突然の来訪者
いただきますの挨拶の後、蕎麦を食べる由姫やクルル達は無言。一言も話さず箸やフォークを進めていく。
「やっぱり天ぷらにして正解でした」
「本当だな」
新鮮でみずみずしい取れたての野菜を天ぷらにしたのは間違いない。
触感や歯ごたえも抜群であり、俺達の世界の野菜よりもおいしく感じた。
「うん、うまい!!」
「お口にあってよかったです」
「桜、おかわりはないのか?」
「少しですが蕎麦が余っているので、持ってきますね」
「クルルも」
「クマ!」
「グマ!」
「もう、みんな食いしん坊なんですから」
由姫達のことを見て、嬉しそうな表情をする桜。
その姿はまるでここにいる全員のお母さんのようであった。
「本当にこの、お蕎麦? はおいしいわね」
「ティナ、無理して箸を使わなくてもいいんだぞ」
「無理はしてないわよ。せっかくだから、貴方達の世界の食べる道具を使って見たいだけ」
先程からティナはたどたどしい手つきで箸を使って食べている。
基本お昼ご飯が俺達だけの時は桜が昼ご飯を作るので、その時に箸を使う練習もしていたのだ。
「ティナは勉強熱心だな」
「貴方に言われたくないわ」
「俺?」
「そうよ。私は貴方のことも努力家だと思ってるわ」
「それは見込み違いだな」
基本的に俺は自ら強い敵と戦う気はない。周りに楽な道があるのなら、そっちの方へ行くタイプの人間だ。
味方をできる限りの危険を晒すことなく目的まで到達する。それがチームで行動する時の俺の指針だ。
「空って前から思っていたけど、言っていることとやっていることが真逆の人間ね」
「何?」
「もちろんいい意味で言ってるのよ。勘違いしないでね」
「勘違いって‥‥‥」
今の言葉、ティナが俺に対して憎まれ口を叩いているようにしか見えないぞ。
「ティナよ、先輩にそんなこと言わなくても大丈夫だぞ」
「そうですよ。空さんのツンデレは有名ですから」
「俺はツンデレじゃないぞ!!」
いつの間に桜と由姫の間で俺がツンデレ扱いになったんだ。
桜のチワワ発言と言い、1回その辺りを後輩達に問いただす必要があるだろう。
「桜おねえちゃん。ツンデレって何?」
「ツンデレというのはですね、好意的な態度と敵対的な態度を持つ‥‥‥」
「詳しく説明しなくていい!!」
いくらクルルが子供だからって、そんなに詳しく説明しなくてもいいんじゃないか?
まぁ隣にいるティナも首をひねってるから、エルフ達がツンデレって言葉を知らないんだと思うけど
「これから四葉のクローバーを探しに行くんだし、早くご飯を食べよう」
「そういえば空、四葉のクローバーって一体何なの? 私その話詳しく知らないんだけど?」
「それはですね‥‥‥」
「私が説明するよ!」
「クルル?」
「クルルは四葉のクローバーを知ってるの?」
「もちろんだよ」
意外だ。クルルが四葉のクローバーを知ってるなんて。
あれは俺達の世界だけの話じゃないのか?
「4つ股に分かれている珍しい葉っぱがあるんだよ。桜おねえちゃん達の世界では、それを見つけた人には幸せになれるって言われているんだ」
「よくそんなこと知ってたわね。クルル」
「さっき桜おねえちゃんに教えてもらったんだ」
「だからこんなに詳しかったのか」
きっと昼食を作っている最中に桜がクルルに説明したのだろう。
それでこれだけのことを覚えてスラスラと言えるのは、クルルの物覚えの良さによるところだけどそれを差し引きしても凄い。
「四葉のクローバーを探すの楽しみだな」
「皆がご飯を食べ終わったら行きましょうね」
「はぁーーーーい」
元気な声で返事をするクルル。
カレンさんからは、クルルをなるべく外で遊ばせてくれとも言われているのでこの散策はいい機会になるだろう。
「クルルは幸せになりたいか?」
「うん、なりたい」
「それなら私も一緒に探そう」
「ありがとう。由姫おねえちゃん」
最初の頃と比べると、クルルはだいぶ俺達に心を許すようになったようだな。
特に桜に対してクルルは心を開いているように思えた。
『ドンドン』
「何よ、せっかく楽しくお昼ご飯を食べていたのに」
「来客か?」
「そうみたいね。ちょっと言ってくるわ」
ティナがリビングを出て、玄関へと向かう。
扉が開いた音が聞こえると同時に、押し問答をするような声が聞こえてきた。
「ちょっ‥‥‥なんの‥‥‥」
「何を話しているのでしょうか?」
「さぁな」
俺達には関係ない話だろう。
気にするだけ無駄なように思えた。
「だからちょっと待ってって言ってるでしょ!!」
「何だ?」
「失礼する。ここに人間達がいると聞いたが、本当か?」
「誰だ? お前達は?」
見たことのないエルフ達がリビングへと入ってくる。
その中でも釣り目のリーダーっぽい格好をしたエルフが俺のことを見た。
「父さんに言われて、人間達を連行しに来た」
「父さん? 連行?」
目つきは少々きついが、どこか見たことのあるような風貌をしたエルフ。
どこで見たことがあったっけ? 思い出せない。
「兄さん!! 何してるのよ!! いきなりこんな所に来て!!」
「兄さん?」
「こいつが?」
こいつはティナの兄だったのか。もしかすると見たことがあると勘違いしていたのは、ラックスさんの面影があるからだろうな。
「こいつがとは何だ。私は次期エルフ族族長のイリス・ラインハルトだぞ」
ティナの兄さん、イリスは俺達に対して不遜な態度を取り続ける。
「何なんですか? あの人は?」
「とりあえずここは俺に任せてくれ」
戦いではさっぱり役に立たないが、交渉ごとに関しては俺の仕事だろう。
願わくば荒事にならないことを祈る。
「それで兄さんは何の用なの? もし空達を捕まえるってことなら、私も全力で暴れるけど」
「案ずるなティナ。俺は父さん達から商工会議場に人間達を連れてきてほしいと頼まれたんだ」
「空達を?」
「そうだ」
何でラックスさんが俺達をそんな所に連れて行こうとしているんだ?
何か理由があると思うが、どんな理由なのか見当がつかない。
「貴様が、エルフの里に忍び込んだと言われる人間だな」
「そうだ」
「あたし達もそうですよ」
「貴様等もか」
いや、桜達がこの話にのる必要はないだろう。犠牲になるのは俺だけでいいのに、なんで声をあげたんだよ。
「悪いが、全員俺達についてきてもらう」
「何故だ?」
「父さん含む、商工会議員全員の命令だ」
ティナの兄が命令して何人かのエルフがなだれ込んできた。
先程のエルフ達を入れて十数人が俺達を取り囲む。
「ふっ、面白い」
「やってやりますよ」
まずいな、桜と由姫はどうやらエルフ達とことを構えるつもりだ。
無論こいつ等がこれ以上挑発を続けるなら俺も考えないといけない。
一触即発の雰囲気がリビングを包んでいた。
「クマ!」
「グマ!」
「クマちゃん達もお願いしますね」
まずいな。このリビング全体が戦闘をする雰囲気になってしまっている。
誰かが動けばその時点で戦闘が発生してしまう。それだけは避けなくてはならない。
「いい加減にしてよ!!」
「ティナ?」
「兄さん達は強引すぎよ!! 少しは空達の気持ちも考えて!!」
「だが商工会の命令は絶対で‥‥‥!!」
「そんなの明日でもいいでしょ!! こんな突然来て犯罪者みたいに空達を扱って!! 恥ずかしいと思わないの!!」
ティナの叫びは続く。それは全て俺達の為を思っての言葉だった。
「ティナ、お前もエルフ族の一員だろ? 他種族が町に入ることは許されないことだってわかっているはずだ」
「だからって突然来て連れて行くなんて唐突すぎよ!! 事前の説明ぐらいするべきだわ!!」
「だから今我々が説明をしているんだ!!」
「それが唐突だって言ってるのよ!! 今日はこれからクルル達と四葉のクローバーを探しに行くんだから、もう帰って!!」
「悪いがそれは無理だ。ここにいる人間達全員を連れてこいとの命令だからな」
「兄さん!!」
有無を言わせない発言と行動。その言葉に違和感のようなものを感じた。
「先輩」
「由姫、手を出すなよ」
ここで先に手を出せば相手の思う壺だ。
武器も鍛冶屋に預けているので、ここで下手に暴れれば魔法が使えるエルフ達の方が有利。
俺達は簡単に捉えられてしまうだろう。
「兄さん!! 私の話も聞いて!!」
「断る!!」
「待てよ」
「何だ!! お前は!!」
「1つ確認したいことがあるんだけど、俺達は話し合いで呼ばれるんだよな?」
「そうだ」
「だったら、俺が1人で行こう。それでいいよな?」
「空さん!!」
「先輩!! 危険だぞ!!」
「大丈夫だ。由姫や桜がい来た所で、話す内容は同じなんだ」
だったら代表1人で行った方がいい。桜や由姫を巻き込む必要はないだろう。
「貴様がこの人間達の代表か?」
「そうだ。俺がこの団体のリーダーだ」
リーダーというのは役者不足だけど、俺が桜と由姫を守らないといけない。
頼りになる日向はもういない。桜と由姫を守れるのは俺しかいないんだ。
「そうか。なら貴様だけでいい。ついてこい」
「空さん!!」
「落ち着け、桜。たんなる話し合いに行くだけだから問題ない」
相変わらず桜は心配症だな。そんな心配しなくてもすぐ戻ってくる。
「桜」
「何ですか?」
「クルルのことを頼むぞ。頑張って四葉のクローバーを探してくれ」
「わかりました」
「空おにいちゃん!!」
「大丈夫だ。すぐ戻るから。戻ってきたら一緒に四葉のクローバーを探そうな」
「うん」
「いい子だ。お姉ちゃん達の言うことをちゃんと聞くんだぞ」
クルルからのそのセリフを聞けただけでよかった。
後は俺がこのエルフ達と一緒にお偉い方の前で、説明すればいいだけだ。
「それじゃあ行くぞ」
「わかった。ちょっと出かけてくる」
「空!!」
「心配するな、ティナ。ちょっと町までいって雑談をするだけだ」
それから俺は複数のエルフ達に連れられティナの家を出る。
周りを複数のエルフに囲まれながら、商工会議場に向かうのだった。
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