歓迎会と謎の少女
「それじゃあみんなで食べましょう。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「クマ!」
「グマ!」
5人と2匹が揃った食卓。カレンさんの号令と共に夕食を食べ始める。
「どの料理もおいしそうですね」
「そうだな」
「ふふっ、いっぱい食べてね」
テーブルに並ぶ豪勢な食事の数々。どれもこれもおいしそうに見えた。
「これは全部カレンさんが作ったんですか?」
「そうよ。せっかくの大人数だから腕によりをかけて作ったの」
「1人で作ったんですか?」
「そうよ」
「この量を1人で作ったのか」
この量を1人で作るなんて、どれだけ時間がかかったのだろう。
カレンさんが俺達のことをものすごく歓迎してくれていることがよくわかった。
「お母さん、張り切りすぎよ」
「久々のお客様じゃない。これが張り切らずにいつ張り切るのよ」
「あたし達みたいなお客さんって今まで来なかったんですか?」
「直接この家に来るみたいなことは殆どないわね。基本外の商工会議場で集まって話すから、こうやって皆でご飯を食べるのは久しぶりよ」
話を聞く限り、家族で一緒に食べることが少ないように思えた。
だからこそ、こうやって俺達と一緒に大人数でご飯を食べれるのがうれしいのだろう。
「クルルは部屋から出てこないし、お父さんも家にいないことが多いし、お兄ちゃんは家を出ちゃったし‥‥‥」
「お兄ちゃん?」
「ティナさんってお兄さんがいらしたんですか?」
「えぇ、いるわよ」
「初めて知りました」
「俺もだ」
ティナとクルルの姉妹だと思っていたが、兄妹だったのか。
「お兄さんがいるのに、ティナさんはしっかりもので凄いですね」
「そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めて」
「いや、しっかりしてたら1人で俺達の街に降りてこないだろ?」
「何でその話を今蒸し返すのよ!!」
ティナが不満気な表情をするが、カレンさんも含め全員が笑っていた。
楽しいと素直に思える食卓だった。
「そういえば由姫ちゃんはどうしたんですかね?」
「さっきから終始無言だけど」
横を見ると、一心不乱にご飯を食べる由姫の姿があった。
その姿を見て、自分が言いたいことを忘れてしまう。
それだけ由姫の食べる姿がすがすがしかった。
「うん? どうしたんだ? 先輩?」
「いや、大丈夫だ。由姫はそのままでいてくれ」
「変な先輩だな」
静かに大盛の食事を由姫は食べる。
いつものことだけど、食事を食べている由姫は相変わらず変わらないな。
「そういえばラックスさんはいないのはわかるけど、さっきのクルルって子は呼ばなくていいのか?」
「いいのよ。クルルは人見知りだし、初めて人間を見るから怖くてリビングに来れないんでしょう」
「へぇ~~」
先程部屋を訪問した時といい、クルルって子はよっぽど人と会いたくないのだろう。
絶対に俺達と顔を見せたくないという思いが伝わってくる。
「クルルちゃんには、私が後でご飯を持ってくわ」
「お母さん、クルルに甘すぎよ」
「でも、クルルちゃんが可愛そうじゃない?」
「別にいいと思うわ。もしお腹が減ってきたら、自分でご飯を食べに来るでしょう」
「でも‥‥‥」
カレンさんは困り顔でティナの顔を見る。ティナは意に返さずにご飯を食べ続けた。
「う~~ん、ティナさんは身内には厳しいですね」
「でもそれだけクルルに部屋から出てきてほしいんだろう」
出来れば色々な人とかかわってほしいと思うからこそ、ティナは敢えて突き放しているのだろう。
ちょくちょく部屋から引っ張り出していることといい、もしかしたらティナが1番クルルのことを思っているのかもしれない。
「それにしても、このスープおいしいですね」
「それは私が腕によりをかけて作ったものだから。いっぱい食べてね」
「それではさっそくお代わりをいただこう」
「はい、今渡すわね」
「出来れば大盛で頼む」
「はい。わかりました」
嬉しそうにスープをよそいに行くカレンさん。
どうやら由姫がいっぱいご飯を食べてくれるのがうれしいみたいだ。
「それにしても由姫はよく食べるわね」
「ティナは知らないと思うが、私が私達の世界ではこういう格言がある」
「どんな格言なの?」
「よく食べる子は育つと」
「それを言うなら寝る子は育つだろ」
何で自分の都合のいい格言を作ってるんだよ。
食べる子が育つって聞いたことないぞ。
「別にいいではないか。現に私は育っているのだからな」
そんな胸を張るなよ。由姫の一部分が強調されて、桜が死んだような目をしているだろう。
「先輩、もしかしてまた私の胸を見てたな!?」
「だから見てないってば」
おなじみのやり取りだが、このやり取りを一体いつまで続けるつもりなんだ?
由姫は楽しそうにしているが、俺からすれば微妙に疲れてしまう。
「空、どうしたの? 浮かない顔をして」
「別になんでもない」
後輩のボケに付き合うのも先輩の役目なのか。
そのことを考えるだけでげんなりする。
「先輩も大変だな」
「お前が言うなよ!!」
皆が楽しそうに笑っている中で、俺一人が疲れた顔をしているように思えた。
「さすが空さんですね」
「それでこそ私達のリーダーだ」
「今更俺を持ち上げても遅いぞ」
その時、ふと子熊達に視線が向いた。
子熊達が階段の方にずっと視線を向けていた。
「クマちゃん達、どうしたんですか?」
「そんな階段の方を見て、どうしたんだよ?」
明らかに様子がおかしい。自分達が食べていたご飯は食べ終わってはいたが、静かに遠くを見ているように思えた。
「一体どうしたんだ?」
「クマ!」
「グマ!」
「あっ!? クマちゃん達がどこかに向かっていきます」
小熊達が階段に向かって走っていく。階段を登り終えると、誰かに話しかけている。
「クマ! クマ!」
「グマ! グマ!」
「しっ!! 静かにしていないとだめだよ」
「何だ? あれ?」
「女の子と話しているようですね」
こちらからははっきりと見えないが、小さい女の子と子熊達が話しているように見えた。
「誰だ? あれ?」
「バレた!?」
「バレたって‥‥‥おい、待ってくれ!!」
肩をびくっとさせると、そのまま少女はどこかへと行ってしまう。
残された子熊達もその後について行く。
「誰だったんだ? あの女の子は?」
「クルルね。きっとお腹が減ってリビングに来たんだけど、貴方達がいたからあそこから様子見をしていたのよ」
「あれがティナの妹なのか」
小熊より少し大きいぐらいの少女。ティナの言っていた通り、確かに子熊より少し大きいぐらいの身長しかない。
「クルルちゃんって確か4歳なんですよね」
「今年の誕生日で4歳になるから、まだ3歳ね」
「それはいいんだけど、放っておいていいの?」
「いいのよ。どうせ後でお腹がすいたら降りてくるわ」
「そういうものなんですか?」
「そういうものよ」
皿にのっていた肉をフォークに差し、おいしそうに食べるティナ。
結局この後クルルはリビングに現れることがなく、俺達は食事を終えるのだった。
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