三村家と新たな旅立ち
三村の家まではあっけない程簡単に着いてしまった。
途中でコボルトやゴブリンが襲い掛かってきたが、日向と桜の2人の力のおかげで、苦労なくこれた。
桜なんか最初はおっかなびっくりで槍を振っていたのに、戦闘の経験を積むにつれ『これって楽しいですね』とか言い出すしまつ。
もしかすると俺達の中で適応力という点では誰よりも高いんじゃないかと思う。
「そういえばここに来るまで、空先輩って何もしてないですよね?」
「別にいいだろ? 俺が活躍する場は別に用意されてるってことだ」
「そういう考えをするのも空先輩らしいですよね?」
「だろ?」
「別に褒めてませんから」
「ちょっとそこ、いちゃいちゃしない」
「別にいちゃいちゃしてないからな」
三村が目を吊り上げて俺と桜のことを睨む。
いくら三村が日向に相手にされていないからって、こっちに火粉を飛ばさないで欲しい。
「ここが悠里ちゃんの家でいいの?」
「うん、ここが私の家」
三村の家は一軒家であった。2階建ての白を基調とした家である。
家の横には小さな庭があり、ガレージまでついている。
こいつ、もしかしたらお嬢様なんじゃないか? と思ったのは俺だけじゃないはず。
現に桜はじーーっと三村の家を眺めていた。
「悠里先輩って、もしかしてお金持ちなんですか?」
「全然違わよ。私は普通の一般家庭だから」
「三村、自覚の無い奴は皆そう言うんだぞ」
この家の大きさから見て、どう見たって資産家にしか見えない。
少なく見積もっても日向の家の倍近くはあるし、さぞかし中は豪華なんだろうな。
「山村君、貴方はちょっと黙ってて」
「えぇ~~」
何で俺だけが怒られるんだよ。桜も同じようなこと言ったのに。
誰も同情してくれない所か、隣にいる桜はため息までついている。
「まぁまぁ、2人共喧嘩しないで。とりあえず中に入ろうよ。悠里ちゃん、鍵持ってる?」
「うん。今開けてみるね」
三村が鍵穴に扉の鍵を指す。
ガチャンという鍵が開く音が聞こえ、大きな扉が開いたのだった。
「ただいま。ママ、いるの?」
家に入るが中からの反応がない。三村の呼びかけに応答が無く、応答が無いということは誰もいないということになる。
「ママ、ママいないの?」
三村が何度も声をあげ叫びながら奥へと進んでいくが、何の反応も無い。
関係ないことだが、三村ってママ呼びなんだな。家ではお母さんって呼んでいるのかと思った。
「先輩、今余計なことを考えてませんでしたか?」
「別に考えてない。桜の考えすぎだ」
「怪しいですね」
横にいる桜は両目を細めて俺のことを怪しんでいた。
相変わらず桜は勘がいい。いつも注意しているけど、これからはもっと注意力を上げた方がいいな。
「ねぇ、ちょっとこっちに来て」
「どうしたの? 悠里ちゃん?」
三村の声が聞こえる方へ向かうと、そこはリビングだった。
リビングにある大きなテーブル。そこに書置きの手紙があり、三村はそれを見ているようだ。
「これ、お母さんからの置き手紙」
「何て書いてあるの?」
中身を日向達と一緒に見る。その文面には『お買い物に行って来るから帰ってくるまで、家で待っててね。おやつはいつもの棚に入ってるから。今日は悠里ちゃんの好きなオムライスにしてあげる』と書かれていた。
「文面から推察するに、三村の母親は外出してるってことか」
「うん、たぶん買い物に行ったんだと思う」
「どこに行ったのか見当ってつく?」
「お母さんが買い物に行く所って考えると、デパートか商店街だと思う」
「デパートか商店街か」
確かにこの近くには大きなデパートと商店街がある。
どちらに行くとしても、ここから少し距離があり時間がかかってしまう。
「確かに、そこなら生きてる人がいてもおかしくない」
「デパート方面なら、モンスターがたくさんいてすごく危険だと思います」
「そうなの? 桜ちゃん」
「はい、あたしはあそこからここまで逃げてきましたから」
なるほど、あそこからここまで桜は来たのか。ということは結構な距離を走ってきたんだな。
デパートの話をする桜の表情は暗い。でもそうなるのも無理は無い、きっとここに来るまでに酷い目にあったのだろう。
昨日日向の家に来た桜は表情には出てなかったが疲れ切っていた。それだけ大変だったってことだ。
「そんなに周りにモンスターがいたの?」
「はい、皆色々な所に逃げていって、捕まった人達は皆‥‥‥‥」
そこから先桜は口をつぐんでいた。
何も言わないということは凄惨な光景だったのだろう。
いつも明るい桜が怖がっていることからも、容易にそのことが想像がつく。
「てことは、三村の親が生きている確率は‥‥‥‥」
「縁起でもないこと言わないでよ。ママは絶対生きてるんだから」
「そうですよ、何を言ってるんですか先輩?」
三村と桜は生きてると主張するが、客観的に見て生存率は低いと思う。
こうして住宅街に逃げてきた桜が奇跡的に助かっただけで、他にいた人は殺されたと言われても何の不思議も無い。
だが、桜が奇跡的に生きていたんだから三村の母親が死んだと考えるのも早計過ぎるか。
どういう状況だったとしても、行ってみないことには始まらない。
「そうだな。行って見ないことにはわからないな」
「そうですよ。悠里先輩のお母さんは生きています」
「だが、ここから先は危険だぞ。桜の話が本当なら、あそこはモンスターの巣窟ってことになる」
確かに俺達も様々なモンスターと戦ってきたが、そこがモンスターの巣になっているとしたら今までにない強敵と戦うことになる可能性もある。
レベルの低い俺達が行って果たして太刀打ちできるのか、もしかすると無駄死にするかもしれない。
そういったリスクもある。もう少し様子を見て、自分達jobやスキルのレベルを上げてから言ってからでも遅くは無いと思う。
「それでもきっとなんとかなるよ」
この状況でこんなことを言えるのは日向しかいない。
どんな強敵が出てくるかわからないのに、きっと何とかなるって楽観視しているよいうに見える。
ニコニコと笑っているが、自分が何を言ったのかわかってるのか。下手すると俺達の中で死人が出るかもしれないんだぞ。
「どんなモンスターが出るかわからないんだぞ」
「うん、わかってる。でも大丈夫。最初の頃より僕や空だって強くなってるじゃん」
「理由はそれだけか?」
「うん。それに何があっても絶対に僕が皆を守るよ。だって僕は‥‥‥‥」
「勇者なんだから、だろう?」
「僕のセリフを取らないでよ」
「別にいいだろ?」
全く、何があっても僕が皆を守るか。俺には絶対に言えないセリフだ。
俺は日向と違って、守れる人に限りがある。だからそんなセリフを絶対にいうことが出来ない。
「よくないよ。いい所ばかり持ってって」
「そのセリフ、お前だけには言われたくない」
日向と口論中に桜の方を見ると、こちらの視線に気づいたのかにこっと笑う。
その目は『あたしのことは空先輩が守ってくれるんですよね?』と言っているようであった。
「日向君? 本当にいいの? 私のママを探すの手伝ってくれて?」
「うん、元々三村さんの両親を探すためにここに来たんだから。最後まで探すのは当然でしょ」
「ありがとう」
「わっ!?」
直後、三村は日向の胸に抱きつく。日向はキョロキョロと挙動不審な行動をしながらうろたえているし、その胸の中で三村は泣いている。
俺はというと2人を見ながら、桜と一緒にニヤニヤと笑っていた。
「日向、そこで男なら抱きしめてキスぐらいしろよ」
「えっ? 空は何言ってるの? 悠里ちゃんにそんなことできないよ」
「いいなぁ~~。悠里先輩」
「ちょっと、桜ちゃんも。見てないで何とかしてよ。この状況」
結局三村が泣き止むまでしばらくこのままの体勢だった日向。
最初はおどおどしていたが、いつの間にか三村の背中手を回していた。
「いいなぁ~~、悠里先輩」
「桜、どうしたんだよ?」
「別にぃ~~。本当、先輩は鈍感ですね」
そういうと桜は不満そうな顔でこちらを見ていた。
2人が抱き合い続ける間、桜から視線を逸らし2人のことを冷やかし続けるのであった。
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