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いい町の条件

「このおやつ、すごくおいしいよ!」


「よかった。この前作ったマドレーヌが口に合って」


「こんな貴重な物、俺達がもらってもよかったんですか?」


「別に大丈夫だよ。なんとか自給自足できるぐらいの物資は私達の街にもあるから」


「本当ですか?」


「あぁ。一部モンスターに破壊された場所や竹林があった部分を開拓して、畑や田んぼにしているんだ」


「それで農業系スキルを持つ人が食物を育ててるから作物の成長も早い。そのおかげである程度食料には困ってないんだよ」


「なるほど、そういうことですか」



 農業系のスキル。そんなスキルがあるとは思わなかった。

 でもよく考えれば、戦う以外のスキルがあってもおかしくないだろう。

 むしろ今まで俺達にそういったスキルが発言しなかったのが不思議だ。



「ここまで街にいる人達全員で協力して、やっとある程度の生活ができる所まで来た」


「色々試行錯誤して苦労したけど、今ではいい思い出だよ」



 春斗さんと良子さんは懐かしい事のように語る。

 俺達が街から出て数ヶ月しか経っていないけど、まるで何年も経ってしまったかのように錯覚する。



「今この街はエルフの町と同じような状況なんだろうな」


「空さん、どういうことですか?」


「エルフの町も異世界に来て、右も左もわからない状態で生活しているだろう。状況は違えど、みんな必死に生きてるってことだ」



 きっとこの街では様々な人達が協力して生きているのだろう。それはエルフの町にいても思った。

 町に住んでいる人達は今までと変わらないように暮らし、ラックスさん達上層部の人達は町の人達を不安にさせないように全力でこれからの事を考えていた。

 そうでなければオークや猫族ケットシーとこんなに早く同盟は結ばないだろう。



「空君、そろそろ聞かせてくれないか? 君達が学校を出てこの街に戻ってくるまで何があったのかを」


「わかりました。そしたら順を追って説明します。まずは学校で‥‥‥」



 そこで俺は初めて春斗さんにここに来るまでの経緯を話す。

 ここまで起こったことを話すまで数十分。やっと全ての事柄を話し終えた。



「なるほど。僕達が学校から逃げた後、空君達にはそんな事があったのか」


「はい、これが学校を出るまでに俺達に降りかかった出来事です」



 俺が一通りの事を説明する間、春斗さんも良子さんも俺と桜の話をちゃんと聞いてくれる。

 時折春斗さんがする質問に答えながら、俺達に降りかかった全ての出来事を話すのだった。



「そしたら私達がいた学校を襲ったのは、魔王軍の四天王を名乗る奴だったんだね?」


「はい。魔王軍といってもと言っていましたけど」


「その情報はエルフ達もつかめていなかったんだよね?」


「はい。そうです。過去に魔王軍四天王にそいつの名前はあったらしいですが、戦いの中で戦死していたと聞きます」



 ラックスさんがそう言ってたので間違いはないと思う。だけど俺にはあいつが生きている可能性があるとも考えていた。



「それにしても厄介だな。魔王軍の四天王が僕達を襲うなんて」


「魔王軍の四天王もそうだけど、私はエルフだけじゃなくてオークの町があることにびっくりしたよ」


「オークの町だけじゃないですよ。猫族ケットシーの町もありますから、今現在魔族が管理する町は俺達が把握するだけでも3つになります」


「う~~ん。その魔族達がみんな僕達人間に友好的だったらいいけど‥‥‥」


「それは大丈夫だと思います。ラックスさん、エルフ族の族長に頼めばオーク達の橋渡しをしてくれると思います」


「そうか。それならいいけど‥‥‥」


「それと今回イリスとミアさんはそれぞれの町を代表してこの街の視察に来ています。よっぽどの事がない限り、いい報告をしてくれるでしょう」


「よっぽどの事か。それが起こらないことを祈るよ」



 春斗さんは何かを想像してため息をついていた。もしかすると春斗さんの頭の中には神代さんが浮かんでいるのかもしれない。



「ちなみにもしもエルフ達と同盟を組む話になったら、誰が交渉の席に着くんですか?」


「もし魔族と交渉をするとなれば、僕か須田というデパートを管理している男がそちらに出向くだろう」


「須田のおっさんも生きてるんですか!?」


「生きてるよ。彼は今でもデパート周りの区域の運営をしている」



 その話を聞いて少しほっとした。だってあの須田さんが生きていたからだ。



「彼も君達の事を心配していたよ」


「須田のおじさまが!?」


「俺達の事を心配していたんですか?」


「あぁ。日向君の怪我の治療をしながら、君と桜の事を何度も僕達に聞いてきたよ」


「嘘!? それは冗談じゃないですか?」


「冗談じゃないよ。これは全部本当の事だ」


「むしろ日向君よりも空君達がいないことを気にかけていたぐらいだよ」


「あの人が‥‥‥」


「あたし達の事を心配していたんですか?」



 俺にはあの人がそんな事をするなんて考えられない。だってあの須田のおっさんだぞ。

 いつも何をするにも面倒くさそうにするあの人が、俺の事を心配していたなんてびっくりした。



「僕達がここに来た時学校であったことを話したんだけど、そしたら彼は1人で学校へ救援に向かうって言ったんだ」


「それを私達が必死に止めたのさ。今行っても危ないだけだって」


「あのおっさん、俺達の事をそこまで‥‥‥」


「彼はこうも言ってたな。『俺はあいつ等に命を救ってもらった。だから今度は俺があいつ等を助ける番だ!!』って」



 須田のおっさんの意外な一面を見た。あの人が俺達の事をここまで思ってるなんて、誰が想像しただろう。

 確かに別れ際、『いつでも力になる』とは言っていた。だけどまさかそんな行動を起こそうとしているなんて、俺は思わなかった。



「空さん、あたし達は須田のおじさんにも会いに行かないといけませんね」


「そうだな」



 これでまた寄らないといけない場所が増えてしまった。

 街に戻ってから顔を出さなければいけない所がどんどん増えていく。



「空おにいちゃん達、またどこかに行くの?」


「あぁ。俺達の大事な友人に会いに行くんだよ」


「ゆうじん? それってともだちのこと?」


「そうですよ。この街にはあたし達の友達がたくさんいるので、挨拶しに行くんです」


「挨拶って事なら、あたしも行くよ!」


「もちろんですよ。その時はクルルちゃんも一緒に行きましょうね」


「うん! すごくたのしみ!」



 マドレーヌを食べながら無邪気に笑うクルル。

 事の重大さを何もわかってないと思うけど、そんなクルルの事を俺は微笑ましく見ていた。



「桜達がいたエルフの町はいい所だったんだね」


「どうしてそう思ったんですか?」


「クルルちゃんを見ていればわかるよ。子供が楽しそうに笑っている町って言うのは、どこも平和でいい所なんだよ」


「そういうものなんですか?」


「あぁ。僕達の所にも子供達はいるけど、最初はとても暗い表情をしていた」


「でも今は昔に比べて明るい表情をしている。それはすごくいいことだよ」



 春斗さん達がそう言うならそうなのだろう。

 もしかしたら俺達は自分達が恵まれすぎていて、こんな当たり前のことも忘れていたのかもしれない。



「クルルちゃん」


「なにーー?」


「クルルちゃんは今楽しいかい?」


「うん! 桜おねえちゃん達がきてから、ともだちがふえてすごくたのしいよ!」


「そう。それならよかった。これからも桜達をよろしくね」


「まかせて! 桜おねえちゃん達はあたしがまもるよ!」


「頼もしいですね」


「そうだな」



 俺達の前で胸を張るクルルを見て、何故か懐かしい気持ちになるのだった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。

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