木内桜救出戦
「えっ? 桜ちゃんって、あの桜ちゃん⁉︎ 昔空とずっと一緒にいた?」
「そうだ」
自分ではボブカットと言い張るウェーブのかかったおかっぱの茶色い髪。
細くてきれいな長い足に目に影を作るぐらい切れ長いまつげと整った容姿。
何より彼女の右手の薬指にはめられた指輪。
あれは昔俺が彼女に送ったものだ。
「どこ? 桜ちゃんはどこにいるの⁉︎」
「ここの奥の路地。大体距離にして500mあるかないかって所だな。日向も聞こえるだろ? あそこの路地の方が騒がしいって」
俺が指を指した所を日向も見ているが、遠くて見えないせいかずっと目を細めていた。
それもそのはず。俺ですら鷹の目のスキルがあって、やっとわかるレベルだ。
普通の人が見たらアンデッドが何かの獲物を追っているぐらいにしか見えないだろう。
俺ですら鷹の目というスキルがあって、はっきりと見ることが出来るのだから、普通の人には見えるはずがない。
「確かにあそこに人がいる。しかもモンスターに襲われてるよ」
「そうだな」
「えっ⁉︎ 待ってよ!! 助けなくていいの? 空のことを慕ってた桜ちゃんだよ」
「そんなことはわかってる! だからって、どうやって助けるんだよ!!」
「それは‥‥‥」
日向の言っている意味はわかってる。俺だって桜のことは助けたい。
だが、外にいるアンデッドの強さがわからない以上ここで無理に外へ出て行くことはは出来ない。
万が一桜のことを助けにいって、俺達が死んでしまったら元も子もないからだ。
いい考えが浮かばない以上、下手にここを動かない方がいい。
「でも、中学時代あんなに2人で一緒にいたじゃん!! それだけ仲がよかったのに、なんでこんな簡単に諦められるの⁉︎」
「諦めてるわけじゃない。あいつを助ける為に考えてるんだ」
「考えてたって意味がないよ! 何もしなければ桜ちゃんは死んじゃうんだよ!!」
「そんなことはわかってる!!」
俺だって桜を助けたい。だけど無策で出て行ってどうなる? 死ぬのは俺達だ。
いくら考えても、今の俺達に桜を助けるすべが見つからない。
俺が1人で行くのも考えたが、ろくに武器を使えない俺では無駄死にするだけだ。
なら、日向は? あのコボルト4匹相手に大立ち回りしたあいつなら、もしかすると桜を助けられるかもしれない。
だが失敗したらどうする? 桜だけじゃなくて日向も一緒に死んでしまう。それだけは絶対にだめだ。
「遠くからスケルトンを狙いをつける? でも、ハンドガンじゃあの距離で狙いをつけるのは至難の技だ」
いや、まてよ? さっき手に入れたスナイパーライフルならならどうだ?
あれなら威力があり、射程が長い。桜を襲っているモンスターを倒せなくても、足止めをするぐらいならなんとかなるんじゃないか?
その考えに思い至り、先程手に入れたスナイパーライフルアイテムボックスから取り出す。
そして銃を構え、桜を追い回すアンデッドに狙いを定めた。
「空?」
「黙ってろ」
集中力が途切れたら終わりだ。
ただでさえ初めて使用する銃を使ってるんだ。失敗する可能性のほうが高い。
ただ俺には狙撃のスキルがある。きっと意識すれば狙った所に撃つことも可能なはずだ。
今桜が壁際に追い込まれていて、アンデッドの動きが止まっている。チャンスだ。
俺が狙うのアンデッドの後頭部。倒せないまでも一瞬の隙を作れば桜のことだ。上手く脱出してくれるだろう。
「そこだ!」
狙いを済ませ、引き金を引くと大きな破裂音が鳴り響く。
そしてその銃弾はアンデッドの後頭部に直撃。振り上げた剣を落とし、前につんのめるアンデッド。
よし効いた。
「行くぞ、2体目」
間髪いれず2発目を撃つとその弾丸ももう一方のアンデッドの後頭部に当たる。
そして2体のアンデッドが怯んだ隙に、桜がその間を抜けて逃げていく様子が見えた。
「さすが! それでこそ空だよ」
満足げに頷いた日向はそのまま部屋の扉を出ようとする。
「何やってんだよ?」
「僕が桜ちゃんを迎えに行くよ。だから空は援護射撃をお願い」
「自殺行為だ。あのアンデッドの群れの中に飛び込むんだぞ? 正気か!?」
「うん、僕はいつだって正気だよ」
どうやら日向は本気で助けに行くようだ。俺としては桜を助けてくれるのはうれしいが、自分を犠牲にしてまで行かないでほしい。
俺だけじゃなくて、三村も悲しむから。
「今出て行っても、死ぬだけだぞ」
「じゃあ僕が死なないように、空がここから僕達を守ってね」
「よくいうぜ。お前が1人で手柄を持っていくくせに」
「大丈夫。桜ちゃんは僕のことなんて興味ないから」
それだけ言うと日向は部屋を出て行こうとする。
ちょっと待て。このまま出て行っても、日向は桜の場所がわからないだろ?
「待った。日向はどうやって桜を探すつもりだよ」
「そこは勘で何とかするよ」
「勘だけで見つけられるわけないだろ?」
日向ならそれでも何とかできそうだが、実際見つけるのは至難の技だ。
だがここから町中を見渡せる俺なら、2人を会わせることができる。
「日向は携帯の電源ってどれくらい残ってる?」
「今日は学校でずっとゲームしてたからかなり減ってるけど、まだ残ってる」
「よし、今から俺が電話するから出てくれ」
「わかった」
俺が電話をすると、日向のスマホの着信音がなる。
通話ボタンを押してもらい、問題なく電話は起動する。
これで連絡を取る手段は出来た。
「それをスピーカーモードにして持っててくれ。音はうるさいと思うけど、俺がなんとか2人を引き合わせてみせる」
「わかった。僕は空を信じてるから」
「すまん、日向。お前を危険な目に合わせて」
「構わないよ。絶対助けよう。桜ちゃんを」
そう言って日向は勢いよく部屋から出て行った。
階段を下りる音と共に、下から声が聞こえてくる。
「ちょっと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥大事な‥‥‥‥」
「何が‥‥‥‥」
主に誰と誰のやり取りかはこの時点でわかるだろう。たぶん日向が風呂上りの三村と鉢合わせたのだ。
玄関のドアがバタンと閉まる音と共に、ドタドタと階段を登る音が聞こえてくる。
しかしそんな事にかまっている暇はない。窓の外では、路地から逃げ出した桜がアンデッドに挟撃されている。
逃げ場がなく、キョロキョロと辺りを見回す桜。正直かなりまずい。アンデットに挟まれている桜も焦っているように見えた。
「まずいな」
俺は日向に近い方のアンデッドめがけて発砲した。
その銃弾はアンデッドの後頭部にぶつかり、つんのめって前に倒れた。
「よし、桜もそっちに行ったな」
つんのめったアンデッドの横を桜は抜けた。
上手く日向の方向に桜は逃げてくれた。これで日向を桜のいる方に誘導すればいい。
「日向、聞こるか?」
『うん、聞こえてるよ』
「よし、そうしたら次の角を右に曲がってくれ」
『わかった、ってちょっと空、アンデッドが前にいるよ』
「そのアンデッドは俺が何とかするから。そのまま進め」
『わかった』
日向の方のアンデッドに狙いを定め、スナイパーライフルを撃つ。
これもアンデッドの頭部に当たり、仰向けに倒れるのだった。
「ちょっと山村君、どうなってるの!? 後さっきから何? この破裂音」
「黙っててくれ三村。今取り込み中だ」
三村にそれだけ言い、俺は桜の現在位置を確認した。
進行方向にアンデッドが待ち構えている。だが、桜は怯まず、前に進もうとしていた。
「山村君!!」
「後にしてくれ」
桜の前にいるアンデッドに向かって銃を放ち、弾丸が真っ直ぐアンデッドの方へと飛んでいく。
そして頭部に命中し、一瞬動きが鈍くなった隙に桜がその脇を抜けて逃げていった。
「いいぞいいぞ、上手くいってる。日向はその十字路を左に曲がってくれ」
『わかった』
「そっちにもアンデッドが1匹いるけど、その動きは俺が一瞬止める。だからその隙に脇を抜けて行ってくれ」
『わかった』
狙いを日向の方のアンデッドに変更し銃を撃つ。
これもアンデッドに見事に命中、その横を日向はくぐっていった。
そして次は桜の方にいるアンデッド。これも頭部に命中し、よろけた隙に桜が脇を抜けていった。
「よしいいぞ。日向、次の十字路は右だ!」
「『右だ!』じゃないわよ。一体山村君達は何をしてるの?」
「悪い、三村。今はお前にかまってる暇はないから、また後でな」
「『また後でな」じゃないわよ!! さっきからすごい大きな銃声もなってるし、2人は何をしてるのか教えなさいよ」
眉を吊り上げて怒る三村を他所に、俺は日向へ指示を送り続ける。
その間も三村のお説教をBGMにして、銃の引き金を引き続けた。
『やったよ、空。桜ちゃんと合流できた』
「よくやった。こっちに戻ってきてくれ。道案内と援護は俺がする」
『わかった』
一息つき俺が後ろを振り向くと、すぐ側に三村の顔があった。
いぶかしげに俺の顔を覗き込む三村の目つきが怖い。正直直視できない。
「山村君、桜ちゃんって誰?」
「俺達の中学の後輩だよ」
「女の子?」
「そうだ」
その話を聞くと不機嫌そうに俺を睨む三村。確かに三村に何も言わなかったけど、今は一刻を争うんだ。
罪悪感はあるけど、こんなにツンツンしないでほしい。
「その子と日向君は友達なんだよね?」
「そうだ」
「本当にそれだけ?」
「それだけだ」
頬を膨らませ怒ってますアピールをする三村。
たぶん1人だけ蚊帳の外なのが嫌なのだろう。
「山村君、このことは後で説明してくれるよね?」
「わかった。後で全部話すから、今はこっちに集中させてくれ」
それだけ言うと三村も黙って俺の言うことを聞く。
むすっとした顔をした三村は、じっと黙りながらも何かをいいたそうに俺を見ていた。
「三村も黙っていれば可愛いんだけど」
「何か言った?」
「いや、何も」
惚けたふりをしながら、俺は日向達に襲い来るアンデッドにむかって銃弾を放っていく。
この激おこ状態の三村をどうやって説得しよう。
そんなことを頭の片隅で考えながら、俺は日向に指示を送り続けるのだった。
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