着せ替え人形
次の日、体中の痛みで目が覚めた。
「う~~ん、朝か」
そういえば座ったまま寝てたんだっけ。
肩や腰周りだけでなく、腕まで筋肉痛のように痛い。
少し腕をまわすとバキバキっと骨がきしむ音が聞こえる。
やっぱり座ったまま寝るもんじゃないな。
「あれ? 俺は一体なんでここで寝ていたんだ?」
確か昨日日向達がいる部屋から飛び出した後、桜が俺の所に来て廊下でしばらく話していたんだっけ。
それで俺があの部屋には戻らないって話したら、桜もここで寝るって言いだして‥‥‥。
「そうだ。桜は‥‥‥」
膝の上に重みを感じたので下を見ると、桜が気持ちよさそうに寝ていた。
「本当に気持ちよさそうだな」
口の端からよだれまでたらしただらしない顔で寝ていて。
その顔は女の子が家族以外に見せちゃいけないような顔をしていた。
「全く」
警戒心の欠片もない。だけど、それだけこの場所の居心地がよかったのだろうな。
でも、そろそろ戻らないといけないな。きっと今頃日向達が心配しているから。
「おい、桜。朝だぞ! 起きろ」
「大丈夫です。おかわりは、いっぱいありますから」
「寝ぼけるのもいい加減にしろ!! 朝だぞ!!」
俺が軽く桜のことを揺すると目を覚ましたらしく、起き上がり目をぱちくりしながら辺りを見回している。
「あれ? 台所は? それに子供もいないです」
「どんな夢を見てたか知らないが、まずは口元のよだれを拭け」
「よだれ? ‥‥‥あっ!?」
慌てて袖口でよだれを拭う桜。顔を真っ赤にして、慌てて拭いている。
乙女だったらもう少し恥じらいを持てよ。ハンカチで拭くとかさ。
俺以外の他の奴にこんな姿見られたら幻滅されるぞ。
「おはようございます、先輩」
「桜、おはよう。どうやらいい夢を見られたようだな」
にこっと笑い、俺の事を見る桜。
どうやらさっきまでのことは忘れて欲しいみたいだ。
顔は笑っているが、目が笑っていない。
「はい、いい朝ですね。今日も1日がんばりましょう」
「この状況で!?」
こんな薄暗いじめっとした所で、いい朝とかいうのは桜だけじゃないか?
こんな太陽の入らない薄暗い廊下で『いい朝ですね』なんて、普通の人は絶対にそんなこと言わないぞ。
「はい、もちろんです。先輩はじめっとした所とか暗い所が好きなので、先輩にとってもいい朝じゃないかと思います」
「それを言うのはこの口か」
「いたい、いたいれふ~~。はらしてくらはい~~」
桜の両頬を思いっきりひっぱってやると、反省の言葉が聞こえてくる。
誰がじめっとした暗い所が好きだ。俺は陽の光が当たるところだって好きなんだぞ。
「まぁ、これぐらいにしてやろう」
「うぅ~~、この目つきが悪い不良もどき。陰キャ野郎。ヘタレヤンキー」
「桜、まだやられ足りないようだな?」
「ひぇ、勘弁してください」
この変わり身の早さ、さすが桜だ。
だがおかしい。これだけやられても何故かうれしそうに笑っている。
このやり取りに面白要素ってあったっけ?
「それよりもどうするんだよ、それ?」
「それ?」
「制服だよ。よだれを袖で拭いてたけど、どうするつもりだ?」
「あっ!?」
汚れた袖を見ながら、桜は声を上げた。
そして涙目になりながら俺のことを見る。
「空先輩、これどうしましょう」
よだれを拭いた袖を見せながら涙目で訴えてくる後輩。
これでよくわかった。どうやら俺の後輩は何も考えてないようだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ここでいいか?」
「ありがとうございます」
俺達は今、須田のおっさんに案内されて衣服のコーナーにいる。
何でこんな場所につれてきてもらったか。それはもちろん、桜の洋服を探す為だ。
「うわ~~すごい、いろんなお洋服があります」
「じゃ、俺は配給に行かないといけないから先に行く。そこにあるものは好きに着てもらってかまわない」
着てもらってかまわないって、このコーナー全部衣類のコーナーだぞ。
しかもこのデパート、色々なアパレル店が入ってるから洋服が選び放題。
勝手に拝借して大丈夫なのかよ?
「本当にいいのかよ? ここにあるものを勝手に使って?」
「気にするな。どうせこんな世の中になったんだ。誰も服なんて興味ない」
「須田のおじさん、ありがとうございます」
「おぅ。あと嬢ちゃん。俺はおじさんじゃなくて、お兄さんだからな」
そんな冗談を言い、須田のおっさんはもと来た道を戻っていく。
配給があるって言ってたから、きっと2階の千葉達の所に戻ったんだろう。
あのおっさんはおっさんで、きっと大変なんだろうな。
「空先輩、せっかくですから色々と服を見ましょう」
「そうだな‥‥‥って待て、それは俺の服も入ってるんじゃないだろうな?」
「当たり前ですよ。せっかくですから、先輩に似合う服も選んであげますよ」
「俺は制服で充分なんだけど?」
「ダメです。日向先輩や悠里先輩だって私服なんですから、先輩も着替えましょう」
そう言って腕を掴まれずるずると引きずられていく。
こういう時の桜は強情だ。絶対に自分の意見を取り下げることはない。
あと桜、異様に俺を掴む力が強くない? これも身体強化スキルの恩恵なの?
「桜、そんなに引っ張らなくてもいいから」
「とかいって、先輩のことだから手を離すと絶対どこかに行くつもりでしょ?」
「何で俺の考えてることがわかる? もしや桜、エスパーなのか?」
「そんなの先輩の顔を見ればわかります。うだうだ言ってないで、早く選びましょう」
抵抗することを諦めた俺は、その後何件かの服屋に連れてかれた。俺は桜のプロデュースというなの着せ替え人形となり、様々な服を着せられたのだ。
時間にして約20分。配給の時間もあるのに、やたらと時間を使いすぎじゃないですか? 桜さん。
「これでどうでしょうか?」
「本当にこれが俺なのか?」
鏡の中に写る俺はいつもの俺とは違うように見えた。
自分で言うのもなんだが、少し大人っぽくなった印象だ
「黒のスキニーパンツに青のロング丈のアウターです。それに赤のスニーカーをつけてみました」
「確かにいつもの自分と違う気がする」
「これに懲りて、もう少しおしゃれに目覚めてください」
おしゃれに目覚めるつもりはないが、たまには気分を変えるのはありだな。
コーディネートをしてくれた桜には感謝しないといけない。
「桜、ありがとう」
「どういたしまして」
「機動性も申し分ないし、いいチョイスだ」
軽く動いてみたが今着ている服の方が、制服よりも動きやすい。
俺のはしゃいでいる姿を見たせいか、桜は俺のことを見てやけに満足そうに笑っていた。
「ちゃんと動きやすい素材のものを選んだから大丈夫なはずですよ」
「それならこれで大丈夫だな」
俺がきびすを返そうとした瞬間、再び俺の二の腕ががしっと掴まれる。
振り向くと笑顔の桜がいた。嫌な予感がする。
「次はあたしの番ですね」
「‥‥‥‥出来るだけ早めに頼むぞ」
「任せてください」
この任せてくださいが信用ならないのは俺がよく知ってる。
女性は買い物が長いというが、桜もその典型的な女性の1人だ。俺ができるだけ早くと頼んだのに、桜の着替えは困難を極めた。
「それいいよ」「うん、可愛い」って言ってるのに、あいつは一向に服を決めない。
俺が何かを言うたびにふてくされた顔をして、更衣室へ戻ってしまう。
なんだ、何が気に入らないんだ? 来ている服全部可愛いだろ?
「おい、まだ決まらないのかよ」
「まだです」
「もういいんじゃないか?」
時間にして1時間が経過したように思う。
そろそろ戻らないと、日向達も心配する。
ただでさえ、昨日部屋に戻らなかったんだから。悠里の奴なんて、特に桜のことを心配してるだろ。
「もう少し待ってください」
そう言うと顔だけ更衣室から出して、うなる桜。本当にどの服を着るか決めかねているように見えた。
「別にいいだろ? どの服だって可愛かったぞ」
「だって、先輩さっきから可愛いしか言わないじゃないですか? 他の感想が欲しいです」
「そんなこと言ったってしょうがないだろ? 桜はどの服を着ても可愛いいんだから」
「はうっ」
桜は急に顔を真っ赤にさせた。
なんだ? 俺何かまずいことでも言ったのか?
「どうした? 風邪でも引いたのか?」
「なんでもないです。それならこの服はどうですか?」
そう言って出た桜は意外な格好をしていた。
黒のミニスカートに白のトップスという、シンプルと言えばシンプルだが妙に桜には似合っている。
さっきまではゴテゴテの柄物も多かったので驚いた。
「どうですか? 先輩」
「あぁ、俺はこっちの服の方がガチャガチャしてなくてどちらかと言えば好きかな」
「ありがとうございます」
「そうだ。もしその服を着るなら、靴はこっちの方が似合うんじゃないか?」
「えっ?」
「ちょっと待ってろ」
俺は慌ててシューズの所に行き、さっき目に付いたシューズを探した。
桜の服選び中、シューズコーナーを見ていたかいがあった。
よし、これなら桜に合うだろう。
「お待たせ」
「先輩、それって‥‥‥」
「あぁ、白のブーツなんだけど、お前似合うと思ってな。とりあえず履いてみないか?」
「はい」
桜は恐る恐る俺が渡したブーツを履いた。
最初はおっかなびっくり歩いていたが、やがて普通に歩き最後に走っていた。
「全然動きにくくないですね」
「動きやすいように設計されてるらしい」
靴の説明書きにはそう書いてあった。タクティカルブーツというもので、スニーカーより軽く機動性に優れるらしい。
後は桜の足に合うかどうかだけど‥‥‥桜の様子を見る限り心配なさそうだな。
「靴擦れの心配もなさそうだな」
「特に問題なさそうですね。靴はこれにします」
そう言った桜は笑う。どうやら俺が選んだものを気に入ってくれたらしい。選んだかいがあったな。
「先輩からのプレゼント、大切にしますね」
「うん? あっ、あぁ」
プレゼント? そう言うことになるのか?
俺はただ目に付いたものを桜に渡しただけなんだけど‥‥。
「そういえば、さっき選んだ服や靴も取ってあるので、先輩のアイテムボックスに入れておいてください」
「えっ? あれも?」
「そうです。ついでに先輩の服も一式見繕ったのでそれもです」
それもって、かなりの量があるぞ。入れるのは構わないけど、そんな大量の服着る機会なんてあるのかよ。
「いや、でも‥‥‥」
「返事は?」
「でも‥‥‥」
「返事は?」
「‥‥‥はい」
こうして俺は桜に押し切られる形で、選んだ服をアイテムボックスに入れることになった。
何故こうなった。こんなはずじゃなかったんだけど。
「服も選び終わったことですし、日向先輩達の所へ戻りましょう」
「そうだな、行くか」
「はい、行きましょう」
そして俺と桜は日向と三村のいる部屋へと戻るのだった。
その間、隣にいる桜は終始上機嫌な様子。
戻ってきた俺達は日向達と合流して、俺達の服装を見た2人にからかわれたのは言うまでも無かった。
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