VS ゴブリン集団
デパートの中にいるある人物の視点から始まります
「おい、まずいぞ。バリケードがもうすぐ壊れる」
「なんとかならないのか!!」
駅の近くのデパートの中。バリケードを抑えている男達が口々に叫んでいる。
緑のモンスターがこのデパートに来てから30分。私達は一方的にモンスターの攻撃を受けていた。
「あの若い奴等はまだ帰ってこないのか?」
「さっき出かけたばかりだぞ! そんなすぐ帰ってくるわけがない!!」
元々このデパートで戦える人はほんの数人だけしかいない。
その数人の人達が、先程食料や物資の調達に行ってしまった。
そんな彼らがモンスター対策として残していったのがこのバリケード。
これなら時間が稼げるといわれ、私達も協力してこのバリケードを作った。
だけど、先程から10人以上の男でバリケードを押さえているが、そのバリケードも破られそうだった。
「じゃあどうするんだよ!!」
「奥の部屋の連中はどうした?」
「あいつ等が出てくるわけないだろ!!」
彼らの他にも戦える人達がいるが、積極的に戦ってはくれない。
たぶん、今も奥の部屋の方でこそこそと何かを話しているのだろう。
本人達はたまたま戦うための力を手に入れたと言っていたが、何を考えているかわからない不気味な存在である。
私も正直あの人達に関わりたくない。
「誰か、あのモンスター達を退治できる奴はいないのか?」
「無理だよ。俺達じゃ」
「あいつらみたいに殺されちまう」
ここにいる全員の頭に思い浮かんでいるのは、昨日起きた惨劇だろう。
男は問答無用で殺され、女と子供は捕らえられてどこかに連れ去られていった。
捕らえられたものは今頃どうしているのだろう。慰み者になってしまったのか。それとも彼等の食料とされてしまったのか。
それは私にもわからない。だけど、もしこのバリケードが突破されれば、そんな悲惨な現実が私達にも待っていることだけはわかる。
「もう無理だ。これ以上耐え切れない」
「我慢だ。我慢しろ」
「こんなことしても、初めから意味なんてなかったんだよ」
そう言いバリケードの所にいた男性が1人、また1人と逃げていく。
それに伴って先程よりもバリケードの軋みが激しくなっていく。
「(もう、だめ)」
そう思った瞬間、奇跡が起きた。
軋みがどんどん激しくなったかと思えば、徐々に穏やかになっていく。
やがては軋みは収まり、静かになった。
「待て、何かおかしくないか?」
「おかしいって‥‥‥‥何がだよ?」
誰かがその様につぶやいた瞬間、外から乾いた音が聞こえる
タン、タンという一定のリズムでなる音と同時に、バリケードを押していたモンスターの圧力が、徐々にだが弱まっていく。
「バリケードの圧力が弱くなった?」
「一体何が起こってるんだ?」
それは私にもわからない。ただ、誰かが私達のことを助けてくれているのだけはわかった。
「悠里‥‥‥‥」
私は1人娘の名前を思わずつぶやいてしまう。
笑顔になる事が少ない娘だったが、それでも私は彼女と一緒にいて楽しかった。
昨日のあの時間ならたぶんまだ学校にいるはずだ。
「お願いします。どうか、悠里が無事でありますように」
私はどうなってもいいから、悠里だけは助けてください。
この絶望が蔓延る中、1人娘が生存していることを神にただ祈り続けるのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「作戦は以上だ。俺が合図したら、2人は出てきてくれ」
「空、本当にいいの?」
「いいも何も、これしか作戦はないだろ?」
俺も作戦とは言っているが、全く作戦になっていないことはわかっている。
俺がゴブリンの後ろに周りこみ、ゴブリンを威嚇する。
そしてゴブリンの注意を引いた後、日向と桜がゴブリン達を後ろから挟撃する。
単純な作戦だが、あのゴブリン達にはこの作戦が効くと思っている。
「でも、空先輩が危険すぎます」
「心配するな、大丈夫だ。俺のスキルを使えば何とかなる」
俺の持つ隠密のスキルを使えば、あいつ等に見つからず周りこめるはずだ。
後は遠距離からスナイパーライフルを使い、1体ずつしとめていけばいい。
「三村も何かあれば、合図送るんだぞ」
「わかったわ」
よし、これでいい。後は役割通りにこなすだけだ。
「じゃあ作戦開始だ。俺は行って来る」
「任せたよ」
「気をつけてください」
桜と日向の声援を受け、俺は行動を開始する。
足音を立てないようにゴブリン達の後ろに回りこんだ。
「(俺は影が薄い、俺は陰が薄い、俺は影が薄い)」
そのように念じながら、ゴブリンの後ろに回り込む。普段からクラスでも影が薄いせいか、幸いゴブリン達は俺に気づくことはない。
ゴブリンとの距離はおおよそ400m。その位置でスナイパーライフルを取り出し、ゴブリンの頭部めがけて発砲した。
「やった!」
1体のゴブリンの頭部が風船のように破裂する。
昨日のスケルトンはつんのめるだけだったが、やはり雑魚モンスターには即死級の攻撃だったんだな。
「遅い!!」
振り向いた時にはもう遅い。スナイパーライフルで1体、また1体のゴブリンの頭を弾き飛ばす。
だが、ゴブリンだって黙っていない。さすがに危機感を感じたのか、バリケードそっちのけで俺の方へと向かってくる。
「そうだ! もっとこい!!」
俺が狙っているのはゴブリン達の集団が間延びした時。前と後ろが分断された時がチャンスだ。
「ここだ!」
俺はスマホから日向の番号に電話を掛けた。
その音が合図となり、日向がゴブリンの群れへと飛び出して行く。
「キーーーーーーーー!?」
後ろから来る狙撃と前からの剣戟。ゴブリン達はどっちの敵を倒せばいいか混乱しているのが手に取るようにわかる。
日向に行くものと俺の方に来るもの。またどっちに行けばいいか迷っているもの。
指揮系統が存在しないからこその奇襲。そこを踏まえた作戦がはまったみたいだ。
「だけど‥‥‥」
ゴブリンとはいっても、思い切りがいいやつはいい。
スナイパーライフルの餌食にならなかった奴等が、俺のすぐ側まで迫っている。
だが‥‥‥。
「悪いが、お前達はもう怖くないんだよ」
昨日の公園の時とは違う。jobやスキルを経て、戦う術を手に入れた俺にとって、ゴブリンはもう怖くない。
迫るゴブリンの顔に前蹴りを食らわせ、スナイパーライフルをハンドガンに持ちかえる。
そして体勢が崩れた所をハンドガンで、ゴブリンの頭を狙い打つ。
乾いた音が鳴り響いた後、ゴブリンはその場で倒れ絶命したのだった。
「ここからだ」
1フェーズ目は成功した。後は2フェーズ目に移るだけだ。
ゴブリンが前後に分担された瞬間、敵は俺達2人だけだと油断する瞬間を待つ。
俺と日向がゴブリンを減らしたとはいえ、まだ半分もいる。
昔の俺達だったら、このまま蹴散らされていただろう。だが今は違う。俺達にはもう1人仲間がいるんだ。
「桜!!」
今度は桜のスマホに電話を掛ける。そして待ってましたとばかりに槍を振るう桜が茂みから飛び出してきた。
「キーーーー!」
「キーーーーーーー!!」
「キーーーーーーーーーー!?」
突如飛び出してきた第2の援軍。再びゴブリン達は無防備な背中を攻撃される。
「さぁ、混乱しろ。混乱しろ」
俺と日向と桜。誰を攻撃するかで、ゴブリン達はもめている。
その隙に俺達は1体1体を確実にしとめていく。
この中で指揮系統をするゴブリンがいなかったからこその有効的な作戦だった。
所詮ここにいるゴブリン達は烏合の衆。いくら集団で戦っていたって、個々でバラバラに攻撃していても意味がない。
これなら、昨日連携して攻撃してきたコポルト達の方が手ごわかった。
「日向!!」
「任せて」
あらかた自分の所のゴブリンを倒し終わった日向が俺の方に援軍に来てくれる。
ハンドガンと蹴りでゴブリン達をいなしていたが、さすがに俺もそろそろ体力の限界が近づいていた。
「助かった」
「任せてよ!」
正直ここまでしんどかった。
ナイフを持つゴブリンの攻撃を避け、蹴り倒した後にハンドガンで止めを刺す。
気を抜くとゴブリン達にナイフでめった刺しに遭ってしまうので、心が休まる時がない。
こんな精神集中が必要な事など久しぶりにやった。
「よし、倒した! 次に行くぞ」
「空、大丈夫?」
「あぁ、それよりもそっちこそ頼む」
「わかってる。空こそ僕の足を引っ張らないでよ」
お互いに背中を合わせ、ゴブリンの群れを攻撃していく。気づくと俺達の周りにいたゴブリンは残り3体になっていた。
「あっ!?」
残りの3体は武器を手放すと、そのままどこかへ逃げていく。
俺達に勝てないと悟ったのだろう。脇目も振らず一目散に逃げて行った。
「あのゴブリン達、逃げようとしています」
「俺に任せろ」
ハンドガンをスナイパーライフルに持ち替え、逃げて行ったゴブリン達に狙いを定める。
1体1体の頭めがけて銃の引き金を引いていく。
乾いた音が3発。それでこの戦いは終わりを迎えた。
「とりあえずこれで全部か」
「さすが空だね」
「殆どお前と桜が倒したんだけどな」
確かに最初は俺がスナイパーライフルを使ってゴブリンを倒していった。
だけど、後半からは俺はゴブリン達を殴っていただけ。空と桜がメインでゴブリンを倒していた。
倒した数で言えば、日向と桜が圧倒的だろう。俺は正真正銘の囮だったわけだ。
「終わったの?」
「終わったよ、悠里ちゃん」
「本当にすごいわね。あれだけのゴブリンを3人で倒すなんて」
そう思うなら、三村も戦闘用のスキルをそろそろ取得してくれ。
正直言って今回の戦いは結構冷や冷やだったぞ。
上手くいったからいいけど、一歩間違えればやられていたのは俺達の方だ。
「それに山村君、見かけ通り喧嘩が強いのね」
「見かけ通りいうな」
せめて見かけによらずって言え。
それか喧嘩が強いって思うなら、口に出さなくていい。心の中で思っててくれ。
「空先輩、中学時代もよく喧嘩してましたよね」
「まぁな」
喧嘩してたと言うよりは、向こう側が一方的に売ってきただけだけど。
日向や桜もその現場をよく見てたっけ。今となったら懐かしい思い出だ。
「それもこれも空が作戦を立案してくれたからだよ」
「日向先輩の言う通りですよ。空先輩、ありがとうございます」
よせよ。今回の件に関しては、俺は殆ど何もしていない。
もっとまともな作戦が立てられればよかったが、そんな暇もない戦いだった。
「俺が言うのもなんだけど、あまり俺のことを信用するなよ。失敗しても責任は取れないからな」
「その時はその時ですよ」
「うん、そうなったら僕達が何とかするよ」
日向がいうと本当に何とかなりそうだから不思議だ。
これもこいつの持つ勇者としての資質なのか。
俺には出来ない芸当だ。
「それよりも、早くデパートに行きましょう」
「そうだね。もしかしたら悠里ちゃんのお母さんがいるかもしれないし」
そういった俺達はデパートの方を見上げる。
このデパートは8階立てになっており、この近辺だとかなり大きな店である。
正面玄関にバリケードが建てられている事以外、おかしなところはない。
バリケードが張ってあるということは、大勢の人達がこの中にいるのだろう。
「さて、この先に何があるんだろうな」
「先輩? どうしたんですが? また何か心配事でもできたんですか?」
「あるにはある。だけど‥‥」
「だけど?」
どんな事があっても桜のことは守れるだろう。
目の前にいる小さな後輩を見ながら俺はそんなことを思っていた。
「先輩、言わないとわかりませんよ」
「なんでもないよ。ただあそこで何も無ければいいなって思ってただけだ」
「ふーーん」
むすっとした顔で俺の方を見上げる小さな後輩。
その顔には不満が詰まっている様に見えた。
「何だよ」
「なんでもないです。先輩のことだからあたしのことだけは絶対に守ってくれるって言ってくれると思ったのに」
「そんなこと言うわけないだろ」
「言わないってことは空先輩はそう思ってくれてるってことですよね? さすが空先輩です」
「桜、また俺にかまをかけたな?」
「素直に言わない先輩がわるいんですーー!!」
頬を膨らませ俺のことをプンスカ怒りながら、上目遣いでみつめる桜。
相変わらずこいつはあざといというかなんというか。昔からこういう性格だってわかってはいるけど。
別にそんな事を言わなくてもいいだろ? 全く、一体何がしたいのだろう。この後輩は、
「ちょっと、そこのバカップル。痴話喧嘩してないで、早く行くわよ」
「痴話喧嘩なんかしてないからな」
「もう、空はすぐそうやって桜ちゃんといちゃいちゃしようとするんだから」
「だからいちゃいちゃしてないって」
人の話を聞かずに日向と三村はデパートの方へと歩いていく。
俺の話に全く聞く耳を持とうとはしない。
「先輩、早く行きましょう。このままじゃ悠里先輩達においていかれますよ」
「わかった、わかったから引っ張るな」
こうして俺は桜に引っ張られながらデパートの方へと進んでいく。
この先にどんなことが待ち受けているのかわからないまま。
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