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働き者のトール

 日向達と別れた俺達は急いでエルフの町へと戻る。

 霧の結界を抜けて到着したのは、先程クルル達と別れた場所だった。



「よし! ラックスさんに会いに行こう」


「会いに行くって言っても、ラックスさんはどこにいるんですか?」


「この時間なら商工会議場にいるだろう」



 猫族ケットシーとの会議を明日に控えているので、今頃準備をしているに違いない。

 他の場所にいるかもしれないけど、そこにいる可能性が1番高いだろう。



「確かに今の時間なら、お兄様達と一緒に準備をしていると思う」


「それなら行こう」



 俺達は急いで商工会議場へと向かう。

 商工会議場に向かう中、ふとさっきの日向とティナの会話の中で疑問点が浮かび上がってきた。



「そういえば以前俺達が霧の結界を抜ける時、ティナがエルフの町に行けるようにしてくれたんだよな」


「そうよ。あれは私がやったわ」


「今回の日向達も、ティナが霧の結界を抜けられるよう承認する形じゃダメなのか?」


「それは無理ね」


「どうして?」


「だって私は、もう精霊の加護を受けていないから」


「あっ!?」



 そうだ。ティナはもう精霊の加護を受けていない。

 あのオークとの戦いでエルフ族から抜けたんだ。



「エルフ族から抜けても私は承認されているから霧の結界に入れるけど、霧の結界の中に人を入れられるような権利はもうないの」



 だからあの時すぐ日向をエルフの町に招待するって言わなかったのか。

 ティナはいまだに強力な魔法を使えるけど、よく考えればそういったことはできるはずがない。

 だってティナはエルフであるが、エルフ族ではないから。



「悪かったな。無遠慮に聞いて」


「別に構わないわよ。今の私は空達の仲間なんだから。別に気にしていないわ」


「そうか」


「それにあの時は私のお父様を助ける為に空達には協力してもらったのよ。むしろ私の方が感謝しているぐらいよ」


「そう言ってもらえると助かる」



 あの時はラックスさんを助ける為とはいえ、ティナにはかなりの負担をしいてしまった。

 むしろ危険を省みずあの戦いに参戦したティナに感謝をしなくてはならない。



「そうですね。ティナさんもあたし達のチームの一員です」


「そうだな。ティナは私達のかけがえのない仲間だ」


「そういうことだから空、これからも宜しくね」


「あぁ、こちらこそよろしく頼む」



 こんなことを確認しなくてもティナは大事な仲間だ。

 桜や由姫同様、大切にしないといけない。

 



「さてと、着いたぞ」


「ラックスさん達はどこにいるんでしょうか?」


「おそらくお父様達は会議場にいるんじゃないかしら?」


「あそこか」



 以前俺達がクロ達の討伐の話し合いをした場所だ。

 かなり大きい場所だったから、大体の場所は覚えている。



「たぶん明日の猫族ケットシーとの会議に向けて、色々と話し合ってるはずよ」


「それなら直接会議場に向かった方がいいな」



 商工会議場の扉を開け、俺達は中に入る。

 扉を開き中に入ると、その光景に思わず後退りしてしまう。



「うわっ!?」


「いっぱい人がいますね」


「右に左に右往左往しているな」



 それだけ忙しいという事なのだろう。

 猫族ケットシーとの会議が急ピッチで進められているみたいだ。



「さてと。会議場は‥‥‥」


「あっ!? 山村さん達じゃないですか!!」


「トールか」



 俺達に声をかけてきたのはトールである。

 エルフの中に1人だけぽつんとオークが立っていたのですぐ気が付いた。



「トールさんはここで何をしているんですか?」


「オラは明日の会議の準備をしてるんです」


「会議って‥‥‥猫族ケットシーとの会議についてで合ってるよな?」


「そうだ!」


「でも、その割にはやけに荷物が多い気がしますけど‥‥‥」



 桜の言う通り、トールの荷物は会議をするようには思えない。

 明日の話し合いに使う資料だけでなく、木箱等を運んでおり、何に使うんだろうと疑問に思うようなものが多数ある。



「あぁ、これですね。これは猫族ケットシーとの懇親会で使われるものです」


「懇親会?」


「そうですよ。猫族ケットシーとの交流の場は会議だけじゃなくて、その後の懇親会があります。他にも猫族ケットシーが泊る為の宿泊施設の準備やエルフの町の視察の準備までやる事がいっぱいあるんですよ」


「うわっ!? 話を聞いているだけで気がめいります」


「それをトール1人でやってるのか?」


「いえ、複数人の人達でやってますけど指示はオラが出してます」



 つまりトールはそれを全部投げられて、ほぼ1人で処理しているようだ。

 たぶんディアボロさんの差し金だろうけど、ものすごく大変なように見える。



「イリスに少しは仕事を頼めないのか?」


「それは無理ですね。イリス様はオラよりももっと忙しいから」


「忙しい?」


「そうです。今回の会議で猫族ケットシー達と交渉をする時のエルフ側の代表は、イリス様が務めるんですから」


「何だって!?」


「それって大丈夫なんですか!?」


「たぶん大丈夫だと思います。ディアボロ様も会議には参加されるようだから、酷いようにはならないとは思います」


「それなら少し安心だ」



 あの人がいるなら、そんなに会議が捻じ曲がることもないだろう。

 イリスがエルフの代表として交渉に当たるなんて、何か理由があるのだろうか。



「それよりも、山村さん達はどうしてここに来たんですか?」


「そうだ。俺達はラックスさんに用事があって来たんだ」


「今の時間はラックスさんは明日の会議の為の打ち合わせ中ですから、会うのは難しいと思いますよ」


「それでもどうしてもラックスさんと話したいんだ」



 日向達に出会ったこと、そして森にキマイラがいたこと。それをラックスさんに報告しないといけない。

 もしかすると事態は一刻の猶予もない。放って置くとエルフの町にまた被害が出る可能性もある。



「それなら会議場に行ってみましょう」


「いいのか?」


「打ち合わせ中に声なんてかけて、怒られないですか?」


「山村さん達が声をかける分には大丈夫でしょう。ついてきてください」



 トールの後ろについて行く。トールが向かうのは会議場。

 会議場に着くと、トールは扉をノックする。



「会議中失礼します。急ぎの用事があり伺いました」


「トールか。申し訳ないが今は会議中だ。ラックス様達は手を離すことができないから、後にしてくれないか?」


「話があるのはオラじゃありません。山村さん達です」


「山村? あの人間達か。ちょっと待っててくれ」



 そういうと中にいたエルフはどこかに行ってしまう。

 しばらくして戻ってくるとドアが自然と開いた。



「お疲れ様、山村君」


「ラックスさん」


「ここで立ち話もなんだから、近くに客室のような空き部屋があるからそこに行こう」


「お父様、お時間を取らせてすいません」


「別に構わないよ。君達がここに来るってことは、何かよっぽどの事があったんだろう」


「確かあっちの小部屋が空いていたと思いますよ。オラ、準備してきます」



 そういってトールは荷物を持ったまま部屋へと向かってしまう。

 トールがここに来てから想像以上に働いていることに驚いてしまう。



「トールは頑張って働いてるだろう」


「そうですね」


「カロンからトールの話を聞いていたが、まさかここまでいろいろできるとは私も思わなかった」


「俺もです。さっきトールからやってることを聞きましたけど、ものすごい仕事量でしたね」


「そうだな。トールに関してはディアボロが一目置いているんだ」


「ディアボロさんが!?」


「うん。おかげでイリスもうかうかしていられない状況だ」



 どうやらトールはこの町に来てから誰よりも頑張っているらしい。

 意外や意外。まさかイリスより評価が高くなっているとは思わなかった。



「ラックス様、お部屋の準備ができました」


「わかった。山村君、それではあの部屋に行こう」



 こうして俺達はラックスさんに連れられて、空き部屋へと行くのだった。


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