勇者の苦悩
「ただいま」
「おかえりなさい、空」
俺がリビングの扉を開けると、既に昼食を食べ終わった日向達が座っていた。
ティナや由姫が座るテーブルの反対側には日向や悠里達が座っており、丁度対面で話せるように準備されている。
「みんな悪い、ラックスさん達と話していて遅くなった」
「大丈夫だぞ、先輩。私達も丁度昼食を食べ終えた所だ」
「そうか」
「空の分もキッチンに置いてあるけど、先にご飯にする?」
「いや、いい。このまま話し合いをしよう」
椅子に座り俺は一息をつく。
そしてテーブルに用意されていたティーカップを手に取り、お茶を一口すすった。
「このお茶は誰が入れてくれたんだ?」
「それは桜がみんなの為にいれてくれたものよ」
「桜が!?」
「うん。クルルを連れて遊びに行く前に、食後のティータイムっていってお茶やお茶請けを準備してくれたのよ」
よく見ると確かにテーブルの中央にお茶請けのお菓子が置いてある。
その他にもテーブルを綺麗に拭いていたりと桜なりの気遣いが見て取れた。
「桜の奴、こんなに気を遣わなくてもいいのにな」
クルルと一緒に七村を連れ出したことといい、色々とやってくれる。
きっとこうなる事を見越して、色々と準備をしていたのだろう。
桜が俺が帰ってくるまでに準備している姿がありありと想像できた。
「後で桜と会った時にお礼を言っとかないとな」
桜には助けられてばかりだ。俺はこういった所までは気が利かないので桜がいてくれてよかったと思う。
「それで空、桜乃ちゃんの事なんだけど‥‥‥」
「その話は桜からさっき聞いたから大丈夫だ。日向達が説明してくれればそれでいい」
「わかった」
ここまでスムーズに話し合いが進んでいる。これももしかすると桜のおかげかもしれない。
クルル達を外に連れ出してくれたことといい、桜には感謝してもしきれない。
ここまで御膳立てをしてくれたのだから、しっかりと話し合いを進めないとな。
「そういえば空、お父様達との話し合いはどうだったの?」
「特に進展はなかった。やはり魔力石を使って死者を蘇らせる方法はわからないらしい」
「そう」
「だからその件でティナにお願いがある」
「お願い? 私に?」
「そうだ。そのリザードマンが使っていた魔力石を調べれば何かわかるかもしてないって言っていたから、後でリザードマンから採取した魔力石のかけらをラックスさんの所へ持っていってくれないか?」
「わかったわ。後であれをお父様の所に持って行けばいいのね」
「あぁ、頼む」
これでリザードマンの心臓に魔力石が埋め込まれていた理由がわかるだろう。
魔法の事について俺達は素人なので、後はラックスさん達に任せよう。
「空達は本当に凄いね。自分達で何でも判断して行動を起こせて‥‥‥」
「それは日向達だって同じだろう。現に俺達の所に悠里達を連れて来たじゃないか」
「全然違うよ。僕達はいつも周りに振り回されてばかりで、何もできてない‥‥‥‥‥」
「日向‥‥‥」
あまりの日向の落ち込みように、俺は一瞬言葉が詰まってしまう。
もしかするとこの話し合い自体をやめて、ゆっくりエルフの町を紹介した方がいいのではないかと頭の片隅によぎってしまった。
「空!!」
「そうだな。こんな所で日和っててどうするんだ」
今回の一連の騒動の鍵を握っているのは日向達だ。
他の人では聞くことが難しい以上、俺がその事を聞かないでどうするんだよ。
「日向、そろそろ話してくれないか? 俺達のいない間何があったのか。そして街で今何が起こってるのか教えてくれ」
「わかった。でも、もしかするとそんなに大した話じゃないかもしれないよ」
「大した話じゃなくてもいい。それでも日向が背負ってる肩の荷が下りるなら話してほしい」
もしかすると俺では日向の力になれないかもしれない。
だけどその背負っている物を共有することはできる。それで日向が楽になるのなら、その話を聞きたい。
「空は昔から変わってないね」
「それはお互い様だろ」
「うん。確かにそうかも」
日向が座り直し、改めて俺達の方を向く。
その様子は先程までの思い詰めていた時とは違い、何か吹っ切れたようにも見えた。
「そしたら話すね。僕達が学校を出た後、何があったのか。今あの街で何が起こってるかを」
そう言って日向は重い口を開くのだった。
「空達と別れた僕達は、悠里ちゃんのお母さん達がいるデパートへと向かったんだ」
「それは桜から聞いたよ。デパートで悠里の母親たちと合流する為にそこに行ったんだろう」
「そっか。桜ちゃんが話していたんだね」
「そうだよ。俺達があてもなく街を彷徨うはずがないだろう」
実際俺達が療養中に桜が話してくれたから目的地は簡単に決まった。
あの話がなくても情報収集という名目で向かっていた可能性もあるけど、桜のおかげで目的地が明確になった。
「だから私達も怪我が治り次第、デパートに向かう予定だったんだ」
「そうだったんだね」
「ティナとはデパートに向かう道中で会ったのだ」
「空達は私がオークに襲われた所を助けてくれたの」
今思うと懐かしい。確かあの時ムーンが俺達に助けを求めに来たんだよな。
そしてムーンの指示でティナのいる場所へと向かいオークを倒した。
「そうだったんだ。空達が合流できなかったのはその為なの?」
「そうだ。ティナと出会った時、この世界の秘密がわかると思ってエルフの町まで来たんだ」
「先輩、今は私達のことよりも柴山先輩達の話を聞こう」
「そうだな。悪い、日向。続けてくれ」
今は日向達の話を聞く方が優先だ。俺達の話は後でいいだろう。
「僕達がデパートに着いた時、デパートには昔より多くの人達がいたんだ」
「避難民が多く集まって来たのか」
「うん。須田さんが近隣の避難民達を集めて、コミュニティーを作っていたんだよ」
「俺達もそこで日向さん達と出会ったんです」
「なるほどな。2人が日向達と出会ったのはデパートだったのか」
「2人じゃないです」
「何?」
「その時俺と桜乃の他に、英二さんと菜々緒さんがいました」
「生瀬、ずっと気になっていたんだけどその英二さんと菜々緒さんって一体誰なんだ?」
「空、英二さんと菜々緒さんは‥‥‥」
「日向さん、それは俺が説明しますよ」
「湊君」
「英二さんと菜々緒さんは‥‥‥桜乃のお兄さんの親友です」
「親友?」
「はい。俺達は元々避難していた場所からデパートに移動するまでの間、4人で行動していたんです」
「4人か‥‥‥」
今姿がいない2人がどこにいるかなんて、聞かなくても見当がつく。
いつも一緒にいた人がいない理由は1つ。麓での話し合いの時から話題に上っていなかったということは、たぶん俺の予想は当たっているはずだ。
由姫とティナもそれがわかってるからこそ、何も言わないんだろう。
生瀬に気を使ってか、話を切り出そうとしない。
「生瀬、聞いていいかわからないけどその2人は‥‥‥」
「死にました。2人は俺達の事を庇って、リザードマンに殺されたんです」
「リザードマンに殺された!?」
「そんなの嘘よ!!」
「ティナ?」
「確かにリザードマンは頭は固いわ!! でもあの人達は温厚な種族だから、むやみやたらに人間を殺すことなんてないはずよ!!」
「ティナ、ちょっと落ち着け」
「何かの間違いに決まってるわ!! 何か余程の理由がない限り、他種族を襲う事なんて‥‥‥」
「もし‥‥‥もしそのよっぽどの理由があるとすれば、どうしますか?」
「生瀬?」
「リザードマンが俺達を殺すようなよっぽどの理由、それは‥‥‥」
「待って、湊君。その理由は僕の口から話すよ」
「日向」
「元々は僕が原因でそうなったんだ。だから僕が話すよ」
「違いますよ!! あれは日向さんの責任じゃないです!! 全部、全部あいつ等が‥‥‥」
「それでも!! ‥‥‥それでもあの人達を指揮したのは僕だったんだ。責任は全部僕にある」
日向は神妙な顔でいう。どうやら日向の言い分ではリザードマンの因縁は自分が原因と言っている。
だが生瀬は違うと言っている。これは日向の話を聞かないとわからないな。
「教えてくれ、日向。リザードマン達との間に何があったかを」
「わかった。リザードマンと僕達街の人達の因縁。全部話すよ」
日向は淡々と話し続ける。そしてリザードマンとの因縁を語り始めたのだった。
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