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違和感

 三村の家を出てデパートへ向かう道中、俺はある違和感にさいなまれていた。



「おかしい?」


「何がおかしいんですか?」


「モンスターと遭遇しないことだ」



 三村の家に来るまで、コポルトやゴブリンとの戦闘が多々あった。

 だがデパートへ向かう道にはモンスターが1匹も出てこない。

 今まで散々襲われていたのに、場所を変えただけで出てこないと何かよくない事が起きてるんじゃないかと不安になる。



「日向、敵の気配はないか?」


「全くないよ」



 日向が気配を感じられないって言っているのなら、本当にこの辺りにはモンスターがいないのだろう。

 安全に進める分には問題ない。

 ただ問題は消えたモンスターがどこにいるのかということだ。



「きっと別の所に行ったんだよ。この辺は住宅地だし」


「確かに‥‥‥」



 その可能性もある。だがそうだとしてもこれだけ遭遇しないのは先程までの状況を考えてもおかしい。

 同じ住宅街、道のりも特に変化なし。それなのにモンスターの気配すらない。

 となると考えられる事は‥‥‥。



「もしかして、ゴブリン達も集団で行動しているってことか?」


「まさか? ゴブリン達だって一緒にいても2、3匹ぐらいだったじゃん」


「そのまさかがあるのかもな」



 ここまでいないとまとまって行動している可能性もある。

 それも5匹6匹ではない。もしかすると10、20匹の集団かもしれない。



「でも、そんな集団で行動してゴブリン達に何かメリットはあるんですか?」


「メリット」



 10匹以上で行動する必要性。もし、物資の確保を優先するなら2、3匹でもいいはずだ。

 その方が広範囲をカバーできるので、様々な種類の物資を手に入れる事が出来る。



「集団で行動する必要があるってことは、そこにモンスターが欲しいものたくさんあるってことだよな?」



 もしくは自分達の敵がいて、数匹単位では太刀打ちできない時だ。

 もし敵がいる所に大量の物資があって、数匹単位では何とかならない場合、人数をかけてでもその拠点を攻めるだろう。

 


「あっ」


「空先輩、どうしたんですか?」


「いやなんでもない」



 もし俺の予想が当たっているのなら、今デパートには向かわないほうがいい。

 下手をすると俺達まで巻きこまれてしまう。



「空?」


「なんでもない、行こう」



 正直今デパートには行きたくないが、引き返そうとは言えない。三村の母親を探すと約束してしまったからだ。

 もしかすると最悪の結末になっていない可能性もある。その一縷の望みにかけて行ってみるしかない。



「空、デパートの方から煙が上がってるよ」


「遅かったか」



 デパートに向かって走っていく日向について行く。

 正直スピードが速くて、今の日向についていくのは無理だ。これも身体強化のスキルのせいだろう。

 俺も日向と同じスキルを持ってるんだけどな。スキルのレベル差によって、こんな違うのか。

 桜も日向についていけなくて、俺の横にいる。



「そういえば空先輩、遅かったってどういうことですか?」


「それは現場を見ればわかる」


「現場ですか?」



 説明するよりも現場を見た方が手っ取り早い。

 俺の予想では今頃デパートは‥‥‥。


「あっ!?」



 日向が立ち止まっている所まで、俺と桜もやっとたどり着いた。

 その日向の襟首を引っ張り、俺達は茂みの中に隠れた。



「空?」


「ちょっと黙ってろ。全員いるよな?」



 後ろを振り向くと、桜しかいなかった。

 三村の姿がない。



「あれ? 三村は?」


「ちょっと貴方達、置いていかないでよ」



 息を切らせながら、三村も俺たちの元へやってくる。

 茂みの中にいるのがわかったのは、俺達がそこに隠れるのを見たからだろう。

 三村の目は俺達を睨んでいるが、今は三村に構っている暇はない。



「何ですか!? あれ?」



 桜が指差したのはデパートに群がるゴブリン達。今デパートではゴブリンの集団と人間が戦っているところだった。

 いや、戦っているならまだいい。人間が防戦一方でやられている。

 入り口前に張られたバリケードのおかげでギリギリデパートの中への侵入を拒んでいる状態だった。



「ひどい」


「もはや戦闘とは言えないな」



 言い方を変えるならなす術もなく、蹂躙されてるって所か。



「まずいよ、空。このままじゃあの人達やられちゃうよ」



 ざっと見積もっても、ゴブリン達の数は30匹以上はいる。

 このまま俺達が出て行っても意味がない。考えて戦わないと泥沼状態に陥るだけだ。



「落ち着け、まずはここで様子を見よう」


「何で様子を見るの?」


「考えてみてくれ。数が多いといっても、ゴブリンならスキルも何も持ってなかった俺達でも充分戦えてただろ?」



 jobもスキルも持っていなかった俺でさえ、ある程度ゴブリンと渡りあえていた。普通の人でも充分勝機がある。

 それにあれほどのバリケードを作ったんだ。中には大勢の人達がいることが伺える。

 連携して戦えば、負けることはないはずだ。



「でも、デパートの人達は防戦一方よ」



 確かにな。それが俺も腑に落ちない。あんな防御壁を作り上げたんだ。武器も持ってなかった俺たちと違って、戦うすべもきっとあったはずだろ?

 それなのに人間達が防戦一方? そんなのありえない。



「何でデパートにいる人達は攻撃をしないのかしら?」


「うん。あれじゃあジリ貧だよ」



 日向や三村も俺と同じように疑問に思っているようだ。

 それもそうだろう。俺達はゴブリンやコポルト達と戦ってきた。

 それで相手の強さは充分知っている。数が多いからって、そう簡単には怯むことはない。



「入り口にソファーとか木の板を使ってバリケードにしてるけど」


「このままじゃまずいな。あのバリケード突破されるぞ」



 今はギリギリの所で耐え忍んでいるが、ゴブリンが体当たりするごとにきしんでいく。

 いずれバリケードが壊れ、デパートにゴブリン達が入ってきて中にいる人達を蹂躙してしまう。

 このままじゃだめだ。ただ一方的にやられるだけだぞ。



「何やってるんだよ? 反撃しないと死ぬんだぞ」


「きっと中にいる人達も、モンスターのことが怖いんですよ」


「怖い?」


「そうです。あたしもここで、多くの人達がモンスターに捕らえられたり殺される所を見てきましたから、その気持ちはよくわかります」



 そういう桜が暗い表情をしていた。

 きっと桜も今デパートの中にいる人達みたいに怖い思いをしてきたのだろう。



「そういえば桜はデパート方面から逃げてきたんだよな」


「はい」



 あの中にいる人達が、モンスターに殺されたりした人を見ていたのなら、抵抗できないのも無理は無い。

 きっとトラウマになっているのだろう。抵抗した所で自分達も死んでいった人達と同じ目にあうんだと。



「桜は今もモンスターが怖いのか?」


「いえ、モンスターは倒せるものだってわかったので全然怖くないです」



 そうだ。モンスターは怖くない。ちゃんと適切に対処すれば充分倒せるんだ。

 だが中にいる人達はそのことを知らない。知らないからこそ、こうして防戦一方の状態なんだ。



「ねぇ、空」


「何だよ」


「やっぱり僕達であのゴブリン達を何とかしようよ」


「はぁ? 正気か?」



 30匹以上もゴブリンがいるんだぞ。それを4人で何とかするって? 何考えてるんだよ、日向は。



「うん、もちろん」


「あの数相手に戦うって、こっちも怪我人が出るかもしれないんだぞ」



 少なくとも無傷ではいられないだろう。下手をすると死人が出る。

 ゴブリン程度ならやられることもないと思うが、数が数だ。注意しないと俺達が死ぬ。



「何か策はあるんだろうな?」


「ここからそのままゴブリン達の方へ行って、そのまま倒せば‥‥‥」


「それを無策って言うんだよ」



 そんな戦い方、絶対怪我人が出るに決まっている。

 戦いは質も重要だが、量に勝るものはない。

 例え1匹1匹が弱くても、あの数が束になってかかってきたら、俺達だってただで済むわけがない。



「大丈夫だよ。だって僕は‥‥‥‥」


「勇者だから、だろ?」



 こいつは何でもそう言えばいいと思ってないか?

 いくら日向が強くても、1人で相手にするには分が悪いだろう。



「あ~~もう、わかったよ。わかった。俺達の力でデパートの人達を助けるぞ」


「それでこそ空だよ」



 全く、嫌な信頼だ。日向の奴に使われるのは癪に障るがそうも言っていられない。

 状況は一刻を争う。三村達と約束してしまった以上その約束は果たさないといけない。



「悪いが作戦は立てるぞ。普通に戦ったら俺達の方が全滅するからな」


「わかった」



 結局こうなるのかよ。何で俺達の行く先々には、こんな厄介事が舞い込んでくるんだ。



「日向、何で笑ってるんだよ」


「やっぱり空は頼りになるなって」


「そう思うなら、たまには日向も作戦を考えてくれ」



 こうして俺達はデパートの人達を助ける為に、30匹以上のゴブリンを相手にしないといけなくなる。

 どうすれば無事にあのゴブリン達を倒す事が出来るのか。

 その事を考えるだけで頭が痛くなったのだった。

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