後継者の証
「全員が先代魔王に仕えていたってどういうことですか?」
「言葉の通りだ」
「ここにいる全員が魔王軍に所属していて、人間の国と戦争していたんだよ」
「ラックスさんだけじゃなくて、ディアボロさんまで」
ラックスさんが魔王軍にいたことは知っていたが、ここにいる7人のエルフ全員が魔王軍に仕えていたっていうのか。
そうなると全員が全員戦闘の猛者になる。先程まで俺が暴れても取り押さえることができると言ったのは、過去数々の戦闘を潜り抜けた実績があるからこその自信だろう。
「正確に言うと私達は魔王軍四天王の部下だったって話だけどね」
「嘘をいうな。ラックスは魔王様と会って話したことがあったろ?」
「あの時の俺はおまけだ。実際に魔王様と直接話したのは姉さんだ」
ラックスさん達が昔を懐かしむように話している。
その表情は過去の戦いを思い浮かべて、当時のことを思い出しているようにも見えた。
「その話は本当の話ですか?」
「君は私達が嘘をついているように思うかもしれないが、これは本当の話だ」
「俺達エルフは人間達よりもはるかに寿命が長い。だからこうして昔のことを知っているエルフもいるんだ」
確かにティナの年齢を聞いた時、俺よりもはるかに年上だった。
だからこそ、それ以上の年齢のエルフがいてもおかしくはない。
「他にも私達と同じぐらいの寿命のエルフがいるが、あの大戦に参加していたのは私達だけだ」
「残りのエルフ達は自分達の村を守るのに必死だったからな」
「話はわかった。だけど、何故その話を俺にするんですか?」
俺に話しても得なんて何もないのに。何でそのことを話し始めたのだろう。
「それは君が将来後継者となる可能性があるからだ」
「つまり俺が魔王になるってことですか?」
「そうだ」
「申し訳ありませんが、俺は魔王になんてなりません」
魔王になるってことは、人間の敵になるという事だろう。
そうなると、俺は日向や悠里達の敵ということになる。
日向達を敵にまわすことなんて俺ができるはずないじゃないか。
「でも、君はその素質を持っている」
「俺にそんな素質はない」
「そんなことはない。この槍がその証拠だ」
ディアボロさんが取り出したのは桜が持っていた紫の槍。それをわざわざこの場所に持ってきていた。
「それは桜が持っていた槍じゃないか?」
「ディアボロ!! なぜ!? どうしてそれがここにあるんだ!!」
桜が持っていた紫の槍を見て、取り乱した様子のラックスさん。
よっぽど桜が持っていた槍が珍しいのか?
「いや、取り乱しているのはラックスさんだけじゃない」
周りにいるエルフ達も目を見開いて驚いていた。
どうやらあの槍とエルフの間には深い関係があるみたいだ。
「これは山村君の仲間の1人が持っていた槍だ」
「嘘だ!? だってその槍は、エルドラン皇国との戦争の時に紛失したはずだ!!」
「だが、こうしてこの槍はここにある」
「話の途中で悪いが、何の話をしているんだ? 俺にも詳しく教えてくれ」
その槍がここにあることの何がおかしいんだ?
しかも魔王軍の戦争中に紛失したって、どういう事なんだ?
「すまない。実はその槍は我々の同志が使用していた槍なんだ」
「同士?」
「ラックス、はっきりいった方がいい。その槍はカズミが使っていた槍だろ?」
「そうだな。ちゃんと事情を説明した方がいいな」
言いよどむように口をもごもごさせるラックスさん。
ラックスさんがあんな行動をとるということは、よっぽど言いにくいことがあるのだろう。
「ラックス、もしお前が説明するのが辛いなら俺が言うよ」
「ディアボロ、これは私の口から言わせてほしい」
「わかった」
全く話が見えないが、ラックスさん自身がその槍に関係しているのは間違いない。
一体どんな話が飛び出すのだろう。
「山村君、私達の時代この槍を使用していたものの名前はカズミという」
「カズミ」
「カズミというのは私の姉さんの名前だ」
「何だって!?」
その槍を使っていたのが、ラックスさんのお姉さんだって?
だからあの槍を見て、あんなに動揺していたのか。
「それだけじゃない。カズミは前エルフ族族長でもあり‥‥‥」
一瞬言葉をため、ゆっくりと口を開く。
「元魔王軍四天王の1人。魔王様の右腕と言われていた槍使いだ」
「元魔王軍の‥‥‥四天王!?」
「そうだ。君達が話していた閃光のフランシスの仲間になる」
「フランシスの仲間か」
脳裏によぎったフランシスは高笑いを浮かべながら、俺達と戦うフランシスの姿だ。
常軌を逸した戦闘狂。俺がフランシスに持つのはそのイメージだ。
「あのフランシスと一緒ってことは、カズミさんも人間の敵だったってことか」
「カズミだけじゃないぞ」
「俺達も人間と戦争をしていたんだ」
「そうか」
だからエルフ達の中にも人間を憎んでいる人が一定数いるのだろう。
戦争に負けて逃げ延びたという事なら、人間を憎む理由もわからなくはない。
「でも、戦争を始めたのが魔王軍なんだからどう考えたって悪いのは魔王の方だろ?」
「何でそんなことを言う?」
「だって次々と国を滅ぼしていったのは魔族達の方なんだから、そんな国滅んで当たり前だ」
「このガキ、言わせておけば図に乗って」
「よせ!!」
エルフの1人が立ち上がるが、ラックスさんの一言でその場に座る
俺が言っていることは間違いないはず。だって全ては戦争を仕掛けた国が悪いんだから。
「この子には私達の歴史をあまり話していない」
「でもこのぐらいの話、人族なら誰でも知っている」
「この子は人族の中でも私達が知っている人族ではない」
「人族であって人族でない?」
「どういうことだ?」
「この子は私達がいた所とは別の世界の人族だ」
「何!?」
再びエルフ達が騒ぎ始める。その中でも俺の正体を知るラックスさんとディアボロさんだけは冷静である。
「なるほどな。ラックスが今日俺達をここに招集した理由がわかったわ」
「そういうことだ。この前話した別の世界の人間とはこの子のことだ」
「この子が?」
「別の世界の人間!?」
周りのエルフの俺を見る表情が変わった。
先程までの白けた目から、好機な目で俺のことを見つめる。
どうやら他のエルフ達も俺に興味を持ったように見えた。
「もしかしてラックスさんは俺にこの世界のことについて説明してほしいから、ここに呼んだんですか?」
「話がは早くて助かるよ」
「ただ1つ腑に落ちない点があります」
「なんだい?」
「その説明は1度貴方にしたはずです。それなのにどうして俺がこの場に呼ばれたんですか?」
それだけがどうしても気に食わない。
ラックスさんが説明すればいいものを何で俺に説明を任せたんだ。
どう考えても2度手間になるだろう。
「周りが私の説明だけでは納得しないからだ」
「そうなんですか」
「私が説明するより、君が説明した方が説得力があると思い君をここに呼んだんだ」
確かにいきなり自分達が別の世界に飛ばされたといっても信用できないだろう。
だけどもし、別の世界の人間を連れてきてその話をすれば話に信憑せいがます。
きっとラックスさんは他のエルフ達を手っ取り早く信用させるために俺を使ったんだ。
「それに実際君のことを見てもらった方が話が早いと思ってね」
「確かにそうですね」
俺達の世界が変わった時、モンスターなんていないと言っていたのと同じだ。
人だけでなくエルフ達も俺達と同じだったのだろう。
そんなエルフ達に現実を見せる為に、俺を呼んだんだな。
「そしたら俺は自分達の世界のことについて話せばいいんですか?」
「そうしてくれると助かる」
「とは言っても、ラックスさんに話したこと以上に話すことはないから、それだけは肝に銘じてください」
「わかった。それでも私が話すより、君が話した方が信憑性が増す」
ラックスさんにそこまで言われたらしょうがない。
こうなった以上、俺が話すしかないだろう。
「わかった。そういうことなら話します」
「助かる」
『‥‥い、‥‥‥んだ!?」
「んっ?」
「外が騒がしいですね」
商工会議場の外でばたばたと足音がする。
そして扉の前で何か押し問答を繰り広げているようだ。
『この‥‥‥ずや』
『よせ、今は会議中だ!!』
イリスの声が聞こえたかと思うと、扉が開く。
扉の中に入ってきたのはティナ。本人だ。
「ティナ!? どうしてここにいる!?」
「ティナ、今は下がっていてくれ。私達は会議の途中なんだ」
「それどころじゃないわ」
「それどころじゃない?」
「ティナ、落ち着け。とりあえず深呼吸をするんだ」
そういうと深く呼吸をするティナ。
何回か深呼吸をするにつれ、落ち着いていくように見えた。
「どうだ? 落ち着いたか?」
「えぇ、落ち着いたわ」
「それでティナ、一体どうしたんだ?」
「オークの軍隊がエルフの町に向かっているの」
「何!?」
その一言は会議場全域に轟き、全員が目を丸くさせるのだった。
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