真のリーダー
「まさか‥‥‥イリス様が!?」
「あんな人間ごときに‥‥‥」
イリスが倒れたことで、討伐隊の面々が呆然としている。
やはり司令塔のイリスがいなくなって動揺しているようだ。
「我々はどうすればいい?」
「イリス様を倒したあいつを倒すべきじゃないか?」
「でもイリス様程の使い手でも倒せなかったんだぞ。正直我々が束になった所で倒せるのか?」
口々に話すエルフ達の動揺は広がっていく。
最初は後衛のエルフ達のみだけだったが、徐々に由姫や黒龍と戦っていたエルフ達まで手を止めていた。
「先輩、やったのだな」
「グゥ」
後ろを振り向くと由姫や黒龍が俺の事を見ている。
由姫なんてエルフ達がこれ以上抵抗しないと思ったのか、武器をしまって手まで振っている。
「全く、不用心だぞ」
いつエルフ達が攻撃してくるかわからないのに、そんなに無邪気に笑っているなんて。
まだ戦いは終わってないのに‥‥‥全く。俺のパーティーメンバーはお気楽な奴が多すぎる。
「どうする?」
「イリス様がこの状態では撤退するしかない」
そうだ。戦うのをやめて、エルフの町に戻ってくれ。
そしてその間に黒龍達の治療を終えて、どこか別の場所に逃がそう。
「でも、これから俺達はどうしよう」
あれだけ派手に暴れたんだ。もうエルフの町には戻れないよな。
別の場所に移動しないといけないがどこに向かおう。
いっそう俺達の街に戻って、日向達と合流するのがいいだろうな。
「先輩!!」
「由姫!!」
「生きていてよかった。どうしたのだ!? この体は!? 体中あざだらけだが、大丈夫なのか!?」
「なんとかな」
正直全身ズキズキと痛むが、何とか立ってられる。
全身骨折してるんじゃないかってぐらいの痛みだ。
気を抜くと気絶してしまいそうになる
「ちょっと待ってくれ!!」
撤退しようとするエルフ達の中で、1人声を張り上げるエルフの青年がいた。
その青年が身振り手振りで何かを伝えようとしている。
「イリス様が倒れてしまった今、その意志をついで、我らが黒龍を止めねばならないんじゃないか!!」
「でも、あの人間達相手でも大変なのに。黒龍まで相手にするのは‥‥‥」
「そんなことを気にしていたら、イリス様の敵討ちはできないぞ!!」
強い言葉で周りを鼓舞する青年。その青年の声に答えるようにその意志は波及していく。
「確かにあいつの言う通りだ。ここで止めないとエルフの町が襲われる」
「エルフの町が襲われたら、私達の家族が危ない」
「イリス様の敵討ちをしよう」
先程まで撤退しようとしていたエルフ達の足が止まる。
止まった足は反対方向を向き、俺達や黒龍に向けられていた。
「くそ!! イリスがいなくなっても、エルフ達は止まらないのか!!」
司令塔がいなくなればエルフ達は行動しなくなると思っていたが、そんなことはなかったらしい。
さすがにこれ以上あの人数で攻められたら、俺達の身が持たないぞ。
「行くぞ!! 全員前進しろ!! あの憎き人間と黒龍を殺すのだ!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
草原から押し寄せるエルフ達。草原中を埋め尽くすエルフはさながら陸の津波。
下手をすれば先程イリスが指揮していた時よりも士気が高い。
「先輩!!」
「あぁ」
やるしかない。例え相手が何人いたとしても、俺達が絶対にエルフ達を抑えて見える。
俺達が覚悟を決めた時、森から出てくる1人の男性エルフの姿があった。
その姿は俺達も見たことがある鍛冶姿で、この戦いを見つめていた。
「お前達!! 何をしているんだ!!」
俺達とエルフが戦っているのに驚いたのだろう。
森から出てきた人物。ディアボロさんは、俺達の前に飛び出しそう叫んだのだった。
「ディアボロさん!!」
「おい!! 何があった!? 説明しろ!!」
俺達の前に飛び出すディアボロさん。
よく見るとディアボロさんだけじゃない。ディアボロさんの後ろから討伐隊の人数を率いて俺達の前に現れたのだった。
「先輩、どうする?」
「さすがにこの数のエルフ相手に戦っても絶対に勝てない」
今の人数でもギリギリで戦っているのに、ここで援軍なんて来られたら到底かなうわけがない。
ただでさえこっちはボロボロなんだ。これ以上の人数で来られたら勝算なんてない。ただ一方的に蹂躙されるだけだ。
「ディアボロ様、聞いて下さい。人間が黒龍に味方をして、イリス様を気絶させました」
「何!? それは本当なのか!? 山村君」
「イリスを倒したのは本当だ。だけどそれには理由がある」
「その理由とやらを聞かせてもらおうか」
ここだ。ここが重要だ。
ここでディアボロさんを説得できなければ、俺達に勝ち目はない。
「元々黒龍は俺達と戦う気はない。洞窟の中にいる白龍を守っていただけだ」
「白龍!? 黒龍だけじゃなくて、白龍までいたのか!?」
「そうだ」
この人なら話せばわかるはずだ。
黒龍達はエルフと事を構えることがないとわかれば、きっとこの戦いを止めてくれるはず。
「白龍の怪我さえ治れば、黒龍達はここから出ていくだろう。エルフ達が襲われることはない」
「それは本当なのか?」
「嘘だ!! 人間達は嘘をついている!! ディアボロ様、騙されないでくれ!!」
「ディアボロさん!! 俺達は嘘をついていない!! 頼む!! 信じてくれ」
ディアボロさんは腕を組んだまま悩んでいる。俺達両者の意見を聞いて、どちらが正しいか悩んでいるように見えた。
「黒龍が暴れていないのがその証拠だ!! 危害を加えなければ、黒龍は何もしない!!
「ふむ」
ディアボロさんはいまだに悩み続けている。
目をつむり、考えをまとめているようにも見えた。
「これだけ言っても駄目なのか?」
そうなったら俺も戦うしかない。
1人でも多くのエルフを食い止めて、桜達が白龍の治療をする為の時間を稼ぐ。
それが俺達が今できる最善の手だ。
「わかった」
「ディアボロ様」
「全員、攻撃を今すぐやめろ」
「ディアボロ様!?」
「言っていることがわからないのか!! 全軍今すぐ攻撃をやめるのだ!!」
ディアボロさんの一言でエルフ達が武器を降ろす。
事実上の戦闘終了の合図。これで本当にこの不毛な戦いに終止符を打つことができた。
「あぁ、終わったんだな」
「先輩!!」
戦いが終わった途端に気が抜けてしまい、その場に膝まづいてしまう。
それと同時に全身突き刺すような痛みに襲われる。
「本当に大丈夫なのか? やっぱり今すぐ桜に見てもらった方が‥‥‥」
「大丈夫だ」
「でも‥‥‥」
そんな心配そうな顔をしないでくれよ。桜じゃないんだから、由姫はもっと不遜な態度でいてくれていいのに。
「どこかの誰かさん達が毎日俺がボロボロになるまでいじめてくれたおかげで、痛みの耐性だけは人よりもある」
「この状況で‥‥‥よく減らず口が叩けるな」
「まぁな」
由姫に肩を貸してもらいその場で立ち上がる。
立ち上がると、ディアボロさんが俺の側に来ていた。
「山村君は大丈夫なのかい?」
「俺のことは心配しないでくれ。それよりイリスはどこに行った?」
「イリスの奴は今俺の所の奴が回復魔法をかけてくれている」
「そうか、それならよかった」
命に別条がないし、回復魔法をかけてくれているのなら平気なはず。
きっと傷の治りも早いので問題ないだろう。。
「それよりも、さっきの話は本当なのか? 洞窟に白龍がいるって?」
「あぁ。クルルが洞窟で怪我をしている白龍を見つけた。今はクルルに道案内を任せて桜とティナが白龍の治療にあたっているはずだ」
「なるほどな。君達の話はわかった」
それだけ言うと今度は黒龍の方へと歩いていく。
黒龍は一瞬身構えたが、ディアボロさんが武器を持っていなかったこともあり警戒心を解くのだった。
「おい、黒龍。その洞窟の中で仲間が怪我をしているというのは本当か?」
「グォ」
「その白龍を守る為に、ここで見張りをしていたんだな」
「グォ。グォ」
首を縦に振る黒龍。やはりクルルの言っていることは本当だったみたいだ。
「なるほどなるほど。状況がつかめて来たぞ」
しばし考えるディアボロさん。腕を組んで考え込んだまま何も言わない。
「ディアボロさん?」
「よし、わかった。おい、黒龍。もし白龍の治療を俺達がしたら、俺達を襲わないって約束できるか?」
「ディアボロ様!?」
ディアボロの後ろで驚くエルフ達。その全員が全員ディアボロさんの言葉に驚いているようだった。
「本当に白龍の治療をするんですか?」
「そうだ。何か文句があるのか?」
「いえ、何もありません」
さすがにディアボロさん相手に反論できないのか、先程の青年エルフは縮こまってしまう。
黒龍はといえば、驚きのあまりその場で固まっていた。
「どうするんだ? 黒龍。後はお前の返答待ちなんだが?」
「グォ」
そう言ってうなずく黒龍。
黒龍からしてみれば、エルフを襲わなければ白龍を無償で治療してくれるんだ。
元々争うつもりもなかったので、その申し出は願ったりかなったりだろう。
「よし! そうと決まれば全員で洞窟にいる白龍の治療に当たるぞ!!」
「待って下さい、ディアボロ様!! この龍が嘘を言っているのかもしれないじゃないですか!!」
「何を言ってるんだよ!!」
黒龍が嘘を言うはずがないだろう。現に今は俺達に対して、何もしようとしない。
「もしかするとエルフ達を全員洞窟におびき寄せて、焼き殺す可能性だってあるだろう」
「そんなことをしたら、白龍まで焼き殺してしまうぞ」
わざわざ洞窟の前で敵が来ないか見張るぐらい、黒龍は白龍のことを大事に思っている。
それなのにわざわざそんなことをするのか。ばかばかしい話だ。
「確かに、その可能性は否定できないな」
「なら、ここで倒さないと」
「でもな、俺はこの龍のことを信じたい」
「何故?」
「考えてみろ。この龍のいる所から俺達の町までそう遠くない。それなのに、この龍は俺達の町を一切襲おうとしなかった。何故だかわかるか?」
ディアボロさんは青年エルフに問いかける。
青年のエルフは気まずそうな顔で、言葉を紡ぎだす。
「それは今は満腹だから、動く必要がなかったとか」
「例え黒龍が満腹だとしても、白龍のエサも必要だろ? 怪我人には栄養を与えないといけないはずなのに、何故与えなかった?」
「うっ!?」
「お前の言いたいこともわかるけどな、俺達の町を襲わなかったってことは、敵対する理由がないってことだ。そうだろ? 黒龍」
「グォ」
またしても首を縦に振る黒龍。
どうなることかと思ったが、ディアボロさんの出現でようやくこの話が本格的にまとまりそうだ。
「決まりだな。回復魔法ができる奴は何人か洞窟に入って白龍の治療を頼む。残りの奴等はここにいる怪我人の治療をするぞ」
「はい」
そういって的確に配置を決めていくディアボロさん。
洞窟に行くメンバーも決まったのだろう。
いくつか言葉を話すと洞窟へと歩いていく。
「待ってくれ、ディアボロさん」
「山村君?」
「洞窟の中に、白龍の元に俺も連れて行ってくれ」
「無茶だ先輩!! その怪我では!! 動かない方がいい」
「エルフ達だけじゃ、桜とティナが警戒する。俺が直接行って現状を伝えた方がいい」
そうしないとまた不毛な戦いを生み出すことになるかもしれない。
そうならない為にも俺も一緒に同行した方がいいだろう。
「そういうことならわかった。山村君も一緒に来てくれ」
「ありがとうございます」
「グゥ!」
「お前も来るのか?」
「グゥ」
どうやらこの黒龍もついてくるみたいだ。
洞窟の道案内も必要だし、ついてくるって言うならしょうがない。一緒に行こう。
「行こう。白龍の元へ。出発だ」
俺の合図と共に、全員で洞窟内へと入る。
「待ってろよ、桜。今応援を連れて行くからな」
由姫に肩を貸してもらいながら、暗い洞窟を1歩1歩進んでいくのだった。
ブックマーク登録&評価をよろしくお願いします!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】を押して頂ければ幸いです




