楽しい提案
洞窟を出ると草原には大勢のエルフ達がいた。
座り込んで怪我の治療をするものもいれば、あっちこっちせわしく駆け回っている者もいる。
俺達が洞窟から出てくると、エルフ達の視線が一斉に俺達の方へと向くのだった。
「ディアボロ様!!」
「ご無事でしたか!!」
「あぁ、俺の方は問題ない。それよりそっちはどうだ?」
「はい。怪我人の応急処置は終わりました。後は町まで戻るだけです」
「そうか。ご苦労様。ありがとう」
「はい」
エルフからの報告を聞くと、ディアボロさんは俺達の所へと戻ってくる。
渋い顔をしながら、一体これからどうしようという表情だ。
「どうやらうちの連中は全員問題ないみたいだ」
「それはよかった」
「で、ここからが問題だ。この怪我をした白龍をどうする?」
「そうですね‥‥‥」
どうするって言われても、この酷い怪我ではさすがに町まで連れていけない。
それに白龍は今弱っている。無理に動かして怪我を悪化させては元も子もない。
「とりあえず1人が結界を張って、白龍の回復を見守るのはどう?」
「それしか方法はないが、そうすると今日はここで野営を張るしかないぞ」
ディアボロさんは野営と言っているが、つまりここで野宿をするということだ。
野宿となるとそれ相応の道具が必要になるが、そんなもの俺達が持っているはずもない。
「俺達は野営の道具を持ってないけど、どう調達しようか」
「そんなの簡単だ。怪我人を町まで送り届けるついでに、野営の道具も持ってこさせる」
「いいんですか?」
「あぁ、それぐらいお安い御用だ」
ディアボロさんの申し出は願ってもないことだ。
野営の道具を貸してもらえるなら、それに越したことはない。
「俺はあっちに行ってお願いしてくる。他に何か必要なものはないか?」
「俺は特に‥‥‥」
「それなら体を綺麗にするものが欲しいです」
「桜!?」
「私はそこら辺のレストランにも負けず劣らずの美味しいご飯が食べたいな」
「由姫まで!?」
いくら必要なものがないかって聞かれたとしても、それは贅沢すぎないか?
桜の言い分はまだしも、由姫の頼みは無茶ぶりだろ!?
「はっはっは! 任せておいてくれ。体を綺麗にするものととびっきりおいしい料理を用意してやる!」
「本当にいいんですか? 無理しなくてもいいですよ」
「全然。むしろうちの若いやつが迷惑かけてるんだ。これぐらいのことはさせてくれ」
そういうとディアボロさんはエルフ達の元へ向かう。
エルフ達に指示を送った後はそのままどこかへ行ってしまった。
残された俺達はといえば、何もすることがなく手持無沙汰だった。
「空さん、空さん!」
「どうした、桜?」
「今日は皆でお泊りなんですよね? キャンプみたいです」
「確かに物の見方を変えればキャンプともいえるけど、そんないいものでもないぞ」
俺達は白龍の治療の為にここに滞在するんだ。
さすがにエルフ達が回復魔法をかけてくれるからといって、容態が悪化したら原因を探らないといけない。
そうなると白龍の治療を担当した桜の出番になる。
もしかすると寝ずの番になるかもしれないので、ここにいることイコール桜の負担が大きくなるだけだ。
「キャンプは小学生の時に父に連れてもらって以来か」
「あたしは初めてです」
「私は何回かあるから大丈夫よ。わからないことがあったら教えてあげるから、桜は私を頼ってね」
「はい。よろしくお願いします」
桜達の様子を見る限り完全にオフモードだ。この後の時間は遊びだと思ってる。
ここはエルフの町から出た草原のど真ん中。油断すれば他のモンスターが飛び出してくる危険な場所だってことをわかってるのか。
「桜おねえちゃん、キャンプって何?」
「キャンプっていうのはですね、お外でご飯を食べたり寝たりして、一時的に生活をすることを言うんですよ」
「えぇ~~だったら私、おうちでやりたい」
「ふっふ~~、クルルちゃんはわかってないですね」
「何が?」
「キャンプにはキャンプならではの面白いイベントがあるんですよ」
「イベント!! 何、それ。教えて! 桜おねえちゃん!」
食いつくところそこなの。それにしてもクルルもいよくイベントって言葉を知っていたな。
そういえばクルルもティナもこっちの言葉の意味を正しく理解できていたな。
エルフだけじゃなく異世界人がこの世界に来た時、何かしら影響があったのだろうか。
「まずはですね、キャンプの時にはBBQをするんです」
「BBQ?」
「そうです。網でお肉を焼いたりお野菜を焼いたりお魚を焼いたりして、皆でわいわい食べて楽しむんです」
「面白そう!!」
「それに大きい火の周りを皆で取り囲んで踊ったりします」
「すごく楽しそうだよ!!」
おい、桜。言いたいことはわかるが、嘘を教えるな、嘘を。
BBQの話もそうだけど、火の周りを取り囲んで踊るって、それってキャンプファイヤーの事だろ?
どっちもろくに設備が整っていないのに、出来るわけがないだろう。
「桜、クルルに色々と教えるのはいいけど、期待させるだけさせておいて後でクルルが落胆することになっても知らないぞ」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけがないだろう。100歩譲ってBBQはディアボロさんにお願いできたとして、キャンプファイヤーはどうする? 機材がないぞ。機材が」
しかもあれって木の組み方も重要になるので、ただ薪を集めればいいってわけではない。
俺は薪の組み方なんて知らないし、桜や由姫もそんなこと知らないはずだ。
「そこはあたしに任せて下さい」
「任せるって、大丈夫なの?」
「はい。きっとディアボロさんものってくれます」
本当に大丈夫なのか? こういう時の桜はちゃんとやることをやってくれるが、万が一失敗しないか不安で仕方がない。
「桜、私に手伝えることはないか?」
「私もやる! 何か面白そうだから」
「そうですね、そしたら由姫ちゃんとティナさんは‥‥‥」
その後クルルも含めた4人で話し合う女子勢。
女3人よれば姦しいというが、4人も揃うとなると騒々しいな。
「グォ」
「何だよ?」
「グォグォ」
「同情するなよ」
どうやら俺は黒龍にまで同情されているみたいだ。
いや、同情なんかじゃないな。『お前は女心をわかってないのか、やれやれだぜ』といった雰囲気だ。
「前から思ってたけど、黒龍はどこの世界の脱力系主人公だよ」
「グォ?」
「わからないならそれでいい」
さすがにそこまでは伝わらないか。まぁ、それが普通だよな。
こちらの世界の漫画やアニメの事情までわかっていたら正直恐ろしい。
「そしたらキャンプファイヤーはこれで代用して‥‥‥」
「BBQもこれをこうすればできそうだ」
「わーーい、すごく楽しみだよ」
「そうですね。夜が楽しみです」
女子達が盛り上がる中、蚊帳の外となる俺達男性陣。
結局この後キャンプの詳細は知らされず、俺達は夜を迎えることになるのだった。
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