初めての敗北と誓い
「だめだ。スーパーの中に戻ろう」
「えっ!? 戦わないんですか?」
「今の俺達じゃ、あいつに勝てない」
日向がいれば勝てる可能性はあるが、俺達だけでは分が悪い。ゴブリンとゴブリンキングでは強さの度合いが違う。
ゴブリンは最弱のモンスターだが、進化をするといきなり強くなると聞いたことがある。
相手は体長4、5mのモンスター。スピードや連携を駆使すれば戦えない事もないが、いかんせん火力が足りない。
槍使いの桜がいるといっても、明らかに分が悪い戦いになる。
「今は隠れてこの場をやり過ごそう。それが1番生存率が高い」
桜と二階堂をつれて、スーパーの中へと舞い戻る。
ただそこで気づく、このスーパー内には隠れる場所が無い。
「どこに隠れよう?」
スーパーの中は雑然と棚が並べられているだけで、どこにも隠れられそうな場所が無い。
棚の影に潜むことは出来るが、隠れることは出来ない。どこか俺達の姿が見えなくなるような場所。そんな場所はないのか?
「それならバックヤードに行きましょう」
「バックヤード?」
「そうです。それなら例え見つかったとしても、裏口から逃げられますよ」
二階堂の提案。正直こいつの提案にのるのは癪だが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
生きて俺達はデパートに戻らないといけないからだ。
「わかった。その提案のった」
二階堂の提案にのり、俺達はバックヤードまで後退する。
桜は入り口の方を不安に見つめているのが見えた。
「空先輩、バイクはどうしますか?」
「置いてくしかないだろう」
俺達の足を放置しておくのは癪だが、ゴブリンキングが近づいてきているんだ。多少の被害はしょうがない。
それにあいつが興味を示さなければ、もしかすると無事な可能性もある。
「今はバックヤードまで下がろう」
「はい」
桜の手を掴み、二階堂と一緒にバックヤードの方へと走っていく。
バックヤードの中に入ると、扉から外の状況を見守った。
「足音が大きくなってきてる。どうやらこっちに向かってきているようだな」
「そうですね。どんどん足音が大きくなってますね」
そして入り口前に緑色をした巨体が見えた。
腕と足は丸太のように太く、体は入り口の扉よりも大きい。
大きいわりに体が引き締められていて、機動力もありそうだ。
「あの巨体じゃ、この中に入ってこれないですね」
そうだ。あの巨体じゃスーパーの中に入ってこれない。入り口の倍ぐらいの大きさがあるんだ普通なら入ってこれるはずが無い。
「だが‥‥‥」
俺のスキルが今すぐここから立ち去った方がいいと告げている。もしこの場所が危険じゃなければ、こんなことはありえない。
「本当にそうなのか?」
あいつはこの中に入って来れないのか?
例えばあいつがあのドアを破るすべがあるとする。もしあるとすれば、ここにいるのも危ない。
「ウォォォォォォォォォォォォ」
「桜、伏せろ!!」
「えっ!?」
桜と一緒に慌ててその場に伏せた。
ゴブリンキングの雄たけびと共に、手に持っていた大きな剣が振るわれる。
剣の威力で入り口が木っ端微塵に吹き飛び、その衝撃波がこちらまで伝わってくる。
店内にあった棚やレジ台等も剣の衝撃波で吹き飛ばされるのだった。
「何ですか!! あの馬鹿力」
「このままだと俺達もやばいかもな」
「そうですね。逃げる準備をした方がいいかもしれません」
まさかこんな乱暴な方法で入ってくるとは思わなかった。
おかげで店内はぐちゃぐちゃだ。
ゴブリンキングは中を見回して、手当たり次第食べ物をとって食べ始めたのだった。
「モンスターも普通に人のものを食べるんですね」
「二階堂さん、納得してないで早く逃げないとまずいと思います!!」
徐々に俺達の方に近づいてくるゴブリンキング。先程から俺の頭の中でアラートがずっとなっていた。ここにいたら殺されてしまうと。急いで逃げろ、と。
「先輩」
桜に呼ばれるが、体が全く動かない。完全に腰が抜けて動けなくなっていた。
「空先輩?」
逃げてどうする? あの化け物じみた強さを持つモンスターのことだ。すぐ俺達に追いついて、惨殺される。そんな未来が見える。
「悪い、俺のことは置いて行ってくれ」
「先輩何言ってるんですか!? 一緒に脱出するんですよ!!」
「お取り込み中の所申し訳ないですが、僕は先に行きますね」
「あっ」
二階堂は俺達を置いて先に行ってしまう。そうなるのもわかる。だって俺はあいつの恐ろしさに体が硬直して動けないのだから。
桜はそんな俺に肩を貸してくれようとしていた。
「桜、お前も逃げろ」
「嫌です!! 先輩も一緒じゃない限り、あたしもここにいます!!」
「馬鹿野郎!! ここにいたら桜も殺されるんだぞ!!」
ここで死んでどうするんだよ。それこそ意味がないだろ?
日向や悠里に顔向けできない。
「馬鹿はどっちなんですか!! 空先輩がいなかったら、日向先輩も悠里先輩も悲しむんですよ」
必死に俺を立たせようとするが、体はびくともしない。その間にドアの間からゴブリンキングの方を見た。
ゴブリンキングはというと色々なものを充分に食べ満足したのか、どんどんこちらへと近づいてくる。
そして一瞬、いや確実に俺と目があった。
「やばっ!?」
相手がこっちを視認した。それは敵に対して自分達はこっちにいると伝えているようなものだ。
徐々に足音が近づいてくる。こっちも装備品からハンドガンを出し、いつでも戦える準備をする。
「先輩?」
「奴が来る。桜は裏口から逃げてくれ」
「あたしも一緒に戦います!!」
「桜?」
「1人よりも2人の方が倒せる確率が上がるじゃないですか」
「悪いな」
覚悟は決めた。あいつがこっちに来たら奴を倒す。はっきりいって勝ち目がない戦いになるが、絶対にあいつを倒す。
だが、その覚悟とは裏腹に近づいてきた足音がどんどん遠ざかっていった。
「何が起きた?」
もう1度バックヤードから覗くと、ゴブリンキングが入り口に向かって歩いて行くのが見えた。
それは俺達のこと等見向きもせず、まるでもうここに用がないという風に背中を向けている
「あの野郎、俺達と戦わない気か?」
次の瞬間、はっきりとゴブリンキングと目があった。
奴は俺の顔を見てニヤリと笑った。それは俺達のことをあざ笑うように。まるで俺達なんて敵にすら値しないと言っている様だった。
「くそ!!」
「空先輩!?」
思わず、俺は床に持っていたハンドガンを叩きつけてしまった。
あんな奴相手に腰を抜かした自分に対して、怒りがこみ上げてくる。
「どうしたんですか? ゴブリンキングが立ち去ったんですよ。よかったじゃないですか」
「それが問題なんだよ!!」
あの野郎。俺達のことをわざと見逃した。
俺達なんていつでも殺せると思ったからわざとここで見逃したんだ。
「俺達はあいつに舐められてるんだよ!! 敵だとすら思われていない」
いうなれば家畜。いつでもお前達のことなんて殺せるんだぞという態度だ。
「いいじゃないですか? 生きられたんですから」
「よくない!!」
敵ですらなく、家畜だってあいつに思われたんだぞ。
こんな屈辱、今まで味わったことが無い
「だったら、強くなればいいじゃないですか」
「強く?」
「そうですよ。ここは我慢して生き延びて、あいつより強くなりましょう」
そんな惨めな姿の俺を背中から優しく抱きとめてくれたのは桜だった。
気づいたら、俺の目から涙がこぼれていた。
「悔しい。あいつに怯えたあげく腰を抜かして、身動きが取れなくなった自分がなさけない」
「次はそうならないように強くなりましょう。絶対あいつはあたし達の手で倒すんです」
「あぁ、そうだな」
それからしばらく、俺と桜はバックヤードで2人で過ごす。
この日、俺達は初めて敗北した。だがこのままでは終わらない。
絶対に強くなって、あのゴブリンキングを倒す。そう誓うのだった。
ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】を押して頂ければ幸いです




