良子の苦悩①
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今回は過去編です。時系列的には空達が学校を出て、エルフの町にいた頃の話となっています
「これから向かう場所は以前から捜索を検討していた学校である。この探索隊の中にはあそこに避難していた人もいるかもしれないが、落ち着いて行動してくれ」
「はい」
「それでは私に続いてくれ。生存者、及び負傷者が見つかったらすぐに報告するように」
あの学校での事件からしばらく時間が経ち、私は学校の捜索する任務に就いた。
日向君達とデパートに避難してしばらく経つが、三葉校長の結界が学校まで広がったことで捜索しようという話になり、こうして動き始めたのだった。
「良子、本当に行くのかい?」
「あぁ。そのつもりだよ」
「君もデパートで休んでいていいんだぞ? 無理して学校に行かなくてもいい」
「大丈夫。日向君達が怪我で来れないんだから。元々あそこにいた私が確認しないと駄目だろう」
今回の捜索に日向君や悠里ちゃんは来ていない。
あの甲冑騎士との戦いで日向君は重傷を負い、悠里ちゃんはその傷の治療している。
だから今回の捜索に参加はしていなかった。
「それに桜の安否も確認しないとね」
「大丈夫だ。僕達の娘なんだから、きっと生きてる」
「うん」
私もそう信じたかった。学校を離れる際、私は春斗に半ば強引に連れていかれた。
あの時桜を無理やりにでもデパートに引っ張って行ってやれなかったとを、このデパートに来てから何度悔やんだかわからない。
1人の娘を持つ親として失格だ。何度そう思った事だろう。
「それでは行くぞ!! みんな、私についてこい!!」
神代さんの号令で私達は大勢の人数を伴って学校へと行く。
全員が何があってもいいように武装して戦える状態にある。
「春斗、もしあの甲冑騎士が学校にいたらどうするの?」
「それは問題ないだろう。今は学校方面も三葉校長の結界の範囲内。あいつは入ってこれないはずだ」
「確かにそうだけど‥‥‥」
「あいつは結界を破って中に入ってきた。結界が破られてないから、学校の中に入ってこれるはずがない」
「うん」
「だから安心して行こう。今の学校は安全なはずだ」
春斗に励ましを受けて私は学校に行く。
学校に近づくに連れ、酷い匂いが鼻をついた。
「何? この匂い?」
「腐った鉄のような、生臭い匂いだな」
「こんな匂い、嗅いだことがないよ」
その匂いが学校に近づくにつれて、大きくなっていく。
そして校門にたどり着いた時、衝撃的な光景が私達の目に飛び込んできた。
「何‥‥‥これ?」
「グラウンドの土が赤黒く染まっている」
乾いているからか水気は一切ないが、土のグラウンドが変色している。
そして乱雑に転がっている人間の死体と思わしきもの。
それがグラウンドの至る所に転がっていた。
「ひっ、酷い!!」
「外ではこんな状態になっていたのか」
私達は校舎の裏から脱出したため、グラウンドかどうなってるか見ていなかった。
だから思った。私達が逃げている間、グラウンドではものすごい争いが起こっていたのだと今になって知った。
「とりあえず中に入ろう。死体は身元確認の為に顔にタオルをかけてグラウンドに並べてくれ」
「わかりました」
神代さんの号令の下、私達は行動に移る。
酷い匂いに耐えながらも、死体の処理を行う。
「駄目。殆どの死体が腐敗してるから、誰が誰かわからない」
「中には首だけ切られて亡くなっている死体もある。これじゃあ身元が特定できないな」
結局学校で見つかった死体の中で、身元がわかったのは約半分。
その殆どが共同墓地という事で、ひとまとめにして埋められた。
「結局桜達は見当たらなかったな」
「うん」
「きっと無事だろう。今頃どこかに避難してるはずだ」
「何で春斗はそんな冷静でいられるの?」
「死体が出なかったのだから、そう考えるのも当然だろう?」
「死体の半分は身元もわからなかったんだよ!! あの中に桜の遺体がある可能性だってある!!」
現に桜のような体形でスカートをはいた身元不明の女子生徒の遺体も見つかっている。
一概に桜は無事だという確証はない。
「だが僕は桜がこのまま死んでいるとは思えないんだ」
「何であんたはそう思うんだよ?」
「空君が側にいるからだよ。彼ならきっと桜の事を守ってくれるさ」
空君。桜が慕っていた1学年上の男子生徒。
中学時代は日向君と一緒に色々と問題行動が目立った子だったけど、学校内で最も桜が親しくしていた生徒だった。
「あの子の遺体も見つかってない。きっと今頃2人で仲良くやってるはずだ」
「それは天国でとか言わないよね?」
「当たり前だろ? 桜が僕達に最後に言った言葉を信じてやらなくてどうするんだ?」
「それはそうだけど、この絶望的な状況を見せられてどうやって信じればいいんだよ」
人間の血液で赤黒く染まったグラウンド。そして辺り一面に転がる腐敗した人間の死体。
その殆どが四肢が分断されたものだ。中には顔をズタズタにされた死体まであった。
「教えてよ‥‥‥桜が生きてるって根拠を‥‥‥私は‥‥‥信じられないよ‥‥‥」
「良子」
その場で私は崩れ落ちてしまう。私とは違い、春斗は顔色一つ変えていない。
春斗はこの絶望的な状況を見てもよく信じることが出来るなと思う。
「良子はそこで休んでいてくれ。死体の処理は僕達でするから」
「わかった」
春斗に連れられて私は木陰で休む。木陰に座った私は小さく一息ついた。
「僕は埋葬を手伝ってくるから、君は休んでいてくれ」
「うん。ありがとう」
春斗は私の元を離れ、男衆の手で遺体を土葬していく。
あれだけの死体を前にしても普段と変わらない春斗の事が凄いと思った。
「お疲れ様です、良子さん」
「菜々緒さん」
「隣に座ってもいいですか?」
「別に構わないよ」
菜々緒さん、湊君と桜乃ちゃんを連れて来た人である。
デパートに避難した時に知り合って、仲良くなるにつれて彼女達の境遇を知った。
その時湊君や桜乃ちゃんの話も聞き、桜乃ちゃんが落ち込んでいる理由もその時わかった。
「娘さん、見つからなかったんですね」
「あぁ。私と春斗が確認しても見つからなかった」
「行方不明ですか」
「扱いとしてはそうなるよ」
実際は身元不明の死体が多すぎて、本当に生きているかわからない。
ただ確実に言えるのは、もし本当に桜が学校に残っていたとしたら生きている可能性は限りなく低いという事だけだ。
「強いですね、良子さんは」
「強い? 自分の娘が死んだかもしれないと思っている私が?」
「はい。そうです」
「気休めはよしてくれよ。私はただ娘の死を直視できない臆病者だよ」
「そんなことないと思います。人任せにも出来たのに、自分の娘の安否をわざわざ確認するためにこうして行動できるのは凄いことだと思います」
その事を言われて思い当たることがある。悲しそうな菜々緒さんの様子を見て、この子達の境遇を思い出した。
「確か菜々緒さんは、別の場所から逃げてここに来たんだったよね?」
「はい。私の恋人が自分の全てをかけて逃がしてくれました」
「そのビルには行ったのかい?」
「行ってません。もし私の恋人の死体で見つかったら、生きている自信はありませんから」
菜々緒さんの表情が曇る。彼女が落ち込んでいる所は初めて見る。
「怖いんです」
「怖い?」
「はい。私は自分の好きな人の安否すら確認できていません。彼から湊と桜乃を託されたのに」
今の菜々緒さんと私の境遇は似ている。彼女は以前いた場所で自分の恋人を置いて、自分達だけ逃げてしまった。
それは学校に空君や桜を置いて逃げた私達と似ている。だから彼女の気持ちもわからないでもない。
「菜々緒さん」
「すいません。辛気臭い話をしてしまって」
「全然だよ。その気持ちは私もわかるから」
「ありがとうございます」
「こちらこそだよ。菜々緒さんと話していて、しっかりしなきゃって思った」
今までは菜々緒さんの事をわかったつもりでいたが、今回の事で彼女がどんな事を思っていたかがわかったような気がした。
彼女ももしかして私と同じ気持ちだったのかもしれない。ずっと恋人を残して逃げ延びたことを後悔していたように感じた。
「良子! こっちの作業は終わったぞ」
「うん、わかった。そしたら私達も行こうか」
「えぇ」
菜々緒さんを連れて、私は立ち上がり春斗の元へと行く。
それから私達は学校を綺麗にして、この地を後にするのだった。
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明日もこのぐらいの時間に更新予定です。
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