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だって僕は‥‥‥

「日向さん!?」


「そんなところにいたら危ないですよ!!」


「僕は大丈夫だよ。それより2人共、今すぐ武器を降ろして」



 俺の目の前に立った日向は俺や生瀬、七村の銃の射線上にいる。

 俺達が引き金を引いたら、ちょうど銃弾が日向の体を貫通する絶妙な位置にいる。

 これでは俺や生瀬達は迂闊に銃のトリガーを引くことも出来ない。



「ティナ、日向に何かあったら真っ先に魔法を使ってくれ」


「えぇ、わかったわ。いつでも大丈夫よ」



 ティナは既に魔法の詠唱が終わっていたようで、いつでも発動できるようである。

 先程俺や生瀬と話していた時に時間があったからだろう。1歩下がっている間に両手には剣を持ち、戦う体勢が整っていた。



「空さん、あたし達はどうすればいいですか?」


「今は様子見だ。日向が何とかしてくれると思うけど、何か動きがあれば頼むぞ」


「わかりました」



 桜達は一旦待機させたし、これでいいだろう。幸いこの近辺に生瀬と七村以外の気配はない。



「後はあの2人を日向がなんとかしてくれれば、きっと全ての問題は解決するはずだ」



 だから頼むぞ、日向。ここで無駄な戦いを起こさないようにしてくれ。



「日向さん!! 何で‥‥‥何で貴方はその人達の肩ばかり持つんですか!!」


「別に肩なんて持ってないよ。空は昔からの友人で僕の大切な人だから信じてるだけだよ」


「でも‥‥‥でも山村さん達に出会ってから日向さんは変わった」


「僕は何も変わってないよ。それに大切な人のくくりでいえば、湊君や桜乃ちゃんも同じぐらい大事な人だよ」


「嘘だ!! 日向さんは山村さん達と出会って、私達をないがしろにするようになった!!」


「ないがしろにしてないよ。前も2人には話したと思うけど、湊君も桜乃ちゃんも僕の弟や妹みたいな存在だと思ってる」



 一歩一歩、日向はゆっくりと距離を詰めるように生瀬と七村に近づいていく。

 近づくにつれ、銃を持っている2人の手の震えは大きくなっていった。



「空!!」


「動くなよ、ティナ!!」


「でも‥‥‥」


「ここはあいつに任せとけ」



 ここで下手に俺達が動くと、2人が誤って日向の事を撃ちかねない。

 そうなれば終わりの始まりだ。さすがにあの2人を攻撃せざる得ない。



「日向君‥‥‥」


「悠里も手を出すなよ」



 普段は1番何かを言いそうな悠里でさえ、ここではじっと日向の事を見つめている。

 きっと悠里はあの2人の事情を色々と知っているのだろう。だから何も言わずに黙っているんだ。



「2人が今まで辛い思いをしたことは僕も知ってるし、その気持ちは痛いほどわかる」


「だったら‥‥‥」


「でも、大丈夫だよ。僕は2人の事を裏切らない。何があっても、絶対に2人の所に戻って来るから」


「日向さん」


「だから今は僕のことを信じて」



 日向はまた1歩踏み出す。徐々にではあるが、2人との距離を詰める。



「そう言って‥‥‥」


「えっ!?」


「そう言って‥‥‥そう言って誰も戻ってこなかったじゃないか!!」


「湊君‥‥‥」


「嘉人さんも英二さんも菜々緒さんだって!! 誰も俺達の元へ戻ってこなかったじゃないか!! 絶対に裏切らないって言って、皆いなくなった!!」



 山全体に響き渡るような生瀬の咆哮。それは生瀬自身の心の内から溢れた感情のように見えた。

 日向や生瀬に昔何があったのか俺にはわからない。だけどきっと今までは自分の感情に蓋をしていたのだろう。

 だけどそれにも容量がある。だけどきっと今の今までため込んでたものを生瀬は全て吐き出しているようにも見えた。



「大人はみんな嘘をつく!! 絶対生きて帰ってくるって約束したのに‥‥‥みんな‥‥‥みんな自分勝手だよ」



 生瀬は銃を構えるのをやめ、その場に座り込んでしまう。

 その瞳からは大粒の涙を流していた。



「とりあえず、生瀬は大丈夫そうだな」



 生瀬が銃を降ろして崩れ落ちたことを確認して、俺は右手に持っていた銃を降ろす。

 一方の七村はまだ銃を構えている。その銃口は日向を挟んで、俺に向かっていた。



「桜乃ちゃんもだよ。そんな物騒な物は早く降ろそうよ」


「嫌です!! これを降ろしたら日向さんが殺されちゃう!!」


「大丈夫だよ。僕は死なないし、空はそんなことしないから」


「嫌!! 絶対に信じられません!!」


「湊君も桜乃ちゃんも、僕が今まで嘘を言ったことはある?」


「‥‥‥ないです」


「なら、今回も僕の事を信じてもらえないかな?」



 日向はそれだけ言うと、2人の事を抱きしめていた。

 日向の表情は見えないけど、きっと笑っているに違いない。



「日向さんは‥‥‥」


「何?」


「日向さんは‥‥‥日向さんはどうしてそんなに人の事を簡単に信じられるんですか!!」


「街の中であんな酷い裏切りにまであったのに。どうして‥‥‥」


「そうだな‥‥‥何度裏切られたって、僕は人間が好きだからかな」


「人間が‥‥‥好きだから?」


「そうだよ。少しだけ前の話なんだけど、僕には大親友って言っていい程の友達がいたんだ」


「友達‥‥‥」


「‥‥‥ですか?」


「うん。普段からいつも一緒にいる、僕が1番信頼している友達。中学も高校も同じだったんだけど、何をするにも一緒に行動してた」


「日向‥‥‥」



 日向が話す友達とは暗に俺の事を差しているのだろう。

 2人のことを抱きしめながら、ゆっくりと話していく。



「僕と悠里ちゃんが学校にいた時に何があったか、2人は知ってるよね?」


「はい」


「もちろんです」


「僕の不注意で大怪我をした時、その人が盾になって戦ってくれたんだ。絶対絶命でもうダメだって思った時、その人も大怪我をしてるのに全員の生存率が高いからっていう理由で、自分のことを犠牲にして僕達を逃がしてくれたんだ」


「日向さん‥‥‥」


「後悔することもあった。あそこで1人にするんじゃなかったって。親友を見捨てて、自分だけは生き延びたことを毎日悔やんだんだ」


「日向‥‥‥」


「夢にその友人が出てきたこともあった。何度も何度も『日向が死ねばよかったのに』って、毎晩のように責められた」



 日向ももしかすると俺と同じ事で悩んでいたのかもしれない。

 学校を脱出したあの夜、俺も夢に梓達が出てきて日向と同じような夢を何度も見た。



「周りの人達からは、その人は死んだって言われていた。いくら僕が否定しても、何度も何度も同じことを言われた」


「日向先輩‥‥‥」


「だけど‥‥‥だけど僕はずっと信じてたんだ。親友の‥‥‥空の言葉を」



 どうやら日向は俺が言ったあのいい加減な言葉を信じていたみたいだった。

 誰もが絶望する状況でも、日向1人だけは俺が生きていると信じていたらしい。



「結果的に空は生きて、こうして僕達の前に元気に現れてくれた。誰が何と言おうと僕は空を信じていた。空は僕との約束を破らないって」



 日向が見せる真っすぐな目。その目はまぶしくて俺には絶対にできないものだ。



「空さん」


「もしかすると日向は、日向だけは俺達が生きてることをずっと信じてくれていたのかもな」



 学校で別れる際に見せた安堵の表情。あれはきっと、絶対に俺が生きてまた姿を表すと思っていたからだろう。



「それと2人は重大なことを忘れてるよ」


「えっ!?」


「僕は誰にも負けないし、絶対に消えたりしない!! どんなことがあっても、絶対に生きて戻ってくる!!」


「何を根拠にそんなことを‥‥‥」


「だって‥‥‥だって僕は‥‥‥」


「「勇者だから」」



 小声で言った俺の声と日向の声が重なる。

 まさか俺の想像していた答えと同じことを言うなんて、相変わらず日向は変わってないなと思う。



「だから安心して。何があっても、絶対に2人の元に戻ってくるから」


「はい」


「わかりました」


「うん、ありがとう。2人共」



 2人を抱き留め、優しく2人の頭を撫でる日向。

 生瀬や七村は日向の胸の中で、大声を上げて泣いている。



「これで一件落着ですね」


「そう‥‥‥!?」


「どうしたんですか? 空‥‥‥!?」



 俺だけじゃない。隣にいた桜も何かに気づいたようだ。

 急速に俺達に近づく者の存在を。



「2人共!! 伏せて!!」


「「えっ!?」」


「日向!!」



 日向が上を向いた瞬間にはもう遅い。

 茂みから謎の物体が飛び出し、日向達に襲い掛かろうとしていた。

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