デパートでの出来事
須田に与えてもらった部屋は長机と数個の椅子が置かれた簡素な部屋だった。
長机が可動式だということとホワイトボードがあることから、なんとなくここが会議室だということはわかる。
たぶん俺達が4人組だったから、普通の部屋より大きい部屋が割り当てられたのだろう。
「思ったより中は広いんですね」
「たぶんここは会議室なんだろ。従業員用の」
そう考えるとしっくり来る。
実際従業員が使っていた痕跡もあるので、ここがそういう場所だというのは間違いない。
「それよりも俺は祥子さんに聞きたいことがある」
「私に話せることがあれば何でも答えるわ」
全員が椅子に座り、準備が整った所で俺が話を切り出す。
正直俺も祥子さんにこのコミュニティーの状況とか、色々聞きたいことがあった。
「まず最初に、祥子さんはどうしてこのデパートに来たんですか?」
「私はここに買い物に来ていたの。その日の夕ご飯の食材を買って帰ろうとしたら、入り口の辺りが騒がしくて」
「それで?」
「入り口には大勢の人が押し寄せていたわ。それで何か起こったのか見に行ったら皆口々に言うの。『化け物が襲ってきた』って」
化け物って言っているのは、オークやゴブリン達のことを言ってるのだろう。
確か桜もこっちから逃げてきたから、やはりこの変にゴブリン達が出現したんだな。
「それで、悠里先輩のお母さんはそのことを信じたんですか?」
「信じるわけ無いじゃない。緑の化け物に襲われてるって言っていたけど、到底信じられなかったわ。だってここはおとぎ話の世界じゃないんだから」
「だけど、信じるに値する出来事があったんですね?」
「えぇ、そうよ。さっき話していた緑の化け物や豚の化け物達がこのデパートを襲ってきたの」
オークか。そういえば桜もこの辺でオークに襲われたって言ってたな。
この辺はオークとゴブリンの生息地なのか。
「そこからは本当に凄惨な光景だったわ。扉から入ってきた豚の化け物や緑の化け物に捕まって。抵抗した人達は無残にも殺されていったわ」
「ママ、それだとおかしくない? 全員殺されたのだったら、ここには誰もいないはずよ」
「それがね、丁度夕方頃かしら? その化け物達が引き上げたのよ」
「引き上げた?」
「そう、捕まえた人達や殺した人達を連れてどこかへ行ったわ」
違う、どこかへ行ったわけじゃない。モンスター達が自分達の根城に帰ったんだ。今の話から推察するに、もしかするとモンスター達も睡眠が必要なのかもしれない。
昼と夜で出てくるモンスターが違うのはその為だろう。昼はゴブリンやオーク等のモンスター。夜はスケルトン等アンデッド系が徘徊してるんだ。
「それで、さっき話していたオーク達は今も襲ってくるんですか?」
「豚の化け物は襲ってこなかったけど、緑の化け物は襲ってきたわ」
「それがあのゴブリン集団か」
なるほどな。多分オークは別の所に集落を構えてるのだろう。
現状はここに来てやることはないということだ。
それかゴブリンにこの辺の縄張りを渡して、自分達は別の所を縄張りにしたってことか。
「これは俺の予想だけど、ゴブリンの住処がこの近くにありそうだな」
「それでここが襲われているんですね」
状況はあまりよくないな。だけど正直オークが襲ってこなくてよかった。
テレビで見ていたあのでかいオークを相手にするには、荷が重すぎる。
「空、なんとか出来ないかな?」
「なんとかっていわれてもな‥‥‥」
「あのゴブリン達を、僕達で退治できない?」
日向に頼まれても、正直なんとかできそうもない。
ゴブリンの本拠地がわからない以上、こちらからは何もアクションを取ることが出来ないからだ。
「無理だな」
「無理なの?」
「当たり前だ。ゴブリン達の集落がわからない以上、こっちから奇襲はかけれないだろ?」
「そうだけど‥‥‥」
「今は諦めろ。その内ゴブリン達の方がまた何仕掛けてくるだろう」
恐らく今日の様な襲撃がまたある気がする。
その時に万全の体制を整えて、迎えればいい。
「それよりもそれからどうなったんですか?」
「その後は千葉さんや須田さんが皆をまとめてくれて、入り口にバリケードを作ってゴブリン達の侵入を防いでるわ」
「食料はどうなってるの?」
「配給制にしてるわ。千葉さんや須田さんが食糧を管理して配給してる」
あの爺達そんなことしてるのかよ。自分達は戦わないくせに食料も自分達で独り占めしてるってことじゃないか。
こんな状況、ここの人達はよく我慢してられるな。いつ反発が起きてもおかしくないぞ。
「そんな事をして、反発はないんですか?」
「もちろん、彼らが食料を独占してるんじゃないかって反発もあるわ。だけどそれは須田さんが上手くまとめてくれてるから、何とかなってるのが現状ってところ」
なるほどな。つまりは実質、あの須田のおっさんがここのまとめ役って所か。
それに千葉や藤山がのっかってる。それが現状って感じだな。
「ありがとうございます。大体ここのやり方がわかりました」
「いいえ、こちらこそありがとう。貴方達のおかげで、また悠里ちゃんと会うことが出来た」
「私からもお礼を言わせて。ありがとう、皆。日向君達のおかげでママと会うことが出来た」
そう言って三村一家は俺達に頭を下げていた。
「悠里ちゃんがお母さんと会えてよかったね」
「そうだな」
「空、どうしたの?」
何故だかわからないが、さっきからすごく気分が悪い。
気分が悪いだけならいい。だけど話を聞いている内に頭痛までしてきた。
「空先輩、本当に大丈夫ですか?」
「悪い、ちょっと席をはずす」
「空?」
そう言って俺は部屋を後にした。
原因はわかっている。それは三村親子の再会を純粋に喜べないからだ。
2人が再開した時もそうだ。抱き合ってる姿を見て、何故か嫌悪感を覚えた。
せっかく悠里のやつが母親に会えたのに、何で俺は素直に祝福できないんだよ?
どうしたんだ? 俺?
「俺って最低な奴だな」
部屋の外に出て、廊下を歩いている俺の口からそんな言葉が出てしまう。
人の幸せを喜べない、そんな自分に嫌気が差す。
自分の心を落ち着かせる為に、俺はしばらく2階の廊下を歩き続けるのだった。
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