エルフの掟
「ふぅ、お腹いっぱいだ」
満足そうに由姫はお腹をさすっている。
その姿はとても今時の女子中学生には見えない。
「由姫、貴方ってかなり食べるのね」
「そうなのか? 私としては腹八分目で抑えたつもりだったが」
「あれが腹八分目」
ティナがドン引きする理由もわかる。
あんな大盛を食べておいて腹八分目なんて、一体どんな体の構造をしているのだろう。
「そんなことより昼食も済んだことだし、早く行かないか?」
「そうね。私の家に行きましょう」
「ティナちゃん達、また来てね」
「はい」
テーブルから立ち上がり、俺達は店を後にした。
その足でティナの家へと向かう。
「クマーーー」
「グマーーー」
「なんだかクマちゃん達眠そうですね」
「お腹が満たされたら眠くなるって、本当にお気楽な熊達だな」
運動して眠ってお腹が減ったらご飯を食べる。ある意味健康的な生活といってもいいだろう。
「まぁ、まだ子熊だからしょうがないんじゃない?」
「そうです。すごく可愛いからいいんです」
本当にそれでいいのか桜。確かにこの2匹を見ていると和むが、ただのペットのようにしか見えないぞ。
「そういえば、この町の人は俺達に嫌悪感を出さないんだな」
「どういうこと?」
「だってあんな結界まで張ってまで、人間達が入れないようにしているんだ。よっぽど俺達を嫌っているってことだろ?」
ティナといいさっきのエルフの叔母さんといい、あんまり人間に悪い印象を持っていないんじゃないかと思った。
「そんなことないわよ。エルフの中には、人間達を憎んでいる人達も大勢いるわ」
「そうなのか?」
「そうよ。特に若いエルフ達は、他の種族達の嫌っているのも多くいるわ」
「そうなのか。その割にはティナはそんな風に見えないけど?」
「確かに悪い人はいるとは思うけど、少なくとも貴方達は悪い人には見えないわ」
「そうですか」
どうやら俺達は知らぬ間にティナの信用を勝ち取ってしまったみたいだ。
でも、そうじゃなければエルフだけのこの町に連れてこないか。
「それよりも着いたわよ」
「ここがティナの家か」
「想像以上に大きい家ですね」
目の前にあるティナの家は俺の想像を超えていた。
どこかの城みたいな作りではないが、縦長の3階建て。
庭も想像以上に広くて、庭の端には家庭菜園をしているようだ。
「ティナが族長の娘と聞いていたから、お金持ちだと思ったが想像以上だったな」
「お金持ちじゃないわよ。ただ部屋の数が多いだけだから」
「それをお金持ちって言うんじゃ‥‥‥」
「さぁ、行きましょう。中できっとお父様が待っているわ」
ティナが家の扉を開け、中へと入っていく。
俺達はその後ろをついていった。
「あら? お帰り、ティナちゃん」
「ただいま、お母さん」
「お母さん?」
「その人がティナさんのお母さんなんですか!?」
お母さんってティナは言うけど、全然お母さんに見えない。
むしろティナの姉と言われても全く不思議に思わない。それぐらい若く見えた。
「あらあら、もしかして後ろの人達はティナちゃんのお客さん?」
「そうよ。空、紹介するわ。この人が私のお母さん、カレン・ラインハルトよ」
「いつもティナちゃんがお世話になっております」
「いえ、こちらこそご丁寧に」
カレンさんが頭を下げたので、俺も思わず頭を下げてしまった。
「カレンさん、落ち着きがあっていい人ですね」
「ただよく物事を忘れることはどうにかしてほしいけどね」
「ティナちゃん!!」
「ごめんって、お母さん」
楽しそうに笑うティナの姿を見ていると、親子仲は良好のように見えた。
「いい光景ですね、空さん」
「あぁ」
まるで学校にいた時の桜を見ているようだった。
「寂しいか? 両親に会えなくて」
「確かに寂しい気持ちもあります。だけど、あたしには空さんがいてくれるのでそんなに寂しくないです」
「桜、よくそんなことを平気で言えるな」
「だって空さんがあまりそういうこと言ってくれないから」
「だって恥ずかしいだろ。そういう事は2人で‥‥‥」
そこまでいった所でこの場にいる全員の視線が俺達の方を向いていることに気づいた。
「あらあら、私達はお邪魔だったかしら」
「先輩、そういうことはせめて人目を気にしてやってほしい」
「そうよ、空。由姫の言う通りよ」
「何で俺だけ責められるんだよ!!」
責められるなら発端を作った桜だろ?
何で俺が責められないといけない。
「まぁ、そんな些細なことはいいとして」
「俺はよくないんだけど」
「お母さん、お父さんはどこにいるの? すぐ会いたいんだけど?」
「お父さんならリビングにいるわよ」
「わかった。空達もついて来て」
ずんずん進んでいくティナの後ろを俺達もついていく。
カレンさんに一礼して、俺達もリビングに向かう。
「ただいま、お父さん」
「ティナ。待ってたぞ」
リビングに入るなり、厳かな雰囲気になる。
テーブルに座るエルフの男性が、俺達に厳しい視線を向ける。
「あれがティナさんのお父さんですか?」
「それにしても若いな」
カレンさんにしてもそうだけど、この人もとても父親のようには見えない。
よくてお兄さん、俺達より少し年上だと言われても疑わないだろう。
「ティナ、お前には聞きたいことが山ほどある」
「何?」
「何故お前は掟に背いて、外部のものをこの町に招き入れたんだ」
「掟?」
「そうか君達は知らないようだな」
話し始めて早々、いきなり俺達にわからない言葉を言われてしまう。
ティナの父親はため息をついた。
「簡単に説明すると、エルフの町には他種族を入れてはいけないという決まりがある」
「そんなものがあるんですか?」
「あぁ、エルフの中には他種族、特に人間を嫌っている者も中にはいる。だからそれ相応の理由がないと、入れることができないんだ」
「そんなことがあるんですね」
「だから聞かせてくれ。ティナは何で人間達をこの町に招き入れたんだ?」
怒るわけでもなく、ただ理由を聞いている。
だが言葉の端々でもし理由なく入れたのなら、それ相応の罰を下すと言っているようにも見えた。
「この人達は、オークから私達のことを助けてくれたの」
「私達?」
「クマ」
「グマ」
「そうか。なるほど、君達がティナのピンチを助けてくれたのか。その点は感謝しないといけない。ありがとう」
ティナもちゃんと説明できてほっとしているように見えるが、目の前のエルフは以前表情を崩さない。
その表情は俺にはティナの説明に納得していないように見えた。
「だけど、それとこれとは別問題だ」
「別問題?」
「そうだ。たったそれだけの理由で、人族をこのエルフの町に入れた罪は大きい」
「何でよ。この人達は今の私達の置かれている状況を教えてくれる重要な人達なのよ」
「こんな‥‥‥人族の子供達が?」
「そうよ。この人達は私達の世界とは違う、この世界の人々よ」
「なるほどな。それなら余計にティナの罪は大きい」
「何でよ!!」
「私は言っただろう。この結界は早々解けるようなものではない。だから無理に外の探索はする必要はないとあれだけ言ったじゃないか」
「でも、外の世界を探索しないといつどんな脅威が襲ってくるかわからないでしょ」
「それはこの結界があれば大丈夫だと言っただろう。それこそ昔の魔王軍四天王が直接この町を襲ってくることがない限り‥‥‥」
「その可能性はないとは言い切れません」
「空さん!?」
つい口出ししてしまったが、魔王軍の四天王と言われて黙っていられるわけがない。
今は少しでも情報が欲しいんだ。もしこの人が情報を知っているなら、どんな手がかりでもいいからほしい。
「少年、嘘を言うのはよくないぞ」
「嘘は言っていない。俺達は魔王軍の四天王に襲われて住んでいた場所を追われたんだ」
あのフランシスとの戦闘のことは今でも覚えてる。
あれがなければ、今頃俺達は無事に学校で過ごせていたはずだった。
「その四天王の名前は?」
「閃光のフランシス。あいつはそう名乗っていた」
「閃光のフランシスか」
目の前のエルフは何か考えるようなそぶりを見せた。
閃光のフランシスについても、思うことがあったように思えた。
「確かにその四天王はいた」
「それじゃあ」
「だが、彼は死んだはずだ。はるか昔、人間との戦いでな」
「嘘!?」
確かにあいつは自分が閃光のフランシスと名乗っていた。人違いなはずがない。
「本当だ。昔デール山脈の戦いで、勇者に止めを刺されて崖から転落しているはずだ」
「崖から転落か」
「亡骸は確認できたんですか?」
「確認できなかったが、高さも高さだ。きっともう亡くなっているだろう」
崖から落ちて亡骸がない。それなら命からがら逃げきっている可能性もある。
それにあいつは万能の霊薬、エリクサーを持っていた。
自分専用のものがあったなら、生きながらえてる可能性もある。。
「亡骸がないのなら、死んでない可能性もあるじゃないですか?」
「まぁな。だが、あの戦いから既に数百年経っている。生きている可能性の方が少ない」
「数百年」
確かにそれだけの時間が経っているならその可能性もある。
普通の人間なら死んでいる。だけど、本当にあいつは人間なのか?
魔族だったらもしかすると寿命が長いので、生きている可能性はないか?
「もういいか? 話が終わりなら、そろそろ君達を外に返さないといけない」
「待って、お父さん!! 私の話を聞いて!!」
「聞く必要はない。お前にも後できつい罰を与えなくてはな」
考えろ、このままじゃ重要な情報が何一つ入らないままここを追い出されてしまう。
「お父さん!!」
「悪かったな、少年達。少し眠っていてもらおう」
何かあのエルフの気を引くいい方法はないか?
何でもいい。少しでも俺達のことに興味を持ってくれればいい。
「勇者の従者」
「何!?」
「勇者の従者というスキルに心当たりはないか?」
そのスキルを聞いて、ティナの父親の顔が変わる。
先程までの厳かな表情はなくなり、驚きの表情に変わっていた。
「何故そのスキルを知っているんだ?」
「そのスキルは先輩が持っている正体不明のスキルなんだ」
「もし何か知っているなら教えてください」
「なるほどな。少年よ。君が、そのスキルを持っているのか」
「はい」
そういうと、ティナの父親は席に座った。
そしてため息をつく。
「なるほどな。ティナが君達を連れてきたのは、あながち偶然ではないようだな
「偶然?」
「とにかく座りたまえ。全ては座りながらゆっくり話そう」
そういってティナの父親は俺達を椅子へ座るよう促す。
俺達も促されるまま、ティナの父親の前に座るのだった。
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