約束のピクニック
次の日の朝、準備をした俺達は玄関の前に集まっていた。
玄関に集まったのは他でもない、先日クルルとした約束を果たすためだ。
「全員準備はいいか?」
「大丈夫です」
「私もだ」
「空、そもそも出来てなかったらここに集まってないわよ」
「それもそうだな」
こうして全員で玄関で集まっているのは、今日はクルルが希望していた見晴らしのいい丘に行くためだ。
昨日の夕食時も俺達はその話題で持ちきりだった。
「見晴らしのいい丘の話なんだけど、この山の周りは霧に囲まれているのに外の景色なんて本当に見えるの?」
「それは行ってからのお楽しみね」
ティナの含み笑いが気になるが、こればかりは行ってから見て見るしかない。
霧の中からの景色がどんなものか。そのことが凄い気になっていた。
「それじゃあ出発しましょう」
「しゅっぱつしんこう」
「クマ!」
「グマ!」
クルルのと子熊達の返事と共に俺達はティナの家を出て見晴らしのいい丘へと向かった。
家を出発した俺達はこの前ピクニックをした草原を抜け、森の中に入る。
そこでけもの道を歩きながら、目的の丘へと向かう。
「ティナ、本当にこの道で合ってるのか?」
「えぇ、この道で間違いないわ」
道なき道を行くのはどうしても不安である。
ただ森の中で遭難しているんじゃないかって感覚に襲われるからだ。
「そもそも論として、本当に見晴らしのいい絶景ポイントなんてあるのか?」
「それがあるのよ。近くに洞窟もあるから、そこでお昼を取りながら景色を眺めましょう」
「眺めましょうって‥‥‥」
この空間は霧で囲まれているのに、外の景色なんて本当に見ることができるのだろうか。
ここから霧しか見えないって言うのがおちなんじゃないか?
「桜おねえちゃん」
「どうしたんですか? クルルちゃん」
「これから行く丘にも草原があるんだけど、四葉のクローバーはあるかな?」
「丘にも草原があるんですか?」
「うん」
「そしたらまた一緒に探してみましょうか」
「うん!」
「私も探すのを手伝おう」
「俺も手伝う」
「皆で探して今度こそ見つけましょうね」
「クマ!」
「グマ!」
どうやら子熊達もやる気のようだ。
この前の四葉のクローバー探し俺は参加できなかったからな。
あの時は見つからなかったみたいだし、今度こそ見つけてクルルを喜ばせてやろう。
「おにいちゃん、おねえちゃんありがとう」
「礼なら見つけてから言ってくれ」
「そうですよ。今度こそ絶対に見つけましょう」
「そうだな。私もできるだけ協力させてもらおう」
珍しく由姫まで四葉のクローバー探しに乗り気である。
それだけ前回一緒に探した時に途中中断したのが堪えたんだな。
「皆さんがこう言っていますし、お昼ご飯を食べたら探しましょうね」
「おーーーーーーー!」
元気な声をあげ、クルルは桜と一緒に森の中を歩いていく。
意外とクルルがこんなけもの道を歩いていても元気なことにびっくりした。
「子供は元気がいいって言うけど、クルルは別格だな」
今まで部屋に引きこもっていたとは思えない程元気がいい。
しかも楽しそうに笑っている所を見るとまだまだ動けそうだ。
「本当にずっと部屋に引きこもっていたとは思えない体力だな」
「由姫もそう思うか?」
「あぁ。ずっと部屋にいたのにあんなに機敏に動くとは、クルルはすごい」
由姫のお墨付きをもらうぐらいなのだから、クルルは相当体力があるのだろう。
桜や子熊達と元気に歩くクルルを見てそう思った。
「それより由姫は四葉のクローバーが見つかると思う?」
「正直言って難しいな」
「俺も同意見だ」
桜や由姫達が協力して探して見つからなかったんだ。
それが少し場所を変えてすぐ見つかるかって言われれば、それはそれで疑問が残る。
「俺達はあんな嘘をクルルに言ってもよかったのかな?」
「どうして先程の発言が嘘だと断言できる?」
「でもあの言い方じゃ、絶対にクルルは期待してるはずだ」
そうなると期待値が高い分、見つからなくなった時の落胆が大きくなる。
俺はクルルが落胆している顔をあまり見たくはなかった。
「そんなに心配しなくてもいいんじゃない?」
「ティナ?」
「大丈夫よ。クルルもきっとその辺りのことをわきまえてるはずだから」
「本当かよ」
「本当よ。実の姉がこうして断言しているんだから間違いないわ」
ティナが自信満々に言っているので、これ以上俺からいう事はないだろう。
後は俺達しだいだ。せっかくの機会なのだから、四葉のクローバーを見つけてクルルにプレゼントしてあげよう。
「それよりも早く行きましょう意外とその丘に行くのに距離があるから」
「わかった」
そう言って俺達はティナの後ろについて行く。
道なき道を歩くこと30分。俺達は目的の丘に到着するのだった。
「どうなってるんだ、ここは?」
見晴らしのいい丘に着いた俺はそこに広がる光景に驚いてしまう。
なんと霧がかかっていて外の景色が見えないと思っていたのだが、この丘からは俺達の町の景色が一望できた。
「言ったでしょ。この丘は見晴らしがいいって」
「どういうからくりなんだ?」
「それはこの霧の結界の性質のせいよ」
「性質?」
「そうよ。この霧の結界は外からは中の様子を見ることはできないけど、中からは外の様子を見ることはできるの」
「そういえば三葉校長の結界も同じ機能があったな」
だからこの丘から外の景色が見ることができるのか。
学校に張られていた結界も中から外の様子が見えたけど、外から中の様子は見えなかったな。
あの結界と同じ原理ってことか。
「スキルの違いがあるけど、基本的に結界は同じような効果があるってことか」
霧と光の壁。それぞれ性質が違うが効果は同じだ。
もしかするとエルフ達が使う魔法とスキルは同じようなものなのかもしれない。
「空、どうしたの?」
「何でもない」
「変な空ね」
今はそんな考察をしている場合じゃないな。
せっかくこうして皆でピクニックに来ているんだから、今はこの時間を楽しもう。
「本当に見晴らしがいいですね」
「絶景だよ!!」
「クルルちゃん、これ以上先は危ないのでそっちに行かないようにしましょう」
「うん! わかったよ」
桜とクルルは崖のすぐ近くから2人で外の景色を眺めている。
時折クルルが指をさして、何か桜に質問しているように見えた。
「桜おねえちゃん、ここから見えるあの建物は何なの?」
「あれはお姉ちゃん達がいた町ですよ」
「町? もしかして桜おねえちゃん達のおうちもあるの?」
「そうですよ」
「あそこが桜おねえちゃん達が生まれ育った町なんだね! 私の町の近くにあるんだ!」
目をキラキラと輝かせて、無邪気に町の方を指さすクルル。
その町の方を眺めながら桜は複雑な表情を浮かべていた。
「そしたらクルル、桜おねえちゃんのおうちに行ってみたい!」
「あたしのおうちですか?」
「うん。そのあと空おにいちゃんのおうちにいって、由姫おねえちゃんのおうちにいくの」
無邪気に話し続けるクルル。そこには悪気など一切ない。
よくよく考えればクルルは今俺達が住んでいる街の状況は一切知らないことに気づいた。
だから自分達の町と同じ状況だと思い、色々桜にお願いをしているんだ。
「えっと‥‥‥」
「桜おねえちゃんのおかあさん達にもあってみたいよ。それでちゃんとお礼を言わなきゃ」
「お礼?」
「うん。いつも桜おねえちゃんにお世話になってます。私のおねえちゃんになってくれてありがとうって」
「クルルちゃん」
「だめかな?
こう言われると駄目って言葉は言いずらい。
ただ今の街の状況を鑑みるに、どうしても危険がつきまとうのでクルルを俺達の街に連れて行くことはできない。
「クルルちゃん、それは‥‥‥」
「こら!! クルル!! 桜達を困惑させないの!!」
「えぇ~~なんでだめなの?」
「桜達も事情があって私達の町に来てるんだから、ちゃんとそれをくみ取ってあげないと駄目でしょ」
「うぅ~~」
「悪いわね、桜。貴方達の事情も知らないのに、クルルが余計なことをいって」
「いえ、私は全然かまいませんよ」
「由姫もごめんね。クルルが無理言って」
「別に私も気にしてない」
「もちろん俺もな」
確かに俺達の街には様々なモンスターがいるが、街自体が壊されたわけではない
それにあの街には頼りになる仲間が今もいる。だから大丈夫だ。
「それよりもそろそろお昼を食べないか? ここに来るまで道なき道を歩いていたせいで、私はお腹がペコペコだ」
「それはいつもの事じゃないか?」
「先輩、今何か言ったか?」
「何も言ってない!! だからそんな刀を鞘から抜き差しするのはやめてくれ!!」
「それならいい」
油断も隙も無いな。もし俺がさっきの発言を認めていたら、一体その刀で俺は何をされていたのだろう。
考えただけでも恐ろしいので、そのことを考えるのはやめよう。
「クルルも!! クルルもご飯を食べたい!!」
「景色よりもご飯なんて、本当にこの子は花より団子ね」
「花より団子?」
「クルルちゃんは知らなくてもいいことですよ。もし気になるなら帰って調べてみましょうか」
「うん!」
ティナの様子から察するにクルルに対してあきれているのだろう。
クルルはクルルで勉強熱心だからなのか、その言葉について調べる気満々だった。
「後で意味を知ったクルルが何を言うか注目しないとな」
もしかするとティナに反論するかもしれない。
そうなるとティナの性格的に引くことはないので、2人が喧嘩をしないように仲裁をしないとまずいな。
「桜、クルルのことだけど‥‥‥」
「大丈夫ですよ。あたしに任せて下さい」
頼りになる言葉だ。もしかするとティナよりクルルの扱いが上手いような気がする。
今じゃクルルもティナよりも桜の言うことを良く聞いているし、ある意味桜はクルルの保護者なのかもしれない。
「それじゃあ洞窟でご飯を食べましょう。確かこの崖の反対側に洞窟があったわ」
「ここじゃ駄目なのか?」
「駄目ではないけど、洞窟は太陽の日差しも遮ることができて中もひんやりとして涼しいから、ここよりも快適に過ごせるはずよ」
「そうか」
それなら確かに洞窟でゆっくりしてもいいかもしれない。
確かに今日は少し暑いから、出来れば涼しい場所で過ごしたいし、日の当たる所にいてクルルが熱中症になっても困るからな。
それなら涼しくて快適な所で過ごすのもありだと思う。
「それじゃあついてきて。洞窟まで案内するわ」
「わかった」
「おひるーー」
「クマ!」
「グマ!」
テンションが上がる子熊達やクルル達を連れて、俺達は洞窟へと向かうのだった。
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