騒がしい食卓
「朝だな」
次の日の朝、寝ぼけ眼で目を覚ました。
クルルと話してから数時間しか経っていないが、悪夢も見ずにぐっすり寝ることができた。
「これも桜のおかげなのかな」
目をこすりながら隣で眠る桜の方を見る。
いまだに桜はぐっすりと気持ちよさそうに寝ていた。
「ありがとな、桜」
昨日桜は無理やり俺と一緒に寝ようとしてきたが、それも俺を心配しての行動だろう。
桜が原因で昨日の夜は眠れないこともあったが、悪夢を見なかったのは桜のおかげでもあるだろう。
「う~~ん、まだ、朝ごはんはできてません」
「一体どんな夢を見ているんだ?」
桜の頭を優しく撫でながら、その気持ちよさそうな寝顔を見続けてしまう。
安心しきっている寝顔を見て、桜のことを素直に可愛いと思ってしまう。
「ずっと見ていたいけど、さすがに起こさないとまずいよな」
ずっと見ていたいと思う寝顔だけど、クルルとの約束もある。
そのためには桜に頼まないといけないことがあるので、ここは心を鬼にして起こそう。
「桜、起きてくれ」
「うん?」
「もう朝だぞ」
「朝‥‥‥ですか?」
目をこすりながら、桜も目を覚ます。
まだ目が覚めていないのか、目をこすりながらあちこち視線をさまよわせている。
「あれ? 空さん。こたろう君はどこにいるんですか? ご飯を食べさせないと‥‥‥」
「こたろう?」
「あっ、夢ですか!? すいません。何でもありません」
どうやら桜も夢から覚めたらしい。
夢から覚めたのはいいが、1つ気になることがある。
「桜、こたろうって誰のことだ?」
「何でもありませんよ!! 空さん共関係ないとは言い切れませんが、今実際にいる人物ではないです」
「わかった」
桜が何を言っているかわからないけど、無事目が覚めたのでいいだろう。
こたろうという人物が気にならないわけではないが、桜がこう言っている以上あまり気にしないようにしよう。
「朝起きて早々で済まないが、桜に1つお願いがあるんだ」
「何でしょうか?」
「実は‥‥‥」
桜に昨日の夜クルルと会ったことを説明する。
その時に話した内容と約束。そしてクルルの思いを桜に伝えた。
「実はそういう事があって、桜にはクルルの朝ごはんを作ってほしいんだ」
「本当にあたしがクルルちゃんの朝ごはんを作ってもいいんですか?」
「あぁ。桜の料理は絶品だからな。きっと心を開いてくれるだろう」
食べ物で釣るのもどうかと思うが、今のクルルにはそれが1番効果的だろう。
一緒にご飯を食べて桜達と話してもらえれば、きっとクルルも心を開いてくれるはずだ。
「いいですよ。それぐらいならお安いご用です」
「本当か?」
「はい。クルルちゃんの件はあたしに任せてください」
「ありがとう、桜」
「そうと決まれば早くリビングに行きましょう」
「その前に服を着替えような」
お互い服を着替え終わると桜と一緒に1階へ降りる。
台所に到着した時、カレンさんとティナがバタバタと慌ただしく動いていた。
「「おはようございます」」
「桜、空、おはよう」
「おはよう、空君に桜ちゃん」
ティナはお皿を持ち、テーブルの方にご飯ののった皿を持って行っている。
カレンさんはカレンさんで、急いでご飯を作っているようだった。
「2人は朝から仲がいいのね」
「そんなことないですよ」
「桜、今は照れている時間はないぞ」
「そうでした」
既にカレンさんは何品かの料理を作ってしまっている。
このままだと桜が何かを作る前に、朝ごはんができてしまう。
「どうしたの? 2人共?」
「実はカレンさんにご相談がありまして」
「私に相談ですか?」
「はい。今日の朝ごはん何ですが、後は桜に任せてくれませんか?」
ここまで準備している人に対して心苦しいが、クルルを懐柔するためにもお願いするしかない。
カレンさんは顎に手を付けて悩んでいるようだった。
「う~~ん、もう殆どできてるんだけど」
「そしたら1品だけでもいいですからお願いします」
「う~ん、そこまで言うならお願いしちゃおうかしら」
「「ありがとうございます」」
カレンさんの許可は取れた。後は料理を作るだけだ。
「それじゃあ私とティナちゃんはテーブルに座っていてもいい?」
「大丈夫です。後片付けも俺達に任せてください」
「ありがとう。よろしくね~~」
そういうとカレンさんはテーブルに方へと戻っていく。
桜はテーブルにのっている料理を見た後、棚の方を見て食材を確認しているようだった。
「食パンみたいなパンがありますね。他にははちみつもいっぱいあります」
「何を作るんだ?」
「せっかくですからフレンチトーストでも作ってみようと思います」
「材料は足りているのか?」
「台所にある材料を使えば何とかできると思いますよ」
「そうか」
「もし足りないものがあれば、先輩のアイテムボックスの材料を使います」
「悪いな」
「いえいえ。久しぶりに空さんにも食べてほしかったからちょうどよかったです」
桜の手料理か。確かに食べるのは久しぶりだ。
「俺も何か手伝うことはないか?」
「特にはありませんので、空さんもも座って待っていて下さい」
「わかった。片付けや配膳は手伝うから、出来たら呼んでくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
桜に言われるがままテーブルに座る。テーブルの方に行くとカレンさんやティナの他に由姫もいた。
「おはよう、由姫」
「おはよう。先輩は朝から騒がしいな」
「まぁな。由姫こそ今日は朝早いな」
「それは朝ごはんが楽しみだからな。出来れば早めに待機しておきたい。
相変わらず食事に関する執念が凄いな。食い意地が張っていると言ってもいい。
「空がここにいるってことは、戦力外通告を受けたってこと?」
「そんなところだな」
「そういえば、桜は今何をやっているのだ?」
「桜は今料理を作ってくれてるんだ」
「料理!? 桜のご飯が食べれるのか!」
この喜びよう、由姫も桜の料理を食べられることが嬉しいようだな。
「桜ってそんなに料理が上手いの?」
「何を言う。桜の料理はピカイチだから大丈夫だぞ」
「そうなのね」
「ティナは料理ができるのか?」
「簡単なものぐらいならできるわよ」
「そうか」
カレンさんの手伝いをしていたから、きっとティナも簡単な料理ができるのだろう。
簡単なものって言っているのが怖いが、その内ティナの料理も食べてみたいものだ。
「あとはクルルが来るかどうかだな」
「うん? クルルがどうしたの?」
「いや、なんでもない」
昨日カップ麺を食べさせただけで目を丸くして喜んでいたんだ。
それよりおいしい料理が出るって話したんだから、きっと食卓に着いてくれるはずだ。
「空はクルルが来ることに期待しているようだけど、クルルはたぶん朝食にはこないわよ」
「いや、クルルはきっと来る」
「凄い自信ね。そんなに自信があるなら何かかける?」
「別に構わないぞ」
「よし! 交渉成立ね」
俺はクルルが朝食の時間までに来てくれると信じてる。
だからこの賭けに負けることはない。
「そしたら何を賭けるんだ?」
「もしあなたが勝ったら、今日の鍛冶屋に行った時好きなものを買っていいわ」
「何でも?」
「そうよ。好きな武器を1つ私が買ってあげるわ」
「その賭けのった!」
「その代わり貴方が負けたら‥‥‥そうね。何か1つ私の言うことを聞く」
「それでいい」
「先輩、そんな賭けをしても大丈夫なのか?」
「大丈夫だ」
絶対にクルルは朝食に顔を出す。
根拠はないが、俺はクルルを信じている。
「クマ!」
「グマ!」
「ライト! ムーン!」
「あらあら? ライト君もムーンちゃんも今日は早いわね」
すごい勢いで階段を下っていく子熊達。
リビングにつくと、自分達のご飯を食べる所に待機する。
「まぁ、子熊達は食いしん坊だから必ず朝食には来るわよね」
「クマ」
「グマ」
「それにしても今日は妙に子熊達の行儀がいいわね」
エサ入れの皿の前、小熊達が律儀に並んでいる。
珍しく背筋を伸ばして、静かに朝ご飯を待っている。
「クルルは‥‥‥こないか」
しばらく待っていてもクルルが降りてくる気配がない。
どうやら俺は賭けに負けたらしい。
「さすがにカップ麺だけじゃ駄目だったか」
「空は何を言ってるの?」
「何でもない。独り言だ」
「変な独り言ね」
「空さん、ご飯ができたので持っていって下さい」
「空、賭けは私の勝ちね」
「しょうがないな」
こうなったらしょうがない。ティナの勝ちだな。
席を立って桜の所へ向かおうとした瞬間、階段をどたばたと降りる音が聞こえてきた。
「寝坊しちゃったよ!!」
「クルル!」
「嘘!?」
「クルルちゃん!」
小さい体のエルフが階段を慌てて降りていく。
息を切らしながらリビングについたと同時に、自分の椅子に座るのだった。
「クルル、あんた起きてたの?」
「うん」
席に座りうなずくクルル。ナイフとフォークを持ち、今か今かと朝ごはんを待っているようだった。
「ティナ。賭けは俺の勝ちだな」
「くっ!!」
「あら? クルルちゃんも起きたんですね」
「うっ!?」
「おはようございます」
桜の顔を見て、一瞬顔をしかめるクルル。
桜には事情を全部説明しているからなのか、嫌な顔はせず笑顔でクルルのことを見ていた。
「もう、空さんも早く配膳を手伝ってください」
「悪い」
「早く朝ごはん、食べたい」
「そういうと思っていました。はいどうぞ。今日は腕によりをかけて作りましたので、期待してください」
桜が出したのがフレンチトースト。それをクルルの前に置く。
俺も台所に置いてあるフレンチトーストを全員の前に並べるのだった。
「クマ」
「グマ」
「大丈夫ですよ。クマちゃん達の分もありますからね」
「クマ!」
「グマ!」
どうやら桜はクマの分も一緒に作ってくれたらしい。
先程までの悲しそうな表情が一瞬で、嬉しそうな表情に変化した。
「さすがだな。桜」
「それほどでもないです」
「空、桜、食べるから早く席に着きなさい」
「そうだぞ。せっかくの朝ごはんが冷めてしまうではないか」
「わかった」
「今行きます」
この後俺と桜も自分の席に座る。その語楽しくも騒がしい朝食が始まるのだった。
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