空の意地
「思い出せ!!」
由姫とティナと庭で特訓したことを思い出せ。対して剣が上手くない俺に、2人が教えてくれたことを。
「思い出せ!!」
ティナの剣戟を。由姫の勇気を。そして2人の摸擬戦を‼︎
「くっ!! まだ私に歯向かってくるというのか!!」
「自分の仲間を粗末に扱うお前なんかに、俺は絶対に負けない!!」
「言わせておけば!! この三下が!!」
やはりそうだ。今のイリスには余裕がない。
それは俺がイリスの魔法をことごとく攻略したからだろう。
「いける!!」
たぶんあいつが持っているカードはほぼ全部出し尽くしているはずだ。
だからあんなにも焦っている。
その証拠にイリスの言葉には余裕がない。焦っている今こそ、イリスを倒すチャンスだ。
「俺の武器が遠距離系統のものだけだと思うなよ!!」
「何!?」
左手にデザートイーグル、右手に剣を構えイリスの方へと向かう。
その行動にイリス面食らったみたいだ。
「人間!! お前は剣も使えたのか!!」
どうやらイリスは俺が剣を使えることに驚いているようだ。
きっとこの戦いの中で俺が銃しか使ってこなかったからだろう。
これは俺も意図していなかった偶然だ。
「やあっ!!」
イリスの元へたどり着く。
走っているその勢いのまま剣をイリスに向かって振り下ろした。
「くっ!?」
案の定光の壁に阻まれるが、それがどうした。
力で押し切ってしまえば、そんな壁なんて怖くない。
「くそっ‥‥‥」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!」
押している。イリスの壁に対して、俺の剣の方が圧倒的に押している。
徐々に壁が押されて行き、やがて光の壁にひびが入った。
「まずい‥‥‥壁が‥‥‥」
次の瞬間、あんなにも硬かった光の壁が簡単に割れた。
デザートイーグルで撃っても割れなかった光の壁が、いとも簡単に壊れたのだった。
「くそ!!」
俺から慌てて距離を取り、魔法を放つイリス。
それを俺は難なく避けていく。
「もしかして、あの光の壁は案外もろいんじゃないか?」
強化していない剣を押し込んで簡単に壊れたんだ。
あの光の壁自体はそんなに強くないはずだ。
「でも、さっきはデザートイーグルで撃っても防がれた」
1発撃ったが全く貫通しなかった。さっきの剣よりも強化されているはずなのに、防がれた理由は何だろう。
「‥‥‥もしかしてあの光の壁は攻撃が当たるたびに、イリスが張りなおしているんじゃないか?」
さっき撃った銃弾は1発。続けてもう1発。1発1発の間には数秒のラグがあった。
対して剣は攻撃した後、ずっとイリスのことを押し込み続けていた。
「試してみる価値はあるな」
俺はイリスに向かってデザートイーグルを構えて、トリガーを連続で何度も引く。
なるべく時間のラグがないように、何度も何度も。
その弾は全てイリスの光の壁に命中していた。
「ぐっ!?」
1点集中の攻撃。そしていつになっても途切れることがない弾。
これも俺のスキルがあるからなせる技だ。普通の武器なら弾切れだ。
「この‥‥‥」
何発か当たると、光の壁にひびが入る。
いいぞ。このまま光の壁を攻略だ。
「壁が‥‥‥」
何発も同じ個所に打ち込んだおかげか、ひびが入っていたところが徐々に広がっていく。
やがてひびは壁全体に達して、光の壁がはじけ飛ぶ。
「なっ!?」
「やった!」
これで光の壁は攻略だ。構わず連射を続け残った弾は全てイリスの腹部に命中した。
「ぐふっ!?」
複数の銃弾が腹部に当たっているイリスは、体を九の字に曲げ悶絶する。
それもそのはずだ非殺傷性の高いゴム弾とはいえ、その威力は相当なもの。
プロボクサーのボディーブローを何発も受けている感覚があるはずだ。
「さっさと倒れろ!!」
こうなったら後は俺とイリスの根競べだ。
イリスが光の壁を設置するのが先か、俺の銃の連射が止まるのが先か。
正直トリガーを引く指の感覚がなくなってきてはいるが、ここでひいてはいられない。
俺を信じてくれている人達が待ってるんだ。絶対にイリスになんて負けない。
「もう少しか?」
そう思ったが、イリスの様子がどこかおかしい。
あれほどの弾を受けても倒れない。むしろ眉間に青筋を浮かべて怒っているようにも見えた。
「私を‥‥‥‥‥」
「?」
「私を‥‥‥甘く見るなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
瞬間、イリスの魔法が炸裂して弾が消し飛んでしまう。
それと同時にイリスの魔法攻撃のせいで、俺は撃つのをやめて避けるしかない。
「あと少しだったのに」
もう少しで気絶させられたのに。なんてしぶといやつなんだ。
「負けられないんだ」
「?」
「私のことを慕うものが大勢いる。父上という強大な存在がいるにも関わらず、私のことを信じてついてきてくれるものだっている」
「一体何を‥‥‥?」
「そのもの達の為にも‥‥‥こんな所で雑種なんかに負けるわけにはいかない!! いかないんだ!!」
草原中に響かせるぐらい大きいイリスの叫び。そして後ろには先程とは比較にならない程大きな魔法陣が現れる。
「イリス!!」
「この魔法陣からは逃れることはできない!! 何人たりとな」
「何!?」
空一面に広がった大きな魔法陣から複数の赤い光弾が現れた。
それは数十個単位ではない。下手をすると千以上ある。
「なんて数だ」
「この複数に展開した光弾を避けることができるかな?」
「くっ!!」
先程数十個の光弾には対応できたが、さすがに数百ともなると俺も対応ができない。
それに体の痛みも頂点に達し、体の一部の感覚がない。この状態で戦うのは無謀だと言っていいだろう。
「‥‥‥ここまで、なのか?」
イリスを追い詰める所まではいったが後1歩足りなかった。
やはり魔法を使える使えないの差は大きい。どうやらここまでだったみたいだ。
「ごめん、皆」
桜、由姫、ティナ、クルル。俺はイリスを止められなかった。
すまない。俺はどうやらここまでのようだ。
『いいのか、ここで逃がして。怪我が治れば俺達はお前を倒しに来るかもしれないんだぞ』
『別に構わない。その時は返り討ちにしてくれる』
「!?」
ふと脳裏に学校で俺とフランシスが交わした会話がよぎる。
そういえば学校で俺の事をを逃がした時、あいつは何て言っていた?
『ずいぶんな自信だな』
『まぁな。それに我も武人の1人。青い果実よりも熟れた果実を食べる方を好むのだ』
つまりフランシスは成長した俺ともう1度戦いたいってことだ。
いいのか、俺はこのままで。あいつとの約束を果たせないまま、こんな小物なんかにやられてしまっていいのか?
『次に我と相まみえる時は成長した貴様と会えることを願っている』
「!?」
そうだ、そうだよ。俺はフランシスと約束したんだ。成長した姿で、また会うって。
会って俺達を逃がしたことを後悔させてやるって。あの時そう誓ったんだ。
「どうした? 人間!! ここで土下座をして命乞いするなら許してやらんこともないぞ」
「誰がするかよ」
そんな恥ずかしい真似できるわけがない。
そんなことをすれば、俺が今まで戦ってきた奴等全員への冒涜だ。
「おい、イリス」
「何だ?」
「お前の背負うものはわかった。お前の思いも全部」
イリスはきっと今まで次期族長というプレッシャーにさいなまれていたのかもしれない。
エルフ族を収める偉大な父。それに追いつくために必死に努力してきたのだろう。
だからこそ、自分についてきてくれるエルフ達の前で無様に負けることは許されない。
先程の攻撃を受けても倒れなかったのは、こいつの意地とプライドだ。
「だけどな‥‥‥俺が背負っているものの方がお前より重いんだよ!!」
今まで戦った敵はそれぞれ信念を持って戦っていた。
ゴブリンキングは自分の一族を背負って、ウォールベアーはライトやムーンを守る為。
フランシスは強くなった俺と戦うために、俺を逃がした。
「俺を信頼してくれる人、それに今まで俺と戦って散っていった敵の為にも、俺は絶対ここに負けるわけには行かない!!」
ここで俺が死んだら、あの世で一体どんな顔をして会えばいい。
こんな小物に負けたのかって、皆に笑われてしまう。
「覚悟しろ!! イリス!!」
「どこまでも生意気な人間だ。行け!! あいつを殺すんだ!!」
展開された魔法が俺に向かって飛んでくる。
俺の想像以上のスピードで俺に迫ってくる。だけど‥‥‥。
「遅い!!」
フランシスの乱れ突きと比べれば、この光弾ははるかに遅い。
こんな攻撃なら簡単に避けることができる。
「何!?」
「思い出せ」
由姫との特訓を。あの剣と体術の特訓を。
「思い出せ!!」
ティナが見せた剣捌きを。あれをここで体現するんだ。
「はぁぁぁぁ!!」
「くっ!!」
イリスは咄嗟に懐に持っていた剣で俺に切りかかる。
だがどう見ても素人の剣だ。こんな攻撃当たるはずがない。
「何!?」
デザートイーグルで剣を受けるとそのまま後ろへと受け流す。
体勢を崩したイリスは前のめりになった。
『もしかすると先輩は剣での攻撃に加えて、体術を加えてみるのもいいかもしれない』
「そこだ!!」
沈み込む体めがけて、剣とデザートイーグルを投げ出し左の拳をイリスの腹に叩きつけた。
「ぐふっ!!」
瞬間、イリスの顔歪み体が九の字に曲がった。
「まだまだ!!」
よろけた瞬間、右の拳をイリスの腹部に叩き込む。
再び苦悶の表情を浮かべるイリス。先程までの銃での攻撃が効いていたせいか簡単に上半身が前に沈み込んだ。
「ぐはっ!?」
「これで‥‥‥最後だ!!」
腰を使い大きく振り上げ左足をかがめる。
腰の回転を利用したハイキック。俺渾身の右のハイキックがイリスの顔面にめり込んだ。
『ぐしゃっ!!』
頭蓋骨が陥没するような音が聞こえた。
手ごたえはバッチリ。どうやら俺のハイキックは見事に命中したみたいだ。
「俺が‥‥‥俺がこんな所で‥‥‥」
「悪いな、イリス。俺は誰にも負けられないんだよ」
膝まずくイリスの顔に右のストレートを叩き込みイリスは吹き飛ばされ、そのまま草原に仰向けに倒れこんだ。
「お前と俺とでは背負っているものが違うんだ」
桜に由姫、それにティナやクルル。俺の周りには守るものが増えた。
あいつ等は俺の事を信じてくれている。山村空は絶対に誰にも負けないって。
だからこそ期待に応える為には、絶対に負けることができない。
本気であいつ等を守りたいと思ったら、俺が戦うしかない。
「とはいっても、聞こえてないか」
イリスは草原でのびている。倒れているイリスの側に駆け寄ったが息はあるので、死んではいない。
「勝った」
イリスとの1対1で俺が勝った。
「勝ったんだよな?」
倒れているイリスを見るが、いまだに半信半疑だ。
だが徐々に勝利の実感が湧く。誰の手も借りずに、自分1人で勝ったという実感が。
「俺が勝ったんだぁぁぁぁぁぁ!!」
勝ち名乗りのような草原中に響く叫び声。
それが戦いが終わった合図となり、エルフと黒龍の争いに終止符が打たれたのだった。
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