ピクニック
「へぇーー、町の近くにこんなところがあるのか」
「そうよ。凄いでしょ」
町から少し離れた郊外。そこにある広い草原地帯に俺達は来ていた。
「本当にここ一面草しか生えていませんね」
「風が気持ちいいな」
草原を吹き抜けるそよ風が体をに当たり凄く気持ちがいい。
エルフの町でピクニックできるような場所があるなんて知らなかった。
「エルフの町から少し離れた場所に、こんな絶景のスポットがあるなんてな」
「ここなら町みたいに大勢の人で溢れかえっていないし、ゆっくりできるでしょう」
「そうだな」
誰もいない場所なので、人の目を気にしなくて済む。
もしかするとこれは俺達のことが問題視されているからこその、ティナなりの配慮なのかもしれない。
「さっそくピクニックシートを引きましょう」
「ピクニックシート? それはどんなものなの?」
「こういったピクニックの時に引く、お尻が汚れないようにするシートの事です」
「そんなものって持ってたっけ?」
「あたし達が数日過ごしていた空き家にありました」
「あの時か」
確かに俺達はあの空き家を出る時に、必要なものを手分けして探してアイテムボックスに収納していたけど、桜がそんなものまで入れているとは思わなかった。
「よくそんなものを持っていたな」
「いつかこんな日が来ると思っていたので、持っていました」
「さすが桜だ。用意周到だな」
由姫、頼むから感心しないでくれ。
もっと手間をかけるべきところは他にあっただろ。
「貴方達の世界にはそんな便利なものがあるのね」
「びっくりしたよ」
「今引きますから、少し待っててください」
アイテムボックスから出した花柄のピクニックシート。それを桜は引いた。
「意外と大きいな」
「あの家に何枚かありましたけど、1番大きいものを持ってきました」
まるでどこかの公園でよく行われている花見をするような大きいシート。
もしかしたら、あの家の主は大きな集会を開いていたのかもしれないな。
「クマ!」
「グマ!」
「あっ!? ライトとムーンだけずるい!! 私も座る!!」
「こら!! クルル!! はしたないでしょ」
「シートの上にのる時は靴を脱いでくださいね」
「は~~い」
靴を脱ぎシートに座ったクルル。子熊達もその横で気持ちよさそうにしていた。
「どうですか? 座り心地は?」
「芝生もいいけど、こっちも気持ちいいよ」
「俺達も座ろうか」
「そうね」
靴を脱ぎシートに座る俺達をしり目にティナは恐る恐る座るのだった。
「どうですか? ティナさん。シートの座り心地は?」
「意外といいわね。私は芝生で座るよりこっちの方がいいわ」
「それはよかったです」
ティナもお気に召したようで何よりだ。
シートの肌触りを何度も確かめている所を見ると、もしかするとクルルより気に入っているのかもしれない。
「では、お昼にしましょう」
「そういえば桜は何を作ったんだ?」
「今日はサンドイッチです」
「サンドイッチ?」
「それってどんな食べ物なの?」
「薄く切ったパンの間に肉や野菜を挟んだもののことですよ。このバスケットの中身を見てください」
桜が持ってきたバスケットにはたくさんのサンドイッチがぎっしりと詰まっていた。
「おいしそうだな」
「出来れば早く食べたいものだ」
「クマ!」
「グマ!」
「ちょっと待って。この野菜をはさんだものはわかるけど、この黄色いものは何?」
「これは卵サンドというものです」
「卵サンド?」
「食べてみればわかりますので、食べてみてください」
「わかったわ。じゃあ早速1つもらうわね」
「クマ!」
「グマ!」
「ちょっと!? 何でクルル達が先に取るのよ!! 私の分も残しておいてよね」
先に卵サンドを取ったクルルと子熊達が卵サンドを口に入れる。
食べた瞬間、目を丸くさせキラキラとさせた。
「おいしい!」
「クマクマ!」
「グマグマグマ!」
「そんなにおいしいの? それじゃあ私も一口」
クルル達の後に続いて、ティナも卵サンドを口に入れた。
「どうですか? 卵サンドは?」
「何、これ!? すごくおいしい!! 桜、これはどうやって作ったの!?」
「これはマヨネーズとゆで卵を混ぜたんですよ」
「マヨネーズ? ゆで卵?」
「もしよかったら今度レシピを教えますよ。意外と簡単にできますので」
「ぜひお願いするわ」
それから桜とティナは料理談議に花を咲かせた。
サンドイッチを食べながら、ティナの世界の料理事情や俺達の世界の料理事情を情報交換している。
「クルル、うまいか?」
「うん。桜おねえちゃんの料理って凄くおいしい」
「ティナの料理とどっちがおいしい?」
「断然桜おねえちゃん。ティナおねえちゃんの料理って、たまに炭が出てくることがあるから」
「炭って‥‥‥」
それはもう食べ物ですらないだろ。
カレンさんの料理を手伝ってる時は簡単な料理ができると言っていたが、もしかすると料理をするのは好きだけど全くできないのかもしれない。
「こら、クルル!! いつの話を持ち出してるのよ!!」
「だって、昔ご飯の時炭が出て来たっておかあさん言ってたよ」
「それは昔の話でしょ!! 今は簡単なものぐらい作れるわよ!!」
どうやら食卓に炭が出てきたのは本当らしい。
今は簡単なものは作れると言っていたが、ティナの料理を食べる時は注意する必要があるな。
「クマ!」
「グマ!」
「相変わらずお前達は暢気だな」
いまだに料理のことで言い争うティナとクルルに、それを見ながらクスクスと微笑ましく笑う桜。
その横でおいしそうにサンドイッチを食べる子熊達もいて、凄く平和な光景が続いていた。
「平和だな、先輩」
「そうだな」
「今まで戦い続きだったから、、たまにはこういうのもいいな」
「あぁ」
由姫の言う通りだ。デパートや学校でのことといい、ここに来るまで全く心休まることがなかった。
心身ともに消耗していた俺達からすれば、まさに安息の地とはこのことを言う。
「久々にゆっくり休めた気がする」
たまにはこうしたのんびりとした日があってもいいだろう。そう強く思う。
「全く。クルルは人の料理を何だって思ってるのよ」
「お疲れ。クルルとの話し合いは終わったのか?」
「えぇ。終わったわ。クルルがライトとムーンの後ろに隠れたから私の勝ちよ」
何が勝ちかはわからないが、確かにクルルが子熊達の後ろにいる。
桜はそんなクルルによりそい、一緒にサンドイッチを食べていた。
「大人げないと思わないのか?」
「全然思わないわ。むしろクルルにはいい薬になったわよ」
「そうなのかな?」
桜達と話すクルルはむしろ楽しそうに見える。
もしかすると、負けてすごすごと引き下がったのはティナだったんじゃないか?
「お父様もクルルには甘いんだから。私だけはクルルをしっかり教育しないと」
「そうなの?」
「そうよ。兄さんと私には厳しいのに、クルルには甘いのよね」
「クルルはまだ子供だから、あまり強く言わないんじゃないか?」
「それもあると思う。お父様は期待している人にはきつく当たる所があるから」
「確かに。どうでもいい人には指摘さえされないからな」
「そうね。だからいつも勉強させてもらってるわ」
本当にどうでもいい人は何も言われないからな。
指摘されるということは、その人が成長すると思って敢えて言ってくれているので、ラックスさんの思いはティナにしっかりと伝わっているようだな。
「ティナはお父さんのことを尊敬しているんだな」
「当たり前でしょ。私のお父様は誰にでも自慢できる凄い人なんだから」
ここまで言えるということは、ティナは本当にお父さんのことが好きなのだろう。
先程リビングでラックスさんに意見を言えたのも、ラックスさんなら自分の意見にちゃんと答えてくれると思って発言していたのかもしれない。
「そういえば、何でティナは俺達にこんなに肩入れしてくれるんだよ?」
「何で?」
「だって、エルフは人間のことが嫌いなんだろ? 俺達と一緒にいるだけでリスクがあるのに、鍛冶屋まで紹介してくれて」
族長の娘とはいえ、自分の立場が危うくなるかもしれないのに何で俺達と一緒に行動してくれるんだろう。
その事がずっと疑問に思えた。
「う~~ん、確かにそう言われるとなんでかしらね」
「なんでって、そんな軽い気持ちで俺達と一緒にいて大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。なんとなくだけど、貴方達が悪い人に見えないのよね」
「悪い人ね」
「むしろ私達にとって得になる存在だと思うの。win winの関係? みたいな?」
そういう解釈をしていたのか。
ティナにとって俺達は一緒に付き合っていく中で、重要なパートナーという位置づけなのだろう。
「桜や由姫は得になるかもしれないが、俺はないぞ」
「そんなことないわよ。空にも言えるけど、私達は足りないことを補い合える関係になれると思うの」
「欠点を補いあう関係か」
「えぇ、そうよ」
ティナはそういってはにかむような笑顔を俺に向ける。
その子供のような笑顔を見て、美しく綺麗なように見えた。
「どうしたの? 空?」
「いや、何でもない」
危ない危ない。さすがにティナ本人にその笑顔に見とれていたとは絶対言えない。
そんなことを桜が知ったら、またきつい取り調べを受けてしまう。
「先輩、今ティナに見とれていなかったか?」
「別に見とれてないからな!!」
「怪しいな。ちょっと桜、こっちに来てくれ」
「何ですか? 由姫ちゃん」
「どうしたの? 空おにいちゃん?」
「クマ!」
「グマ!」
「何でこういう時に全員集合するんだよ!!」
この後事情を知った桜からきつい取り調べを俺は受けた。
そんな様子を由姫やティナ達が俺達の横で微笑ましい目で見ているのだった。
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