リーダーとして
「止まれ!!」
イリスの言葉を合図に進軍が止まる。
俺達がいるのは以前クルル達と来た見晴らしのいい丘。黒龍を見かけた洞窟からすぐ近くの場所だ。
「相変わらずここからの景色はいいな」
「そうですね」
この場所から俺達の街が一望できる。
深い霧の中から、外の景色が一望できるというとてつもない矛盾のはらんだ場所だがこうして自分達の街を見ると心が落ち着く。
この黒龍との戦いが終わりラックスさんが戻ってきたら、自分達の街に戻ろうと心に決めた。
「ここで一旦休憩を取る!! 少し休んだ後戦闘に入るから、各自戦闘の準備もするように!!」
「はい!!」
「以上だ。少しの間だが、しっかり休むように」
イリスの話が終わると、進軍していた討伐隊の気が緩んだ。
その場で座り込む者、立ち話を話し始めるもの休み方は人それぞれだ。
「空さん、疲れましたね」
「そうだな」
「空も少しリラックスした方がいいんじゃない?」
「俺は大丈夫だ」
イリスは休めと言っているが、黒龍がすぐ近くにいるのに休むことなんてできない。
何かあればすぐ動けるように、危険感知スキルを発動させていた。
「そんな気を張ってたら、黒龍と戦う前に疲れちゃうんじゃない?」
「大丈夫だから、俺の心配はするな」
エルフの町を出た時から覚悟は決まってる。
どんなことがあっても俺の仲間達だけは絶対に守る。その覚悟だけは出来ていた。
「空さんらしいですね」
「そうだな」
「何がだ?」
「何でもないですよ」
「本人が気づいてないなら、私達が何かを言う必要はない」
「変なの」
何を話しているかわからないので、深く突っ込まなくてもいいだろう。
桜や由姫だけでなく、ティナも微笑ましい様子で見ているので3人にだけわかるものがあるのかもしれない。
「そういえばティナ、もし黒龍との戦闘になったら俺達はどうすればいいんだ?」
「私達は後方支援だから、基本前衛で戦うことはないはずよ」
「なるほどな」
つまり俺達の出番はないってことか。
人間が加勢に加わらなくても、エルフ達で全ての問題を終結させる。
イリスはそう言いたいのだろう。
「後方支援か。面白くないな」
「そうですね。出来れば黒龍さんの近くに行きたかったです」
「そう言うなよ。後方支援ってことはそれだけ危険が少ない所に配置されるはずだ」
つまり俺達が怪我をする可能性が他の人達よりも低くなる。
出来れば大きな怪我無く戦いを終えることを目標にしている俺達からすれば願ってもない環境だ。
「全員注目!!」
大声で叫ぶ方を向くとそこにはイリスと1人のエルフがいた。
他のエルフ達もイリスの方へ注目している。イリスは咳ばらいをして声を上げた。
「これから黒龍討伐に向けての作戦を伝える。皆心して聞くがよい」
イリスが真剣な表情で俺達を含むエルフ達を見回す。
全員自分に注目していることを確認してから話し始めた。
「まずは前衛班が黒龍と正面から戦闘を行う」
「無茶です!! 黒龍は伝説の生き物。正面から戦ったら分が悪いです!!」
「案ずるな。正面からの部隊は囮だ。黒龍を森の方へと誘導してくれ」
「わかりました」
「そして森の方に隠れていた私を含む伏兵が黒龍に総攻撃を仕掛けて倒す。これで黒龍は楽に倒せるはずだ」
イリスの策にエルフ達は拍手喝采だが、その戦略にいささか疑問に思う。
そもそも黒龍を引きつけに成功したとして、残りの勢力で黒龍を倒す程の火力で攻撃しきれるんだろうか。
もし挟撃が破られたとしたら、こちらに黒龍を抑える対処法がないぞ。
「後衛班は何をすればいいのでしょうか?」
「後衛班の者は弓矢や魔法でドラゴンの気を引いてくれ」
「わかりました」
「後は怪我人の手当も頼む。総力戦になるから、各自しっかりと準備をしておいてくれ」
各々大体の役割が決まった。俺としては穴だらけで大雑把な作戦のように思えるが、イリスはきっとこれでうまくいくと思っているのだろう。
俺には正直この作戦で上手く行くとは思っていない。
そもそも前衛の囮となる人達が本当に囮の役割をできるんだろうか。
左右からの挟撃を行う前に全滅してしまわないか心配だ。
「兄さん、私達は後方支援でいいのね?」
「あぁ、ティナ達は後衛班の方へ回ってくれ。それで怪我人が出たら手当を頼む」
「わかったわ」
イリスの思惑としては俺達が黒龍との戦闘にかかわってほしくないのだろう。
後方支援の怪我人の手当の担当ということは、俺達に手出しはするなと言われているようなものだ。
「先輩、本当にあの人達だけに全てを任せるつもりか?」
「そうだ」
「でも、あの人達は黒龍の討伐を自分達の手柄にしようとしてますよ」
「別にいいんじゃないか? 討伐できようができまいが、俺達が危険に晒されなければそれでいい」
今まで危険なことが多すぎたんだ。たまにはこういう役割もいいだろう。
何もしないで事が解決するならそれでいい。これはエルフ達の問題なのだから、ティナを守る為とはいえ積極的に動く必要はないだろう。
「やっぱり私達は後方支援ね」
「黒龍と戦うのに矢面に立たなくていいんだ。気をわずに行こう」
「そうね」
「そういえばこの討伐隊にいる人達は生き生きとしていますが、どうしてでしょうか?」
「きっとそれは黒龍の討伐が名誉だと思っているからよ」
「何で黒龍を討伐することが名誉なことにつながるんだ?」
「だって龍種のそれも最上位種を倒したとなれば町の英雄よ。英雄って誰もが憧れることじゃない」
「もしかしてここにいる人達は皆そんなことを思ってるのか?」
「そうね。討伐隊に集まった人は皆そうよ。自分の名誉の為に戦いに来たの」
名誉の為に戦うなんて、なんて前時代的な考え方なのだろう。
そんなものをもらったとして、1ミリも役になんて立たないのに。
「もし黒龍と戦って戦死したらどうするつもりだよ?」
「それも名誉の戦死だと思っている人が殆どよ」
「あきれてものが言えないな」
ここで死んだりなんかしたら、エルフの町に残っている家族や恋人が悲しむだろう。
もしここにいる人達全員が心のそこからそう思っているのなら全員大馬鹿だ。
「ここにいるエルフ達は本当にそれでいいのかよ。死んだら何も出来なくなるんだぞ」
「死んでしまった人は2度と戻ってこないのに、そんな考えで戦うなんて」
「全くだ。エルフの町で無事を祈って待っている人達が悲しんでしまうぞ」
「桜や由姫の言う通りだ。死んでしまったらもう会うこともできないし、話すことさえできないんだ」
俺はそのことを学校での戦いで強く思った。時間稼ぎの為に強いやつと戦ったとしても、死んでしまったら元も子もない。
俺達を逃がすために戦ってくれた大人達。そして校庭で無残に殺された梓。あの光景を思い出すだけで今でも胸が締め付けられる。
あの経験をしたからこそ、俺は余計に自分の仲間達を犠牲にしてまで戦うことに賛成できない。
「だから軽々しく名誉の戦死を遂げるなんて絶対に思うなよ。仲間を預かるものとして、全員無事に家族の元に返すことがリーダーの役目だと思ってる」
そうでなければばリーダーなんて降りた方がいい。
自分を信じてついてきてくれる仲間1人守れなくて何がリーダーだ。
俺は桜や由姫、自分のパーティーメンバーは命に代えても絶対に守る。
そう心に誓った。
「ちょっと空さん、落ち着いてください」
「そうだぞ。全員私達の方を見ている」
「悪い。ちょっと熱くなった」
周りを見ると、全員が俺達のことを見ていた。
俺達はどうやら結構大きな声で話しすぎてしまったらしい。
「確かにそこの人間の言う通りだ」
「えっ!?」
「黒龍を倒すことはもちろん前提条件としてあるが、私も誰1人として死なせたくない」
あの自己中心的なイリスがこんなことを言うなんて思わなかった。
てっきり多数の死傷者が出ることを覚悟でこの戦いに挑んでいるものだと思った。
「だから黒龍を討伐して、全員無事で町に帰ろう!!」
『おう!!』
「黒龍を倒して、誰1人かけることなく町に戻るんだ!!」
『おぉぉぉぉ!!』
イリスの一言に呼応するように、掛け声が辺りに浸透していく。
どうやら先程までの俺達のやり取りがイリスや他のエルフ達を刺激したみたいだ。
「『生きて帰ろう』‥‥‥ですか。空さんらしいですね」
「何?」
「何でもありませんよ。ただ空さんのことを好きになってよかったって思っただけです」
「恥ずかしいことを言うな」
「えへへ」
嬉しそうに笑う桜から俺は思わず視線を外してしまう。
桜は相変わらず俺の方を見て微笑んでいる。
「それでは休憩は終わりだ。皆移動するぞ」
こうして休憩は終わり、洞窟方面へと移動する。
黒龍との戦いの時が刻一刻と迫るのだった。
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