偏屈な鍛冶職人
「いってきまーーす」
「行ってらっしゃい。気をつけて行ってくるのよ」
カレンさんに見送られて、俺達は町へと向かう。
向かう場所はティナが昨日話した鍛冶屋。そこで武器を見繕って貰うために向かっている。
「ティナ、約束はちゃんと守れよ」
「わかってるわよ」
朝食時に行ったティナとの賭けの結果俺は勝利して、鍛冶屋で好きな武具を買っていいということになった。
正直魅力的な話だ。エルフの町の通貨がないので、それをティナが負担してくれるのは非常にありがたい。
この時の俺はついでに桜や由姫の分もなんとかできないものかと考えていた。
「全く、貴方の言う通りクルルが来るなんてびっくりよ」
「約束は約束だ。ちゃんと守ってもらうぞ」
「もちろんよ。全く、しょうがないわね」
今のセリフをティナが本気で言っていないことを俺はわかっている。
現にティナが見つめる視線の先。桜や子熊達と一緒に歩く小さな少女のことをティナは微笑ましく見守っているように見えた。
「ライト、ムーン、離れちゃだめだよ」
「クマ」
「グマ」
「まさかクルルも一緒に来るとは思わなかったわ」
「だな」
ティナが驚くのも無理はない。俺達の前には部屋から殆ど出てこないクルルも一緒にいたのだ。
今は桜の隣で子熊達が離れないように、指示を送っている。
「俺も一緒に来るって言った時はびっくりした」
「それもこれも桜のおかげね」
朝食の間桜と由姫がクルルに話しかけ続けた結果、2人に対しての誤解は解けていった。
特に桜にたいして予想以上に懐いてしまい、俺達が出かける時間になった時自分も行きたいと言って鍛冶屋まで同行することになった。
「クルルちゃん、人が多いですから離れないようにしてくださいね」
「わかった。ライトとムーンもこっちに来て」
「クマ!」
「グマ!」
「楽しそうだな」
「本当にね」
クルルが楽しそうに笑っている様子を見ると、少しでも外に出るようになってよかったなと思う。
「桜おねえちゃん」
「どうしたの? クルルちゃん?」
「お昼ご飯は桜おねえちゃんの手作りなんだよね?」
「はい、そうですよ。おいしいものをいっぱい作って来たので、楽しみにしててください」
「うん」
クルルは桜が作ったフレンチトーストを気に入ったらしく、俺達と一緒に出掛けると話した際、桜が急遽昼食も作ってくれた。
その昼食は今も桜の手に持っているバスケットの中にある。
「桜おねえちゃんは何を作ったの?」
「それは秘密ですよ。お昼になってからのお楽しみにということでお願いします」
「わかった」
ちなみに桜の持つバスケットの中身は俺達もわからない。
桜の事だからちゃんとしたものを作っているとは思うので、特に心配はないと思う。
「食事を楽しみにしていることといいよく食べることといい、クルルはまるで由姫みたいだな」
「先輩!! 私とクルルを一緒にしないでくれ」
「えっ!? 由姫お姉ちゃんは私と一緒は嫌なの?」
「嫌、別に‥‥‥そういうわけでは‥‥‥」
悲しそうな顔をするクルルを見て由姫がうろたえている。
由姫のこういった表情を見ることは初めてだったので、思わずクスっと笑ってしまう。
「あの由姫がクルルにたじたじとはな」
「先輩!! 笑ってないで助けてくれ」
「由姫ちゃん、ちゃんとクルルちゃんに謝らないと駄目ですよ」
「うむ。今確かにのは失言だったな。すまない、クルル」
「大丈夫だよ。クルルは大人だから」
胸を張って話すクルルのそのセリフを聞いて思わず吹きだしてしまう。
隣にいるティナも声を殺して笑っているので、俺と同じことを思っているのだろう。
「先輩、何を笑っている?」
「だって‥‥‥あの由姫がクルルに‥‥‥大人って言われて‥‥‥」
思い出しただけで、お腹が痛くなる。
特にどや顔で由姫に『大人だから』と言った所がつぼに入ってしまった。
「先輩、このことは忘れないぞ」
「どうしたの? 由姫おねえちゃん?」
「何でもない。それよりクルルよ。桜のご飯はおいしいから、お昼を楽しみにしているといい」
「うん。凄く楽しみ」
「クマ」
「グマ」
クルルだけでなく2匹の子熊まで首を縦に振っている。
どうやら桜の料理はクルルだけでなく子熊の心も掴んていたらしい。
「そういえば、目的の鍛冶屋まではまだ着かないの?」
「もうすぐ着くわよ。ほら、あそこの建物がそうよ」
ティナが指をさすのは今にも崩れそうな古ぼけた建物。
外装だけ見れば、いつ崩れてもおかしくない廃墟のようにも見えた。
「本当にこの建物に鍛冶屋なんてあるのかよ」
「えぇ。見た目はボロボロだけど、中にいる職人の腕はいいの」
「そうなんですか」
「楽しみだな」
「それじゃあ入るわよ。皆、私の後に着いてきて」
ティナは勢いよく扉を開け中へとはいる。建物の中の第一印象としてはこの中は非常に暗い。
壁の周りには色々と武器が立てかけてあるように見えたが、暗いため今いちよく見えなかった。
「ディアボロさん!! ディアボロさんはいないの!!」
「そんな大声出さなくてもここにいるよ」
室内の照明がついたかと思うと、奥の扉から顔が炭にまみれたエルフが顔を出す。
頭にはゴーグルを装着しており、鍛冶職人というよりは炭鉱労働者のように見えなくもない。
「おや、珍しい。ラインハルトさんの所の娘さんが来るなんて」
「久しぶりね。ディアボロさん」
「どうしたんだい? ラックスやイリス君が来るならわかるけど、ティナちゃんがここに来るなんてよっぽどのことだと思うけど?」
「そのよっぽどのお願いをしに来たのよ」
ディアボロと呼ばれたエルフの目がティナの後ろにいた俺達の方に視線を向ける。
その鋭い視線は、俺達のことを警戒しているようにも見えた。
「なるほどな。昨日この町に人間が来たと聞いていたが、それは君達のことか」
「俺達のことを知ってるんですか?」
「昨日の夜に行われた会議の時、ラックスが話していたからな。町中で君達のことを知らない人はいないだろう」
どうやら俺達がエルフの町に入った話がエルフ達の中で想像以上に広がっているらしい。
ディアボロという人の態度を見る限り、昨日の会議ももしかしたらかなり大掛かりなものだったのかもしれない。
「ラックスさん、お父さんは何て言っていたの?」
「それは直接ラックスに言ってくれ。それよりもティナちゃん、俺に何か用があったんじゃないの?」
「そうだった。実は武器を鍛えてほしいの?」
「鍛える? 君の武器はこの前イリス君が持ってきて整備したばかりだろ?」
「違うの。空達の武器を整備してほしいの」
「空?」
「すまん、武器を鍛えてほしいってお願いしているのは俺達なんだ」
ティナの前に俺は1歩出た。その瞬間、ディアボロと呼ばれたエルフの目が俺の方へ向く。
「なるほどな。ティナちゃんのお願いは人間達の武器を鍛えてほしいってことか?」
「そうです。ティナからは貴方が腕のいい鍛冶職人だと聞きました。その腕を見込んで、俺達の武器を鍛えてほしい」
しばらくディアボロさんは俺達を見たまま押し黙ってしまう。その時間は数十秒間も続く。
「どうなんですかね?」
「わからない」
一見すると気難しい人のように見えなくもない。
だけどティナと話している様子を見ていたが、そこまで悪い人のようには見えなかった。
「わかった。君達の武器を鍛えよう」
「いいんですか?」
「あのティナちゃんがここまで君達のことを認めてるからな。それに免じて特別に鍛えよう」
「ありがとうございます」
「礼は別にいい。まずは君達の武器を見せてくれ」
「わかりました」
俺は持っているハンドガンとスナイパーライフルをアイテムボックスから取りだし、ディアボロさんに渡す。
武器を受け取ったディアボロさんは物珍しそうに俺の武器を見つめていたのだった。
本日の夕方、もう1話更新します。
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