトランシーバーを貸せ」
「何で?」
「見張りは俺がやるから、日向はここで休んでろ」
「空の方こそ休んでてよ。今日も前線で戦ってたんだから」
「それは日向だって同じだ。それに俺は鷹の目のスキルを持っていて、遠くにいる奴等のことも見渡せる。見張りなら俺が適役だろ?」
そこまで言って日向を納得させる。翌日またゴブリン達の襲撃が来る可能性もあるので、今は日向にはゆっくり休んでいて欲しい。
日向からトランシーバーと屋上の鍵をもらい、そのままドアの方へ行く。
「空」
「なんだよ?」
「ありがとう。僕、空と一緒に行動できてよかった」
「それは何よりだ。明日またゴブリンの襲撃があるかもしれないんだ。今の内にそこでゆっくり休んでろ」
「わかった」
それだけ言い残し、俺は部屋を出る。部屋を出て俺はため息をつく。
「俺もまだまだだな」
ここまで感情的に話すなんて、俺らしくない。常に冷静沈着に様々な可能性を考えるのが俺の役目だろうが。
だけど俺は日向とは違い、全ての人を助けられない。だから、今自分の手元にいる人達だけを助ける方法を考える。
「さて、どうするかな」
屋上へ向かう階段。その間に考える。俺達全員がどうすれば助かるのかと。
その方法を考えならが、屋上へと向かうのだった。
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