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木内桜(回想) 1

桜視点の話になります

「空先輩、ずっと前から好きでした。あたしと付き合ってください」


「悪いが桜、お前の気持ちには答えられない」



 3月の卒業式のこと、あたしは憧れの先輩に告白した。

 不器用で言葉足らずで目つきが悪く人からよく誤解されるが、面倒見がよくて優しい先輩。

 何でも出来て格好いい日向先輩といるせいでよく比較されるが、この先輩程付き合いがよくて優しい人をあたしは見たことが無かった。



「それはあたしのことが嫌いだからですか?」


「それは関係ない。今の俺じゃ、桜と釣り合わない」



 どこか寂しそうに空先輩は言う。

 空先輩の両親が亡くなっていることや、親戚に引き取られたこと。その他の事情とかもろもろのことは本人から聞いていた。

 この先輩のことだから、きっと自分と一緒にいるとあたしまで不幸になると思っているのだろう。

 本当にバカな人だなって思う。いつもあたしが学校生活を楽しく過ごせていたのは、この先輩のおかげだというのに。



「空先輩の考えはわかりました。それならあたしと釣り合う人間になったら、付き合ってくれますか?」



 あたしがそういうと空先輩は何も言わずにあたしの右手を取った。

 そして薬指に銀色の指輪を差し込む。



「空先輩、これは?」


「男避けだ。いらなかったら捨ててもらって構わない」


「捨てませんよ。へへっ、ありがとうございます」



 空先輩が恥ずかしがって視線をあたしからそらす。その瞬間を逃さず、あたしは先輩に抱きついた。



「桜」


「先輩、ありがとうございます。この指輪はあたしの一生の宝物です」



 先輩は困った顔をしていたが、そんなのお構いなしだ。

 あたしを引き離そうと抵抗しているが、絶対にそんなことはさせない。

 抱きついたまま空先輩のぬくもりを感じていた。



「桜、離れろ。誰かが見てるかもしれないんだぞ」


「別にいいです。あたしははずかしくありません」


「桜の友達に見られたら誤解されるだろ?」


「されても大丈夫です。あたしは気にしません」



 女に指輪を送っておいて、この人は何を言ってるのか。

 こんな不器用で面倒くさくて、でも優しい所があたしは好きだ。



「先輩、卒業してからも会いましょうね。あたし、週1回は絶対先輩に会いに行きます」


「週1回? そんな頻繁に会って大丈夫なの? 今年受験だろ?」


「先輩に勉強を教わるから大丈夫です。あっ、それならもっと頻繁に会ったほうがいいですよね?」


「勘弁してくれ。そうなると俺がの自由な時間がなくなる」



 困ったように笑う空先輩。言葉とは裏腹なうれしそうな表情が、あたしにとっては印象的だった。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 卒業してからもあたしは先輩の家に週1回は遊びに行った。

 卒業後、1人暮らしを始めた先輩の家に泊まることもよくあった。

 受験勉強を教えてもらうという名目だったが、実際は先輩に会いたかっただけである。

 会う時に毎回面倒臭そうにあたしのことを出迎えるのだが、なんだかんだいって勉強を教えてくれたりするのでいい人である。

 そんな幸せな日々が壊れたのは唐突だった。

 友達と久々にカラオケに行こうとした帰り道に起きた地震が全ての始まりだった。



「きゃあ」



 先にカラオケに行った友人を追って街に出た所で、大きな地震にあった。

 その地震は今までに経験したことのない大きな地震で、小さい叫び声をあげてあたしも思わず地面にしゃがみこんでしまった。



「うぅ~~」



 頭を抱えてその場でうずくまる。動けない程激しい揺れが伴う地震。こんな地震今まで経験したことがない。



「空先輩」



 こんな時、あの人ならどうするだろう。きっとあたしのようにしゃがみこみながら、周りの様子を見ているんだろうな。

 そしてきっと、今の状態を把握して冷静に行動する。



「収まった?」



 地震が終わり、あたしはその場に立ち上がった。

 見た目は何も変わらない。周りの人達も立ち上がり、安堵の声をあげていたりスマホを見ている人達で溢れている。

 あたしも自分が無事だったことにほっとしていたが、変わっていないということは間違いだった。

 何も変わってなかったんじゃない。既に何かが変わっていたのだ。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁ」



 若い女の人が叫び声が聞こえるのと同時に、近くにいたサラリーマン風の男性がその場に倒れた。

 そして倒れた所から大量の血が流れ、地面を汚していた。



「キーーーーーーーー」



 甲高い声をあげる緑色の化け物。まるで、RPGの世界に出てくるゴブリンみたいだ。

 ゴブリンが雄たけびを上げ、血に染まった赤いナイフを持ちニヤリと笑った。



「逃げろ~~!!」



 誰がいったのかはわからない。

 ただその言葉を聞いた瞬間、一斉に周りの人がその場から走り始める



「どけ! こっちに来るな!!」


「嫌。まだ、死にたくない! 死にたくないの!!」



 口々に叫ぶ人々が、ゴブリンに捕まらないように逃げ惑っている。

 そんな中、あたしは走るよりも立ち止まってしまった。一体何が起こったのかわからなく立ち尽くしてしまう。



「何ですか‥‥‥これ?」



 1人、また1人ゴブリンに殺されるか捕まってどこかに連れて行かれてしまう。

 その光景が酷く現実的ではなく、どこか夢の中にいるように錯覚してしまった。

 だから気づかなかった。ゴブリン以外の化け物があたしに近づいてくることに。



「えっ?」



 あたしがあまりにも現実的でないその光景に声をあげ、豚の化け物と目が合う。

 豚の様な化け物が、血のついた包丁を持ってその場に立ち尽くしているのを。

 そしてこっちを見ると下卑た目を向け、まるで私を品定めしているようだった。



「何‥‥‥で?」



 だってこの周りには緑色の化け物。ゴブリンしかいないはず。

 こんな豚の様な化け物。言うなればオーク。こんな奴はいないはずだ。

 そう思った瞬間、オークは私に襲い掛かってきた。



「やめて! こっちに来ないで下さい!!」



 捕まえようとする豚の化け物から距離を取り、全力でその場から逃げ出す。

 そして豚の化け物はあたしを追いかけてくる。その下卑た目からは私のことなんていつだって捕まえられる。 そんな風に見えた。



「何⁉︎ 何が起こってるの?」



 オークから必死に逃げながら、必死に考える。だが、考えたって何も浮かばない。だって何が起こっているのかなんて、あたしにはわからないのだから。



「空先輩」



 思わず最愛の人の名前をつぶやいてしまう。もしかしたら、あの先輩もこの地震に巻き込まれて死んでしまったのではないかという不安が一瞬よぎった。



「いや、あの人は生きています」



 こんな状況になってもきっと生きてるに決まっている。

 例えゴブリンに襲われてもしぶとく生き抜いてるはず。



「絶対もう1度会うんだから」



 悲壮な決意を心に秘めて、あたしの絶望との戦いが始まったのだった。

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