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日向の決意

 夕食を食べ、1階の戸締りをした後俺は2階へと来ていた。

 幸い、電気や水道などのインフラ周りは夜になった今でも全て正常に動いている。

 そのおかげで、俺達は風呂も問題なく入ることが出来た。



「空、お風呂出たよ」


「わかった。次は三村の番だけど、三村にはそのことを伝えた?」


「うん、さっき悠里ちゃんには伝えたよ」


「それならいい」



 三村のことだからきっとすぐ風呂に入るだろう。

 今日は色々なことがあったからな。ゆっくり風呂に入って休んでほしい。



「空、さっきはありがとう」


「ありがとうって何がだよ。俺は何もしてないぞ」


「空は知ってたんでしょ? あの袋の中身」


「何のことだ?」



 日向の話に対して、俺は惚けた。

 俺も袋の中身がはっきりとわかるわけではないが、なんとなく日向の様子を見て中の人物が誰なのか感づいていた。



「僕のお母さん、ちゃんと供養したから」


「そうか」


「うん、ちゃんとしたお墓には入れてあげられなかったけど。庭の片隅に埋めてあげることができた」


「日向の母親もきっと喜んでるよ。自分の息子の手で、ちゃんと弔うことが出来たんだから」


「うん。そうだとうれしいな」



 日向の方を見るとその左手には銀色の指輪がはめられていた。

 たぶんあれは、日向の母親がはめていたものだろう。

 思えば色々感づく所はあった。日向が家の掃除にかなりの時間をかけたり理由。

 そして、とある部屋には鍵がかかっており開ける事が出来なかった。

 恐らくその部屋で、日向の母親は殺されたのだろう。



「お母さん、すごく優しい人だったんだよ。いつも帰ってくると僕の話を聞いてくれて」


「そうか」


「悲しいことがあったら一緒に泣いてくれるし、楽しいことがあれば一緒に笑ってくれて、すごくいいお母さんだった」


「そうか」



 俺は外の景色を見ながら、淡々と答えていく。

 日向にとって母親を失った直後なので、今は苦しいかもしれない。

 だけど苦しい時こそ、自分で答えを見つけて先へ進まないといけない。

 俺に出来ることといえば、日向の話を聞いてその手助けをしてやるだけだ。

 その話に対して共感するのか、それとも同情するのか。それは人それぞれだろう。



「ねぇ、空?」


「なんだよ」


「どうして僕のお母さんは死なないと行けなかったの? 何であんな奴らに殺されないといけなかったんだろう?」


「たまたまコボルト達が探索した家が日向の家で、日向の母親が抵抗したから殺されたんだろう」


「僕のお母さんが殺されたのは偶然だったって言うの?」


「そうだ」



 日向の心の底から出た疑問。俺はその問いに対して、自分の思っていることを告げる。

 たまたまコボルト達の入った家にあいつの母親がいて、捉えられることなくコボルト達に殺された。

 偶然。そう片付けることしか出来ない。この世界が変わった直後に目をつけられ、運が悪くコボルトに家に入られたから日向の母親は死んだんだ。



「それだけで僕のお母さんは死なないと行けなかったの? そんな理不尽なことで‥‥‥‥」


「そんな理不尽なことがあるんだよ! ここはそういう世界になったんだ!!」



 日向を見ると、歯を食いしばり涙を流す日向の姿があった。だが俺は、そんな日向に同情しない。

 俺の両親が死んだ時、俺も絶望した。当時は今の日向みたいに、何でこんな理不尽なことが起きないとけないんだとさえ思った。

 ただ、だからこそ思う。これは運命だったんだろうって。それも踏まえて今まで起こった事を受け入れて、前に進むしかないんだ。



「でも‥‥‥‥」


「でもじゃない!! なら日向に聞くけど、俺達を襲った相手がゴブリンじゃなくて、あのコボルト達だったらどうなってた?」



 確実に俺は死んでいただろう。ゴブリンのナイフより長い剣のことだ。鞄ごと胸を貫かれて、確実に俺は絶命していた。



「それは‥‥‥」


「ゴブリンが1匹じゃなくて、複数匹で襲い掛かってきたら? 死んでたのはどっちだったと思う?」



 ゴブリンが3匹で行動していたら? 考えただけでもぞっとする。俺1人では絶対勝てなかった。

 1体のゴブリンの攻撃の対処をしている隙に後ろから不意打ちされ、死んでいただろう。



「それでも‥‥‥‥」


「コボルト達の事だってそうだ。日向が勇者のスキルを手に入れて、1人でコボルト達を相手にしてなかったら? あの公園でスキルのことを知らずに日向の家に行っていたら? たらればを語ればきりがないんだよ!!そういうギリギリの選択肢の中で、俺達はここまで生きて来れたんだ」



 それは偶然の産物といってもいい。どの現象がかけていても俺達は確実に死んでいた。

 今こうして無事に生き残っているのは、俺達がそういうギリギリの選択をした上で成り立っている。

 それを運がよかっただけかもしれない。だけどこれは俺達が考えて行動したからこそ、起きた必然だ。

 運命と言ってもいいが、これは俺達が必死に生き残る為に行動した結果だ。だからこそ、俺達は生きないといけない。この壊れてしまった世界で。

 


「ねぇ、空? 1つ聞いてもいい?」


「何だよ?」


「空がそういう考えになったのって、空の両親が死んだのと関係ある?」


「そうだな。それも関係している」



 俺の両親は小学3年生の時に死んだ。死因は交通事故。母親が父親を空港に送りに行く途中、赤信号を守らなかったトラックとぶつかりこの世を去った。

 原因はトラックの運転手の病死である。何でも運転中に急性心筋梗塞になり、そのまま死んでしまったらしい。その為ブレーキが踏めず、赤信号を無視して交差点に突入。俺の両親が乗る車に衝突したということだった。



「あの時の俺はかなり塞ぎこんでて、この怒りをどうぶつけていいかわからなかった」



 その件で荒れていたこともあり、今でも親戚の連中とは折り合いが悪い。

 中学に入り、日向や桜と出会う前はかなり荒んだ生活も送ってきた。



「結局行き着いた結論が運がなかったってことだ。それにそんなことでうじうじしてるなら、両親を守れなかった分、周りの人達を大切にしようと思った」



 それが俺にとっての三村であり日向。

 今俺の側にいる人達だけでも大切にしようと思っている。

 2人が俺を裏切らない限り、俺も2人を裏切らない。そう思って行動している。



「ねぇ、空?」


「なんだよ」


「僕はあいつらが憎い。この平和な世界を壊したあいつ等が」


「そうだな。俺達の世界を改変した奴を俺も許せない」


「僕もだよ。あいつ等を、モンスターを全員殺して、平和な世界を取り戻したい」



 日向の目を見ると先程までには無かった怒気が宿っていた。

 怒るだけの元気があるなら大丈夫だ。悲しみにくれるよりは安心してみていられる。俺は再び、外の景色を見ることにする。

 外は剣と鎧を見にまとったスケルトンが徘徊しており、時折電気のついてない家に入っていくのが見えた。

 どうやら夜になると、徘徊するモンスターの種類が変わるらしい。



「それなら今日はゆっくり寝ておけよ。明日は三村の家に行くんだから。今日以上に大変だぞ」


「うん、わかった」


「外には絶対出るなよ。後寝るときは極力電気を消すな」


「なんで?」


「外を見てみろよ」


「外?」



 日向に窓から外の光景を見せると、顔色が変わる。

 俺も風呂から出た時に面食らったが、あのスケルトンの習性が段々とわかってくるとそんなに怖いものでもない。

 要は外に出なければいいのだ。後は部屋を暗くしなければどうってことはない。

 現状アンデッドなんて倒し方のわからないモンスターを相手にするよりは、全然いい。



「あのスケルトンは、電気のついてない家に入ろうとする傾向がある」


「そうなの?」


「そうだ。さっきからこの辺の家にも入っていくのを見ている」



 昼と夜でこうも状況が違うと、頭が痛い。

 こんなにモンスターが出てくるのなら、何かあった時のために、確実に1人は見張りを立てないといけなくなる。



「うん、わかった。あれ? あそこって何かおかしくない?」


「あそこってどこだよ?」


「あそこだよ。あの路地の所」


「路地?」



 目を凝らしてみると、確かに路地の方で何かが動いている。

 動いているよりは人が走っているように見えた。



「全然よく見えないな。もう少し目を凝らさないと‥‥‥‥」


『山村空はスキル、鷹の目を手に入れた』


「鷹の目? 何だよ一体。どういうスキルなんだ?」



 目を遠くに凝らすと、先程よりも遠くの景色が鮮明に見えるようになった。

 なるほど、鷹の目というスキルは遠くにあるものがよく見えるようになるというスキルなのか。



「どうしたの? 空?」


「いや、新しいスキルを覚えたみたいだ」


「本当?」


「あぁ。どうにもそのスキルは、遠くのものをよく見るためのスキルらしい」


「そうなの?」


「そうだ。だからこうして目を凝らすとあそこの状況もよくわかって‥‥‥‥」



 目を凝らして見えた動くものの正体がわかり俺は驚いた。

 あの制服にあの背格好、そしてあの顔を俺は忘れない。

 何より右手の薬指についた指輪。間違いない。

 あいつは俺と日向が通っていた学校の後輩だ。



「桜だ」


「えっ⁉︎」


「桜がいる」



 俺が唯一会いたいと思い、もう生きていないだろうと思っていた人物。

 木内桜が必死に住宅街を逃げ回っていたのだ。

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