空と桜
桜視点のお話になります
「どうしたのかしら? あの子?」
「あきらかに様子がおかしかったわね?」
空先輩が去った後の部屋の中。先程とは違った雰囲気に包まれていた。
戸惑いと困惑。空先輩の体調を皆が本気で心配していた。
「悠里ちゃん、何か体調がよくなりそうな薬ってないかな?」
「手持ちには回復薬しかないけど、今日拾ったアイテムを使えば何とかなるかもしれない」
悠里先輩はリュックサックからすり鉢と棒を取り出し、日向先輩から受け取ったドロップアイテムを見つめている。
その目は真剣で本気で空先輩を何とかしてあげようとする気持ちがうかがえた。
「悠里先輩」
「桜ちゃん」
たぶんだけど、悠里先輩はわかっているように思える。空先輩が頭痛を引き起こした原因について。
あの人は何も知らないけど、それでも自分達に原因があるんじゃないか、そう思っているようだった。
「あたしに任せてください!」
「桜ちゃん」
それだけ言うと、あたしは行動に出た。部屋の外へ出ようと扉に手をかける。
「桜ちゃん、どこに行くの?」
「すいません、ちょっとお花を摘みにいってきます」
「お花を? ‥‥‥あっ、それなら僕も一緒に‥‥‥」
「日向君はダメ」
「何で?!」
あたしと一緒に行こうとする日向先輩を悠里先輩はダメの一言で抑えてくれている。
この人はたぶんわかってるんだろうな。あたしが本当に行きたい場所が。
「悠里先輩、ありがとうございます」
「どうせ長くなるんでしょ? ゆっくりしてきなさい」
「はい。結構長くなると思いますけど、心配しないで下さい」
それだけ言うと、あたしは日向先輩達がいる部屋を後にした。
「ええと‥‥‥空先輩が行きそうな所は‥‥‥‥」
あの人のいきそうな所。基本的に性格が暗いので、きっと暗くて狭くてじめじめしていて誰もいなさそうなところにいそう。
いる場所だけ羅列すると、カビやきのこが生えている所が思い浮かんだ。
「空先輩がカビときのこ‥‥‥ぷっ」
いけないいけない、思わず笑ってしまった。変な事をかんがえてないで、空先輩のことを探さなくては。
そういう場所が好きなのことプラス面倒くさがり屋のあの人のことだから、しばらく歩いた後部屋から近い場所に居座っている可能性が高い。
そう、例えば暗い行き止まりの通路とか。ほら、私の予想通りだ。
「空先輩」
「おっ、おう。桜か」
あたしがここに来たことによっぽどびっくりしたのか、声が微妙に上ずっている。
空先輩は足を投げ出して両拳を握り締めた状態でうなだれていたが、慌てて座りなおしていた。
「どうしたんだよ。こんな所に来て」
「ちょっとした散歩です」
「そうか」
「そうなんです。隣、いいですか?」
「勝手にしろ」
「じゃあ遠慮なく」
本当にこの人は面倒臭い人だ。1人になりたくないくせに、こうして1人になろうとする。
そして全て自分が悪いと自己嫌悪を起こす所も。全部、ぜ~~んぶこの人の悪い所。ただそれも含めて、あたしはこの先輩のことを好きなんだけど。
「先輩、どうしたんですか? そんなに落ち込んでて?」
「別になんでもない」
「もしかして、悠里先輩達親子に嫉妬してるんですか?」
空先輩は何も話さず、押し黙ったまま俯いていた。
それから十数秒待つと、ゆっくり口を開く。
「そうかもな」
「でもそう思う気持ちもよくわかります。自分に無いものを相手が持ってると、どうしても手に入れたくなりますよね」
あたしが知ってる先輩の家庭事情は他の家庭とは全然違っていた。
両親が交通事故でなくなってから、近くに住んでいる親戚の家に引き取られた空先輩。
そこでは3歳上の姉がいて、義父と義母は義姉ばかり可愛がり、空先輩のことはずっと無視をしていたと聞く。
家庭内ネグレクト。聞けば夕飯も家族とは別の場所で食べてたと聞く。
この人程、家族の愛情に飢えてる人はいないんだと思う。
そんな家庭だからこそ、中学卒業後1人暮らしを始めたのも当たり前だと思った。
「何が言いたいんだよ?」
「別に何でもないですよ。ただ昔よりも丸くなったって思っただけです」
「丸くなった? 俺が!?」
自覚が無いようだが、空先輩は昔よりも丸くなった気がする。
中学時代、殆ど人を寄せ付けなかった空先輩。唯一日向先輩が1番近くにいたが、初めて2人のことを見た時何で一緒にいるのかわからなかった。
ただひょんなことから彼のことを知り、一緒に過ごす内に皆が言ってるような人じゃないことがわかった。
周りの人は怖い、不良、人を殺してる等散々なことを言っていたが、この人は誰よりも人のことを思っている。
だからあたしもこの人の側にいるし、そんなあたしだったからこそ、自分のことを色々と話してくれたのかも知れない。
そんな彼だからこそ、あたしは自分の家に彼を誘った。最初は断っていたが、何度もしつこく誘った成果があって、あたしの家に何度か遊びに来てくれた。
空先輩の家の事情を知ってるせいか、お父さんとお母さんも空先輩のことは歓迎してくれている。
不器用で言葉足らず、だけど困っている人は放って置けなくて面倒見のいい優しい先輩。
だからこそ、あたしもそんな空先輩の側から離れることは考えられなかった。優しくてそれでいて不器用な人。そんな空先輩のことが、あたしは好きだった。
「はい、昔は狂犬のようでしたけど今はチワワみたいです」
「狂犬とチワワってギャップが激しすぎないか?」
たぶん自分ではわかってないのだろう。日向先輩だけじゃなく、悠里先輩と話している時の先輩も楽しそうに見える。
昔の鋭い眼光も今は無くなり、今はただの優しい少年のように思えた。目つきは悪いけど。
「でも、それぐらい先輩が変わったってことです」
「全く褒められてる気がしないな」
「褒めてるんですよ」
あたしがそういうと困った顔をする空先輩。先程とは違い、表情が柔らかくなったように思えた。
「それにさっき悠里先輩達に嫉妬してましたけど、先輩にだっているじゃないですか」
「何が?」
「ちゃんとこうやって、温かく見守ってくれる人が」
「なっ!?」
その瞬間、空先輩の体が硬直した。
それもそうだ。だってあたしが空先輩の空いていた左手に思いっきり体を押し付けてやったんだから。
当の先輩はといえば、大きく目を見開き驚いてるようだった。
「作戦、成功ですね」
「ちょっ、おまっ‥‥‥離せよ」
「い・や・で・す! えへへ」
散々人のことをを心配させたお返しである。少しはこれで困るといい。
「別に俺は桜に見守ってほしいとか思ってないからな」
「はい、先輩のツンデレ頂きました」
「ツンデレじゃない。大体お前は昔っから‥‥‥」
それから先輩のお説教は1時間程度続き、その後は部屋に戻りたくないという空先輩の希望でこの場所で寝ることになる。
床は堅かったが、先輩の膝はやわらかい。
下から見る空先輩の寝顔は先程とは違い、どこか安心しきった子供のように見えたのだった。
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