黒龍
「おひる! おひる!」
「クマクマ! クマクマ!」
「グマグマ!」
「そんなにお昼ご飯が楽しみなの?」
「うん」
洞窟までの道のり、先程からクルルは子熊達と歌を歌っている。
よっぽど桜お手製のお昼ご飯が楽しみなのか、足取りも軽いみたいだ。
「本当に桜のご飯が好きなんだな」
「うん。だって桜おねえちゃんのご飯、おいしいから」
「そうか」
ここまで自分の手料理を楽しみにしている人ができるなんて桜は幸せ者だ。
クルルと一緒にいる桜の口元がほころんでいるように見えた。
「確かにそうだな。桜の料理はお店のよりも格段に上手いからクルルが言っていることもわかるぞ」
「由姫お姉ちゃんもそう思うの?」
「あぁ、桜の料理は宇宙で1番上手い」
「桜おねえちゃんの料理は宇宙一!」
「そうだ。もっと桜を褒めてくれ」
「わかったよ」
そして由姫とクルルが桜の料理を褒めたたえる時間が始まった。
2人は料理の味から、料理の見た目を褒め始め最終的には桜自身のことを褒め始めた。
その事に対して意外とダメージを受けたのは桜だ。
最初は気持ちよさそうに聞いていたのだが、桜自身の話になると次第に顔を赤らめていく。
現に今も顔を赤らめ唇をぎゅっと閉じながら体をプルプルと震わして聞いている。
「このままだとまずいな」
これ以上恥ずかしい話をされると桜が参ってしまう。
クルルの前だからいい所を見せようという気持ちがあるからか怒らないけど、さすがにそろそろ限界が近いはずだ。
「2人共、桜の話はその辺でいいんじゃないか?」
「よくないよーーー」
「そうだぞ。先輩は桜のことを軽視しすぎなんじゃないか?」
「別に軽視はしていない」
現に2人で話している時はいつもお礼を言っているし、正直ここまで何も言わずに一緒についてきてくれて感謝しかない。
「たまには桜に感謝のお礼を言ったらどうなのだ?」
「何でいきなりそんな話になるんだよ!?」
「そうだよ! 空おにいちゃんは桜おねえちゃんに心配かけてるんだから、それぐらい言った方がいいよ」
「クルルまで!?」
駄目だ。これはどう頑張って逃げられる場面ではない。
桜も俺の方を上目遣いで見ているので、俺の言葉を待っているようだ。
「空さん」
「その‥‥‥なんだ? ここまで何も言わずに俺についてきてくれてありがとう」
「はい!」
「これからも迷惑をかけるかもしれない。だけどついてきてくれたことを絶対に後悔はさせないから、これかもよろしく頼む」
「あたしの方こそよろしくお願いします」
こうして言葉に表すと恥ずかしくなって照れてしまう。
桜も同じ気持ちなのか、俺から目を反らしていた。
「2人共、青春真っただ中の悪いけど、もうすぐ着くわよ」
「もうそんなところまで来たのか」
「えぇ、この木々の間を抜ければ‥‥‥ちょっと待って!!」
「どうしたんだ?」
「しっ!! 静かにして!!」
ティナは俺の手を掴むと、木々の後ろに隠れてしまう。
その様子を見て桜達も俺達の後ろに続く。
「ティナさん、何があったんですか?」
「そうだぞ。洞窟は目と鼻の先にあるのに」
突然のティナの行動に桜や由姫達も困惑してるようだ。
だがそうなるのも無理はないだろう。だって目的地が目の前にあるんだ。
それなのにこうして隠れないといけないのは何か理由があるのだろう。
「皆、あれを見て」
「あれ?」
「黒い岩じゃないんですか?」
ティナが指さす先。洞窟の隣には黒い石が置いてある。
大きさは洞窟の入り口より少し小さいぐらい。大体高さは5mあるかないかといった所だ。
「ティナ、あの岩がどうしたんだ?」
「あれは岩じゃないわ。ドラゴンよ」
「「「ドラゴン!?」」」
「本当にドラゴンなんですか?」
「そうよ。よく見ていて。そろそろ動くから」
直後岩から長い首と羽を広げた。
真っ黒い色をした巨大なトカゲ。ドラゴンがその場に立つのだった。
「本当にドラゴンです!!」
「こんなどでかいモンスターまでこの世界にいるのか」
今まであったどのモンスター達よりも比較にならないぐらい大きい。
あんなモンスターとまともに戦って勝てるわけがない。
「大きいドラゴンさんだね」
「クルルちゃんはあたしの後ろに隠れていてくださいね」
「はーーい」
俺達の中で何故かクルルだけは暢気に返事をしていた。
いつも怖いものを見ると真っ先に子熊達の後ろに隠れるのに、今回に限って隠れるそぶりは見せない。
その事を不思議に思ったが、今は余計なことを考えるのはやめよう。もっと他に考えることはあるはずだ。
「何であんな大きいドラゴンが洞窟にいるんですか?」
「私もわからないわ」
「それならばここで退治すれば一石二鳥‥‥‥」
「馬鹿言わないで!! ドラゴンは私達でも手に負えないぐらい強いの。ここで戦っても無駄死にするだけよ!!」
「ティナの言う通りだ。ここはドラゴンに気づかれる前に大人しく引き下がった方がいい」
相手がどれぐらい強いかわからない上に、相手が俺達のことに気づいてない以上ここで戦う必要はない。
もしドラゴンが襲ってくるならこっちも戦わないといけないが、今早急にあいつと戦う必要はないだろう。
「あのドラゴンはどれぐらい強いんだ?」
「少なくとも私達の町の精鋭を集めてもかなり厳しいわ」
「そんなにあのドラゴンは強いんですか?」
「えぇ、普通のドラゴンならまだ対抗できる手段があるけど相手は黒龍だから」
「黒龍?」
「そうよ。既に絶滅されたとされる伝説の生き物よ。対策も何もしていない状態で戦ったら瞬殺されるわ」
「そんなに強いのか」
それなら余計に戦う必要はないな。
黒龍は再び横になって動かなくなってしまったので、逃げるなら今がチャンスだ。
「幸い相手はまだこちらの動きに気づいていないわ。とにかく早く戻って町に報告しないと」
「えぇ~~、それじゃあおひるご飯はどうするの?」
「クルル!! 静かにしなさい!! 今はそんなことを言ってる場合じゃないわ!!」
「でも‥‥‥私はおひるをずっと楽しみにしていたのに‥‥‥」
いかん、クルルがぐずり始めた。この場で泣かれると、その声で黒龍に気づかれてしまう。
「四葉のクローバー探しもしてないし‥‥‥おねえちゃんは嘘ばかり‥‥‥」
「クルル、そういったつもりで行ったんじゃないの。だから泣かないで」
「でも、でもぉ」
今にも涙を流しそうなクルル。
まずいぞ。ここでクルルが泣いたらさすがにドラゴンに気づかれてしまう。
「クルルちゃん」
「ふぇっ?」
「今日のお昼ご飯ですが、ここで食べるのは難しいのでおうちに戻って食べましょうか」
「おうち?」
「そうです。おうちでバスケットをあけて食べましょう」
「でも、それじゃあけしきを見ながらご飯を楽しめないよ」
いつもは桜のいう事を聞いて引き下がるのに今日のクルルは自分の意見を曲げない。
涙を堪えながら必死に自分の意見を主張している。
「クルル」
「よっぽど今日が楽しみだったんだな」
よくよく考えれば、昨日からずっと今日のピクニックの話をクルルはしていた。
いつもは慣れないけもの道を張り切って歩いていたのも、皆でここに来るのだ楽しみだったからだろう。
「いいですか、クルルちゃん。おうちでご飯を食べることには大きなメリットがあるんですよ」
「メリット? どんな?」
「それはですね、もしクルルちゃんがバスケットのご飯だけで足りなかったら、おうちだと追加でご飯を作ることができます」
「本当? 桜おねえちゃんまた作ってくれるの?」
「はい、もちろんです。クルルちゃんの為ならいくらでも作ってあげます」
しばらくクルルは考え込む姿勢を見せる。
そして考えた末首を縦に振った。
「クルルちゃんはいい子ですね。帰ったらどびっきりおいしいものを作ってあげますから、期待しててください」
「うん」
桜がにっこり微笑むとクルルは桜の背中に抱き着いてしまう。
ぐすっ、ぐすっと言っている所を見るときっと泣いているのだろう。
「ありがとな、桜」
「いえいえ、それよりも早くここを離脱しましょう。あのドラゴンは危険なんですよね?」
「あぁ」
ライトとムーンも由姫の後ろに隠れて震えている。
いつも暢気な子熊達でさえ怖がっているんだ。相手は余程強いのだろう。
「とりあえず村に戻って、兄さんとディアボロさんに報告するわ。あぁ、もうどうして次から次へと問題が起きるのよ」
ティナが言いたいことはわかる。俺も日向といた時はそんな感じだった。
次から次へとくる厄介ごとを1つ1つ全部解決していく苦しみ。もしかするとティナも俺と同じタイプなのかもしれない。
「もしかすると、先輩が不幸のを持ってきているのかもな」
「そんなわけないだろ!!」
「果たして本当にそうなのでしょうか?」
「桜まで!?」
どうやら後輩達からすれば、原因は俺にあると言っているようだ。
全く持って失礼だ。俺のどこに原因があるんだよ。
「空、貴方本当に私に不幸を移してないでしょうね?」
「移してないって!!」
だって俺の方がティナの数倍気苦労が絶えなかったからだ。
今考えても日向のお世話をする方が全然大変だったからな。これぐらいの報告をするだけなら、問題はないだろう。
「っつ!?」
「どうしたの? 空?」
「いや、何でもない。気にしないでくれ」
今俺の背中の方から強烈な視線が突き刺さったような気がしたが気のせいだよな。
後ろを振り向くと、ドラゴンが辺りに視線をさまよわせていた。
「空さん、町に戻らないんですか?」
「戻ろう。一刻も早くここから逃げた方がいい」
せめてドラゴンの脅威がない所に逃げないと。
さすがにクルルを連れたままドラゴンと戦いになったら、まともに戦える気がしない。
「それじゃあ行きましょう。町に戻ったら、私はディアボロさんと兄さんに報告してくるから先に家に戻っていて」
「ティナ、商工会議場には俺も一緒に行くから。1人よりも2人の方が信憑性が増すだろ?」
「そうしてくれると助かるわ。桜達は町に着いたら先に家に戻ってて」
「わかりました」
「わかった」
「それじゃあ戻りましょう。案内するから、私についてきて」
こうして俺達は音を立てないように洞窟を後にする。
幸いこの後ドラゴンに気づかれることなく、町に到着するのだった。
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