摸擬戦 由姫VSティナ
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鍛冶屋に行った日から数日の間、俺達はティナの家で過ごしていた。
ティナやカレンさんの計らいで、この町を出るまではティナの家に滞在してもいいという話になったからだ。
「それじゃあ頼む、由姫」
「わかった」
ティナの家の庭。そこで俺は木剣を持って由姫と対峙していた。
これも俺が由姫に剣の稽古を頼んだからだ。今まで目の前のことに必死になりすぎて、銃以外の攻撃手段を持っていなかった。
剣ですら、まともに振ることができなかったレベルである。そのため早急に強化が必要だと考えた。
エルフの町に滞在している間は暇していたので、その間自分の強化をしようと思い、由姫にお願いしたのだった。
「いつでもかかってきてくれ。手加減は必要ないぞ」
「わかった。行くぞ!!
由姫の合図と共に、由姫に向かって全力で走っていく。
「先手必勝!!」
由姫は俺の前に立ち、微動だにしていない。
全く動きを見せないので今がチャンスだ。この隙に打ち込もう。
「やぁ!!」
持っていた木剣を由姫に向かって叩き込む。
その攻撃を由姫は一歩下がることでかわすのだった。
「何!?」
当たったと思ったのに。由姫にかわされた。
目元から30cmの距離。たった1歩しか下がっていないのに、紙一重で避けられてしまう。
「先輩の太刀筋は読みやすい。そんな攻撃じゃ私には当たらないぞ」
「なら、これでどうだ!!」
木剣を横なぎに振るが、それも由姫のステップでかわされる。
由姫に近づいては何度も剣を振るが、全く当たらない。
「何で当たらないんだ!?」
「悪いな、先輩。これで終わりだ!!」
「うっ!?」
脇腹を木剣で叩かれた衝撃で、呼吸ができない。
あまりの痛みに木剣を落とし、その場に崩れ落ちてしまう。
「すまぬ、やりすぎた!! 大丈夫か!? 先輩!?」
「大丈夫だ」
脇腹を抑えながらその場に立ち上がる。
数秒間呼吸ができなかったが、由姫には全力で戦ってくれと言ったのでしょうがない。
むしろ由姫が本気で戦ってくれたのが俺には嬉しかった。
「それより何で由姫は俺の攻撃をあんなに簡単にかわせたんだ?」
「それは先輩の動作がわかりやすかったからだ」
「動作?」
「そうだ。先輩の初動の動きで大体どの辺りに剣がくるかわかる。後はそれを予測して避けるだけだ」
「そんなことができるのか?」
「剣の訓練をすればできるようになるぞ」
「訓練か」
一朝一夕でなんとかなるものではないことはわかってはいたが、そんな高騰テクニックがあるなんてな。俺もまだまだ訓練が必要ってことか。
「もしかすると先輩は剣での攻撃に加えて、体術を加えてみるのもいいかもしれない」
「体術?」
「そうだ。噂では先輩は喧嘩が強いらしいではないか」
「その話はどこから聞いた」
「桜だ」
やっぱりそういう情報は桜から流れているのか。別に俺は由姫が思う程、喧嘩は強くないぞ。
「悪いがそんなに喧嘩は強くないぞ」
「でも、桜から聞いた話だと連戦連勝だったらしいではないか」
「それはたまたまだ」
あれは自分にかかる火の粉を振り払っただけだ。特段喧嘩が強かったわけではない。
「謙遜するな。剣に先輩の体術を加えられれば、予測のつかない動きをすることが可能になる」
「そうなのか?」
「あぁ。予測のつかない動きの他以外にも、もう1つ利点がある」
「利点?」
「体術が上手く相手に当たった場合、相手に隙が生まれる。そこを上手くついて、避けられない一撃を作り、相手がかわせない攻撃をするんだ」
「相手がかわせない攻撃?」
「そうだ。剣のスピードも技術もない先輩が手っ取り早く強くなるなら、相手がかわせない攻撃をする必要がある」
由姫の言っていることはわかる。だが、それを会得する為には下手をすれば剣術や剣技を磨く以上の努力が必要じゃないのか?
剣術や剣技を磨くよりもハードルが高い気がした。
「それを会得するためにはどうすればいい?」
「とにかく実戦経験を積むことだな」
「実戦経験ね」
とにかく色々な相手と戦うしかないのか。それはきっと模擬戦闘でもいいのだろうが、もっと色々な敵と戦う必要があるみたいだ。
「さて、それがわかったらもう1度やろう」
「ちょっと待って」
「ティナ、どうしたんだよ?」
「せっかくだから、私も由姫と戦わせてくれない?」
「ティナが戦うの?」
「何かおかしい?」
「おかしくはないけど‥‥‥」
ティナは主に魔法を使って戦うイメージがあるんだけど、本当に武器を使って戦えるのだろうか。
「私は剣を使った模擬戦闘しかする気はないのだが、ティナは剣を使えるのか?」
「馬鹿にしないでよ。私だって剣は使えるわ」
「嘘!?」
「嘘じゃないわよ。空、木剣を貸して」
「わかった」
持っていた木剣をティナに渡す。ティナはその木剣を右手で握った。
「空、木剣ってもう1つないの?」
「もう1つもらってどうするつもりだ?」
「もちろん、使うに決まってるでしょ」
「まさか‥‥‥2刀流!?」
「何でそんなに驚いているのよ。お父様の戦闘スタイルもこのスタイルだし、普通の事でしょ?」
「普通って‥‥‥」
2刀流で戦うなんて、かなり難しいことだぞ。
何が難しいって言えば、まず剣を持って振るのが難しい。剣そのものが重いため両手でも振るのが精一杯なのに、それを片手で振ることの難しさ。
通常なら剣の重さのせいで剣に振り回されてしまいまともに攻撃することができないのだが、ティナはその辺りの対策はどうするつもりなのだろうか。
「なるほど、2刀流か。武人の血が騒ぐな」
「えぇ、期待していいわよ」
由姫が予備で持っていた剣をティナに渡した。
それを受け取り、ティナは2本の剣を握る。
「ティナ、手加減はなしだぞ」
「もちろんよ。由姫こそ、手を抜かないでね」
剣を抜き構える2人の目つきは真剣そのものだった。
お互い間合いを計るようにじりじりと近づいていく。
この緊迫とした空間に耐えられず、俺は思わず息を飲んでしまった。
「やぁっ!!」
由姫がティナとの間合いを一気に詰める。
数mあった距離が一瞬でなくなったということは縮地のスキルを使ったに違いない。
「あれを使ったってことは、由姫は本気だってことだな」
先程の俺との戦いは、俺を鍛える為に行った摸擬戦だ。その為その場でじっと待ち、俺の攻撃を受けたのだろう。
だけど今の由姫はそんな悠長に構えていない。きっとこの一撃で、勝負を決めるつもりだ。
「くっ!!」
「よく受けたな、ティナよ」
「これぐらいで、負けるわけには行かないわよ!!」
由姫の攻撃を右手で受けたティナは左手で由姫の脇腹を狙う。
「ふっ!!」
「勘が鋭いわね」
再びティナと距離を空ける由姫。
不敵に浮かべる笑みとは反対に、由姫の額から一筋の汗が流れるのだった。
「やぁっ!!」
由姫が持っている剣を振っていく。
横なぎや縦の攻撃と縦横無尽の攻撃に対応しきれず、ティナは一方的に攻撃を受け続けるのだった。
「凄い」
攻撃を繰り広げる2人の剣の太刀筋が全く見えない。
残像のようなものが2人の周りを飛び交い、木剣を叩く音だけが聞こえてくる。
「これが由姫とティナの本気‥‥‥」
いくら摸擬戦といえど、レベルが高すぎる。
先程由姫が俺に戦い方を変えた方がいいと言っていた理由がよくわかる。
剣術でも剣技でも今の俺では逆立ちしても2人の足元にも及ばない。
「どうした、ティナ? 守ってばかりじゃ、勝負に勝てないぞ」
「くっ!!」
両手の木剣を使い、ティナは器用に由姫の攻撃を防いでいる。
確かに由姫の言う通り、防いでばかりじゃ勝つことができない。
打開策がない限り、ティナの負けは必死の状況だ。
「由姫、既に貴方は私の術中にはまっているわ」
「何!?」
「私の戦い方は、ただ攻撃を受けるだけじゃないわ。こういうやり方もあるのよ!!」
瞬間、由姫の剣を左手で受けるティナ。その左の剣で由姫の剣を受け流したのだった。
「捌いた!?」
「なっ!?」
捌いたことで起こる現象。それは由姫の体勢が崩れたことだ。
左手の剣で攻撃を受け流し前に由姫は前方に体勢を崩す。
「もらったわ」
由姫の方に木剣が迫る。その剣が由姫の脇腹向かっていく。
体勢が崩れ受け身が取れない、その土手腹に向かって木剣を振る。
「そうか。ティナはずっとこの隙を狙ってたのか」
由姫が攻撃一辺倒になっている時をじっと耐え忍んで、この瞬間だけを待っていたんだ。
その忍耐力と精神力は俺の想像以上。ティナがどれだけ負けず嫌いなのかがよくわかった。
「終わりよ!! 由姫!!」
「くっ!!」
「これで私の勝ちね!!」
ティナは勝利を確信しているようだ。
だが、まだ甘い。勝負は相手が倒れるまで続いている。
何が起こるかわからない以上、一瞬の油断は命取りになる。
「‥‥‥めるな」
「えっ!?」
「私をなめるな!!」
体勢を崩した状態でティナの斜め前に踏み込む由姫。
そこはティナの木剣の進行方向。自らティナが持つ木剣の方へと踏み込んでいく。
「無茶よ!! このままじゃ剣に当たるわ!!」
「私の狙いは剣ではない!!」
「えっ!?」
「剣を振った、その右手だ!!」
踏み込んだことで余計な空間がなくなった。最初から由姫の狙いはティナはなく、ティナの右手を狙っていたんだ。
「駄目だ!! このままじゃティナの剣でそのまま切られる!!」
踏み込みが半歩足りない。半歩足りないせいで、木剣を完全に避けられない。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「嘘!?」
体を強引に前に倒して残りの半歩を無理やり詰めた。
そのおかげで木剣の攻撃が当たることはないが、柄の部分が由姫の脇腹を襲う。
「ぐふっ!!」
「由姫!!」
ティナが握っている剣の柄が由姫の脇腹に当たった。
人の声とは思えない、うめき声が由姫の口から聞こえてくる。
「だが、まだ攻撃のチャンスは残っている」
もう1度剣を引いて、由姫のお腹に突き出せばその時点で由姫の敗北が決定する。
だからティナは剣を引いて止めを刺すのだと思ったが、実際は全く違う光景が広がっていた。
「えっ!?」
由姫の脇腹を殴ったティナも苦痛の表情を浮かべながら、持っていた木剣を手放していたのだった。
「何が起こった!?」
今はティナが攻撃しているのに、なんで攻撃しているティナの方が痛そうな顔をしているんだ?
「ぐっ!!」
「ティナよ。そんな重い木剣を握っていて、握力が最後まで持つわけないだろう」
「由姫!!」
「握力が最後まで持つわけがないんだ。少しでも強い衝撃が加えれば、剣を手放すことは目に見えている」
そこまで由姫は考えていたのか。いや、こうなる展開まで由姫は考えていなかったであろう。
咄嗟に起こした由姫の行動。その行動がこの結果を生み出したのだ。
「肉を切らせて、骨を断つという事か」
普通の人なら向かってくる刃を避けようとするが、由姫は反対に剣に向かっていった。
その行動は経験も重要だが、何より勇気が必要な行為だ。
「中々できることじゃないな」
自分が戦闘中、由姫と同じ行動が取れたか。いや、取れなかっただろう。
由姫と自分の差、それが如実に表れているのが凄く悔しかった。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
「わっ!?」
体をティナにぶつけた由姫はティナと共に、体勢を崩してしまう。
そのまま2人揃って地面に倒れてしまうのだった。
「あっ!!」
ティナが態勢を直そうとするが、もう遅い。
既にティナの首には木剣が突き付けられていた。
「これで私の勝ちだな」
「さすがね、由姫」
剣を離して脱力するティナ。
そんなティナがため息をついた時、由姫の勝利が決定したのだった。
本日の夜、もう1話更新します
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