櫛引と海原
本日1度更新しました。
もし見ていない方がいらっしゃいましたら、1つ前の話からご覧ください
「それよりもいつ戻ったの? って、2人共怪我だらけじゃない!?」
「さっきまでゴブリン達と戦っていたからな」
そういうと、悠里は緑の小瓶を俺と桜に渡してくる。
「悠里、これは?」
「飲んで」
「わかった」
渡された小瓶の中に入った緑色の液体を飲むと、思わず吹いてしまう。
「何だこれ!? 死ぬほどまずいんだけど!?」
「それは私お手製の回復薬なのよ。いいから文句を言わずに飲む」
悠里に言われたので我慢して飲む。桜もまずいと思ってるのか、飲み終わった後苦い表情をしている。
このお手製の回復薬の味は青汁に砂糖を入れた感じの苦甘いという、なんともいえない味をしていた。
正直2度と飲みたくない。
「おっ、なんだか体が軽いな」
「それを飲み終えれば、1日で疲労や傷が回復するはずだから」
どうやら効果はあるらしい。良薬苦しというが、まさにこのことを言うのだろう。
「外にいるゴブリン達は?」
「ゴブリンは空と桜ちゃんのおかげで撃退できたよ」
「さすが桜ちゃん。すごいわね」
「まて、悠里。俺も頑張ったんだけど?」
こうナチュラルに俺のことをスルーされると妙に泣けてくる。
それに桜、俺に哀れみの視線を向けてくるな。余計悲しくなる。
「そういえば、櫛引さんと海原さんの様態はどうなの?」
「櫛引さんの方は傷が深くないから大丈夫そうだけど、海原さんのお腹の傷は深いわ。今包帯と私の薬のおかげで出血は止まったけど、しばらくは動けないと思う」
「これ、さっきのゴブリン達のドロップ品なんだけど、悠里ちゃんのスキルで何とかならないかな?」
悠里は日向からもらったドロップ品を見る。
薬草みたいな葉やよくわからない瓶に入った液体などあるが、どれも何に使えるかわからない。
悠里は受け取るとそれを一旦机に置いた。
「ありがとう、後で鑑定してみるわ」
「それよりも、2人のところに案内してもらえないか?」
「わかった。こっちよ」
悠里はそういうと、歩き始めた。俺もその後についていく。
「いいの? 空。さっきまで怒ってなかった?」
「別に怒ってない」
あの2人はこのデパートの為に戦ってくれていたんだ。別に怒る理由なんかどこにもない。
「それに、俺も話さないといけないことがあるからな」
そう言って、俺は三村の後をついていく。
三村に連れられた所に行くと、そこには櫛引と海原が横たわっていた。
「あぁ、君達は‥‥‥生きてたんだね。よかった」
力なく声を発するのは櫛引だった。上半身を裸にされ、右肩から腹部にかけて何十にも包帯が巻かれている。
「はい、俺達は無事です」
「そういえば二階堂は? あいつも戻ってきてるんだろ?」
俺と桜を交互に見る櫛引。そこにいてもおかしくない人の姿が見えなく困惑しているように見えた。
「二階堂は俺達より先にスーパーを出ました。正直どこにいるのかわからないし、生きているかもわかりません」
「そうか。単独行動をしたんだな。あいつらしい」
「お前達の方は大丈夫なのか?」
「俺は大丈夫だ。ただ海原の方はな‥‥‥」
海原の方を見ると頭や肩の傷の他様々な部位に何十の包帯が巻かれていたのだった。
特に目立ったのはお腹、そこには大量の包帯がぐるぐると巻かれている。
「海原さん!! 空達が戻ってきましたよ」
日向が話しかけるが、ピクリとも動かない。
「ダメだ。殆ど反応がない」
目も半開きで、光はともっていない。今の状態は大変危険なように見えた。
「日向君達と一緒にゴブリンを撃退してたんだけどね。途中ででかい剣を持ったゴブリンが襲ってきたのに気づかなくて。海原はそんな俺をかばってこのざまだ」
櫛引の様子は、自分を責めているように見えた。
海原はといえば、時折口をパクパクと動かしている。先程からずっと、何か言いたそうにしていた。
「笑えるだろ? 調子に乗っていた俺のことをかばって、こうなったんだ。俺なんてたいしたことなかったのに。こんな俺なんて‥‥‥見捨ててよかったのに」
「そんな事ないですよ。櫛引さんや海原さん達がいなければ、今頃は中の人達は皆死んでいたました」
「でも‥‥‥」
「だから誇ってください。貴方達2人がいたおかげで、このデパートが守られたんですから」
「俺もそう思います」
「空?」
はっきり言って、日向1人だったら俺達が来る前にデパートは陥落していただろう。
それなのに今回はデパートどころかバリケードにすら被害が無い。それもこれもこの2人が日向と一緒に戦ってくれたからだ。
「2人が前線で戦ってくれたからこそ、今デパートが無事なんです。そうでなければ、今頃全滅だったに違いありません」
それは間違いなく言えることだ。そうでなかったら、このコミュニティーが崩壊するなんてことがあったに違いない。
「だから俺も、そこは誇っていいと思う」
これで櫛引が少し肩の力が抜けるならそれでいい。
だってこの人達はデパートを守るために、あれだけの大軍を相手に必死に戦ったんだ。
それを否定する奴等がいるなら、俺は迷わずぶん殴ってやる。
「ありがとな、山村君」
俺も日向の話にのったおかげか、安心した表情をしていた。
「空先輩もたまにはいいこと言いますね」
「『たまには』は余計だよ」
全く桜はこんな時でも余計なことを言うんだよな。
周りも笑ってるんだから、少しは俺の気持ちも考えてくれ。
「日向はここにいないか」
後ろを振り向くとそこには須田のおっさんがいた。
先程俺達を援護してくれた後、どこにいったか消息のわからなかったが何をしていたんだろう。
おっさんが俺達を見つけると、こっちに駆け寄ってきた。
「そこにいたのか。探した‥‥‥って山村達もいたのか」
「どうも」
「さっきは悪かったな。ろくな援護も出来ないで」
「いえ、最後に援護してくれただけで充分です」
本当はもっと早く来てほしかった。正直なんであのタイミングで来たんだろう。もっと早く来ることも出来たら、もう少し日向も楽できたのに。
「山村君、あんまり須田さんを責めないで」
「俺は別に何も言ってない」
「須田さんも最初は戦ってくれたんだ。でも俺達が負傷して動けない時、助けに来てくれたのはこの人だ」
なるほどな、さっき怪我人の手当てが終わったって言っていたのはこの人達のことだったのか。
それでその人達を安全なデパートに避難させ、怪我の治療を悠里達に任せてたせいで一時的に前線を離れてたってことか。
「別にいい。確かに俺は日向を放置して、前線を離れたんだからな。非難されても仕方がない」
「最後に俺達を助けてくれたからいいですよ。それに今はデパートを死守できたから、それで収めましょう」
戦力は壊滅的だが、最低限の結果だけは得られた。今はそれだけでいい。
デパートが無事だった。その結果だけで満足だ。
「そうか。君達はゆっくり休んでてくれ。日向、会議室で千葉さんが呼んでいる。来てくれないか?」
「わかりました」
「ちょっと待て。その会議、俺も連れて行ってくれ」
「空先輩!?」
さすがに今回ばかりはあいつ等に何かを言ってやらないと気がすまない。
櫛引や海原の怪我もそうだが、この部屋を俺達に隠していたことに対して頭が来ている。
さすがに何か言ってやらないと気がすまない。
「山村達は待っててくれ」
「何でだよ!!」
「俺が千葉さん達と話してくる。それで何かあれば呼ぶから」
須田のおっさんは俺に対して明らかにいいわけをしているように見えた。まるで俺が行くと場が荒れるから行かせたくないように見える。
そうじゃなきゃ俺や桜も日向と一緒に呼ぶはずだ。
「空、ここは抑えよう」
「日向は本当にいいのかよ!! 櫛引や海原達もやられたのに、デパートの奥の部屋に入ってのうのうとしている奴等のいうことばかり聞いていて」
「大丈夫だから空。僕に任せて」
「ここに来た時から任せてってずっと言ってるけど、本当に大丈夫なのかよ?」
正直俺はあの大人達は全く信用できない。そろそろ本気でどうにかしないと、俺達はただ使い潰されるだけだぞ。
「僕が何とかするから、だからお願い」
「‥‥‥‥‥‥今回だけだからな」
「ありがとう」
本当に今回だけだ。もし、何か理不尽なことを言ってくるようなら、本当に俺が殴り込みに行こう。
さすがに俺も限界だ。あの大人達を信用できない。
「じゃあ日向、一緒に来てくれ」
「はい」
そう言うと、日向と須田さんは2人で会議室を出てしまう。
残されたのは俺達だけだった。
「くそっ!!」
「先輩!?」
思わずここで悪態をついてしまう。
だってそうだろ? あいつ等、明らかに俺達を使い潰す気満々じゃないか。
「先輩、一旦会議室へ戻りましょう」
「私も一緒に戻るから。空も落ち着きなさい」
桜と三村につれられて、俺は会議室へと向かう。
怒りが収まらない俺は、日向が来るまで待つのだった。
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