届かない声
「クルル!! 危ないからここを離れるんだ!!」
「離れないよ!! その黒龍さんはいい子なの!!」
「いい子?」
「そうだよ!! だから今すぐ戦いはやめて!!」
戦場のど真ん中でクルルは叫び続ける。
その声を聞いて周りにいたエルフ達も手を止めてクルルのことを見るのだった。
「クルル!! そこにいる人間の言う通りだ!! 一刻も早くそこから離れるんだ!!」
「イリスおにいちゃんも戦いはやめようよ。もう充分でしょ? これ以上戦ってもいいことなんて何もないよ」
「クルル、何があったんだ?」
「私、洞窟で見たの」
「何を見たんだ?」
「大怪我をしている白龍さんがいたの!! まだ生きてるけど、このままじゃ死んじゃうよ!!」
「白龍だって!?」
黒龍だけじゃなくて白龍までいるのかよ。
ティナの話だと白龍も黒龍と同じ龍種最上級のモンスターだと言っていた。
そのモンスターが怪我をしていたなんて。一体ここで何があったんだ?
「クルルちゃん、もしかして黒龍さんがこの洞窟の近くにいたのも‥‥‥」
「そうだよ!! その黒龍さんは洞窟にいるのは白龍さんを守っていたからだよ」
「そうだったのか」
黒龍がこの辺りにいるのは何か理由があるからだと思っていた。
だけどまさか黒龍が自分の仲間を守る為にいるなんて想像してなかった。
「だからここから離れなかったのか」
たぶん黒龍は俺達のことも気づいていたのだろう。
それでも何もしてこなかったのは、俺達が特に何もしなかったからだ。
そして調査隊のエルフ達が攻撃されたのは、きっと洞窟の側にいたからだ。
自分の弱っている仲間がエルフ達に殺されると思ったのだろう。だから洞窟に近づかれないように、怪我をする程度の攻撃を加えたのだ。
「グォォォォォォォォ!!」
「クマクマクマ!!」
「グマグマグマ!!」
「グォ!?」
暴れそうになる黒龍に対して、ライトとムーンは必死に話しかけていた。
「ライト、ムーン」
「クマ!! クマクマ!!」
「グマ!!」
「グォ」
必死に黒龍を説得するライトとムーン。
同じモンスターが話しかけたからか、先程よりも黒龍が落ち着いているように見える。
「空さん、どうしますか?」
「クルルが本当のことを言っているかわからないけど、本当だったら白龍を治療をした方がいいな」
その白龍の怪我が酷いなら早急に治療した方がいいだろう。
クルルの話では大怪我をしていたと聞く。だったら早くそこに行って治療した方がいいに違いない。
「でも、誰が治療するのだ? 三村先輩や木内先生もいないのに?」
「そうだな‥‥‥」
由姫の言う通りだ。今ここに頼りになる悠里や良子さんもいない。
改めて悠里達の存在がどれほど大きかったのかを思い知らされた。
「それならあたしが治療します」
「桜が?」
「はい。悠里先輩から色々教わったので、任せて下さい!!」
そう自信満々に桜は言う。
桜がこう言っているなら大丈夫だ。ここは桜を信じてみよう。
「わかった。洞窟にいる白龍のことは桜に任せた」
「はい、任されました」
白龍のことは桜に任せればいいだろう。後は黒龍を何とかするだけだ。
「空、白龍の所に私も行くわ」
「ティナも?」
「そうよ」
「もしかして、桜みたいに怪我を直すことができるの?」
「残念ながらそれはできないわ」
「できないのか」
「そんながっかりしないでよ。桜のような治療はできないと思うけど、私は回復魔法が使えるわ。それで桜の手伝いをすることはできると思うの」
「頼もしいな」
ティナは今まで数々の魔法を使ってきたけど、回復魔法も使えたのか。
もしかすると、ティナに使えない魔法なんてないように思える。
「だけど白龍の所に行く前に治療してほしいやつがいるんだ」
「別にいいけど、誰を治療するの?」
「黒龍だよ」
「黒龍を治療するの!?」
「そうだよ。今の黒龍なら治療できるだろう」
ライトとムーンが説得してくれたおかげで、黒龍は落ち着いている。
今なら俺達の声が届くに違いない。
「黒龍」
「グォ?」
「俺達はこれから白龍の治療をしようと思う。もしお前が白龍のことを守る為にここにいるのなら、ここで一旦休戦しないか?」
「グォォォォォ!!」
「ひっ!?」
「ティナ、大丈夫だ。落ち着いて」
黒龍は叫んでいるが、先程のように怒りに任せているわけではない。
白龍の怪我の治療ができてうれしいのだろう。だからきっと喜んでいるに違いない。
「クマクマ!」
「グマグマ!」
「グォ!」
「交渉成立だな」
黒龍も首を縦に振っている所を見るとこれで休戦協定は成立だ。
もう俺達は戦う必要がない。後は白龍の治療をして、町に帰ればいい。
「そしたら桜は白龍の治療を頼む。由姫は桜のアシスタントをしてほしい」
「わかりました」
「わかった」
「クルルは桜を白龍がいる場所まで連れて行ってほしい」
「わかったよ」
「そしたら私は黒龍の治療をすればいいのね?」
「頼む。黒龍の治療のアシスタントは俺がするから」
正直できることといえば、包帯を巻くことと回復薬を飲ませることしかできないがそれで十分だろう。
ティナの治療の邪魔をしないように最低限のことを俺はするつもりだ。
「そしたらいったん解散だ。桜は何かあればクルルに連絡を‥‥‥」
「危ない!! 空、避けて!!」
「避けてって、危険なんか何も‥‥‥」
ないと思っていたが、そんなことはなかった。
空から降り注ぐ無数の矢。雨のように降り注ぐ弓矢が黒龍の元へと向かっている。
「何で弓矢で攻撃してるんだよ!!」
戦いは終わったはずなのに、なんで攻撃をするんだよ。
黒龍だってもう戦う気がないのに、イリスは何をしてるんだ。
「くそ!! 矢の数が多い!!」
いくら俺のハンドガンとデザートイーグルで狙い打ったってこの数は防ぎ切れない。
そう思った時、黒龍が翼をはためかせた。
「グォォォォォ!!」
「黒龍!!」
直後ものすごい風が吹き荒れる。
それは黒龍が空に向かって羽を羽ばたかせたのだった。
「矢が全部吹き飛ばされました!!」
「さすが黒龍だ」
俺達を助ける為にやったわけではないと思う。
だけど敵にすると恐ろしいが、味方になるとこんな頼もしいことはない。
「イリス!! やめろ!! もう黒龍と戦う必要はない!!」
「何を言ってるんだ!! 洞窟の中に白龍までいるんだぞ!! 何でそんなに冷静に話していられるんだ!!」
「イリスの方こそどうしたんだよ!! 白龍がいたって別に関係ないだろ?」
「関係なくない!! もし白龍の怪我が治ったら、黒龍と一緒に我々の町を襲うかもしれないじゃないか!!」
なるほど、そういうことか。
イリス達は怖いんだ。黒龍と白龍という2匹のモンスターに。
俺達は今の黒龍の状態を見て、もう町を襲うことはないと思っているがイリス達は違う。
モンスターは悪。自分達に害をなす敵。そう思っているのかもしれない。
「この黒龍は安全だ!! エルフ達を襲う事はない!!」
「確かに今はそうかもしれないな」
「だろ?」
「だけど、将来その龍達がエルフを襲うかもしれないだろ!!」
「考えすぎじゃないか?」
「考えすぎなものか!! 我々は今を見ているんじゃない。未来のことまで想定して行動しているんだ!!」
イリスの言っていることも一理あるのはわかる。
確かにこの場の戦いは切り抜けられても、将来的に町を襲う可能性もある。
あくまでわずかな可能性だが、それを否定することを俺にはできない。
「どうやら反論することができないようだな」
「それは‥‥‥」
言い切れない。今はともかく未来のことまではさすがに予測できない。
イリスもそれがわかっていて言うのだろう。口の端が吊り上がっている。
「ならここであいつ等を倒すのが妥当だろう。むしろクルルは黒龍以外の脅威を教えてくれたんだ。感謝しないといけない」
イリスが不敵に笑う。どうやらこいつはどうしてもこの龍達を退治したいようだ。
「駄目だよ!! イリスおにいちゃん」
「そうよ!! 相手に戦う気がないのだから、ここは引くべきよ!!」
「うるさい!! 私に指図するな!!」
どうやらイリスは頭に血が上っているようだ。
こうなるとこの龍達を倒すまで引いてくれそうにないな。
「先輩、どうする?」
「このままじゃ黒龍さん達がやられてしまいます」
「どうするって、簡単な話だろ?」
「どういうことよ?」
「俺達でイリス達エルフの目を覚まさせるんだ」
顔面に一発お見舞いすれば、きっとあいつの目も覚めるだろう。
今までイリスには散々イライラさせられてきたこともあったんだ。少しはいい薬になるだろう。
「桜は先にクルルと洞窟に入って、白龍の治療を頼む。ティナも黒龍を連れて洞窟に行って、肩の治療をしてくれ」
「空と由姫はどうするのよ?」
「俺と由姫はここでエルフ達の足止めをする」
「正気!? 討伐隊は数百人単位でいるのに、全員を相手にできるの!?」
「できるできないじゃない!! やるしかないんだよ!!」
さすがに俺も何とかできると思えないが、少しは時間稼ぎができるはずだ。
幸い俺の武器はエルフ達も見たことがない飛び道具。これを使って上手く時間を稼いて、白龍を治療する時間を稼げればそれでいい。
「空‥‥‥」
「大丈夫だ。安心してくれ。誰も殺さずに、全員の目を覚まさせてやる」
心配そうな目をするティナ。そんなティナに優しく語りかける。
「もしかすると気絶したりすることがあるかもしれないけど、そのぐらいはしょうがないだろ?」
五体満足で全員無事に町に送り届けてやればいい。
多少の内見ぐらいは大目に見てくれるはずだ。
「全く、先輩は無茶なことをするな」
「悪いな。由姫にまで迷惑をかけて」
「迷惑なんて思ってないぞ。私は先輩の剣だ。その先輩に害をなそうとするものがいるなら、露払いをするのが私の役目」
「さすが由姫だな。そう言ってくれるとありがたい」
「そうだろ。もっと褒めてもいいのだぞ」
「別に褒めてないから」
これから大変な戦いをしようって時に俺達は何を言っているのだろう。
下手をすれば死ぬかもしれないのに。何でこんな笑顔なんだ。
「頼りにしてるぞ、由姫」
「任せてくれ」
さて、俺達の覚悟は決まった。後はあのエルフ達の目を覚まさせるだけだ。
「お前達、まさか黒龍側に寝返ったのか!?」
「寝返ってない。俺はこの無駄な戦いを終わらせたいだけだ」
エルフと龍。それぞれが守りたいものを守るための戦いだ。
双方が害をなすものなら戦ってそれを手に入れるのも納得だが、今回はそういったものは一切ない。
もしお互いに手を取り合えるなら、これ以上犠牲が出る前にやめるべきだ。
「エルフを裏切るとは!! 人間め!! エルフを裏切るとどんなことになるか見せてやる!! 全軍、かかれ!! あの人間共もに目に物を見せてやれ」
「いいぜ!! かかってこい!!」
イリスの号令と共に前進するエルフ達。そしてそれを迎え撃つ俺と由姫。
無謀とも思える戦いが幕を開けたのだった。
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