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帰還

 さかのぼること数分前



「ちょっと、山村君。日向君は無事なんでしょうね?」


「あいつは無事だ。もうすぐ戻ってくる」



 2人を家の前に誘導し終え、慌てて階段を下りた。

 もうすぐ日向と桜が戻ってくる。きっと両手が塞がっていてドアを開けられないから、俺が開けなければいけない。



「全く2人とも危険なことをして。私がどれだけ心配してるのかわかってるの?」


「だから悪かったって。そんなに拗ねるなよ」


「拗ねてないから!!」



 さっきから三村はこのように俺の後ろでずっと小言を言い続けている。まぁ、俺達が説明もなしに勝手なことをしているのが原因だからしょうがない。

 急いで玄関の扉を開けた先には、日向が桜を抱え立っていたのだった。



「お帰り日向。さすがだな」


「そんなことないよ、空。ちゃんと桜ちゃん助けてきたよ」



 今の日向は達成感に浸っていて、終始笑顔だった。

 2人を玄関の中へ入れ扉を閉めている間も日向はニコニコと笑顔を浮かべている。

 実際日向の力で桜を助けたようなものだ。今日向のことを責める様な人はいない。ただ1人を除いて。



「あれ? 悠里ちゃん、どうしたの? そんな怖い顔をして?」


「日向、今の自分の姿をよく見てみろ」


「格好ってこと? 服はボロボロじゃないし、土足で上がってないし問題はないように見えるけど」



 違う、格好じゃない。お前のその姿が三村を刺激してるんだ。

 今の日向は桜をお姫様抱っこしている。そして桜とは仲がよさそうな姿が、三村を激しく嫉妬させていることに気づいてくれ。



「とりあえず桜を降ろせ。もし降ろせないなら、俺が受け取る」


「わかった。それなら桜ちゃんをお願い」



 日向に桜を渡され、俺は同じ態勢のまま受け取る。

 日向がお姫様抱っこをしていたので、俺も自然と同じ態勢になった。

 必然的に尻とか触らないように手の位置とかに気をつける。

 桜のことだから、下手すると後でセクハラだのなんだの文句を言われるからだ。



「桜、降ろすぞ」


「すいません。足が棒のように動かないので、このままでお願いします」



 こいつ、この状況を楽しんでるな。お姫様抱っこで俺の顔をニマニマしながら見ているのがその証拠だ。



「歩けるんじゃないのか?」


「夕方からここまでずっと走りっぱなしだったんですよ。足が棒のように動かないのは本当です」


「悪い」


「わかればいいんです」


 どうやら、デリカシーが無かったみたいだ。今度から気をつけよう。



「山村君に日向君、おしゃべりはもう終わりでいいかしら?」



 後ろを振り向くと、鬼の形相を浮かべた三村が俺達のことを見ていた。

 そうだ。桜のことに夢中で三村のことを忘れてた。



「さっきの話なんだけど、山村君と日向君はちゃんと事情を説明してくれるんだよね? 特に今お姫様抱っこをしているその子のことこみで」



 そういえば、さっきそんな約束もしたな。そしたらこういう時にする選択は‥‥‥。



「もちろんだ。桜の説明は全部日向がしてくれる」


「えっ空? 僕が桜ちゃんの説明するの? 何で⁉︎ こんなに頑張ったのに?」



 ヒロインへの説明義務は主人公がするに限る。

 それに俺みたいなモブキャラが説明した所で、三村は納得しないだろう。だったら、日向が直接説明した方がいい。



「俺は桜のことで手一杯だからな。後は任せた」


「そんなぁ~~」


「それじゃあ、決まりね。日向君、ちょっとリビングでお話でもしましょうか」


「ちょっとまって三村さん! そんな所掴まないで」


「早く行きましょう」


「大丈夫だから、そんなに引きずらなくても1人で歩けるから! だから離してよ!!」



 日向が叫び声をあげながら、三村と一緒にリビングへと入って行く。

 ご愁傷様、日向。どうにか上手く三村のことを説得してくれ。



「日向先輩、大丈夫なんですか?」


「大丈夫だろ? いつものことだ」


「いつものことなんですか。日向先輩も大変ですね」


「だな。これも人気者の宿命ってやつだ」


「あれ? 空先輩は人気者じゃないんですか?」


「こんな目つきの悪い奴に人気があるわけないだろ?」


「それもそうですね」


「そんなはっきり言うなよ。少しは否定してくれ」



 そこまで話すと桜はプッと噴き出して笑い出した。

 俺はそんな面白いこと言ってないのに何が面白いんだろう。



「相変わらずですね。空先輩」


「お前だって変わってないだろう、桜」



 そう、何も変わっていない。桜とは1週間前にあったばかりだ。

 だからお互い別に変化はない。変化が無いのに変わった変わらないなんて会話をするなんてばかばかしい。



「このまま2階の部屋に連れて行くけど、いいな?」



「はい」



 相変わらず桜は元気がいい。あれだけ疲れていて、こんな返事が出来るのは桜らしいと思う。



「空先輩、あたし覚悟は出来てますから。勝負パンツは履いてませんが、今日はお気に入りのものを着ているので大丈夫です」


「誤解を招くようなことを言うな。俺はお前に何もしないぞ」



 桜は一体何を考えてるんだよ。この状況で桜に手を出すわけないだろ?

 もちろん、別の状況でも手を出す気はないけど。



「そう言うところって、本当に空先輩らしいです」


「そうだよ、わかったか? それがわかったなら部屋まで運ぶから動くなよ」


「は~~い」



 本当に俺の話をちゃんと桜は聞いているのだろうか?

 聞いてるか聞いていないかわからないのんびりとした返事を聞き、ため息をつく。

 そんなため息も聞こえていないのか、笑顔の桜を抱えながら俺は桜を2階の部屋に運ぶ。

 部屋に着くと、そっと桜をベッドに降ろす。俺はそのまま床に座りため息をついた。



「無事でよかったよ」


「空先輩、ありがとうございました」


「礼なら日向に言ってくれ」



 俺は殆ど何もしていない。あの窮地から桜を助けたのは日向だ。

 自分の力が足りないから外に出ることが出来なかった。だから俺は桜に礼を言われる筋合いはない。



「でもあの銃弾、私を助ける為に遠くからアンデッドを狙撃したのって空先輩ですよね?」


「だったらどうなんだ?」


「それに日向先輩の道案内や、あたしと日向先輩が出会うように誘導したのも空先輩が全部手助けしてくれたんですよね」


「それがどうした?」


「昔から思ってましたけど、先輩って本当に頑固ですよね」



 そういうと桜はため息をつく。

 ため息をついた後、じっと俺の顔を見た。



「あたしがアンデッドに襲われてるってわかった途端、焦って銃を取り出してすぐに助けてくれたくせに」


「おい、その話は誰から聞いた?」


「やっぱり当たってましたね?」


「お前、俺にかまをかけたのか?」


「やっぱりそうだったんですか。空先輩のことだから、絶対焦っていたんだと思いました」



 桜め、余計なことを覚えやがって。

 素直に日向にだけ感謝してればいいのに。桜のことを見捨てようとした俺になんかに、感謝する必要はないのに。



「そういうところがすごく先輩らしくていいと思います。先輩の可愛い一面ですよね」


「茶化すなよ。俺は普段はもっと酷いやつだぞ」


「それは先輩の表面しか見てないからですよ。先輩は本当は優しくて面倒見がよくて、誰よりも人のことを考えて行動しているのに」


「そんな風に見えるのは桜だけだ。俺はもっと合理的で利益が出ることじゃないと動かない」



 だから桜を助ける時に躊躇した。

 日向みたいにすぐ外に出ようと俺はできなかった。

 それはつまり俺が行っても犬死にするだけだとわかっていたからだ。



「先輩は本当に強情ですね」


「俺は本心しか言ってない」


「わかりました。そういうことにしておきます」


「そうだ。今日はもう体を休めろ。明日からまた大変なんだからな」


「明日なんて、あたし達にあるんでしょうか?」


「何か言ったか?」


「いえ、何でもありません。今日はゆっくりやすませてもらいますね。おやすみなさい、先輩」



 それだけ言うと桜は背を向けてそのまま布団にもぐってしまう。

 疲れていたのか、そのまま寝てしまったのだろう。

 俺の耳にもわかるぐらい大きな寝息が聞こえてきた。



「明日がある‥‥‥‥か」



 桜がさっき言ったセリフは俺に届いていた。

 こんな人がすぐ死ぬ世界で、本当に楽しい日々は戻るのだろうか。

 それは俺にもわからない。もしかすると、死んでしまった方が楽だという人もいるだろう。

 ただ、今の俺は生きなければいけない。こんな世界にした奴をぶん殴るために。



「あるに決まってるだろ? 何があっても桜だけは絶対に俺が守る」



 それは俺にとっての生きる意味でもある。桜を守り、こんな世界にしたやつを絶対にぶん殴る。

 桜だけじゃない、日向や三村だってそうだ。力も技も何もないが、それでも俺の周りの奴ぐらいは守って見せる。

 例え俺がどんなことになったとしても。



「俺も寝るか。今日は疲れた」



 そう思い、ゆっくり目を瞑ると座ったままだが、思いのほか簡単に意識を落とすことが出来た。

 意識を落とす寸前に壁を蹴る音が聞こえてきたが、それは俺の聞き間違えだろう。

 そのまま俺は深い眠りにつき、この壊れた世界で過ごす1日目が終了したのだった。

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