魔王
「ちょっと待って、お父さん。魔王って、大昔に死んだんでしょ?」
「あぁ。そうだ。確かに魔王は300年前に既に亡くなっている」
「それなのに何で空が魔王になるの!? おかしいでしょ!!」
「落ち着け、ティナ。今詳しく説明するから。とりあえずそこに座りなさい」
ラックスさんに言われ、立ち上がっていたティナは大人しく座った。
だがその顔はあからさまにラックスさんの発言に対して不満そうに見えた。
「改めてラックスさんに聞きたいんだけど、何で俺が魔王の後継者なんだ?」
「それは君が勇者の従者のスキルを持っているからだ」
「それは理由になっていません!!」
「そうだぞ。先輩は魔族ではない。魔王は魔族の王様なのだから、先輩が後継者ということがそもそもおかしい!!」
桜や由姫の言う通りだ。ラックスさんの言っていることはそもそもおかしい。
「勇者の従者を持っている人が次の魔王って考えは少し飛躍しすぎじゃないか?」
「いや、飛躍してはいない。現に歴代の魔王と呼ばれた者は勇者の従者のスキルを持っていた」
「それは本当なのか?」
「本当だ。これは我々エルフ族含む、魔族すべてに語り継がれている話だ」
なるほど、その話を聞くと確かに一連のことは偶然のようには思えない。
「でも、人間が魔王なんてなれるんですか?」
「なれる」
「断言しているけど、何か根拠があるから言ってるんですよね?」
「そうだ。だって先代の魔王は人族だったのだからな」
「嘘!?」
「何だって!?」
人間が魔族の王様である魔王になっただと!? 何故そんなことになったんだ!?
「先代の魔王が人間って、その話は本当なの?」
「本当だ。現に私も魔王様と話している」
「私、そんな話は1度も聞いたことはないわよ」
「当たり前だ。人間を憎む者もこの町にいるのだ。この話は我々古参のものだけしかしらない」
ティナが反論する中、俺は考える。
本当にラックスさんが俺達に対して嘘をついているのかということを。
「空さんはどう思いますか?」
「俺はラックスさんの話に嘘はないと思ってる」
ここまで俺のスキルのことについて説明してくれたので、さすがに嘘をついているとは考えにくい。
だからこの話もきっと本当のことなのだろう。
「ラックスさん、その時の話聞かせてもらってもいいですか?」
「あぁ、話そう」
軽く咳ばらいをしてから、ラックスさんは語りだす。
ラックスさんやティナの世界の歴史を。
「元々私達の住んでいる世界には4つの国があった。エルドラン皇国、ガルダス共和国、ラクス王国の人族の国家。それと、私達魔族が支配するリール王国の4つだ」
「お父さん、でもリール王国は昔に滅ぼされたって私聞いたことがあるんだけど?」
「そうだ。リール王国は今から300年前に滅亡した」
「何で滅亡したんですか?」
「それは我々リール王国が他の3つの国と戦争をして負けたからだ」
戦争をして負けたため国が滅んだ。これはよくある話だ。
「だけど、なんで人間達と戦争をすることになったんだ?」
「もしリール王国に人族の王がいたなら、もっと他の国と友好的な関係を築けますよね?」
「詳しい話は私もわからない。私が聞いていることは、些細なことから戦争に発展したということだ」
「そんなことで戦争をするものなのか?」
「その魔王って人はよっぽど独裁体制を敷いていたんですね」
「いや、実はそうでもないんだ」
「えっ!?」
「私が話した魔王は優しくて仲間思いの人だった。とても短絡的に戦争をするとは思えない」
優しくて仲間思いの人物が唐突に戦争を起こす。
もしかすると、この人も知らない所で何かあった可能性があるな。
「話を戻すが、我々リール王国の侵攻に他の3カ国は手も足もでなかった。その時に活躍したのが四天王と呼ばれる者達だ」
「四天王?」
「そうだ。リール王国で王様のパーティーメンバーを中心に各地で奮闘した結果、人族3つの国を追い詰めていった」
「それで?」
「人族の国を追い詰めていく内に我々の王は魔王と呼ばれ、そのパーティーメンバーは四天王と呼ばれるようになった」
「なるほどな」
そんな経緯があって、王国の王様は魔王と呼ばれるようになったのか。
「でも今のラックスさんの話を聞く限りでは、その魔王が暴虐の限りを尽くしているように思えます」
「そう思われるのも無理はない。現に魔王は人族3つの国を追い込み、実際ガルダス共和国とラクス王国は落とされ、残るエルドラ皇国も潰される寸前まで追い込まれていた」
「話を聞く限り、魔王軍の圧勝じゃないか」
「だが、そこでエルドランド皇国から救世主が現れた」
「救世主?」
「それが勇者だ」
ここで勇者が出てくるのか。きっとその勇者は日向や八橋のような人のことを言うのだろう。
「その勇者は各地で四天王と呼ばれる魔王の側近を倒して、最後には魔王まで倒したのだ」
「なるほどな」
「それから魔王を倒したリール王国は滅び、我々魔族はちりじりとなってひっそりと暮らすようになった」
「そうなんですね」
「今の話を聞いていると、明らかに魔族が悪かったと思えるな」
桜と由姫の言う通り、今の話だと魔族が圧倒的に悪いように見える。
そのエルドラン皇国の勇者が本当に救世主のような話に見えた。
「それから勇者スキルを持つものは素質者と呼ばれるようになり、国から重宝されるようになったと聞く」
「素質者か」
フランシスが素質者と言っていたのは、勇者スキルを持つものを探していたのか。
だから桜と由姫に対しても過剰反応して、最後八橋を攫っていったのか。
「先輩、なんでフランシスは勇者スキルを持つものを攫ったのだと思う?」
「それはわからないな」
あいつが何を考えているかわからないが、絶対ろくなことを考えていない気がする。
もしあいつが潜んでいる所がわかるなら、早めに八橋を救出ないと取り返しのつかないことになりそうだ。
「1つ質問してもいいですか?」
「なんだい?」
「ラックスさんはよく生き延びれましたね。普通王国が滅びるのなら、魔族達全員皆殺しになっていてもおかしくないのに」
それは俺も思っていた。普通戦争で負けた国の人間は皆殺しにされてもおかしくないのによく無事に生き延びれたなと思う。
「よっぽど敵国の王様が寛容だったんですね」
「それは違う」
「何が違うんですか?」
「エルドラン皇国の王様が逃がしてくれたわけじゃない。最終決戦の前に、魔王様が逃がしてくれたんだ
「魔王が?」
「そうだ。正しくは魔王様ではなくて、魔王様の側近である四天王が魔王様の命令ってことで我々に伝えてくれたんだ」
「四天王が?」
「そうだ」
四天王の言葉が出た時、ラックスさんが寂しそうな顔をしたのはどうしてだろう。
もしかすると四天王にラックスさんの関係者がいたんじゃないか?
「結局その四天王のおかげで、私達エルフ族全員が無事逃げのびることができた」
今の話で聞きたいことは色々とあるが、その話を今のラックスさんに振ってもしょうがないだろう。
その話は俺達には話してくれないように思えた。
「それからしばらくは人間とも国交を閉ざしていたが、ここ100年ぐらいは人間達とも和解し国交を開くようになったのだ」
「その人間達との窓口になったのが私よ」
「ティナが?」
「そうだ。人間達との交渉窓口をティナにお願いしている」
これで1つ合点がいった。人間を憎むエルフも少なくない中、ティナが人間慣れしていたことに。
「人間達以外、私達がいた島の交渉全般をしていたのがティナだ」
「もしかしてティナが、俺達の街に降りてきたのも‥‥‥」
「そうよ。あの街の調査もあったけど、出来れば私達と友好的に接してくれる人がいないか探す目的もあったわ」
だからあんな自分を危険にさらしてまで俺達の街に来たのか。
「ティナって意外と凄いやつだったんだな」
「そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めてくれてもいいのよ」
「ただそれと自分の身を危険に晒すのは別問題だ。反省しろ」
「何で上げて落とすようなことを言うのよ!!」
俺とティナ以外の全員が俺達のやり取りを見て笑っている。
別に今の話で笑う要素なんてなかったはずなのだが、何が面白いんだろう。
「由姫ちゃん、空さんがまたティナさんを口説いています」
「相変わらずの天然の女たらしだな。油断しているとすぐに女性を口説きにかかる」
「2人共聞こえてるからな」
何で俺は口説いているつもりはないのに、後輩2人いつも俺に女たらしのレッテルを張るのだろう。
特に桜の目が最近きつい気がするのは気のせいだろうか。
「空君、うちの娘は生娘だから優しく扱ってくれ」
「ちょっと、お父さん!! 何を言ってるの!?」
「すいません。俺ちゃんと彼女いるんですけど」
「そうだったのか。すまなかったな。ティナがこんな楽しそうに話しているのを見るのは久しぶりだからつい親心でな」
「そうなの?」
「あぁ。いつも仕事仕事で眉間に皺を寄せているから、嫁の貰い手が見つからないんだ」
「お父さん!!」
どうやら俺達と会う前のティナは相当ストレスを抱え込んでいたらしい。
そのことをツッコミたいが、これ以上言うとティナに何をされるかわからないから言うのをやめよう。
「さっきも言ったと思うが、エルフの中には人間を憎んでいる人もいる。だから外を歩く時は気をつけてくれ」
「わかった」
これで俺がティナの父親に聞きたいことは全て聞いたな。
俺のスキルのことといい、ティナ達の世界の話等今知りたい情報が全て手に入った。
「まさかこんな有益な情報を聞けるとは思わなかったな」
「本当です」
「私もそう思う。これもティナやラックスさんのおかげだな」
「由姫の言う通りだ」
正直今の話だけでも、日向達に話す価値のあるものばかりだ。
出来れば少しでも早く、日向や悠里達と会いたい。
「そちらの質問が終わったようなら、今度はこちらがそちらの世界のことを質問してもいいかい?」
「わかった。何でも聞いてくれ」
こうして俺はこの後、ラックスさんの質問攻めにあう。
その質問に俺達は1つ1つ丁寧に答えていくのだった。
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