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キマイラの目的

「先輩!! あのキマイラは以前に山で私達が戦ったキマイラなのではないか?」


「違う。たぶんあのキマイラは別の個体だ」


「どうしてそう思うんですか?」


「山で戦った時のキマイラは首を落として倒したはずだ。それがあんな綺麗につながるわけがない」


「つまり敵は新たにキマイラを作って、あたし達の所にけしかけたってことですね」


「たぶんそうだ」



 そうでなければあんな化け物を俺達にけしかけるわけがない。

 あのライオンのような頭に羊のような動体は見間違いようがない。過去に俺達が戦ったキマイラそのままの姿だった。



「ティナ、キマイラは複数作ることは可能なのか?」


「キマイラを作る材料があるなら出来ないことはないと思う」


「そうか」



 となるとあのキマイラ以外にも仲間がいることも考えられる。

 今は1体しかいないけど、状況次第では他にも出てくることも想定しなければならない。



「でも変ね」


「何が変なんだ?」


「あのキマイラ。私達のはるか先にいるじゃない」


「確かに」


「あのキマイラはまるで誰かを追っているみたいですね」


「っつ!? まずい!!」


「まずいって何がまずいんだい?」


「春斗さん!! 前の車と連絡は取れないんですか!!」


「トランシーバーを使えば取れるはずだ」


「そしたらトランシーバーを貸してください!! 今すぐ!!」


「わかった」



 春斗さんからトランシーバーを借りると、すぐに電源をつけた。



「先輩、何をそんなに焦っているのだ? トランシーバーを使うよりもあのキマイラの対策を早急に立てるべきではないか?」


「もちろんそれもするさ。だけど今は現状の把握が先だ。よし! 繋がった!!」



 幸い通話チャンネルは既に設定されていたようで、すぐさま日向達の方へと連絡がつながる。

 トランシーバーからは日向達の話し声が聞こえて来た。



「聞こえるか、日向!! 俺だ!! 空だ!!」


『その声は空!?』


「あぁ、俺だ!! そっちの状況はどうなってる?」


『大変なことが起こってるよ!! 外にキマイラが‥‥‥』


「落ち着け日向!! そのことは俺達も把握している!!」



 やはりキマイラの狙いは日向達か。どうやらあいつの狙いは日向達らしい。



『今湊君が必死にスピードを上げて振り切ろうとしてるけど、キマイラはぴったりついて来るんだ』


「落ち着け!! 俺達も急いで追いつくから、何とかやり過ごしてくれ」


『わかった』



 トランシーバー越しでも慌てふためく声が聞こえる。

 何とかしようと日向達が必死に話す様子が伺えた。



「春斗さん!! この車のスピードをもっと上げられませんか?」


「今やってる!! だけど今僕達は山道を下ってるんだ!! カーブも多いから、あまりスピードは上げられない」


「追いつくまでには時間がかかるってことですか?」


「そうだ」



 そうなるとやる事が限られてくる。今はトランシーバーを使って、日向達にキマイラの対処方法を伝えるしかない。



「空さん!?」


「どうした、桜?」


「キマイラが何かしようとしています!!」


「何!?」



 俺達に近づいてくるキマイラを見ると、大きく息を吸い込んでいる。

 口から赤い光の弾のようなものも見えた。



「避けろ!! 日向!! キマイラの攻撃が来るぞ!!」



 俺が叫んだからか、前を行く日向の車が揺れる音が聞こえてくる。きっと蛇行運転をしているのだろう。



『湊君!?』


『みなさん!! 何かに捕まって下さい!!』



 そこにキマイラの炎弾が降り注ぐ。地面が揺らぐ程の衝撃音がトランシーバー越しにこちらにまで伝わってくる。



『うわっ!?』


『湊君!!』



 雨のように降り注ぐ炎弾を日向達が乗っている車は間一髪避けているようである。

 その大きい音はやがて止み、車のエンジン音だけがトランシーバー越しに聞こえて来た。



『空!! 空、聞こえる!!』


「聞こえてる。そっちは大丈夫か?」


『うん。僕達の方は大丈夫だよ』


「よかった。イリスとミアさんに怪我はないか?」


『うん。車が揺れて驚いていたけど、体のどこにも怪我はないよ』


「それならよかった」



 あの車にはイリスやミアさんも乗っている。

 仮にあの攻撃が直撃して2人が怪我でもしたら大問題に発展していた。



「(もし2人のどちらかが死んだとなれば、それこそエルフや猫族ケットシーとの戦争に発展してしまう)」



 それだけはなんとしても避けなければならない。

 だから何があっても日向達の車両を守る必要があった。



「とりあえず一旦状況は落ち着いたか」


「いや、問題はまだ解決していないよ」


「えっ!?」


「さっきの炎弾のせいでこの先の地面が陥没している。みんな!! 揺れるから注意してくれ!!」


「わっ!?」



 直後ガタンという大きな音が鳴り、車が上下に大きく揺れた。助手席にいた俺はシートベルトをつけていたから平気だけど、後ろのみんなが心配になる。



「いてててて、みんな大丈夫か?」


「こっちは大丈夫ですよ」


「私も大丈夫だ」


「私も大丈夫よ」


「クルル達も無事か?」


「うん! 大丈夫だよ」


「よかった」



 うちのメンバーも怪我はないようだ。

 後ろを振り向くが、全員特に怪我はなく元気そうに見えた。



「桜おねえちゃん」


「どうしたんですか、クルルちゃん? どこか痛みますか?」


「大丈夫だよ! でもなんかこういうのってスリルがあって楽しいね」


「クマ!」


「クゥー!」


「スリルがあって楽しいか」



 本当にお気楽な奴だ。この危機的状況を遊園地のアトラクションか何かと勘違いしているようだ。

 桜でさえ苦笑いをしている。クルルだけはこんなピンチな状況なのに笑っている。



「だけど今はその余裕がありがたい」



 おかげでこんな危機的状況なのに冷静でいられる。



「空さん!! 見てください!!」


「あれは‥‥‥日向達の車か」



 どうやら先程の炎弾を避けている時にスピードを落としていたのだろう。日向達の車が見えた。

 その少し離れた上空にキマイラはいる。日向達の車に並走するように空を飛んでいた。



『空!? そっちは大丈夫!?」


「俺達は大丈夫だ。それよりも日向達はスピードを上げて、このまま街まで行ってくれ」


『空達はどうするの!?」


「決まってるだろう。あのキマイラを倒すんだよ」



 それ以外にやる事なんてない。あのキマイラを倒さないと、どの道またどこかで襲われる事になるだろう。



『それなら僕達も手伝うよ』


「それはダメだ」


『何で!?』


「あのキマイラは明らかにお前達の車を狙っている。たぶん狙いはイリスとミアさんだ」



 2人を殺すまでは行かなくても、怪我をさせれば儲けもの。族長代理として2人を送ったエルフ達を激怒させることにつながる。

 そうなれば人間と魔族の溝は深まる。キマイラをけしかけた奴等はその青写真を描いているに違いない。



「ちょうど今日向達の車に追いついた。俺達があのキマイラの注意を引き付ける。その内にお前達はイリスとミアさんを街まで送り届けてくれ」


『でも‥‥‥』


「でもじゃない!! お前はエルフ達と戦争がしたいのか!! ぐだぐだ言ってないで、ここは俺達に任せろ!!」


『‥‥‥わかった』


「それならさっさと行け。後の事は俺等に任せてくれ」


『うん‥‥‥絶対に死なないでね、空』


「当たり前だろ? 学校での戦闘からも生還したんだ。こんな雑魚に遅れを取るかよ」


『信じてるから、僕。空達が無事に街まで着くって』


「あぁ、盛大に俺達を祝う準備をしてくれ」



 トランシーバーの無線を切ると同時に窓から顔を出す。

 手にしたハンドガンでキマイラを狙い撃つ。



『パンパンパン』


「ガゥ?」


「やっと気づいたみたいだな」



 今まで日向の車だけを追っていたキマイラもようやく俺達を認識したみたいだ。

 その隙に日向の車はスピードを上げて山道を下っていく。



「ガゥ!?」


「させるかよ!!」



 再びハンドガンをキマイラに向けて狙い撃つ。その1発がキマイラの目に額に当たりキマイラは痛がっていた。



「ガゥ!!」


「そうだ。お前の相手は俺等だよ。かかってこい!! 獣もどき!!」



 キマイラは鋭い目で俺の事を睨みつける。どうやらやっとキマイラに敵と認識されたみたいだ。



「さぁここからだ!! 覚悟しろ!! キマイラ!!」



 こうして俺達とキマイラの戦いが幕を開けるのだった。

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