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敵の敵は味方

 市役所を出た俺達が向かったのは、先程車を止めていた駐車場。

 俺達が乗ってきた車の前に着くとさっきまでの緊張感が解け、思わずため息をついてしまった。



「どうしたんですか、空さん?」


「何でもないよ。ただちょっと疲れただけだ」


「わかります。あたしもなんか疲れました」



 どうやら桜も俺と同じ気持ちらしい。そう思うのも無理はない。市役所で散々責め立てられたのだから。



「完全にやられたな。俺もまさかあんな直球に言われるとは思わなかった」



 俺はなるべくやんわりと相手の出方を探るつもりで話したのだが、神代さんのスタンスは違った。

 初対面の相手に対してここまで言ってくるなんて、完全に俺が読み違えた。



神代さん(あの人)は利用できるものは何でも利用とするから。話す時は注意した方がいい」


「わかりました。次から心がけます」


「もしかするとあの人は最初から日向君達がキマイラに襲撃されたことを、全てエルフのせいにするつもりだったのかもしれない」


「その可能性はありますね。今回の襲撃はたまたまだったとして、それも都合よく利用しようとしていた節がある」



 あの言い方を鑑みれば、今回の会談でエルフ側にその主張をして責任を取らせようとしていたように思う。

 相手の本心はわからないけど、神代さんの態度を見てそう思った。



「我々エルフを陥れようとするとは、中々肝が据わった人間だな」


「そうね。でもあのむかつく人相手に話す今日の兄さんは少し格好良かったわよ」


「本当か?」


「あっ!? 格好良かったと言っても本当に少しだから。これまでの行いを加算したらむしろ全然。マイナスゲージを振り切ってるからね」


「ぐっ!?」



 あわれイリス。実の妹からこんなに滅茶苦茶責められるなんて。見ているこっちの胸が痛くなってくる。



「ティナ、さすがにちょっといいすぎじゃないか?」


「言いすぎじゃないわよ。空もクロとシロと戦った時の事は覚えてるわよね?」


「まぁな」


「最初クロと戦った事については事情を知らなかったからしょうがないとして、その後クルルが怪我をしたシロを見つけた時の兄さんの対応。あれはまだ許してないわよ」



 確かにティナが怒る理由もよくわかる。俺もあの時の事をまだ許したわけでもないし、向こうから謝られた事もない。

 だからいまだにイリスと会って話す時はぎくしゃくしている。


 その理由はきっとあの戦いで俺がイリスと本気でぶつかりあったからだろう。

 お互いの主張をぶつけあって対立したからこそ、今の状況になったのだと思う。



「あたしもまだ許してないんだよ!」


「クルルもなのか?」


「だっておにいちゃん、まだクロやシロに謝ってないんだもん!」


「そうなのか?」


「うん」



 それは初めて知った。イリスは俺達に何も伝えなかったとしても、せめてクルルには何か伝えていると思っていたからびっくりした。



「イリス。俺達は別に気にしてないが、さすがにクルル達には謝った方がいいんじゃないか?」


「申し訳ないが、俺はあの判断が間違っていたとは思わない」


「何でそんなかたくななんだよ。少しぐらい自分の過ちを認めたっていいだろう」



 何故ここまでイリスが強情なのかわからない。明らかに非はイリスにあるのに。どうして謝らないのだろう。



「もしだ。もしあの時黒龍と白龍の怪我が治った後、約束を破り町を襲ってきたらどうするつもりだったんだ?」


「どうするって‥‥‥結果的に襲ってきてないからいいだろう」


「それはあくまえ結果論だ。あそこで情けをかければ、黒龍達が約束を破ってエルフが殺されている可能性もあったんだ。お前はそれをわかってない」


「そうだったとしても、その時はその時で‥‥‥」


「俺はエルフ達を守る立場にあるんだ。1%でもエルフ達に危害が及ぶ可能性があるなら、異分子は全て排除する。それが俺の答えだ」


「イリス!!」


「俺がお前に言いたいのはそれだけだ。それよりもここを離れるなら早く離れよう。俺はさっき乗った乗り物に乗る」



 そういうとイリスは車のドアに手をかける。

 だけどドアは開かない。何度開けようとしても、ドアは開かなかった。



「すまん。この乗り物の扉が開かないのだが?」


「すいません!? 鍵をかけてました!? 今扉を開けますので、中に入ってください」


「わかった」



 生瀬が慌てて鍵のボタンを押すと、ガチャンという音と共に車のドアが開いた。

 イリスは何も言わずに入っていく。その際俺達の方を一瞥しようともしなかった。



「空、ここじゃ誰が話を聞いているかわからないから一旦車に乗って場所を移動しよう」


「移動するって言っても、どこに移動するつもりだよ?」


「僕達が住んでいるアパートがあるから、何か話すことがあるなら話はそこでしよう」


「そうだな‥‥‥わかった」



 ここは日向の提案にのろう。いつまでもイリスと言い争っていても無駄だし、もしかすると誰かが俺達の話を聞いている可能性だってある。



「そしたら日向さん達は俺の車に乗って下さい。そろそろここを出ましょう」


「うん、わかった。今行くね」



 生瀬は運転席に乗っていく。日向と七村もその後を追って、車に乗っていった。



「どうやら私が聞いていた以上に山村さん達は大変だったんですね」


「以前サラさんが話していた、エルフの使者の話ですか?」


「はい。私はサラ様からまた聞きのような形で話を聞きましたが、イリス様のあの様子を見るとかなり根深いように見えます」


「かもな」



 あの時のイリスはエルフ族族長代理、黒龍討伐の指揮をしていた。だからこそ黒龍討伐を邪魔する俺の事を本気で殺しに来た。

 だけどそのイリスを俺は返り討ちにしてしまったのだ。


 おまけにその後に来たディアボロさんがその場を収めてしまった。

 これでは族長代理とはいえ、イリスの面子は丸潰れだ。恨まれても仕方がない。



「もし時間があればでいいので、私も山村さん達の話を聞いて見たいです」


「別にいいけど、あまり面白い話はないですよ」


「それでもです。サラ様から色々と言われていますから」


「サラさん!? あの人から何か言われたんですか?」


「はい。ここへ行く前に『人間の街に行って勉強してこい。山村さん達といれば、私に足りないことがわかる』と言われました」


「ミアさんに足りないもの?」


「はい、そうです」



 俺達にあってミアさんにないものはなんだろう。

 サラさんの護衛を任され全幅の信頼を置かれているこの人に足りないものなんて俺には思いつかない。



「サラさん、そろそろ出発しますので早く乗ってください」


「わかりました。では私も行きますので。山村さん、また後で」


「はい、わかりました」



 生瀬に言われミアさんも車に乗っていく。

 その光景を俺は黙って見届けていた。



「空さん」


「どうしたんだよ、桜?」


「今ミアさんと話していて、鼻の下が伸びてましたよね?」


「伸びるわけないだろう!? 何を言ってるんだよ!?」


「桜、それは言いすぎよ」


「ティナ」


「私もそう思うぞ」


「由姫まで」


「先輩は鼻を伸ばしていたのではないぞ。頑張ってミアさんを口説いていたのだ」


「山村ハーレムを築くためにね」


「もっと悪いわ!!」



 ティナ達の話を聞いた瞬間、桜の目が更に吊り上がってる。

 由姫達は冗談のつもりだが性質が悪い。余計に桜を刺激するだけだ。



「(このままじゃまずい。誰か俺の味方はいないのか?)」


「空さん? ちゃんと説明してもらえますよね?」


「もっ、もちろんだ」



 俺はやましい気持ちはないのだから桜に追及されても大丈夫なはずだ。

 大丈夫だろう。本当に大丈夫だよな?



「空君、我が娘ながら嫉妬深くて申し訳ない」


「いえいえ、そういう所も含めて俺は桜の事が好きですから」



 先程から黙って話を聞いてくれていた春斗さんに同情されてしまった。

 春斗さんも誤解だという事をわかってくれたみたいだ。

 きっと何かしらの助け舟を出してくれるだろう。



「それではさっきの事について、空さんの話を聞かせてください」


「春斗さん、そろそろ俺達も車に乗りませんか?」


「確かにそう‥‥‥」


『ギロッ』


「!? あぁ、そうだ!? 少しエンジンを温めないと動かないから、僕が準備しておくよ。その間桜達は心行くまで空君と話してくれ」


「春斗さん!? そんな車の機能、初めて聞きましたよ!?」



 春斗さんは車に乗り込んでいく。どうやら俺は置いて行かれてしまったみたいだ。

 どうやら俺に味方はいないみたいだ。ここは腹を割って桜と話すしかない。



「空さん!」


「先輩!」


「空!」


「わかった。まずは俺の考えを聞いてくれ」



 その後十数分の間、俺は桜達に誤解だという事を伝え続けた。

 俺達が車に乗る時は既に日向達の車はなく、市役所の駐車場に置いてけぼりにされるのだった。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


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