美しき龍
洞窟に入った俺達は黒龍に案内されるがままに洞窟内をさまよっている。
途中道が入り組んでいたり険しい道もあって、本当にこの道で正しいのか疑問に思ってしまう。
「黒龍、本当にこっちの道で合ってるの?」
「グゥ」
黒龍に問いかけると、首を縦に振っているのでそうなのだろう。
ずんずんと先へ進む黒龍を見ると、黙って俺について来いと言っているみたいだ。
「先輩、本当に黒龍について行って大丈夫なのか?」
「黒龍がこっちって言ってるんだから、間違いないだろう」
いままで白龍を守っていた黒龍が言ってるんだ。
道を間違えるなんてっことは絶対にないはず。
「だけど本当にこんな所に白龍なんているのかよ?」
「こんな所だから、わざわざ選んだんでしょう」
「どういうことだ? 山村君?」
「考えてみて下さい。黒龍は白龍をできるだけ外敵から守りたい。だからこそ中々人が入ってこれない所で、白龍を休ませていたんです」
自分が外敵に倒されたとしても、白龍だけは生き残れるためにこの場所を選んだんだろう。
全くこの黒龍はどれだけ白龍のことを思ってるんだよ。
「桜!! ティナ!! どこにいるんだ!! いたら返事をしてくれ」
「こっちです!! 空さん!!! こっちに来てください!!」
「あっちか」
桜の声がする方に行くと、そこには黒龍並みに大きく白い龍が横たわっていた。
「きれいだ」
由姫が思わずそう呟いてしまう程、白龍の肌は白く透き通っている。
だが全身傷や痣だらけで赤黒い。今は桜やクルル、子熊達が翼に包帯を巻いている所だった。
「空!! 生きていたのね!!」
「当たり前だ。悪いがこんな所で死ぬわけにはいかない」
まず俺達の存在に気づいたのはティナ。
ティナは白龍の前に手をかざし、何かをしているようだった。
「ティナは何をしているんだ?」
「白龍の周りに簡易結界を張ってるの」
「簡易結界?」
「そうよ。桜が白龍の翼の縫合をするために綺麗な空間でしたいって言ってたから。この結界内なら、外界よりもきれいなはずよ」
「そうなのか」
「うん。本当は外で野宿とかする時に使う魔法なんだけどね。まさかこんな所で役に立つとは思わなかったわ」
魔法を使いながら、ティナはため息をついている。
この白龍を包み込む程の魔法を常時保ち続けていることに対して、正直驚きを隠せない。
普通なら数分も持たないだろう。それをここまで保持できるのはティナが持つ強大な魔力量に他ならない。
「ティナは超人か」
「そんなボロボロになって由姫に肩を貸してもらってここまで歩いてきた貴方には言われたくないわ」
「それは仕方がないだろ」
エルフ達だけで来たら、またここで戦闘が起こるかもしれないし。
その時真っ先に切りかかるのはティナだから。そのセリフだけは本人には言えないので、心の中にとどめておいた。
「よし、これであたしの担当箇所は終わりですね」
「お疲れ桜。白龍の治療ありがとう」
「いえいえ、どういた‥‥‥って空さん!? どうしたんですか!? その怪我は!?」
「まぁ、ちょっとな」
「『ちょっとな』じゃありませんよ!! 大怪我じゃないですか!!」
白龍の近くにいた桜が慌てて俺の側に駆け寄ってくる。
俺の元まで来ると、俺の怪我の部分をまじまじと見るのだった。
「空さん!! ちょっと傷を見せてください!!」
「あっ、あぁ‥‥‥わかった」
「クルルちゃん、白龍さんの包帯巻きですが、残りを任せてもいいですか?」
「大丈夫だよーー」
「ありがとうございます。そしたら空さんはそこに座って下さい。傷の度合いを見ますので」
俺を座らせると桜は俺の傷を見始める。
シャツをめくり体中の痣や赤黒く腫れている個所を見ていただけでなく、やがて俺のシャツを脱がし上半身を裸にするのだった。
「桜!? さすがにそれは恥ずかしいからやめてくれ」
「恥ずかしいじゃないです。これ程の酷い怪我って学校以来じゃないですか!? 洞窟の外で一体何があったんですか!?」
「何があったと言われても‥‥‥」
イリスの奴に一方的にボコボコにやられながらも一矢報ったって所か。
ただそれを桜にどう説明すればいいか。
説明の仕方を誤ると、桜がエルフ達に襲いかかってしまい新たな火種になる。
「桜、先輩は大したことはしていない」
「由姫ちゃん?
「簡単なことだ。先輩が男として一皮むけたんだ」
「むけたんですが!?」
「そうだ。凛々しくも格好いいあの姿は、まさに男の中の男だったぞ」
由姫、自慢げに俺のことを語るのは別にいい。
だけど桜の表情をよく見てみろ。絶対に違うことを考えているぞ。
「それでそれで、その時の空さんはどんな感じだったんですが?」
「あぁ、散々痛めつけられて赤黒くなりながらも必死にもがく先輩は凄かった」
「ゴクリ」
「おい由姫!? 桜が誤解してるからちょっと黙ろう」
このまま話していても埒が明かない。
変な誤解が生まれる前に、早く訂正しよう。
「桜に言っておくけど、俺が外でただイリスを倒しただけだ。由姫はその話をしている」
「そうだったんですね。さすがですね! 空さん」
「まぁな」
正確には気絶させただけで、完全には倒していないんだけどまぁいいだろう。
魔法を思いのままに操るイリス相手にあれだけ戦えたんだ。それだけで十分だ。
「でも、それとこれとは話が別です」
「えっ!?」
「空さんはいつも無理しすぎです。心配するこっちの身にもなって下さい」
「悪い」
「わかればいいんです。ではこれを飲んでください」
「これは‥‥‥」
「悠里先輩の真似をして作った回復薬です」
笑顔の桜が渡してきたのは小瓶に入った緑色の液体。
過去俺が何本を飲み干し、青汁よりもまずいんじゃないかと思った至極の一品である。
「桜、俺は大丈夫だから。それよりもそこにいる白龍に飲ませた方がいいんじゃないか?」
「大丈夫です。白龍さんはさっきこの回復薬を5本も飲ませましたから」
「5本も!?」
あのくそまずい恐怖の回復薬を5本も飲んだって言うのか。
白龍の方に目を向けると、どことなく俺に同情するような視線を送っている気がする。
「やっぱり俺はいいよ。俺の他に怪我をしている人達もいるから、そっちにまわした方が‥‥‥
「つべこべ言わず、いいから飲みましょう」
「ふがっ!?」
無理やり小瓶を口に押し込まれてあの液体を飲んでしまう。
いつも感じていた甘くて苦い風味が口いっぱいに広がる。
「回復薬も飲んでくれましたし、次は傷の手当ですね。あたしが塗り込むのでそこでじっとしてください」
「いや、大丈夫だ。桜。自分で塗れるから」
「背中とか手が届かないじゃないですか。だからあたしが体の隅々まで塗り込んであげますから、身を任せて下さい」
そう言うとアイテムボックスから出された塗り薬を桜は俺に塗り込んでいく。
背中だけだと思っていたが、塗り終わると桜は俺の前に座り上半身を丹念に塗り込んでいった。
「桜。この結界は一体いつ解けばいいの?」
「あっ、忘れてました」
「忘れてたの!? そろそろ私も疲れたんだけど?」
「う~~ん。できれば白龍さんの為にずっとその結界を張っていてほしいんですけどね
「そんなの無理よ、私の魔力が持たないわ」
「結界ってティナが張っている奴だよな」
「はい。この結界の中って想像以上に居心地がいいので、白龍さんの怪我の治りを早める為にも、出来ればずっと張っていてほしいんです」
「なるほどな」
そういえば何かの本で見たことがあるけど、傷口からバイ菌が入って傷が腫れてしまうことがあるらしい。
腫れるならまだいい。その傷口が化膿し二次感染の被害になると目もあてられなくなる。
手術で済めばいいが、最悪その部位の切断しないといけなくなるという怖い話だったのを覚えている。
「わかった。その結界を張る奴は、俺達の所から出そう」
「いいんですか?」
「あぁ、おおむね治療は済んだみたいだかな。おい!! 誰かティナと役割を交代してくれ」
「私が行きます」
「ありがとな。そしたらティナと変わってやってくれ」
「はい」
そういうと1人の女性エルフが白龍に向かって手をかざす。
ティナが張った結界の上にもう1枚光の結界が重なった。
「これで大丈夫でしょう。ティナちゃんは後ろで休んでて」
「ありがとうございます」
「これぐらいお安い御用よ」
交代したエルフにお礼を言ったティナがこちらへと歩いてきた。
ティナがため息をついている所を見ると、よっぽど疲れているように見えた。
「お疲れ、ティナ」
「貴方達程じゃないわ。特に桜はよくやってたわよ。白龍だけじゃなくて、空の手当まで‥‥‥」
そこまで言った所で、ティナは話を切った。
その視線は桜に向いている。とろけたような表情で、俺の体に薬を塗り込む桜のことを見ている。
「あたしですか?」
「ごめん、やっぱり前言撤回するわ」
「えぇ~~、あたし頑張りましたよ」
「そうね。頑張った頑張った」
「対応が適当過ぎませんか?」
そりゃそんなだらしない顔をしてれば対応だって適当になるだろう。
さっきまでの必死に白龍を姿はどこへ行ったのか、完全に今の桜は自分の私利私欲で行動している。
ティナだって前言撤回をしたくなるわ。
「適当じゃないわよ。それよりも空って、かなりいい体つきをしてるわね」
「そうか?」
「そうよ。細身なのにがっちりしていて、見ていてきれいだわ」
「そうだな。男の人に好かれそうな、そんな体だ」
「やめろ、由姫。その一言は余計だ」
周りの人は笑っているが、笑い事じゃないぞ。
これで俺が夜な夜な男に誘われたらどうするつもりだ。
誘われるだけならまだいい。誘拐されたら溜まったものじゃない。
「さっきの話は冗談だが、なんだかんだ先輩の体は鍛え抜かれてる」
「そんな大したことはしてないけどな」
「普段から運動はしてるの?」
「あぁ、軽く走ったり筋トレは昔からしていたけど、そんなに本格的にはしていない」
中学の時も部活という部活に入ってなかったし、体育の授業と朝早く起きて軽く走ったり筋トレをするだけだ。
それは高校に入った後でも必ずしており、今では生活のルーティーンになっている。
「空さんの体‥‥‥確かにいいですね」
「やめろ、桜!! 桜が言うと、よこしまな思いにしか聞こえない!!」
現に薬を塗り終えても、俺の体から手を離そうとしないし。
一体どうすれば桜は俺から離れてくれるんだろう。
「桜おねえちゃん、包帯巻き終わったよ!」
「ありがとうございます。クルルちゃん」
「クマ!」
「グマ!」
「そうですね。クマちゃん達もありがとうございます」
クルル達が来て桜がやっと離れてくれた。
どこからか取り出したタオルを使い、薬のついた手を拭いていた。
「それで白龍の様子は‥‥‥」
「しーーーーーーーー」
「!?」
「今白龍さんは寝ているから、起こしちゃダメだよ」
白龍の方を見ると寝息を立て穏やかな顔していた。
どうやら疲れて寝てしまったらしい。お腹が上下しているので、生きていることは確認できる。
「これからどうしようか」
「そうね。いつまでも白龍をこの洞窟に寝かせておくわけには行かないわ」
確かにここは衛生面を見ても非常に悪い。
もっと衛生面に優れた所に移動する必要がある。
「町に連れて帰って一時的に保護するのはどうでしょう?」
「あまりにも大きすぎて、さすがに町に連れて帰るのは無理だ」
「それならせめて草原に出すのはどうだ? 洞窟よりはましだろう」
「でも先輩、どうやってこの白龍を運ぶんだ?」
「そうだな」
この白龍は非常に大きいので、担いで外に出ることは難しいだろう。
動かす方法がない以上、ここに寝かせておくしかない。
「それなら俺達に任せろ」
「ディアボロさんに何か名案があるんですか?」
「ある。お前達、あれを使って白龍を運ぶぞ!!」
「はい」
ディアボロさんの合図で白龍を取り囲むエルフ達。
丸い輪になって光の壁の中にいる白龍を見上げていた。
「グォ!?」
「落ち着け黒龍」
「大丈夫ですよ。あの時と状況が違いますから」
先程戦っていた時とは状況が違う。今はエルフ達も白龍を治療する為に動いてくれている。
ディアボロさんが早々に約束を破ることもないだろうし、ここは任せてもいいだろう。
「行くぞ!!」
「はい!!」
『グラビデーション!!』
周りを囲むエルフ達が魔法を唱えると、今まで動かなかった白龍がゆっくりと持ち上がる。
あれだけ動かすのが難しいと言われていた白龍が簡単に浮いている。
やっぱり魔法ってすごいな。
「よし、早く草原に行こう」
「はい」
こうして俺達はディアボロさん達エルフの助けもあって、白龍を洞窟の外へと運んでいく。
かなり時間がかかったが、無事怪我をした白龍を草原の外に運ぶことに成功したのだった。




