本気の覚悟と少女の誓い
ここまでこの作品をご覧いただいた方々のおかげで、ついに200話まで到達しました。
いつも拙作を応援していただき、ありがとうござます
今回の話は通常より長いです。ご注意下さい
「ディアボロさん!! 何で‥‥‥何で、お父様がオークに捕まったの!?」
「それは俺にもわからない」
ディアボロさんはそう言ってうなだれる。うなだれるだけならいいが、そのまま口まで閉ざしてしまう。
これじゃあさっぱり状況がわからない。なんとしてでもディアボロさんに話してもらわないと。
「ディアボロさん、わからないってどういうことなんですか?」
「あたし達にもわかるように説明してください!!」
「それはだな‥‥‥」
口をもごもごとさせて言いよどむなんて、ディアボロさんにしては珍しい。
一体どうしたんだろう。
「ディアボロさん、私達にもわかるように状況を教えてくれないかしら?」
「‥‥‥‥わかった」
「あたし、カレンさんを呼んできます!!」
「頼む」
「そしたらカレンさんのことは桜に任せて、とりあえず皆テーブルに座ろう。話はそれからだ」
由姫がてきぱきと段取りを組んでくれたおかげで、俺達は椅子に座る。
リビングにはカレンさんを含むクルルを除いた6人が集まっていた。
「まず初めに、どうしてオークがこの町に来たことがわかったんですか?」
「それはこの町にボロボロになったオークが倒れていたからだ」
「「「「ボロボロになったオークが倒れてた!?!?」」」」
霧の結界を抜けてこの町までたどり着くことすら難しいのに、ボロボロになって倒れてるなんて。
こんな偶然あるのだろうか。
「そのオークは今はどうしてるんですか?」
「‥‥‥死んだよ」
「死んだ!?」
「そうだ。ボロボロになったオークが死ぬ間際に言ったんだ。『ラックスが捕まった。オークの町まで来てくれ』って」
「オークがそんなことを言ったのか」
オークと言えば、今まで自分達以外の人種を認めない荒くれものという印象だった。
だが、その死に絶えたオークは今まで出会ったオークとは違うもののように見えた。
「ディアボロさん、それって本当にオークだったんですか?」
「あたしもそう思います。偽物の可能性の方が高いです」
むしろ別の魔族が変身した姿といった方が納得がいく。
オークがそんな殊勝なことを言うようには思えない
「俺だってそう思ったよ。だけどうつろな目をしながら、『ラックスだけじゃない。オークを‥‥‥町にいるオーク達皆を助けてほしい』って言われたら信じるしかないだろ!!」
「オーク達を助ける?」
ラックスさんだけじゃなくて、オーク達も助けを求めているのか。
それって一体どういうことだ。もしかして、オークの町で何かよからぬことが起こっているんじゃないだろうな。
「一体どういう事でしょうか?」
「わからない」
何を思ってオークが来たのか。そして何を伝えたかったのか。
ただこれだけはわかる。今オークの町で何かよからぬことが起こっているということだけは理解できる。
「空さん」
「相手の意図はわからないが、行ってみるしかないな」
オークが助けを求めている以上、行って様子を見に行くしかあるまい。
本当にラックスさんが捉えられているかわからないが、直接町まで行って確認しよう。
「そしたら相手の本拠地に乗り込むのだな」
「乗り込むけど、拠点にまではいかないぞ」
「何故だ!?」
「だって、ラックスさんが捕まったってことが偽の情報かもしれないだろ? 一旦オークの町で情報収集して、その情報を元にここで作戦会議を‥‥‥」
『しよう』という言葉までは続かなかった。それは部屋に入ってきた別のエルフの声にかき消されたのだから。
「ディアボロ様!!」
「何だ、何かあったのか?」
「別のオークが商工会議場の会議室に現れて、こんなものを!!」
そのエルフが持って来たのは手紙だった。
何の変哲もない手紙だが、オークが持って来たということが不気味に思えた。
「おい!! 会議室の警護についている者は何を考えているんだ!!」
「それが、警護についているものもそのオークの姿を見ていないと言ってまして」
「見ていない? そんなわけないだろ!! 幽霊じゃあるまいし!!」
ディアボロさんの言う通りだ。幽霊でもない限り商工会議場の中に入ることができない。
だが敵は簡単に入ることができた。それが意味すること。それは‥‥‥。
「これは想像していた以上に、まずいかもな」
「どういうことですか?」
「オーク達の後ろについている黒幕は、かなりの魔法の使い手なのかもしれない」
それこそ自分のことを四天王だと話していたフランシスのように。
いや、違う。もしかするとオークの後ろについている黒幕もフランシスとは別の四天王なのかもしれない。
「それってかなりまずいじゃないですか!!」
「あぁ」
後ろに四天王がついていることを考えると、状況は緊迫している。
早い所問題を片付けないと、エルフの町だけでなく俺達の町まで被害が出てしまう。
「手紙の内容はなんだ?」
「申し訳ありません。まだ中身の方は見ていないです」
「わかった。俺が開ける」
ディアボロさんは手紙を開く。開いた中身は俺達が知らない文字が書いてあった。
「一体この文字は何だ?」
「これは私達の世界で使われている文字ね」
「だから読むことができないのか」
そういえばティナは俺達の世界の文字を読めなかったな。
あれ? 待てよ。そしたら何でクルルは俺達の世界の文字を読むことができたのだろう。
「なぁ、ティ‥‥‥」
「ディアボロさん、オークからの要求は何て書いてあったの?」
「‥‥‥‥‥」
「ディアボロさん!! 答えてよ!! お父様の命にかかわることなのよ!!」
ティナがそう言うのもわかる。事態は一刻を争う状況だ。
ここで黙っていても何も始まらない。
「ディアボロさん!!」
「ディアボロさん!!」
「オークがラックスを開放する条件‥‥‥それは‥‥‥」
「それは?」
「‥‥‥エルフが‥‥‥全てのエルフ達がオークの軍門に下ることらしい」
「オークの軍団に入る!?」
違う。ただ入るわけじゃない。オークの軍門に入るということは、オークの奴隷になるという事と同義になる。
「待ってくれ。それじゃあオークはエルフ達に自分達の奴隷になれと言っているようなものだろ?」
「そうだ」
「そんな要求、無茶苦茶すぎます!! はいそうですかと言えるわけがありません!!」
桜の言う通りだ。オークの要求は俺達の想像よりも大きすぎる。
いくらエルフの民達から全幅の信頼を寄せられているラックスさんを人質に取ったとしても、到底許されることではない。
「どうやら相手は敵の大将を取った気でいるのだろうな」
「だから、私達に軍門に下れって言うの!!」
「ディアボロさん、ちなみにラックスさんが捕まったことに関してどのくらいの人が知ってるんだ?」
「倒れたオークは町の人達殆どが見ていたからな。おそらく噂が噂を呼んで、町中の人々がラックスが捕まったことを知ってるだろう」
となるとこの事態を早期解決に持って行かないと大変なことになる。
町中が混乱に乗じて、オークの軍勢が町に攻めてきたら目も当てられない。
それこそオーク達の思うつぼだ。ラックスさんは人質のまま、エルフの町を手中に収める。
そうなったら俺達にはもうどうすることもできない。
「こうなったら、お父様のことはあきらめましょう」
「ティナちゃん!? 何を言ってるんだ!?」
「聞いてなかったの? お父様のことはあきらめて、この町の防備に集中しましょう」
ティナの突然の発言にディアボロさんがうろたえてしまう。
だってそうだろう。あれだけ自分の父親を尊敬していたティナがこんなことを言い始めたんだ。
驚くのも無理はない。
「ちょっと待ってくれ!? ティナちゃん。君のお父さんが人質なのに、このまま町で手をこまねいてたら殺されるかもしれないんだぞ!!
「構わないわ」
「何を言ってるんだ!?」
「私もティナの意見に賛成です。ラックスはエルフの民の為なら喜んで自らの命を差し出すでしょう」
「カレンまで!?」
ティナもカレンさんも目をつむり静かに答える。
うろたえるディアボロさんとは違い、2人は終始落ち着いていた。
「ラックスも‥‥‥いつかはこうなることは予測していたはずよ」
「カレン!!」
「大丈夫よ。町にはイリスがいるし、貴方もいる。ラックスがいなくても、何とかなるわ」
落ち着いた声色でカレンさんは話す。だが俺にはわかる。今カレンさんはいつもより瞬きが多い。
口では冷静に話しつつも、動揺していることはまるわかりである
「ティナちゃんはどうなんだ!? ラックスにあんなに懐いていたじゃないか!?」
「大丈夫よ。お父さんがいなくても‥‥‥ちゃんとやれるから」
「ティナ」
口ではそう言っているが、ティナの両手は震えている。
両手だけじゃない。唇も震え、目から今にも涙がこぼれそうになっている。
「ティナさん」
「私は大丈夫だから。だから今は町の人達の心を1つにしてオークを‥‥‥」
「ティナ、それがお前の本心なのか?」
「空?」
「心の底から、ラックスさんがいなくてもいいって。本当にそう思ってるのか?」
いつも事あるごとにラックスさんのことをティナは話していた。
鍛冶屋でディアボロさんに会いに行く時も、ピクニックの時草原でお昼を食べている時も、いつどんな時でもラックスさんのことを自慢げに語っていた。
そんなティナがラックスさんが犠牲になっていいと思っているはずがない。
自分の父親が死んでもいいなんて、絶対に思っているわけがない。
「本心よ。お父様も絶対そう思ってるはずだから」
「違うな」
「何が!?」
「質問の答えが全然違う」
「何が違うって言うのよ!!」
ティナは激高しているが、今の答えは俺の質問の答えになっていない。
一見すると答えのようにも聞こえた内容だが、はっきりと違う所がある。
「俺は別にラックスさんがどう思っているかを聞いているんじゃない。ティナがどう思ってるかを聞いているんだ」
今までティナはラックスさんが思っていることしか言ってこなかった。
全て『お父様はきっとそう考えている』『だから私も大丈夫』そればかり。
「聞かせてくれ。ティナの気持ちを」
「私の‥‥‥気持ち?」
「そうだ。ティナは何を思っているんだ。正直に言ってくれ」
しばらくティナは押し黙る。目にたまる涙を抑え黙る。
体をプルプルと震えさせ、何かに耐えるように口を噤んでいた。
「どうなんだ、ティナ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥救いたいわよ」
「何だって?」
「私だって‥‥‥私だってお父様を救いたいわよ!!」
目じりに溜まったティナの涙が地面に落ちた。
涙が落ちると共にティナの抑えていた感情が決壊する。
先程まで抑えていた分、その声がおおきくなるのだった。
「ティナ」
「当たり前じゃない!! お父様は私の誇りなの!! それがあんな卑怯な手を使うオークに捉えられて、黙っていられるわけないじゃない!!」
「ティナちゃん」
「今すぐにでも助けたいわよ!! だけど‥‥‥今ここで私が動いたら、町の人達に迷惑がかかっちゃう。私1人のせいで‥‥‥町の人達に迷惑はかけられない‥‥‥」
「ティナさん」
「私だってお父様を救いたい!! でも、私は族長の娘よ!! 一時の感情で、エルフ族全員を犠牲にするわけにいかないの!!」
そう言うとティナは子供のように泣きじゃくる。
やはり自分の大切な人が犠牲になるかもしれないことを考えると胸が痛むに違いない。
「空さん」
「あぁ」
俺の仲間が泣いている。しかも自分の大切な人が人質に取られて、それでも気丈に振る舞おうとしていた。
だが、自分の決断でエルフ達全員が犠牲になるんではないかと思い悩んでいる。
「ティナ」
ここに来てからティナは俺達の為に色々と尽くしてくれた。
行く当てのない俺達に寝床や食事を提供してくれたこと。武器を強化する為に鍛冶屋を紹介してくれたこと。何より、戦いの基礎ができていない俺に対して、剣の稽古をしてくれたこと。
ティナが俺達に与えてくれたことは数知れない。
その恩恵に報いることができるとすれば、俺ができることは1つしかない。
「よく言ったな、ティナ」
「空?」
涙を流しながら、女の子が泣いている。誰にも相談ができず、助けてほしいと泣いている。
それが俺達の仲間なら、なおさら放って置くことができない。
「それなら大丈夫だ」
「何が大丈夫なの?」
ティナがそう問いかける。涙で顔がぐしゃぐしゃになっているのにも関わらず、顔をあげまっすぐ俺の事をみていた。
「ラックスさんは、俺が助ける」
「空?」
「正気か!? お前は!? 1人でオークの本拠地に飛び込もうなんて自殺行為に等しいんだぞ!!」
「そんなことはわかっている!!」
こんなことをしても成功する可能性の方が低いってことぐらい、子供でもわかることだ。
だけど今ラックさんを助けるならこうするしかない。他に方法がないんだ。
「本気か? 山村君」
「俺はいつでも本気だ」
ようは俺がオーク達に気づかれないようにして、ラックスさんを救出すればいい。
それだけの話だ。何も難しい話じゃない。
「それに俺はエルフ族じゃない。人間だ。奴隷になっている人間を助ける為に潜入して、たまたまそこにいたエルフを助けたとしても問題はないだろう」
別にエルフ達に迷惑がかかるわけじゃない。
俺は俺の理由でオーク達を潰しにいくだけだ
「さすが空さんですね」
「桜?」
「ものすごい屁理屈をこねているが、その姿勢だけは見直したぞ。先輩」
「由姫まで!?」
大きく息を吐き、俺のことを見つめる2人。
その瞳は決意に満ちていた。
「空さんが何を言っても、あたしはついて行きますよ」
「私もだ。先輩が置いていくと言っても勝手について行くからな」
「2人共」
こうなったら俺が何を言っても2人はついてくるだろう。
どんな危険があっても、バカみたいに俺のことを信じて戦ってくれる。
一体どうしてこの2人がこうなってしまったのかわからない。
「全く、頼もしい限りだ」
日向達と別れて1人で頑張っていこうと思っていた。だけど、どうやら俺にも日向達と同じぐらい頼もしい仲間がいたみたいだな。
桜と由姫、この2人がいるならどんな敵が相手だろうと、負ける気がしない。
オークなんて卑怯な連中、叩き潰してやる。
「それなら私も行くわ」
「ダメだ」
「何でよ!!」
「ティナがオーク達と戦うことになったら、エルフ族の反逆と取られるだろ?」
それこそ先程ティナが危惧していたことに直結してしまう。
「それなら大丈夫よ」
「何が大丈夫なんだ?」
「要は私がエルフ族と絶縁すれば済む話でしょ? 簡単な話じゃない?」
「ティナちゃん、君は何を言っているんだ?」
「私はこれからエルフ族に属さない、ただのエルフになる」
「ティナちゃん!? よく考えるんだ!! そうなったら私達が受けている精霊の加護は使えない!! もしかすると魔法だって使うことができなくなるかもしれないんだぞ!!」
「大丈夫よ、それぐらい」
そういうとティナは何かを唱え始める。そしてティナの周りが光始める。
「ティナちゃん!!」
「ごめんなさい、お母さん。私は今日から1人になる。この町とは関係ない、ただのエルフになるの」
しばらくするとティナの周りから光が消えた。それと同時にティナの体が沈み込む。
「ティナ!!」
「平気よ。精霊の加護がなくなったから、少し体が重たくなったみたい」
ティナは気丈に振る舞っているが、精霊の加護がなくなるって大変なことだろ。
ディアボロさんの今の口ぶりだと、魔法さえ使えなくなる危険性もある。そういう話だ。
「空が覚悟を決めてくれたなら、私も覚悟を決めないとね」
「‥‥‥‥」
「大丈夫よ。そんな深刻な顔をしなくても。。私だって桜達と同じ、空の仲間なんだからね」
ティナがそう言った瞬間、俺の頭の中でひらめき音が聞こえた。
以前も聞いたことがある無機質な機械音。これは‥‥‥まさか‥‥‥。
「空さん、どうしたんですか?」
「待ってくれ!! もしかすると俺のステータス画面が‥‥‥」
やはりそうだ!!
ステータス画面を見ると、パーティー申請の欄が光っている。
「この現象‥‥‥見たことがある」
以前桜や由姫をパーティーにした時と同じ現象だ。
俺は迷わずパーティー欄をタップすると、そこにはティナの名前が浮かび上がっていた。
「これは‥‥‥」
パーティー機能って、もしかして人間だけじゃなくて、他種族も仲間にできるのか。
いや、違うな。きっとティナは今までエルフ族というパーティーの中に組み込まれていたに違いない。
その大きなパーティーを離脱したから、きっと俺のパーティー欄に表示されたんだ。
元々いつでも俺のパーティーに入れたのだろう。だが、複数のパーティーに入れない制限がある為、俺の欄には表示されなかったんだ。
「ティナ」
「どうしたのよ、空?」
パーティー申請の欄からティナを選び、申請を送る。
何かに気づいたような顔をするティナ。どうやらティナは俺からのメッセージを受け取ったみたいだ。
「空、これって‥‥‥」
「行く場所がなくなったのなら、俺の仲間に入れ」
ティナが目をつむり深呼吸をする。その間数秒だが、何かを考えているようだった。
「ティナさん」
「ティナ」
桜と由姫が心配している。無理もない。自分達の部族を勝手に離脱したんだから心配にもなるだろう。
「ティナ」
ゆっくりティナの目が開く。そして片手で何か操作をしたように見えた。
『ティナ・ラインハルトさんに承認されました』
「ティナ!!」
「私の覚悟は決まってるわ。よろしくね、空」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む」
ティナとがっちり握手をする。
これから一生を共にする友のように、お互いの絆を誓い合う。
「私は貴方について行くわ。例えその先が地獄だったとしてもね」
「そこは天国って言ってくれ」
冗談を交えつつ新しいメンバーを加えることができた。
こうして4人目のパーティーメンバー、ティナ・ラインハルトが俺達の仲間に入るのだった。
この話も2部構成にするか悩みました。
ただティナの覚悟を伝える為には1話でお届けした方がいいと感じて、この構成にすることに決めました。
次話からいつも通りの文字数に落ち着くと思います。
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