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桜の意志

桜視点の話になります

「離して下さい!! あたしは空先輩と一緒に戦うんです!!」



 空先輩と別れた後、あたしはお父さんの脇に抱きかかえられ階段を下りる。



「あたしは空先輩のところに行かないといけないんです!! だから、離して!!」」



 いくら暴れても振りほどくことができない。それぐらいお父さんの力は強かった。



「桜!! 我儘を言うな!!」


「空君が私達の為に命がけで時間を作ってくれたんだ!! それを桜は無駄にしていいの?」



 命がけ? それは違う。あの人は自分の命を使って、あたし達のことを逃がそうとしてくれている。

 命懸けなんて言葉では言い表せない程の決意と覚悟。あの時の空先輩は、自分の全てをかけてあたし達のことを逃がそうとしてくれた。



「無駄じゃありません!! それを無駄にしない為に、あたしは戦いに行くんです!!」



 このまま戦っても、きっとあの人は死んでしまう。

 絶対にそうはさせない。たとえ私の命に代えても空さんを絶対に助けて見せる。



「今から戻ってももう遅いんだよ。そんなに桜は私達を残して死にたいの?」


「別に構いません。どうせ死ぬのなら、空先輩と一緒に‥‥‥」



 そこまで言おうとした時、乾いた音が辺りに響いた。

 そしてあたしの左の頬が熱くて痛い。痛くて痛くて、ずっとジンジンとしている。



「お母さん‥‥‥」


「この馬鹿!! 死ぬなんて簡単にいうな!! 空君がどんな思いで、あんたのことを逃がしたと思ってるんだ!!」



 その言葉を聞いて、周りの全員が目を伏せている。それを見てこの場の全員の考えを理解してしまう。



「みなさん‥‥‥わかっていたんですね」



 あの場で誰かを犠牲にしないといけないことをきっとわかっていたんだ。

 そして自分が他人を犠牲にして生き残ってしまった、その薄暗い気持ちをここにいる誰もが抱えている。



「空‥‥‥大丈夫‥‥‥」


「日向君!? しゃべったら駄目よ!! まだ傷が癒えてないんだから!!」


「空は‥‥‥大丈夫‥‥‥絶対‥‥‥嘘‥‥‥つかないから」



 そういって微笑む日向先輩。きっとこの人だけは、空さんが無事に戻ってくると信じてるんだ。



「良子君に桜さん、今は喧嘩している時間はない。せっかく山村君が時間を作ってくれたんだ。この隙に早く学校から脱出しよう」



 おじいちゃん先生、三葉校長が意見を言う。

 その意見に反対する人は誰もいない。



「そうだ。今は三葉校長の言う通りだ」


「一刻も早くここを出ましょう」



 全員が全員口々に同じことを言う。その光景があたしには酷く冷いように感じてしまう。



「誰も空先輩のことを考えてない」



 ぽつりと漏らした言葉は誰にも聞かれることはなかった。

 ただここにいる全員の意志がわかってしまったからなのか、怒っていた気持ちが急速に冷え冷静になった。



「お父さん」


「何だい?」


「あたし‥‥‥もう大丈夫だから」


「大丈夫?」


「だから降ろして」


「でも」


「降ろして」


「‥‥‥わかった」



 お父さんの脇から、ゆっくりと地面に降ろされる。

 自分の足でその場に立つと、ゆっくりと前を向いた。



「桜、大丈夫なの?」


「はい、もう大丈夫です」



 大丈夫なわけがない。最愛の人を失うかもしれないんだ。落ち着くはずがない。

 だけど今あたしに打てる手はない。



「考えるんだ」



 窮地に陥った時、いつでも空さんは考えていた。

 この場を打開する策を。



「だから今度はあたしが空さんの代わりに考える番だ」


「行こう!! 裏口までもう少しだ」



 三つ葉校長の指示に従い、あたし達は裏門へと向かう。

 降りていく途中に大人や子供の大量の死体を見つけた。



「酷い‥‥‥」


「今は構っている暇はない」


「先を急ごう」



 1階の廊下を抜け、校舎外を出る。

 ここまで来れば裏門までは目と鼻の先だ。



「裏門を出れば、学校から脱出できる」



 校門についても、いい案は浮かばない。

 やっぱりあたしは空さんみたいになれないのかな。



「脱出したとしても、これからどこに向かえばいい」


「それなら私、いい場所を知っています」


「いい場所?」


「そうです。そこなら私達を無条件で迎えてくれると思います」



 悠里先輩が考えているあたし達を迎えてくれるいい場所。

 その場所はあたしにも覚えがあった。



「その場所はどこだい?」


「デパートです」


「デパート?」


「ここから少し距離はありますが、あそこなら私のお母さん以外にも大勢の人達が避難しているので、安心して避難できるはずです」



 悠里先輩がいうデパートは、以前まであたし達が拠点としていた場所だ。

 確かにそこなら、きっとあたし達のことを無条件で受け入れてくれる。



「本当に大丈夫かい?」


「大丈夫です。皆さん気のいい人達ですから」


「それなら行こう。目指すはデパートだ」



 お父さんの合図で皆が校門を出ようとする。

 あたしだけは、その場にたたずんだままだった。



「桜? どうしたの?」


「はい、すいません」



 上手く自分の気持ちがまとまらない。このまま、空さんを見捨てたままこの場所を脱出してもいいいのだろうか。



「桜、早くこっちに来て」


「はい」



 反射的に裏口に近づこうとした時、頭の中である場面が浮かんだ。



『ごぶっ!!』


『先輩!!』



 頭の中に先輩と由姫ちゃんの映像が流れ込んでくる。

 何故かわからないが、2人と甲冑騎士のやり取りが浮かんできた。



「桜?」


「何でもありません」



 脳内映像は続く。その映像は丁度空さんが甲冑騎士にお腹を殴られた時だった。



『息が‥‥‥できない‥‥‥』


『これでおしまいだ!!』



 空さんが校舎の方へと吹き飛ばされる。

 その映像が途切れた瞬間、校舎の方で大きな音がした。



「何だ!? この音は!?」


「今は気にしないで行きましょう」


「桜、早く貴方もこっちに来なさい」



 殆どの人が裏口を出て外にいる。

 学校内に残っているのはあたし1人だ。



「桜?」


「早くこっちに来なさい。一緒に逃げよう」



 あの映像があたしの脳内に流れ込んだ意味。きっとそれは空さんがピンチだってことを伝えているのだろう。



「あぁ、何だ。そういうことか」



 あの映像が意味するのは、頭の中で悩んでないで助けたいなら早く行動しろってことか。

 あたしが空先輩と同じように考えてから行動するのは無理だ。

 考えて行動できないなら、行動だけでもするしかない。空さんを本気で助けたいと思うなら、考える前に空さんを助ける為に動くしかないんだ。



「桜? 何を言ってるの?」


「ごめんなさい、お母さん。あたしは皆さんと一緒にはいけません」



 はっきりと全員にそう告げる。不安そうな顔をするのもわかるが、これがあたしの気持ちだ。

 その気持ちに嘘をついてまで、これから生きていくことはできない。



「桜!?」


「桜さん!! 自分が何を言っているのかわかっているんですか?」


「もちろんです」



 全てを理解している。理解した上であたしは決断した。



「桜、あんたはわかってないよ!!」


「お母さん」


「空君があんたの為に必死になって時間を稼いでるんだよ!! あたし達なんかそのおまけだ!! 空君のその気持ちを、あんたは無下にするのかい?」


「わかってます。空さんの気持ちも含めて、全部‥‥‥」



 空さんの気持ちもわかる。あたしに生きていてほしいから、今も死に物狂いで自分が盾になって戦っている。

 彼の気持ちは痛いほどわかる。



「だったらここは一緒に逃げるんだ。空君の気持ちに報いるためにも、ここから逃げよう」


「嫌です!!」



 そんなのは嫌だ。だって、だってあたしは‥‥‥。



「あたしは守られているだけじゃ嫌だ。守られているだけじゃなくて、空さんの隣で戦いたい」



 ずっとお姫様みたいに扱ってほしくない。空さんと対等な立場で、喜びも悲しみも分かち合いながら一緒に歩んで行きたいんだ。

 もちろん楽なことだけではないだろう。下手をすれば死ぬような思いに合うかもしれない。

 だけど、あたしはそれでも空さんの隣で戦っていたい。空さんの中で1番頼りになる、特別な存在であり続けたい。



「それがここに来るまでにあたしが考えて出した答えです」


「桜ちゃん‥‥‥」


「あたしが空さんを助けます」


「助けますって、そんなの無茶だ!!」


「空さん達が逃げやすいように誘導するだけです。別にあの甲冑騎士と戦うわけではありません」



 日向先輩や三葉校長は既に学校外にいる。時間稼ぎは既に終わっているようなものだ。

 それなら後は逃げるだけ。別にあの甲冑騎士を倒しに行くわけではない。



「空さんを救出して、必ず一緒にデパートまで行きます」



 それさえ出来れば、この任務はクリアだ。特に大きな問題はない。



「さっきから何を馬鹿なことを言ってるの?」


「そうよ、桜ちゃん。早くこっちに来て」



 お母さんと悠里先輩があたしのことを呼ぶが、そちらに行く気はない。

 あたしの心は決まっている。必ず空さんを助け出して見せる。



「待て」


「春斗」


「桜の決断は凄いと思う。それは僕達だってできなかったんだから」


「お父さん」


「だけど桜、それは君自身も死ぬ可能性高いんだ、そのことをわかって言っているんだよな?」


「はい」



 そんなのは初めからわかりきっている。

 自分が無事に戻れる可能性も低いことぐらい、充分に理解している。



「ちょっと待ってよ、春斗。自分達の娘が危険な目に合うんだよ。それを指をくわえて見ていていいの?」


「桜は死にに行くのか?」


「いえ、違います」



 絶対空さんと一緒に生きて帰る。その為にあたしは行くんだ。

 別に死ぬために戻るんじゃない



「なら空君を助けにいってこい」


「はい」


「その代わり、絶対死ぬな。それだけはお父さんとの約束だ」


「ありがとうございます」



 お父さんに頭を下げて、あたしは校舎の方へと向かう。

 後ろから言い争うような声が聞こえてきた。



「桜!! 駄目だよ!! 絶対いっちゃ駄目!!」


「良子!! お前まで戻ろうとするな!!」


「だってあたし達の娘が、死地に戻ろうとしてるんだよ!! それを止めなくてどうするんだ!!」


「今は桜のことを信じてあげよう。娘を信じることも親の役目だ」



 お母さんとお父さんの叫び声が聞こえる。自分でも親不孝だと思うがこの思いは止められない。



「ごめんなさい」



 必ず空さんを助け出して戻りますから。それまでデパートに避難して待っていてください。

 そんな強い決意と共に校舎へと戻る



「‥‥‥くら」


「あっちから声が聞こえます」



 どうやら空先輩達は戦いの場所は校庭へと移していたらしい。

 紫の槍を取り出し、いつでも戦える体勢を取る。



「たぶん空さん達はここにいるはずです」



 声のする校庭に到着した。そこでは信じられない光景が広がっていた。



「嘘‥‥‥」



 校庭全体が人の血で赤く染まり、辺りには死んだと思われる人達が血の海に沈んでいる。



「由姫ちゃん!!」



 あたしのすぐ足元には気を失っている由姫ちゃんがいた。

 すぐさま由姫ちゃんの脈を計る。



「よかった、生きてます」



 どうやらただ気絶しているだけみたいだ。命に別状はないみたいだ。



「空さんは‥‥‥」



 空さんのことは見つけた。だが、その前には甲冑騎士がいる。



「何で‥‥‥」



 何で空さんが甲冑騎士に殺されそうになっているの?

 あたしは頭が真っ白になり、呆然とその光景を見ていた。



「どうやら、まだ我と戦いたい者がいるらしいな」


「戦いたい者?」



 甲冑騎士と同時に空さんの視線がゆっくりあたしに向けられる。



「桜!?」



 驚く空さんを前にして、あたしは無我夢中で甲冑騎士に襲い掛かるのだった。

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