リーダーとして
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「僕が空達と別れた後、デパートに向かったのは話したよね?」
「あぁ、それはさっき聞いたな」
「着いた当初は僕は怪我の手当をしながら、待っていたんだ。空達がこのデパートに来ることを」
「それは悪かったな。すぐに向かうことが出来なくて」
「全然だよ。あの甲冑騎士から逃げることが難しいことは知ってたから、いつかここに来るだろうと思ってずっと待っていたんだ」
日向の待っていたという言葉、その言葉は非常に重い。
きっと日向だけは俺が生きてデパートに来るのをずっと待っていたに違いない。誰にどんなことを言われても。
「いくら待ってても空は来なかった。周りの人が空はもう死んでるって言われても、僕は信じなかった」
「日向」
「僕の傷が癒えた後、学校まで結界を広げることが出来た僕達は学校の遺体を片付けにいったんだよ。そこで空達の遺体は見つからなかったんだ」
「そりゃそうだろうな。こうして俺はピンピンしてるんだから」
「うん。普通に考えればそうだよね。だけど遺体の中には損傷が激しくてバラバラになっていた、身元不明の物もたくさんあったんだ。だから周りはそれが空の遺体だと思って、処理をした」
「酷い話だな。俺の事を勝手に殺すなんて」
「だから実際空達の姿を見た時はうれしかったんだよ。僕の考えは間違ってなかったんだって、そう思ったから」
俺を見つけた時の事を語る日向は嬉しそうだった。どうやら俺の予想以上に、日向には迷惑をかけたらしい。
「街ではどうだったんだ? みんなと仲良くやれてたのか?」
「うん。避難したデパートには大勢の人達がいて、湊君や桜乃ちゃんもいた」
「あの2人か」
「湊君や桜乃ちゃんだけじゃないよ。英二さんと菜々緒さん、桜乃ちゃんのお兄さんの同級生も一緒にいた」
「生瀬達が一緒に行動していた人達か」
「うん。当時の4人はグループの精神的支柱となっていた桜乃ちゃんのお兄さんを失って、ボロボロの状態だったんだ」
「七村の兄さんを失ったって、何で?
「ここに避難する前にモンスターとの戦いで湊君達を逃がすために犠牲になったらしい」
「犠牲? 一体どうして?」
「湊君の話だとデパートに避難する前に湊君達がいたコミュニティーで裏切り行為があったらしい。裏切った人は湊君達を殺すつもりでモンスターを自分達のコミュニティーに招き入れたみたい」
「最低な奴だな。その招き入れた人間はどうなったんだよ?」
「その人もモンスターを招き入れた後、招き入れたモンスターに殺されたみたい」
「馬鹿な奴だな。自分でモンスターを招き入れて、殺されるなんて」
「本当だよね。英二さんの話ではモンスターを招き入れたまではよかったけど、その直後にモンスターに殺されたって」
「本当に救いようがない馬鹿だな。そんなことをすれば、自分も死ぬのがわかっているのにそんなことをするなんて考えられない」
「僕もそう思う。でも、そういう行動をする人もいるって知った。人は他人を恨むと予期せぬ行動をするっていう事を知った」
「まぁ、そういう馬鹿もいるよな」
「うん。だから僕達がどんなに恵まれた所にいたのか、改めて再確認させられたよ」
正直理解したくもないけど、人は感情を爆発させると何をするかわからないことは俺もよく知っている。
モンスターを招き入れた人は、七村の兄貴を相当憎んでいたのだろう。自分の身を犠牲にするぐらいに。
「生瀬達も大変だったんだな」
「うん。特に桜乃ちゃんはお兄さんが死んだことで錯乱していて、出会った当初はとても話せる状態じゃなかった」
「だろうな」
「ずっと菜々緒さんがついてくれていて、桜乃ちゃんを慰めていた。菜々緒さんも仲間が死んで辛いはずなのに」
「きっと自分達が七村を守らないといけないと思ったんだろうな」
「僕もそう思うよ。当時はしっかりしてるなとしか思わなかったけど、今は全然考え方が違う。英二さんも菜々緒さんも年長者だから、2人を守らないといけないと思って無理矢理自分を奮い立たせていたんだと思った」
「日向もそういう事を思うんだな」
「うん。空と別れた後そういう事を考えることが多くなった」
俺と離れている間、日向は色々な事を考えたらしい。
それは俺がいない間自分の仲間達を守る為に、日向が考えたことだろう。
「キラービーと戦う時だってそうだった。桜乃ちゃんのあんなに泣く姿が見たくなかったから、みんなが無事に帰る方法を考えて必死に戦ったんだ」
「その結果日向が担当した所は犠牲者が少なかったんだろ?」
「うん。何人か犠牲者は出してしまったけど、大勢の人達が亡くなるのだけは避けられたんだ」
「それは日向の努力の成果だな」
「うん。だけどそのせいでリーダーの人と揉めちゃったんだよね」
「それがリザードマン討伐につながるのか」
「うん」
リザードマン討伐。それが日向の心に影を落としているに違いない。
自分が仲間だと思っていた人に裏切られて、それでも必死に戦って戻ってきた日向はその戦いの中で何かを思ったのだろう。それを聞き出す必要があるように思えた。
「僕は上手くやれてると思ったんだよ。キラービーとの戦いでも最低限の犠牲者で済んだし、リザードマンの時も全員で無事に戻ってこれる自信があったんだ」
「でも、駄目だったのか」
「うん。僕の力不足のせいで殆どの人が死んじゃった」
淡々と話しているように見えて、言葉の節々が重い。その時あったことを悔いているように見えた。
「みんなリザードマン達と戦う事を反対している人ばかりだったんだよ」
「うん」
「でも、僕が戦うなら一緒に戦ってくれるってみんな言ってくれたんだ」
「うん」
「結果的には大勢の人達が集まってくれた。みんな戦うのが嫌なのに、僕の為なら戦ってもいいって人が大勢集まってくれたんだ」
「その重圧は半端なかっただろうな」
「うん。本当に辛かった」
桜達を連れて戦いに行く時でさえ、全員を無事に生還させる為相当な重圧の中戦っていたんだ。
たったの4人でさえそうなんだ。それが10人、もしくは100人単位の人を率いるなんて考えたくもない。
「その戦いで多くの人達が死んだ。英二さんも菜々緒さんも湊君と桜乃ちゃんを救うために自らを犠牲にしたんだ」
「七村達はそこでも大事な人を失ったのか」
「うん。僕達はリザードマンの罠にかかって分断させられた。僕と悠里ちゃんと春斗さんの3人は無事生還したけど、リザードマンのボスを倒して桜乃ちゃん達と合流した時、大声で泣いていた桜乃ちゃんの顔は今でも忘れないよ」
「そうか」
「湊君もふさぎ込んじゃって、悠里ちゃんが2人の事を慰めてた」
その時の光景が目に浮かぶ。今考えれば、七村が俺達と出会った時に取った対応もわかる。
立て続けに裏切られて自分の身内が死んでいったんだ。こんなことがあれば、周りを警戒するようになるに決まってる。
「辛かったよ。本当に辛かった。僕はみんなから責められてもおかしくないのに、誰も僕を責めなかったんだ」
「‥‥‥」
「むしろお礼を言われた。『君がいなかったら、俺達は全滅していたって』って。こんな無能な指揮官なのに」
「無能な指揮官じゃない」
「えっ!?」
「その人達が言った通り、お前は無能なんかじゃないって言ったんだ」
「でも、僕は多くの人達を死なせたんだ!! これを無能って言わないでなんて言うんだよ!!」
「お前だったからそのぐらいの犠牲で済んだんだ。相手は元々こちらの手の内を知って待ち構えていたんだろ? その中で敵をなぎ倒して、土の結晶を持ち帰ったんだ。責める奴なんていないに決まってる」
俺だってそんな状況に追い込まれたら、全員を無事に生還させられる自身はない。
ミッションを無事成功させて戻ってこれたのは日向だからだろう。俺なら絶対に出来ない。
「今ならあの2人が俺達にあんな態度を取ったのもわかる。自分の身内があんな殺され方をすれば、そういう対応にもなるさ」
もし俺が同じ立場に立たされていたら、同じ行動を取るだろう。
いや、あの2人以上に露骨に警戒するに違いない。
「あの事があってから湊君も桜乃ちゃんもふさぎ込んじゃって。僕と気分転換に外で狩りをするようになったんだ。だけど2人は周りに対して疑心暗鬼になっちゃった。それで空達にも凄く迷惑をかけた」
「迷惑じゃない。この話を聞いた後では、あの態度は必然だったとさえ思える」
だから2人はあんなに自分達の体を張って、日向を守ると言っていた。
目の前で人が3人。しかも自分の身内が死んでいるなら納得だ。
「それにしても、そんな酷い奴がリーダーになってるならそこから出て行けばいいのに何で出て行かないんだ?」
「僕や桜ちゃんのお父さんもそうしようと思ったんだけど、あそこには何も知らないで頑張って生きてる人達も大勢いるんだよ」
「それで?」
「僕達だけなら、たぶん他の所に行っても生きていける。だけどそう言った人達を見捨てて行けないってことで、僕達はまだあそこにいるんだ」
「なるほどな」
「幸いリザードマンを倒したことで、僕は比較的自由になった。それに昔とは違って発言権もある。だから今あのリーダーに対抗する為にも、僕はあそこから抜けるわけには行かないんだ」
日向らしい答えだ。これだけの犠牲者が出ているのに、多くの人を救うため残ると言っている。
周りの仲間さえ守れればいいという俺と考え方が正反対である。
「お前が抱えている悩みはわかったよ」
「うん」
「だけど、もう少し周りの奴を大切にしてやれ」
「それはもちろん‥‥‥」
「いいや、もちろんじゃなくて必ず大切にしろ。お前についてきてくれる奴はお前に命を預けているんだ。その重さをもう少ししっかり認識した上で行動しろ」
俺も人のことを言えた義理ではないけどな。
桜や由姫やティナ、それにクルルを何度危険な目に晒したかわからない。
「一度死んだ者は蘇らないんだ。だからこそ、慎重に行動しろ」
「うん。わかった」
「俺が今言えるのはそれだけだ。みんなのいる所に戻ろう。きっと悠里達も心配している」
「わかった」
「そうだ。あともう1つ言っておくことがある」
「何?」
「非力だが俺も出来る限りの事は協力する。だから俺に何でも話してほしい」
「ありがとう、空」
「こら!? いきなり抱き着くな!! 離れろ!! こんな所他の奴に見られたら‥‥‥」
「あっ、空さん!! そんなところにいたんですか!?」
「げっ!? 桜!?」
よりにもよって1番みられたくない人にこの光景を見られた。
桜は俺達のことを見て、キョトンとその場に立ち尽くしている
「空さん‥‥‥女の人だけでは物足りなくて、ついに男の人にまで‥‥‥」
「誤解だ!! 桜!! これは俺のせいじゃない!!」
「ちょっと、桜。そんな所で突っ立ってどうしたのよ? 空達は‥‥‥」
桜の後ろからティナ達が来た。
その後ろには悠里もいて、白い目で俺達の事を見ていた。
「空、あなた日向君と何してるの!!」
「悠里、誤解だ!!」
「えっ!? 何で空は僕を振り払おうとするの!?」
「元はと言えばお前が俺に抱き着いたからだろ!!」
「男と男の絡み合い。これがさっき悠里が言っていたBL‥‥‥」
「ティナは何を言ってるんだよ!! それに悠里!! ティナに何てことを教えてるんだ!!」
駄目だ、ツッコミが追い付かない。一体どうすればいい。
先程までのシリアスな雰囲気はなくなり、どことなく弛緩した空気が流れていた。
「あっ!? 空おにいちゃん達ずるいよ!! あたしもする!!」
「クルル、余計なことをするな!!」
「みんな、行くよ!! てぁ--!!」
飛び掛かるクルル達を体で受け止めながら、俺は思う。
ここにいる面子は相変わらず騒がしいなと。そしてクセが強い連中の集まりだと改めて思った
「空、重いよ!! クルルちゃん達を何とかして!!」
「元はと言えばお前のせいだろ!!」
周りの人達が笑う中、こんなひと時も悪くないなと思う。
隣にいた日向の重苦しい顔が、少しだけ晴れやかになった気がしたのだった。
【お知らせ】
新作の投稿を始めました。
神殺しの少年
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現在7話まで公開していますので、よろしければこちらの作品も宜しくお願いします。
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