人間と魔族
桜の案内で俺達は先程まで滞在していた空き家に戻ってきた。
現在は朝食を食べたリビングで、俺達とティナが向かい合うように座っていた。
「改めて自己紹介をさせてもらってもいい?」
「あぁ、頼む」
「私の名前はティナ・ラインハルト。エルフ族族長の娘よ」
「エルフ!? エルフは神話上の生き物ではないのか!?」
「まぁ、普通はそういう反応になるよな」
俺だって最初に自己紹介された時、ティナが何を言っているのかわからなかった。
ティナもそのことを悟ったのかエルフという言葉を強調している。
「続けても大丈夫?」
「あぁ、続けてくれ」
「それで、こっちに座っている高い声を出す子熊はムーン。雌の熊で‥‥‥」
「クマ!」
「で、こっちの低い声を出す子熊が雄の熊のライトよ」
「グマ!」
「なるほど、この子熊達は声で見分けているのか」
「その他にもそれぞれ特徴が細かくあるんだけど、簡単な見分け方はこんな感じかな」
「つまり後は一緒にいる中で、違いを見つけてくれってことか」
「そうとも言うわね」
意外と投げやりだな。実際ティナも声でしか見分けがついていないんじゃないか?
「クマ!」
「グマ!」
「それにしても、クマちゃん達の姿が見えないですね」
「しょうがないだろう。2匹ともまだ小さいんだから」
確かに今この場所から見ると、子熊達の姿が見えない。
子熊がその場で立ち上がりテーブルにしがみついて、やっと顔が見えるぐらいだ。
「クマちゃん達、よかったらあたしの膝の上に座りますか?」
「クマ!」
「いいのか? 桜?」
「大丈夫ですよ。そっちの方が話しやすくていいじゃないですか」
桜が了承しているので、俺からは何も言えない。
ただ、何となく心がもやもやする。
「先輩、子熊にまで嫉妬するなんて見苦しいぞ」
「別に嫉妬してないからな!!」
「じゃあ別に子熊が桜の膝の上に乗っても大丈夫だな?」
「もちろんだ」
「クマ!」
俺が了承したからか、器用にテーブルの上によじ登り、桜の方へと向かうムーン。
目をキラキラと輝かせながら、桜の前に到着すると膝の上に座るのだった。
「よっぽど桜に懐いているようだな」
「クマ!」
「やっぱりこのクマちゃん可愛いです」
「クマクマ!」
「もう照れちゃって、可愛いですね」
ムーン、勘違いするなよ。桜は可愛いって言っているだけで別に褒めているわけではないぞ。
「桜ばかりずるいぞ。私だって子熊をモフモフしたい」
「グマ!」
「おぉ、ライトはこっちに来てくれるのか」
「グマグマ!」
ライトもテーブルをよじ登り由姫の方へと向かってきた。
到着すると由姫の膝の上に座り、結局熊2匹の子熊は由姫と桜の膝の上に座るのだった。
「その子熊達、本当に人懐っこいのよね」
「そうなんですか?」
「えぇ。人嫌いの私の妹も気に入っているぐらいだから、人に可愛がられる才能はあるわね」
「人に可愛がられる才能か」
その才能は俺にはない才能だ。確かに山でこの2匹を見た時、楽しそうにじゃれ合っていたこの2匹を見て和んだのを覚えている。
「ティナの妹さんって、そんなに難しい子なの?」
「うん。基本自分の部屋から出てこないの」
「それって俗にいう引きこも‥‥‥」
「空さん!! それ以上はダメですよ!!」
「そうだぞ。他人の家庭をとやかく言うのはよくないぞ」
2人の勢いに押されてしまい、最後の一言を言うことができなかった。
確かにそれぞれの家庭にはそれぞれの事情があるのだろう。ここは深入りしないでおこう。
「それよりも、そろそろそっちも自己紹介してもらえない?」
「そうだな」
そういえば子熊達のことに集中しすぎて、俺達の自己紹介をするのを忘れていた。
「まず俺だけど、俺は山村空っていう。気軽に空って呼んでくれ」
「あたしは木内桜って言います。皆さん下の名前で呼んでいるので、桜って呼んでください」
「私は前野由姫という。私も由姫と呼んでくれればいい」
「わかったわ、空、桜、由姫。私のこともティナって気軽に呼んで」
「わかりました」
これで全員の自己紹介が終わった。後はお互いに聞きたいことを聞くだけだな。
「私の方から質問してもいい?」
「構わない」
「ありがとう」
「せっかくですから、交互に質問していきましょう」
「そうだな。もしかしたら私達とティナで、悩んでいることは同じかもしれないしな」
相手に話のイニシアチブを取られるのは嫌だが、ここはしょうがない。
まずはティナの質問に答えていきながら、俺達の聞きたいことを質問していこう。
「まず根本的な話なんだけど、ここはどこなの? 私達が住んでいた所よりも文明水準がはるかに高いところのようだけど?」
「ここは地球という惑星にある、日本という国だ」
「地球? 日本? やっぱり私達の世界では聞いたことがないわね」
「やっぱりティナ達は別の世界から来たみたいだな」
この子には聞きたいことが山ほどある。
何でこの世界に来たのか、そしてスキルというものは一体何なのか、何故モンスターがこんなにいるのか、質問することを挙げたらきりがない。
「別の世界? 違うわよ。貴方達が私達の世界に来たんじゃないの?」
「それは違う。ティナ達が俺達の世界に来たんだろ?」
「そんなことないわよ。だって私達の町は普通にあるわよ」
「何だって!?」
今の話が本当なら、ティナ達は別の世界から町ごとこの世界に来たことになる。
そんなことって、本当にあるんだろうか?
「空さん、もしかしてあたし達の世界がティナさん達の世界に来たんですか?」
「いや、そんなはずはない」
あの政府が出していた避難警報は間違いなく本物だ。虚偽のニュースなんて流れるはずがない。
「ティナのいる町がここにあって、私達の街も普通に存在する。なんか混乱してきたぞ」
「両方の町が共存する理由」
その可能性を挙げるなら、1つしかない。
「これは仮説でしかないけど、もしかすると俺達の世界とティナの世界が統合されたんじゃないか?」
「統合?」
「そうだ。俺達の世界とティナの世界が1つになったってことだ」
だからモンスターがこの世界にはびこるようになったのだ。
何故そうなったかはわからない。だが2つの世界が1つに統合された。そう考えると色々と辻褄があう。
「2つの世界が1つになったか。確かに空の言う通り、その可能性もあるわね」
「だろ?」
もしかしたらティナやオーク達みたいに、言葉を話すようなモンスターもこれから出てくるのかもしれない。
「質問してもいいですか?」
「いいわよ」
「オークもそうでしたけど、ティナさんもモンスターなんですか?」
「違うわ。私達はモンスターじゃないわよ」
「モンスターじゃなければ、ティナ達は何て呼ばれているんだ?」
「基本的にはエルフはエルフ族って呼ばれることが多いわ。また私達みたいに人間の言葉を話せて不思議な力を持つ人達の事を、総称して魔族って言う人達もいるわね」
「魔族か」
つまり魔族はモンスターよりもランクが上の存在のことなのだろう。
もしかするとフランシスも魔族と呼ばれる者の1人なのかもしれない。
「人間と魔族とモンスターの違いって何ですか?」
「人間と魔族はそう違いはないわ。モンスターの血を色濃く継いでいる者のことを魔族って言ってるの」
「モンスターの血?」
「そうよ。例えばオークは見た目からして、モンスターみたいよね?」
「確かにそうですね」
「その代わりモンスターの血を色濃く継いでるから、人間では敵わない程の超人的な力を持っているわ」
「ティナ達ははどういった力を持っているんだ?」
「私達は精霊と話をすることができるの」
「精霊?」
「そう。妖精みたいなもので、その精霊の加護を体の中に流れる魔力と掛け合わせることで魔法が使えるの」
「なるほど」
魔法というのはそういう仕組みだったのか。今までどうやって使うのかわからなかったが、ようやくわかった」
「その魔法って、俺達にも使えるのか?」
「それはわからないわね。魔力は人によっては流れていない人もいるから、誰でも確実に使えるとは言えないわ」
「そうか」
俺達全員が魔法を使えたら無敵だと思ったが、そう話はうまくいかないらしい。
「魔法のことはわかった。そしたら教えてくれないか? 君達の世界のことを」
「私達の世界のこと?」
「そうだ。俺達の世界はティナの世界の影響を色濃く受けている。だからどんな世界か知りたい」
それさえわかれば、何故こんなことになったのかもわかるはずだ。
もしかするとお互いの世界を戻すことができる手掛かりになるかもしれない。
「わかったわ。そういうことなら、協力する」
「ありがとう」
こうしてティナは静かに自分の世界のことを話し始めたのだった。
ブックマーク&評価をよろしくお願いします!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】を押して頂ければ幸いです




