交渉
「お前達、よくあの化け物を倒せたな」
デパートに入ると無精ひげを生やした男が俺達を賞賛する。
目に隈が出来顔がやせこけっていて、一見無骨な感じを受けるが身なりだけは整っている。
たぶんこの現象が起きてから寝ていない為、疲れているのだろう。彼が苦悩していたことがよくわかる。
「化け物って、さっきのゴブリンのことですか?」
「ゴブリン? そんなのいるわけないだろ? お前達はゲームのやりすぎだ」
「ゲームのやりすぎじゃなくて本当にいるんだよ、おっさん」
実際俺達はゴブリンの他にコボルトとも戦った。
夜にはスケルトンも街中を徘徊していたし、テレビの中の話しだが、オークがいることも確認できている。
これはゲーム内の出来事じゃない。現実で起きていることなんだ。
「まぁ、そんな些細なことはどうでもいい。俺達にはあいつ等を倒すための戦力がいるんだ」
「戦力?」
「まぁいい。これを見てくれ」
無精ひげの男に案内された場所には大勢の人が溢れかえっていた。
ダンボールの上で子供が寝ていたり、地べたに座ってうなだれる人達の姿だった。
「なんだよ、ここは?」
そう思うのも無理は無い。悲愴感を浮かべているものや泣きじゃくる子供。中には喧嘩をしているのか、怒鳴り声まで聞こえてきた。
ただ全員が全員共通しているのは、悲愴感に溢れ目が死んでいるところである。
絶望。それがこの空間を支配しているように思えた。
「ここに避難してきた奴らだよ。最初からデパートにいた奴もいれば、後からここに逃げ込んできた奴もいる」
なんでもないように無精ひげの男はいうと、こっちに来るように手招きした。
俺達をどこかに案内したいのかと思い、その後ろをついていく。
「ちょっと、山村君」
「何だよ」
「本当に着いていって大丈夫なの?」
「大丈夫も何も、着いてくしかないだろ?」
今は大人しくあいつの言う通りに動くしかない。
俺達は何故か歓迎されているようだし、三村の母親の場所も知らないといけないのだから利用するに越したことは無い。
「おい、どうした? さっきの戦いがよっぽど堪えたか?」
「大丈夫だ。何でもない」
そういうと俺は男の後ろについていく。それに黙って日向達も行く。
後ろの方で日向達が何かを話していたが、俺は聞かないようにした。
「ここだ」
「ここ?」
案内されたのは扉のついた小さな部屋。
男がノックしてその部屋を開けると中には2人の男が座っていた。
「須田、そいつがさっきの化け物共を倒してくれた奴か?」
「あぁ、そうだ」
「こんな子供が? 嘘だろ!?」
苦々しい顔をしているのは、座っている男の横にいる眼鏡をかけた男である。
中央に座る恰幅のいい白髪の男は俺達のことを見ている。
その姿はまるで俺達を値踏みしているように見え、気持ちが悪い。
「ねぇ、ちょっと。さっきから私達を色々なところに引っ張りまわして!! ここは一体何なの?」
「ここは会議室だ」
「ここが会議室ってことは、僕達もわかります」
日向は笑顔で話しているが、話の節々に棘がある。
どうやら怒っているのは三村だけではないようだ。
「質問させてもらいますけど、おじさん達は一体何者なの?」
「目上の奴に対して礼儀もなってない無礼なガキ共だな。まず、お前達が名乗る方が先だろ」
無礼なのはどっちだよ。俺達をここまで勝手につれてきて。挙句の果てにお前達が名乗れだと?
そもそも俺達はお前達が襲われているところを助けたんだ。礼を言うのが筋ってもんだろ?
思わず手を出そうと1歩踏み込む。しかしそれは日向によって止められた。
「空、今はやめよう」
「あぁ?」
「ここは僕に任せて」
日向がそこまで言うならしょうがない。ここは日向に任せよう。
珍しく日向も怒っているみたいだし、悪いことにはならないだろうからな。
「藤山、少し黙っててくれ。ここまで彼等を無理矢理連れてきたのはこっちだからな。むしろ悪かったな。ここまで来てくれて」
「千葉さん、ですが‥‥‥」
「君は少し黙ってくれないか? 彼等は私達を助けてくれた恩人なんだ」
「‥‥‥‥わかりました」
眼鏡の男はそう言うと何も言わなくなった。
あの眼鏡の奴は最低だが、この千葉という男は話せそうだ。
「悪かったな、少年達。うちの藤山が迷惑をかけて」
「いえいえ、気にしないで下さい」
「私は千葉という。そして隣の眼鏡をかけているのは藤山だ。私達は元々ここの従業員だ」
「それで俺は須田。須田隆一っていう」
ここで一通りここにいるやつらの名前はわかった。
白髪の恰幅のいい老人が千葉で眼鏡をかけてるのが藤山、そして俺達の側にいるのが須田か。
全員が全員何を考えているかわからない。ここは下手に自分達のことを話さないほうがいいだろう。
「まずは外の化け物達を倒してくれてありがとう。あやうく全滅する所だった」
「いえ、僕達にとってもあのモンスターは邪魔だったので利害が一致して丁度よかったです」
珍しい、日向がこんな積極的に話しているなんて。
笑みを崩さず、淡々と千葉の質問に答えていく。
「いきなりで悪いが、単刀直入に聞かせてもらう。君達はjobを取得しているのかい?」
「jobのことを知ってるんですか?」
「もちろんだ。ここでもjobを持っているのは一握りの人間だけだからな。君達見たいな戦える人達は、本当に貴重な存在なんだ」
jobが貴重な存在か。たぶんここにいる人達はあの化け物達と戦ったことが殆どないってことか。
誰でもモンスターを倒せば手に入る能力なのに。どうしてこの人はそれがわかっていて、他の人に勧めないんだろう。
「jobを持っている人はどれくらいいるんですか?」
「そこの須田を入れて、4人だ」
4人。人数としては少ないが、充分戦える人数だ。
だとしたらおかしい。
「おい、ちょっと待て。なんでjob持ちがいるのに、ゴブリンを撃退しなかったんだよ!!」
jobを複数持っている奴がいるなら、ゴブリンの撃退ぐらい余裕のはずだ。矢面に立って戦闘するだけでいい。
それなのに防戦一方のやられてばかり。どうしたらそんな状況になる?
「今jobを持っている人達の殆どは食料の調達に行っていていないんだよ」
「食料調達!? こんな大きいデパートの中で?」
「このデパートに人が何人いると思っているんだい? 今ここにある量だけじゃ1ヶ月も持たない」
言っていることはわかるが、もう少しデパート内の防衛に手を回した方がいいんじゃないか。
確かにここにいる人達の人数は多そうだ。だが、その中のjob持ちはたったの4人。
この世界になってまだ2日目だが、それにしたって少なすぎる。もう少しデパートの防衛に人を回した方がいいだろう。
「そんなにデパート内の人は多いんですか?」
「あぁ、ここは駅からも近い。命からがら逃げ延びた人達がここに逃げ込んできたんだ」
「だったら、何でこんなjob持ちが少ないんだ?」
戦おうと思えば戦える。だってデパートにはバッドや包丁等の武器があるんだから。
何も持っていなかった俺達とは違う。やろうと思えばやれるはずだ。
「あぁ、元々このデパートにいた人達はあの化け物達と戦いたがらない」
「じゃあ何でjobのことを知ってるんだよ?」
「それはたまたまデパート内で化け物を倒した人がjobの存在を教えてくれた。例えば‥‥‥そこの須田とかな」
「俺達は数人は力を手に入れたが、ここにいる奴等は誰も俺達の話を信じてくれないんだ」
そりゃそうだろうな。俺だって最初は信じられなかった。
日向が実際剣を出す所を見せてくれたから、俺も信じることが出来たんだ。
普通の人に『jobを手に入れられる。信じてくれ』って言っても誰も信じないだろう。
「う~~ん、でも普通は信じてくれると思うんだけどな」
「誰もがお前みたいにお気楽な性格をしてないんだよ」
「あたしは信じてましたよ。だってあの人を全く信じない先輩が大真面目な顔で説明してたから」
「桜、余計なことは言わなくていい」
桜の言ってることはあながち間違っていないからなんとも言えない。
一瞬俺のことを桜は見て、にやっとしたのが印象的だった。
こいつ、今わかってて言ったな。
「それでだ、君達も私達の仲間に入ってくれないか」
「仲間‥‥‥‥ですか?」
「そうだ。こんな世界になったからこそ協力をしていかないといけない。君達もそう思うだろ?」
千葉という男がいうことはもっともだ。
こんな人の命が簡単に無くなる世界になったんだから、少しでも生存確率を上げたいなら仲間を作るべきだと思う。
だが、俺には1つ疑問があった。
「1つ質問してもいいか?」
「何でもどうぞ」
「今の話だとそっちのおっさんはjobを取得しているみたいだけど、あんた達2人はどうなんだ?」
今の話だと、須田は取得しているみたいだが千葉と藤山の2人は取得してないように見える。
散々jobを取得しろと言っている張本人が、何で取得しないんだよ。
「私達は取得してないな」
「それなら人のことなんて言えないだろ!!」
この人達は俺達のことを利用する気満々のように思えた。
俺だって命を預けられるような奴等と仲間を組みたい。あくまで一緒に戦ってくれるような平等な奴等ならな。
だがこのおっさん達は違う。俺達をいいように使い、自分達はデパートの奥の安全な所からただ守ってもらっているだけだ。
そんな不平等な仲間関係なんかいらないし、こんな胡散臭い奴らの仲間になんてなりたくないというのが本音だった。
「そうだな。これから取得できるようには頑張るよ」
「頑張るよって、お前‥‥‥」
「空、そこまでにしようよ」
「日向!! お前自分が何を言ってるのかわかってるのかよ!!」
こいつ等、自分達が何もしないって言ってるのと同じだぞ。
そんな奴等の仲間になって、いいことなんて何もないだろ?
「今は悠里ちゃんのお母さんを探すのが専決でしょ」
小声で日向は言う。確かにそうだ。だけどな、それでもこの状況はやばいだろ。
こいつ等は俺達をいいように使って、捨てる気だぞ。
「それは俺もわかってるけど‥‥‥」
「だったら、ここは我慢しよう。悠里ちゃんのお母さんを見つけたら出て行こう」
それはそうだ。こいつ等には癪だが、一時的な避難場所として使うのはありか。
日向の言っていることに今も納得できないが、ここは日向の作戦に乗っておこう。
三村の母親を見つけ出すまでの我慢と思えばいい。
「わかった」
「ありがとう。千葉さん、僕達は貴方達の仲間になります」
俺の横で笑顔で頷いているのは日向。
本当は断りたいのだが、ここは日向の言うとおりに動くとするか。
「本当にいいのか? 俺から見ても、苦労をかけさせると思うけど?」
「うん、僕達は大丈夫です」
「そうかそれなら‥‥‥‥」
「ただし、いくつか条件を付けさせてください」
「条件とはなんだい? 無理なもので無ければ、何でも言ってくれ」
「条件ですが、それは僕達を自由にさせてくれることです」
「自由か」
「もちろん、最低限のルールは守ります。ただ、自分達のjobやスキルを教えたり行動を制限するようなことはしないでほしいんです
」
「わかった」
「後はデパートのものも自由に使わせてください。もちろん食料品は除きます」
まぁ、ここが落とし所ってどころか。そうじゃなければ、俺達がここにいる理由が無い。
このデパート内を自由にできること。最低限それはないとやってられない。
それに俺と日向はアイテムボックスのスキルを持っている。最悪、必要なものだけもらってトンズラすればいい。
「お前!! 自分がどれだけふざけたことを言ってるかわかってるのか?」
「よせ、藤山」
「でも」
「でもじゃない、無茶な条件を出してるのは我々なんだ。わかった。その条件は飲もう。ただ、私達が行っている食料調達や周辺の調査は協力してくれるんだな?」
「それはもちろん大丈夫です」
「わかった。それだけしてくれれば十分だ」
そういって目の前にいる千葉は一息つく。
よっぽど疲れているのか、顔色が悪そうに見えた。
「須田が君達を部屋まで送ってくれる。そこで今日は休むといい」
「ありがとうございます」
「食料調達しているメンバーももうすぐ帰ってくると思うが、君達は今日は休んでてくれ。メンバーの紹介は明日しよう」
「わかりました」
「部屋は俺が案内する。ついてこい」
須田が率先して部屋を出て行き、俺達もその後に続いてく。
後ろで千葉と須田が何か話していたが、その声はよく聞こえなかった。
「先輩‥‥」
「心配するな。大丈夫だ」
不安そうに俺のことを見上げる桜の頭に軽く手を乗せ、俺達は部屋を後にするのだった。
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