少女の悩み
本日の朝更新しました。
もし前話を見ていない方がいらっしゃいましたら、そちらを見てからこちらの話をお読みください
「ちっ、違うよ!!」
「だったら後ろの散らかりっぷりは一体何なんだ?」
「これは‥‥‥」
「もし本当に何か食べるものを探していないなら、こんなに散らかることはないだろう」
後ろの台所を見ればそれは一目瞭然だ。至る所に食材や調味料が散乱しており、食べ物を探しているのが一目瞭然だ。
「それにライトもそうだぞ」
「グマ!?」
「台所に閉まってあったはちみつを勝手に食べて怒られても知らないぞ」
ライトの近くにははちみつの壺と思われるものが置いてある。
今はそこでムーンがお腹が減ったのか、手を突っ込んではちみつをなめていた。
「ムーンも食べるのをやめた方がいいぞ」
「クマ!」
ベア子の手もはちみつで黄色に染まっている。さっきから妙にべたべたしているというのはそのためか。
「グマ!」
「クマ!」
「はちみつに手を突っ込んで食べる熊」
某夢の国にいるのんびりとした黄色い熊が頭に浮かぶのだった。
「ごめんなさい」
「別に俺に謝らなくてもいいけど、何か食べたのか?」
「‥‥‥」
「その様子を見ると、何も食べてないんだな」
そんなに悲しそうな顔をされると俺も何も言えない。
お腹が減っている女の子に対して俺にできることはないか?
「そうだ」
「どうしたの?」
「クルルはお湯を作ることはできないか?」
「お湯?」
「もしお湯が出せるなら、おいしいものを作ってやる」
「おいしいもの!?」
おいしい食べ物と言って目を輝かせるクルル。
その様子を見る限り、よっぽどお腹が減っていたんだな。
「今お湯を沸かすね」
慌ててクルルは鍋のようなものに保存してあった水を注いでいた。
だが、ここに火になるようなものはない。どうするつもりだ?
「クルル、火がないみたいだけどどうするつもりだ?」
「こうするんだよ。はっ!」
「すごいな。火を出せるのか」
なるほど、これが魔法なのか。
直接見たことがないから、こうして使っている所を見ると便利な力だ。
「本当はもう少し上手にできれば、お湯を出すことができるんだけど」
「そんなことは関係ない。魔法が使えることがすごいんだ」
俺は魔法なんてものを使うことができない。
だからこそ、魔法が使うことができるだけ凄いと思う。
「本当にそう思う?」
「もちろんだ。今の俺に火をおこしたり水を出したりすることができないからな」
「そうなの?」
「そうだ。それよりも、お湯が沸いたぞ」
「そうだ!!」
お湯が沸いたことを確認して、俺はアイテムボックスからあるものを出す。
熱い鍋を掴み、慎重にその食べ物が入った容器にお湯を入れていく。
「それは何?」
「これはカップ麺ってやつだ」
「カップ麺?」
「そうだ。これにお湯を入れて、3分経つとおいしいものが出来上がるんだ」
こういう時にスマホが役に立つ。
アイテムボックスからスマホを出して時間は3分に設定した。
「後は3分経つのを待つだけだ」
「お兄ちゃんが持っているそれは何?」
「これはスマホって言うものだ」
「スマホ?」
「これを使うと遠くの人と会話をすることができるんだ」
「凄い!! そんな道具見たことない!!」
本当は色々制限があるんだけど、簡単にスマホの説明をするとこういうしかないだろう。
クルルは先程から目をキラキラとさせて俺の話を聞いていた。
「悪いけど、これは時間を計るために使ってるから渡すことができないぞ」
「えぇ~~」
「まぁ、その内気が向いたら貸すよ」
「やった!!」
正直もう電池の容量が少なく、いつ使えるようになるかわからないが後で見せてもいいだろう。
簡易充電器みたいなものがあるにはあるが、簡易充電器が充電されていない為ちゃんと使えるかどうかわからない。
「いい匂いがしてきたよ」
「まだ1分しか経ってないからもう少し待っててくれ」
スマホの時間を見ると、まだ1分しか経っていない。
今その状態で食べると確実に麺が硬くて食べられたものじゃないだろう。
「クマクマクマ」
「グマ」
「お前達も食べたいのか?」
「クマ!」
「グマ!」
うれしそうに首を縦に振る熊達。どうやらクルルが食べるカップ麺に興味があるみたいだ。
「確かに数はいっぱいあるけど、お前達に食べさせるのもな」
さっきまで夕食をたらふく食べた子熊達にこの時間にご飯を食べさせるのもな。
この時間に食べさせて明日の朝ごはんを食べられなくなるのもまずいからやめておこう。
「今の時間に食べると朝ごはんが食べれなくなるからやめた方がいい」
「クマ!?」
「グマ!?」
「そんな悲しそうな顔をしないでくれよ。お前達はこれで我慢してくれ」
そういって渡したのはビーフジャーキー。子熊達はそれを1本ずつ受け取った。
「クマ?」
「グマ?」
「それは食べれるから大丈夫だ」
半信半疑で口に入れる子熊達。恐る恐る口に含む。
「クマ!」
「グマ!」
「それっておいしいの?」
「クマクマ」
「グマグマ」
クルルの質問に猛スピードで首を縦に振る子熊達。
よっぽどおいしいのだろう。無我夢中に食べていく。
「いいなぁ~~、ライトとムーン」
「クマクマ」
「グマグマ」
「クルルにはこれがあるだろ?」
「もうできたの?」
「出来たぞ」
カップ麺の蓋を開け、アイテムボックスからプラスティックのフォークをそこに差し込んだ。
カップ麺からは熱い湯気が立ち込めている。
「熱いから気をつけて食べろよ」
「わかった」
カップ麺をじっと眺めるクルル。
恐る恐る口を開き、麺を自分の口の中に入れていく。
「どうだ? うまいか?」
「うん! おいしい!」
目の色を変えてカップ麺を食べ始めるクルル。
さっきまで味の好みはあうのか不安だったが、そんなことは杞憂だったらしい。
「クマ」
「グマ」
「ライトとムーンも食べたいの?」
「クマ!」
「しょうがないな。ちょっとだけだよ」
「グマ!」
一口だけ子熊達の口の中に入れるクルル。カップ麺を食べた子熊も喜んでいるようだった
「優しいんだな。クルルは」
「だって食べたいって言ってるんだからしょうがないでしょ」
最初は気難しい子供だったと思っていたが、根は優しいのだろう。
ただ自分で見た本の知識を全て鵜呑みにしているように見えた。
「ごちそうさまでした」
「おいしかったか?」
「うん! お母さんの料理よりもおいしいかも」
カレンさんには悪い気もしないが、クルルが満足してくれて俺はうれしい。
スープの最後の1滴まで飲みほして、満足そうな表情を浮かべていた。
「そういえば、何で夕食に顔を出さなかった?」
「‥‥‥怖かったの」
「怖かったって言っているのは、俺達のことだろ?」
「うん」
きっとクルルはエルフの人達以外の種族を見たことないのだろう。
だから文献だけ見て人間達が恐ろしいものだと思い、俺達のことを避けてたんだ。
「まだ俺のことは怖いか?」
「おいしいものをくれたから怖くないけど」
「そうか」
おいしいものをくれたから怖くないって発言していることは少々不安だが、俺への警戒心はだいぶ解けたみたいだ。
「だけど、お兄ちゃん以外の人は怖い」
「なるほどな」
俺以外の人は怖いか。その恐怖心が解けない限りきっとクルルは桜達に顔を見せることはないだろう。
「何かいい方法はないものか」
桜達の人柄さえわかれば、きっとクルルの警戒心もなくなると思うんだけどな。
どうすれば怖くないと思われるんだろう。
「そうだ!」
「どうしたの?」
もしかしたら食いしん坊のクルルだからこそ、桜達と自然に会う方法があるかもしれない。
「クルル。明日の朝ごはんだけど、ちゃんと食卓に並んでくれ」
「無理!」
「そうなのか。それは残念だな」
「何で残念なの?」
「もし来てくれるなら、さっきのカップ麺よりおいしいものを提供できるけど」
「おいしいもの!?」
一瞬喜んだ顔をしたが、すぐふてくされた。
今クルルの中で葛藤が生まれているのだろう。
おいしいものを食べる為に、人間と一緒に食事をしていいのか。
そのことについて悩んでいるように見えた。
「いいのか? さっきのカップ麺よりもおいしい料理だぞ」
「さっきのご飯よりおいしいの?」
「そうだ」
もし桜が料理を作るなら、カップ麺なんかの比にならないぐらいうまい。
きっとクルルが考えを変えるぐらいのものを作ってくれるだろう。
「でも‥‥‥」
「子熊達も食べたいよな?」
「クマ!」
「グマ!」
予想通り。子熊達は既に明日の朝ごはんに思いをはぜているようだ。
ご飯のことに限っては単純に考えてくれて非常に助かる。
「まぁ、今日の夜考えてみろよ。俺はそろそろ寝るから」
「わかった」
「あと台所は片付けておかないと、明日怒られるぞ」
それだけ言って俺は2度寝するために階段を上り始めた。
「お兄ちゃん!」
「どうしたんだ? まだ何か話したいことでもあるのか?」
「お兄ちゃんの名前ってなんていうの?」
「俺? 俺は山村空っていうんだ。よろしくな」
「山村空」
それだけクルルに伝え、2階に上っていく。
2階に到達する前に、下の階から声が聞こえてきた。
「空お兄ちゃん!」
「まだ何かあるのか?」
「おいしいご飯をくれて、ありがとう」
「いいってことよ。お前も早く寝ろよ」
なんだ、ちゃんとお礼の言える子じゃないか。
ティナの話を聞いて最初は気難しい子供のように感じたがそんなことはない。
クルルは素直で優しい子だった。
「さて、もう一眠りするかな」
一回背伸びをして俺は部屋に戻る。
願わくば明日クルルが食卓に来てくれることを祈りながら、桜の寝ているベッドに入るのだった。
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